来て欲しくない四月がきて憂鬱な今日この頃。
「出してやろうか?」
自分1人しかいないと思っていたが、ふと声が聞こえた。フランはその声のする方に振り返った。
「…だれ?」
「ワシはぬらりひょん…そう、〝自由な妖〟じゃ」
自らを妖と名乗ったその者はキセルをふかしながら椅子に座っていた。見覚えのない顔だった。
「自由な…妖…?」
「ああ、妖は怖いか?」
首を横に振るフラン。ぬらりひょんに対し恐怖心は微塵もないようである。
「貴方どうやってここにきたの?遊び相手としてお姉様に無理矢理入れられちゃったの?」
「遊び相手…か。お主が本当に欲しいのはそれじゃねえだろ?」
図星だったのかはわからないがフランは黙り込んだ。
「ワシはわけあってここで少し働いておるんじゃ。そしてここになにかある、そう思ってきてみただけじゃ」
「そう…じゃあお姉様に気づかれる前に戻ったほうがいいよ」
そう言ってフランはそっぽを向いてしまった。何か事情があるはずと思ったぬらりひょんはフランに直接聞いてみた。
「なんでお主はここにおるんじゃ?…他人のワシが言うのもなんじゃが他の皆とはかなり距離を置いているように見えるが」
「…帰って」
「……」
フランは心を開いていない。そっぽを向いたまま目線すら合わせてくれない。
「…そうかい、じゃあワシは戻る。 …また来るぜ」
そう言い残してぬらりひょんはフランの部屋から消えた。
「……」
ぬらりひょんは一言も喋らないまま地下を後にした。
ぬらりひょん達が紅魔館にきてから3日経った。チルノと大妖精は相変わらずメイドとして働いている。
ぬらりひょんはレミリアに特にああしろ、こうしろとは言われなかったが、一応チルノ達と一緒に仕事をしていた。
「やあぁぁぁぁぁ!ハイッ!」
スカッ
「もぉー!なんで当たらないのよ!」
今は3人で薪割りをしていた。チルノは薪を手刀で割ろうとするのだが、まずこの距離で薪に当たりもしてない。
「おいおい、それじゃ例え手刀が命中したとしてもただ痛いだけだぜ?ちょっと貸してみな」
ぬらりひょんとチルノが交代する。薪割り用の斧もあるのだが、ぬらりひょんはそれを使わずに腰にさしてた刀を抜く。そして危ないから離れてな、と言った後に薪に向かって刀を振り下ろした。
「ほりゃっ」
そうすると薪は綺麗に2つになった。
「おー!凄いです!」
「さすがあたいの子分と褒めてやるわ!」
いつ子分になったのかはわからないが、とりあえず2人とも褒めてくれた。
「ま、薪割りだけでこんなに褒められるとはな…」
少し困惑しつつぬらりひょんはどんどん薪割りをしていく。チルノと大妖精は切った薪を1つ1つ並べていっている。
「そういえばリクオも遠野へ行った時は散々こき使わされたって言ってたのう。薪割りや風呂掃除、洗濯もか」
「リクオってだれー?」
独り言として喋ってたつもりであったが、意外と大きな声で言っていたらしくチルノと大妖精に聞かれていた。
「リクオってのはワシの孫じゃ」
「ぬらりひょんさんってお孫さんがいるんですか!?とてもそんな風には見えないなぁ」
「へ〜、ぬらりひょんっておじいちゃんなんだ」
確かに今のぬらりひょんの姿は若い頃と同じだが、本当はおじいちゃんと言われてもなんの違和感のない老いた姿なのだ。まぁ羽衣狐からの攻撃で寿命を減らされて無ければあそこまで老いることも無かったかもしれない。
「それでリクオは今何してるのー?どこにいるの?」
「リクオは…遠いところにおるよ。自分の守りたいもののために頑張っとるみたいじゃ」
不意にリクオの話題を出されて急に不安になってきた。リクオは晴明に勝てたのか?と。
「(ワシの孫じゃ、絶対勝てたさ)」
今更心配しても自分にはどうしようもないので、無理やり納得した。鴉天狗には“過保護”と言われているがもちろん自覚もある。
「会いたくないんですか?」
「もちろん会いたいさ。でも今はまだ〝その時〟ではないってだけじゃ。物事にはタイミングってやつがあるのさ」
ちゃんと会話をしつつ薪も割っていく。
「よし、こんなもんじゃろ」
「なかなか多かったですね」
そして薪割りが終わった。かなりの量だったので運んでいたチルノと大妖精は少し疲れていた。
「精が出るわね」
振り向くとそこにはレミリアと咲夜がいた。咲夜はレミリアのために日傘を持ち、陽に当たらないようにしている。
「まあ今終わったとこじゃ。少し疲れたな」
コキッコキッと首を鳴らしながら背伸びをした。
「じゃあ今からティータイムでもどう?」
これからティータイムを嗜もうとしてたレミリアは、ぬらりひょんたちを誘った。チルノはこの事に大喜びである。
「んにゃ、ワシはまだすることあるからこいつらだけ連れてってくれ。じゃあな」
ティータイムには行かないと告げたぬらりひょんはどこかへ歩いて行った。
「全くあの男は…せっかく誘ってやったのに」
レミリアは自分の誘いを断られて少しプンプンしている。
「なかなか思い通りにならない男…でもそれが彼らしいですわ」
咲夜は歩いていくぬらりひょんの背中を見ながら、目を細めてそう言った。
「ん〜?随分あいつのことを知っているような口だけど…貴女あいつに気があるのかしら?」
ニヤニヤと咲夜をからかうレミリア。
「なッ!?そんなことありませんッ!!」
見るからに動揺してる咲夜は腕をブンブン振りながら否定する。傘を差している状態なので腕を振っている時に、レミリアにガンガン陽が当たる。
「暑いから!!!」
「も、申し訳ありません…」
平常心に戻った咲夜。陽があるとはいえ、涼しい気候なのに汗がダラダラ出ている。そんな2人の会話の中大妖精が口を開いた。
「ダメですよ咲夜さん!ぬらりひょんさんは孫がいるんですから!」
「「は?」」
レミリアと咲夜は口を揃えてそう言った。
「…とにかく行きましょう。その話も詳しく聞きたいわ」
「ティータイムだー!おっかしー!おっかしー!」
このムードの中チルノだけが蚊帳の外であった。
ーフランの部屋ー
フランは何もせずに床にペタンと座り込んでいた。この部屋の中でやれる遊びはやり尽くしてしまったのでやることがないのだ。
「はぁ…」
「おっと、若いうちからそんなため息をするもんじゃねえぜ?」
「!?」
昨日と同じ場所にぬらりひょんは座っていた。いつ入ってきたかすらわからなかったし、そもそもドアは開いていない。
「…また貴方なのね。何しにきたの?」
怪訝そうな顔をしながらフランが言ってくる。
「ハハハ、ご挨拶じゃのう。お主が暇そうにしとるから遊びに来たんじゃ」
「死ぬよ」
唐突にフランはそう言った。
「ほう…ワシがか?」
「うん。私の能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』貴方も壊されちゃうよ」
フランは自分の危険さをぬらりひょんにちゃんと伝えた。ぬらりひょんが自分に近づかないように。
「壊されちゃう、か。能力ってモンはそいつの意思があって使うモンだ。…お前はワシを殺す気はあるのかい?」
「…お姉様が言っていたわ。貴女が本当に厄介な所はそこだと」
「どういうことだ?折角だ、話してくれねえか」
「……」
ぬらりひょんの目が本気であると感じたフランは、事情を全て伝えた。
ー少女説明中ー
「495年…か」
正直ぬらりひょんが思っていたより黒い過去であった。いや、過去ではなく現在も続いているのだ。
「…私は危ないの。意思がなくてもみんなをいつの間にか壊してしまうかもしれない。そんな事が起きるなら私1人ここで我慢してたほうがいいの」
フランは下を向いている。色々な思いがフランの中を巡っているのだろう。
「なるほど、お前はまさしく〝籠の鳥〟ってわけか。でも今は暴走でもしない限り能力ってやつは発動しないんだろ?」
「…そうだとしても私が危ないことには変わりないわ」
何を言っても変わりそうにないフラン。
「…やれやれ、お前は誰のために生きてるんだ?」
「え…?」
「他の誰でもない自分のためじゃろ?それを他が何とか…関係ねぇな」
急にぬらりひょんがキツい言い方になった。
「貴方にはわからないわ。私がお姉様達にどう思われているか!」
「知らねえな、そんなモン。言ってるじゃろ?他の奴は関係ねぇ。お前が自分自身をどう思うかが大切なんだ」
「この力がある限り…私は外には出られないのよッ!!!」
フランは大声を出して叫んだ。一生ここで過ごすと決めた固い気持ちを壊されそうになっていたからだ。
「じゃあなぜそれと戦わない?お前はただ能力を理由にして、自分自身と戦うことから逃げてるだけじゃ」
「ちがうッッ!!!」
叫びながらぬらりひょんの腕をガシッと掴む。はぁ…はぁ…と息を乱しながらぬらりひょんを見つめていた。
「『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』か。じゃあなんでワシは死んでない?」
「え…?」
「ワシは今、あえてお主を怒らせて知らぬ間に能力がでるのか試してみた。…しかしそんなものは全くでない。なんでじゃろうな」
「……」
「答えは簡単。お主は知らぬ間に自分の力をコントロールできるようになっとるからじゃ」
「!!?」
フランは信じられなかった。あれほど能力が勝手に使われるのを恐れていたのに、それを自分はコントロールできるようになっていると?
「ここに居る理由はないんじゃねえか…?まぁずっとここに居たいというならいいんだけどな」
「……」
「…今日のところは帰るぜ。明日また来る。じゃあな」
「待って!!」
「ん…?」
「フランドール…私の名前はフランドール・スカーレットよ!」
フランは今まで口に出さなかった名前をここで言った。
「…いい名前じゃな」
最後にそう言い残し、再びぬらりひょんは消えていった。
はい、第19話でした。
この小説のフランちゃんは『外に出たいけど、他のみんなを傷つけるくらいなら私1人我慢したほうがいい…』と考える心優しい子です。レミリアに地下に無理矢理入れられてる、というよりは自分から入っているという感じですね。
ではここで終わります。お疲れ様でした。