つい最近夏が始まったかと思えば、もう冬の入り口ですね。
「ん〜〜〜〜〜!ワシも水浴びして遊ぼうかのう。
奴良組にいればぬらりひょんには常に護衛がついている。しかし『明鏡止水』を使えば誰も気づかれずに外に出れるので、しょっちゅう街にもでかけていた。
それでもあの歳になって遊ぼうとは思わなかった。今そういう気分になっているのは、恐らく幻想郷が昔の江戸の雰囲気に似ているからだろう。
「待って!聞きたいことがあるんだってば!」
スッとにとりがぬらりひょんとフランの前に出る。遊ぶ前に聞きたいようだ。
「なんだぁ?手短にしてくれよ」
「わ、わかったよ。 …とりあえずあんた達は何者なんだ?全員初めてみる顔だけど」
「妖」
「吸血鬼!」
「姫」
「薬師」
「…の弟子です」
「……………」
随分適当な返しににとりはなんだか悲しくなってしまった。はぁ〜…と大きなため息を吐いた後、川辺の砂利に座り込んだ。
「もういいか?ワシらは遊ぶぞ」
「…構わないよ。そこのお姉さんに聞くからさ。
それと…」
にとりはゴソゴソとリュックの中を漁った。そして「あった」と言いながら何かを取り出した。持っていたのは2つのスプレーだった。
「これなにー?」
気になったフランがにとりに近づく。にとりはフランに向かってスプレーをかけた。正確に言うと、フランの服に向かってかけたのだ。一箇所ではなく、服全体に満遍なく。すると…
「…あれ?」
フランは服に触れた。しかし、先程川の中へと潜ったにもかかわらず全く濡れてはいない。
「今度はこっちだよ」
次ににとりはもう片方のスプレーを、前のスプレーと同じように満遍なくかけた。こちらは先程と違って何も変化が感じられない。
「さあ川へ入ってごらん」
「…?」
フランは何が何だかわからなかったが、とりあえずにとりの言うように川の中へ入ってみた。そうするとようやく何が起きたかわかった。
「あれ? …染みてない?濡れてもない!」
ザバッと大きな音を立ててフランが川から出てきた。しかし濡れているはずの服は全く濡れていない。足はもちろん濡れている。
「!!」
1番最初に理解できたのは永琳だった。
「ち、ちょっと貸してください!」
川でビチョビチョになっていたウドンゲが、にとりの元へと小走りで行く。すると先程フランにかけた1つ目のスプレーをにとりからもらい、自分の服全体に満遍なくかけた。
「すごい!かっ乾きましたよ!」
「よかったわね鈴仙。あのままだと私が嫌だったから良かったわ」
フランと同様、ウドンゲの服も一瞬で乾いた。
「おいおいすげーな。これどんな作りなんだ?」
ウドンゲがフランと同じように試したため、にとりのスプレーの効果を全員理解できた。
1つ目のスプレーはかけることによって、服の水分を一気に吸い取ることができ、一瞬で乾かせる効果がある。
2つ目のスプレーは、かけると目に見えない小さな膜を服に張り、水分を跳ね返すようにできる効果があったのだ。
「ふ、ふん!私にかかればこんなもの簡単さ!」
急に褒められたのでにとりは少し照れてしまった。頭をぽりぽりと掻きながら胸を張っているが、頬が少し赤くなっていたことにぬらりひょんは気づいてニヤニヤと笑っていた。
「ちょっと貸してみろ」
ぬらりひょんが2つ目のスプレーをにとりから貰うと、自分とウドンゲの服にかけた。
その後フランとウドンゲの手を握り、川の中へと勢いよく入っていく。
「ハハハハハ!本当に着物濡れねえんだな!
まぁ足はビッチョビチョじゃが」
「スゴイねコレ!泳いでも大丈夫ーーーー!!!」
「わ、私はもう泳がなくても…」
服は濡れないにしろ、髪の毛はやはり濡れてしまう。さっき川から上がった後、ウドンゲは少しずつ髪を乾かしていたのでもう濡らしたくなかったのだ。
「ダメッ!」
「ひゃあッ!?」
バチャン!
急にフランに引っ張られたウドンゲは、また背中から川に叩きつけられてしまった。少しずつ乾きかけていた長い髪も、またビチョビチョになった。
そんなウドンゲを見ながらぬらりひょんとフランは腹を抱えて大笑いする。
「………やったな〜!」
開き直ったウドンゲは手を銃の形に変え、開いた隙間から水を含み、手を『水鉄砲』のようにした。面白い方法だと思ったフランはやり方を聞くが、ウドンゲは教えずにひたすらフランの顔めがけて撃ちまくった。
「やっ!…もう!アハハハハッ!」
「………」
今までで1番楽しそうな顔をしているフラン。そんな彼女を見てぬらりひょんは安心した。
永琳、輝夜、にとりの3人はレジャーシートの上に座って話していた。
もっとも話しているのは永琳とにとりだけで、輝夜は寝転んでいた。
久し振りにこんな暑さの中外に出たので少しバテたのだろう。永琳は椅子から降り、にとりと話しながら団扇でパタパタとあおいでやっていた。
「へぇ…吸血鬼の弱点である水を克服する薬か…」
「そうよ。ここにはその実験をしにきたの」
「……」
にとりは内心驚いていた。永続性ではなくても、こんな代物を作れるのはこの幻想郷でそうはいない。いやもしかしたら永琳1人かもしれないと。
一方永琳もにとりへ同じような感想を抱いていた。
先程の2つのスプレーだ。まるで子供が考えたかのような発明品だが、その効果は賞賛に値する。
「貴方って」
「アンタって」
「「………」」
2人と言葉が重なった。しかし続けることはない。2人とも相手が何を言いたいかわかっていたからだ。
「フフ…まあいいわ。貴方他にも何か作ってるなら聞かせて頂戴」
「いいとも。最近作ったのはね…」
似てないようで似ているところがある2人は、川で遊んでいる3人をな眺めつつ、ドンドン話を進めていった。
「ふぅ…そろそろ夕方になりそうじゃな」
「あ、アハハ…いっぱい遊んじゃった…」
あれから3人は何時間も遊んでいた。一回お昼休みをして、それからは個別で泳いだり、ぬらりひょんは背泳ぎの姿勢のまま昼寝をしていたりした。
ウドンゲは途中で体力が尽き、輝夜の隣へ行って永琳の代わりに団扇であおいでいた。
「ぬらりひょん!そろそろ帰るわよ!」
向こうから永琳にそう言われた。ぬらりひょんもそろそろ頃合いだと思い川から上がろうとすると、服の袖をフランに引っ張られた。
「ぬらりひょん、何か光ってるよ?」
フランの目線の先には川の水面に映っている月があった。宝石か何かと思ったフランは川の中へ手を突っ込むが、波紋を立てられた水面の月はフランの手に収まることはなかった。
「消えちゃった…幻だったのね」
「ははは。フラン、そいつぁ幻じゃないぞ」
「え?」
不思議そうな顔をしてフランはぬらりひょんを見る。ぬらりひょんはフランの頭の上に手をポンッと置いた。
「空をみてみな」
いう通りにフランは空を見た。すると水面に映っている月と全く同じの月が空にあった。
「空に月があるだろう?鏡のように水面に映っている月はそれと同じものじゃ。だから幻ではなくて存在しておる。
しかし
そう、ワシ
見えているのに触れらない。
それこそがぬらりひょんの第2の〝畏〟なのだ。
「よくわかんないー!」
フランにとっては難しすぎただろうか。あまり理解できていないようだ。
「今度見せてやるよ。今は…疲れた」
話しながら川から上がってきた。長時間水の中にいるとやはり体力が奪われてしまうと、足が重たく感じたぬらりひょんは思った。
「はいタオル」
永琳から渡されたタオルでぬらりひょんはフランの髪を拭いてあげようとした…その瞬間。
「…ッ! 危ねえッ!!!!!」
ぬらりひょんはいきなり永琳を肩を押し、地面に倒した。
「!!?」
ブゥンッ!!!
ドゴォッ!
「かはッ……!」
「ぬらりひょんッ!?」
永琳を突き飛ばしたぬらりひょんが、大きな棒のようなもので吹っ飛ばされた…ように永琳、フラン、ウドンゲ、にとりは見えた。
「チッ…て、てめえは…」
シュウウ…
すると、目の前に民家ほどの大きな体を誇っていた鬼が出現した。鬼はぬらりひょんの体より大きな棍棒を右手で握りしめ、こちらを睨んでいた。
この鬼の姿にぬらりひょんだけは見覚えがあった。
「ぬらりひょん、400年前の雪辱…ここで果たさせてもらう!」
はい、第38話でした。
ようやく物語が進み始めたのかな?
期待に応えられる作品にしたいです。
ではお疲れ様でした。