ヒャッハー!夏休みだー!
ー永遠亭ー
「…うん、大体わかったわ」
永琳はこれから作る〝薬〟のために、フランの身体に合う、合わない薬があるかどうかを診ていた。
主に診ていたのは〝眼〟 だった。
「どうですか師匠」
「特に問題がある薬はなさそうね。よかった、これなら明日には完成しそう」
ウドンゲの問いに永琳は答える。
それにしても薬というものはこんなにも早く作れるものなのかとフランは疑問に思う。
「じゃあ私大丈夫なの?」
「もちろん大丈夫よ。きっとすぐに海で泳げるようになるわ」
それを聞いたフランの顔は明るくなった。
夢にまで見たというのはいささか大袈裟だろうが、『外へ出る』という目標を果たしたフランにとって、『海を見る』というのは新しい目標となった。
その目標が手を伸ばせば届きそうなところまで来ている実感があって嬉しくなったのだ。
「……」
その嬉しそうなフランを見て永琳は若干心が痛んだ。
もちろん善意もあって永琳も行動しているのだが、フランに嘘をついた事実は変わらないからだ。
フランから見れば手の届きそうな所まで来ている目標は、永琳から見ればそれはただの〝蜃気楼〟のようなものだ。
実際は前など見えてはいない。
「よかったねフラン」
「海に入れるよ〜!」
真実を知らないウドンゲと、水を汲んできたてゐ。
てゐは竹林で〝いざこざ〟があった事などもちろん知る由もなかった。
「(2人には今は教えないでおこうかしらね)」
これからフランと旅するぬらりひょんには、もちろん知らせなければならないから永琳自ら真実を伝えておいた。
しかしこの2人に伝えて、うっかり口を滑らせてしまったら元も子も無くなってしまう。
実際に海がないことを知ったフランが先程のように傷ついてしまうかもしれないからだ。
永琳は『海を作った』際にも、この海は自分が作ったなどという事は言わないつもりである。それはフランがイメージしている海を壊したくないからだ。
人でも妖怪でも吸血鬼でも知らない方がいいことは当然ある。
「じゃあフランちゃん。お姉さん今からその薬を作るから…てゐ、ウドンゲ、フランちゃんと遊んであげなさい」
色々と考えていたが今すぐ結論を出す意味はないだろう。
とりあえず永琳は薬を作り始めることにした。
「フランちゃん何して遊びたい?」
「う〜ん…弾幕ごっことか?」
ここでそんなものをしようものなら永遠亭が吹き飛んでしまう。
「…別のことしようね」
「そうウサ。私が面白い遊びを教えてあげるよ!」
胸を張っててゐは言った。
遊び相手が増えて嬉しいのはフランよりてゐなのかもしれない。
しかしそれに食いついたのはフランではなかった。
ヒュウン…
「へぇ…ワシにも詳しく教えてくれねえか?」
「!!?」
見覚えのあるスキマから続々と人が現れた。
いや人ではない。全員妖怪だった。
ぬらりひょん、八雲紫、紫の式の藍、さらにその藍の式の橙である。
あれから永遠亭に走って向かった藍であったが、紫のスキマで行った方が早いということでこうなったのだ。
「あらあら…百鬼夜行か何かかしら?」
たった4人いや、4匹しかいない百鬼などいない。
もちろん永琳の皮肉である。
藍は抱き抱えていた橙を永琳に頼んだ。また1つ仕事が増えた永琳は軽く溜息をつく。
「フン!いずれ幻想郷でも百の妖を従えてみせるさ…んなことよりてゐ!お主よくもやりやがったな!」
「ひっ、引っかかる方が悪いウサ!」
てゐは謝る気などさらさらなく、それどころか開き直った。
が、妖怪3人の威圧感に気圧されてまずいと思ったのか、その場をすぐに離脱しようとした。
ガシッ
「!?」
紫はスキマを使い逃げようとしたてゐをいとも簡単に捕まえた。
そしてもうダメだと思い、手と足をグッタリとさせ降伏のポーズをとった。
「へへへ…堪忍するんじゃな!」
「藍、お主よかったのか?てゐの奴にお仕置きをしないで」
「いいんです。それに〝アレ〟を見た後じゃ…」
あれから数時間経った。
ぬらりひょんと藍は2人で雑談しながら縁側に座っている。ウドンゲとフラン、そしてなぜか紫は3人で遊んでいた。永琳は橙の治療の後、薬の生成に取り掛かった。
そもそも橙が何故竹林に居たのか、それも治療後の本人から聞くことが出来た。特にこれといった理由はなくただ散歩していただけのようだ。そこに見たことがない妖怪がおり、その妖怪が紫と藍が話していた『ぬらりひょん様』だという事に気がついて恐る恐るも話しかけてみただけだったという。
それであの場面に繋がり、てゐの悪戯に引っかかってしまったというわけだ。
ぬらりひょんはさっきあった出来事を全て永琳に言いふらした。当然である。
永琳は水を汲んでくる時にてゐが寄り道した事などを実は全て分かっていて、どのみち後でお仕置きをするつもりだったらしい。
永琳のお仕置きは凄まじく、ぬらりひょん達が若干引くほどであった。
「そうじゃな…てゐが少し可哀想になったぜ」
「…じゃあたすけてよー」
てゐは永琳にボコボコにされた後、縄で身体を固定され、てるてる坊主のようは格好で木にぶら下がっていた。
「だーめじゃ。ワシが永琳に殺されちまうよ。それにお主には反省の色ってやつがみられんしのう」
てゐはむーっとリスみたいに口を膨らませる。
もっともてゐは兎なのだが。
「悪戯してもいいがな、捕まっちゃあダメだぜ?捕まったら怒られちまうだろ?」
「…無理だよ。スキマ妖怪がいるんなら逃げようがないウサ。大体お師匠様にもすぐ捕まるのに」
「そうやって諦めるなら悪戯はしないこったな。 …まぁ今日のは度が過ぎたってだけだがな」
ぬらりひょんは
が、どんな妖怪でもぬらりひょんを捕まえることはできない。ぬらりくらりとやり過ごされる。
そもそも総大将であるぬらりひょんを捕まえようとする妖怪自体が少ないという点もある。少し前に妖怪に襲われたが、老いたぬらりひょんでも何の問題もなく返り討ちにした。
いくら老いたとしても妖怪としてのレベルが他と違いすぎるからである。
「はぁ…はぁ…ぬらりひょん様は悪戯がお好きですか?」
庭で駆け回っていた紫が戻ってきた。
普段ただ駆け回ることなどあまりない紫は、汗をどっとかいていた。藍にタオルをもらい顔を拭きながら縁側に座った。
「ああ…それにしても随分と楽しそうじゃな紫」
「フフフ…若い子たちと遊びまわるのは少々疲れますね。でも若さをもらった気がして嬉しいですわ」
藍は思った。主人である紫はもちろん尊敬しているし、大好きではあるが反射的に思ってしまった。
〝なんかババくさい〟
と。こういう感想は一瞬で脳に出てきてしまうのでいくら主人である紫でもそう思ってしまった。
脳内から消そう!と頭をブルンブルン振っている藍をみたぬらりひょんと紫は不思議そうな顔をしている。
「若さ…か。確かに大事じゃな」
「ぬらりひょん様は昔の姿に戻られてどう感じましたか?」
今度は藍がぬらりひょんに質問する。
ぬらりひょんは欠伸をしながら空を見つめていた。
「ん〜…感じた…か。なんじゃろうな、〝昔〟に戻った気がするよ」
「…?実際に戻ったので〝気がする〟はおかしいのでは?」
藍はそう言うがぬらりひょんは微笑みながら首を横に振る。
「ワシだけじゃねーんだ。他の奴らにも変化が見えたんじゃ。
ワシが昔の姿に戻ると…
「ほとんど隠居した身だったんだがな。フハッ…いい歳こいてまた暴れたいなんて思っちまった。笑っていいぞい」
紫と藍は軽く口元を緩ませてはいたが、とても笑う気持ちにはなれなかった。
かける言葉が見つからず、ぬらりひょんと一緒に空を見ることしかできなかった。
「若い頃にやりたい事は全部やった。『仲間』を作って『嫁さん』も作って…魑魅魍魎の主になって…な。
だがそれでも…振り返りたくなっちまう。もっとやるべき事があったんじゃねえか?と」
ぬらりひょんが考えている事は壮大で、底の見えないモノである。
ゆえに漠然としていてぬらりひょん自身もよくわからない。
しかし求めているものは必ずその先へ在る筈だ。
「昔に…過去に戻りたいのですか?」
紫はこのような質問を幻想郷の住人に何度かした事がある。
そしていずれも答えはYESだった。どんな者にも大切な過去があり、するべき事が出来なかった事が在ったのだ。
もちろんぬらりひょんもその者たちと一緒の答え…
と紫は思っていた。
「いや、別に戻りたいとは思わないのう」
答えはまさかのNOだった。
もちろんぬらりひょんが初めてだった。
「何故ですか?」
「何故って…そりゃあ」
「ぬらりひょーん!!!」
ぬらりひょんが答えようとすると、庭で駆け回っていたフランが帰ってきた。
ウドンゲも一緒に戻ってきており、汗1つかいていないフランに対しウドンゲは汗だくだった。
「ハハハッ!兎ちゃん汗だくだぜ?大丈夫かよ」
ぬらりひょんは笑顔で2人を迎えてあげた。
フランの頭を撫でてあげた後、汗だくの頭など全く気にしないでウドンゲの頭もワシャワシャと撫でた。
「き、汚いですよ!」
「気にすんな。そろそろ夕方だし風呂に入ったらどうだ?フランも連れてな」
いつの間にか日が落ちかけていた。
空は夕焼け色に染まっていて、さらに昔を思い出させるような雰囲気を醸し出していた。
「そ、そうですね…じゃあ行こっかフランちゃん!」
フランの手を取り、永遠亭の中を入ろうとしたウドンゲ。
そのウドンゲをぬらりひょんが呼び止めた。
「あと
刀を抜き、振りかざす。
すると縄が切れ、てゐは地面に着地する事が出来た。
ポカンとした表情でてゐはぬらりひょんを見ている。
「い、いいの?」
「ああ。今度は捕まんねーようにしろよ?」
「…うん!」
威勢のいい返事をしたてゐもウドンゲ達と中に入っていった。
「さて…お主らはどうするんじゃ?」
「とりあえず帰ります。彼女によると橙は今日1日はここで安静にしておかなければならないようですし…明日また迎えにきますわ」
そう言ってスキマを開いた。
藍は永琳に橙の顔を見てくると言って既に居なくなっていた。
「そうか」
「ええ。ではぬらりひょん様…」
「紫…」
紫はぬらりひょんに挨拶をしようとした。
が、ぬらりひょんがそれを遮る。
「どうされました?」
「過去ももちろん大事じゃ。
だがな…〝今〟はもっと大事なんじゃ」
ぬらりひょんは先程中断された話をここで持ち出した。
聞いているのは紫だけである。
「……」
「ワシは
「……ぬらりひょん様」
ぬらりひょんを勝手に幻想郷へと呼んだのは紫である。
だからそれに対してぬらりひょんがどう思っているかずっと気になっていた。いや、心配していたのだ。
しかしその心配も
色んな想いがこみ上げ、涙が出そうになったが紫はぐっと堪えてこう伝えた。
「ぬらりひょん様。私も貴方にお会いできてよかったです」
ぬらりひょんの方は見ず、そう伝えた。
するとぬらりひょんが口を開こうとする前に紫はスキマでその場から消えた。
はい、第34話でした。
やっぱ3,000〜5,000字くらいが私にとって丁度いいです。
10,000〜 くらい書いている人は凄いと思います。
ではお疲れ様でした。