吸血鬼の設定は正直私もよくわからないです。
それに吸血鬼によっても違うみたいで…
「……」
暑い診察室の中で永琳はいそいそと作業を続けていた。
あれから1日経った。今は昼頃である。昨日1日で終わると言っていた通り、もう終わりそうであった。
「うん…こんなものかしら」
そう呟きながら薬を摘んだ。もちろん吸血鬼であるフランでも水の中に入れるようにする薬である。
薬はカプセル型になっており、素人からしたらどこからどうみても風邪薬にしか見えない。
「ウドンゲー!」
永琳は大声でウドンゲを呼ぶ。
するとすぐに扉の向こう側から「はーい!」と大きく返事をするウドンゲの声が聞こえた。
「はい、なんでしょう」
「薬が出来たわ。ちょっとフランちゃんを呼んできてくれない?」
〝恐らく〟薬は完成した。
〝恐らく〟なのは、こればっかりは飲んでみないと効果があるのかないのかわからないからである。
「わかりました〜」
ウドンゲは返事をしながら部屋を出て行く。
「ふぅ〜…」
永琳は一息つこうとお茶を淹れる。
急須に茶葉とお湯を入れ、少しした後湯飲みに注いだ。
そしてやっと一口飲もうとしたその瞬間
「えーりん!なにー???」
「ブ、ブハッ!」
永琳はビックリして飲んだお茶を少し吐いてしまった。
バタンッ!と扉を大きな音を立てて開けて誰かが入ってきた。永遠亭に住んでいる者はまずこんな入り方をしないだろう。
声で誰かはもちろんわかっていたのだが、念のため目で確認するために永琳は扉の方を見た。もちろんフランである。
「フランちゃん…早かったわね。お姉さんちょっとビックリしちゃったわ」
手元にあったハンカチで口を拭う。
永琳はフランが外で遊んでいると思っていたのでこんなにも早く診察室へ来るとは予想していなかった。
もちろんフランが外から全速力で来たという可能性もあるのだが、汗ひとつかいてないフランを見る限りそれはないだろう。
「ごめんなさい!それでなに?もしかしてもう薬ってやつが完成したの!?」
フランは目を輝かせる。
犬や猫が喜んでいる時に尻尾を動かしているように、フランも色鮮やかで、見方によっては不気味にも感じる羽を上下に動かしていた。
「もちろんよ」
「ふふんっ!師匠は天才だからね!」
永琳ではなく何故かウドンゲが胸を張ってドヤ顔をする。
現実世界にもこういう人間はよく居る。しかしウドンゲの場合は全く憎めないので永琳も笑って流していた。
「さて…じゃあ実験Timeね。
…もし爆発でもしちゃったらごめんなさいね」
「………えっ?」
永琳はニコッと微笑んではいたが、言っていることは恐ろしい。
フランは先程の顔とはうって変わり相当怯えている様子だ。
「し、師匠…」
「…冗談よ。 フフフフフ…」
〝天才〟ゆえに〝変人〟というのはよくあることだ。
永琳の場合あまり〝変人〟具合を表に出さずに、普段は常識人な分恐ろしさが倍増するのかもしれない。
「ほ、ほんとに大丈夫なの?」
「もちろんよ。はいコレ」
永琳は先程のカプセル式の薬をフランに手渡した。
フランは「これが薬?」と言いながら不思議そうに眺めていた。
「ええ。それを噛まずに飲み込んでみて」
フランは少し躊躇したものの、永琳を信じ、薬を恐る恐る口へ運んだ。そして噛まずに、そのまま胃へ流し込んだ。
「……?」
フランが首をかしげる。口には出さなくとも
「なにも起こらないよ?」
と言っているのは永琳にもウドンゲにもわかった。
「ああ、効果がでるのは胃で完全に薬が溶けてからね。
そうね…1分ってことかしら」
「そんなに早いんだ」
しかしどうやって確かめればいいのか。
吸血鬼が水を苦手としているのはわかっている…が、元々全く無抵抗なわけではない。
吸血鬼といっても色々といるが、少なくてもレミリアやフランは水を飲んだり、水、又はお湯に入ることは出来る。
しかし雨にうたれたり、川や池、さらには海などの〝流れている水〟の中に入ることは出来ない。
が、出来ないといってももちろん死ぬわけではない。
〝流れている水〟の中では動けなくなるだけだ。それだけでも致命的であることは変わりないのだが。
「よし!フランちゃん。今から川へ行きましょう」
「川?」
「ええ。もし川に入っても動けるようならば、私の作った薬の効果が出ているとわかるわ。
まぁそんな事しなくても99%は大丈夫なんだけど…念には念を…ね」
いざという時があれば責任が取れない。それにもし薬が効果を発揮していないということを後に気づいたら、作り直すのが面倒だったので今試すことにしたのだ。
「フランちゃん。
それにウドンゲ、飲み物とお昼ご飯を用意して。
丁度いいから川で食べましょう皆んなで」
「わかった!」
「………」
フランは先程みたいに威勢良く部屋から出ていった。
対照的にウドンゲはポカーンとしながら永琳の顔を見る。
「…何よ。私の顔に何かついてる?」
「いや…なんか意外だと思っただけです」
「いいから早く準備をしなさい。橙ちゃんはまだ寝てるから、てゐに留守番をしてもらおうかしらね。紫たちもそろそろ来そうだし」
〝何が意外〟とはあえてウドンゲに言わせなかった。
「それならスキマ妖怪を待った方がいいのでは?
そろそろ来るんじゃ…」
「……」
「すぐ用意しますッ!」
永琳の無言の圧力に負けたウドンゲは出かける準備を始めた。
永琳は先程淹れたお茶を口にする。少し温くなっていたが悪くない味だった。
「意外…かしら」
今、薬の効果を試す理由はもう1つある。
それは永琳自体が川で一休みしたかったからだ。
暫く『海』をつくることに熱を入れないといけないだろう。なので少し体を休めるのが〝今〟が丁度いい、そう考えただけである。
「そう…丁度いい。丁度いいだけ…」
1人でブツブツと呟きながら、温くなっているお茶をずっと飲んでいた。
「こっちこっち!」
「おいおい…そう引っ張るな。
ふわぁ…ワシはまだ眠いんじゃ…」
縁側で太陽の光をたっぷりと浴びながらぬらりひょんは昼寝をしていた。
歳をとってからぬらりひょんは昼寝をすることが多くなった。体が昔に戻っても、その習慣まで変わることはない。
「お早う、ぬらりひょん」
「…おう。なんじゃその帽子は」
ぬらりひょんはフランに先程の診察室へ連れてこられた。
そこで待っていたのはもちろん永琳…なのだが、何故か麦わら帽子をかぶっていた。
横にいたウドンゲも麦わら帽子をかぶっており、手には水筒と何やらバスケットのようなものも見えた。
「今から川へ行くわよ。薬が出来たからその実験のためにね」
「ああ、もう出来たのか。で、その薬ってやつは?」
ぬらりひょんは薬を一目見ようと永琳、フランを見る。
それに対しフランは「あーーん」と口を大きく開く。しかし口の中には何も見当たらない。
「まさかもう飲んだのか?…川に着いてから飲んだ方がよかったんじゃねえかい?」
ぬらりひょんの言うことはもっともである。
しかしフランは永琳に飲めと言われたので飲んだに過ぎない。
「心配いらないわ。川は近くにあるし………
でも確かに気が早過ぎたかもしれないわね」
普段永琳はこのような凡ミスをしない。
川へ、薬の効果が出ているか確認することも、ウドンゲとぬらりひょんに任せれば自分がわざわざ出向く必要はない。
ウドンゲは今日の永琳に、なんとなくいつもとは違う雰囲気を覚えた。
「まぁなんでもいいさ。で、てゐと輝夜は?」
「…かぐや?」
フランはここで初めて『輝夜』の名を聞いた。
「てゐは昨日の罰も兼ねて、橙ちゃんの様子を見るためにお留守番。
姫様は…来ないでしょうね」
確かに輝夜を誘ってもこなさそうである。
しかしあくまでそれは〝予想〟であり〝答え〟ではない。
「おいおい、勝手に決めんなよ。
ワシが呼んでくるぜ。すぐ行くから先に川へ向かってな」
「あ!ちょっと!」
「じゃあな」
永琳の話を聞かずにぬらりひょんは消えてしまった。
一度決めたらそれを最後まで突き通す。それがぬらりひょんの性格である。
「ねぇ、かぐやって誰?ここに住んでるの?」
「…後で〝本人〟に聞いてみて頂戴。
さ、私たちは先に向かいましょ」
ぬらりひょんのことだ。無理矢理にでも輝夜を連れてくるだろうと思った永琳。
時間が勿体無いのでとりあえず永琳、フラン、ウドンゲの3人は川へ向かうことにした。
はい、第35話でした。
あいも変わらず進展が遅い私の小説。
長い目で見てくれると嬉しいです。
ではお疲れでした。