皆さんこの前の台風大丈夫でしたか?私は思っていたより風が強くてびっくりしました。
ー400年前ー
1匹の
何の為に?
それは〝惚れた女を
妖の名はぬらりひょん。奴良組と呼ばれる百鬼夜行の
ぬらりひょんは自分が惚れた女、
普通に考えれば無謀である。自らの配下である牛鬼にすら止められたくらいだ。
羽衣狐は『転生妖怪』といった特殊な妖怪で、本体は姿を現さず、
なのでその依代を斬ったところで羽衣狐は死なない。純粋な戦闘能力、そしてその半不死身さが彼女の強さなのだ。
ぬらりひょんはそれでも足を進めた。もちろん羽衣狐の強さを知らない訳ではない。しかし恐怖はなかった。それほど珱姫はぬらりひょんにとって〝大切な人〟だったのだ。
そして辿り着いた。珱姫が囚われている妖達の巣へ。
ダッダッダッ!
畳を駆けるぬらりひょん。もちろんその先は珱姫の生き肝を今まさに喰らおうとしている羽衣狐へだ。
ガキィンッ!
そして真っ直ぐ刀を振り下ろした。が、ぬらりひょんの一閃は羽衣狐に届かない。配下の妖達に止められたのだ。
その一撃で戦いの幕は開けた。
初めは1人でのりこんでいたのだが、いつの間にぬらりひょんの百鬼が大坂城に溢れかえっていた。
大将と大将が対峙している。場は総力戦。しかし奴良組と京妖怪はどちらが上か、ただそれだけのために戦っているのではない。あくまで奴良組は珱姫の奪還を目的としていながら戦っていた。
暫くすると、奴良組が押され始めた。むしろ京妖怪相手によく持ったと言いたい所だ。
このまま持久戦になれば勝ち目はない、と奴良組の妖達が思い始めた瞬間…
ドゴォン!
物凄い音が大坂城の室内に響いた。なんの音かとその場にいた妖はみな音のする方に振り返った。
すると、そこには大坂城の屋根で羽衣狐と戦っていたぬらりひょんと珱姫、そして幹部の牛鬼が居た。3人は屋根を突き破って下へ降りてきたのだ。
「おぅ、てめーら引き上げるぞ。目的は奪り返したぜ」
ぬらりひょんはそう言った。これがどういう意味かはその場にいた全員が瞬時に理解できた。羽衣狐がみすみすとぬらりひょん達を見逃すはずはない。
つまりぬらりくらりと現れた妖怪に、羽衣狐は敗れた。そういう事になる。
戦う理由のなくなった京妖怪達はそのまま散り散りになり、見事奴良組が京妖怪に勝利したのだった。
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「ぬらりひょん、400年前の雪辱…果たさせてもらう!」
凄まじい威圧感を放っている鬼が、仁王立ちしながらぬらりひょんを睨む。その手には鬼らしく大きな棍棒が握られていた。
この鬼は400年前、ぬらりひょんが大坂城に攻め入った時に、1番最初に殺された妖だ。
ぬらりひょんは永琳を庇い、棍棒で吹っ飛ばされてしまった。腹に直撃したらしく、地面に多少の血を吐いていた。
「ぬらりひょんッ!」
ぬらりひょんを心配したフランが走って向かってくる。そのフランに対し、ぬらりひょんは眼と手で「こっちに来るな」とジェスチャーした。腹の痛みですぐに声を出せなかったのだ。
「貴方…何者?
ぬらりひょんに庇われた永琳が、逆にぬらりひょんを庇うように前へ出た。手には弓が握られており、いつでも戦える、つまり臨戦態勢に入っていた。
「貴様こそ何者だ。それに此処は何処だ?」
「(やはり外来人…紫は何をしているのかしら)」
理解した永琳は、鬼に矢を向ける。
「すぐにここから去れば手を出さないわ。
だからさっさと消えなさい」
「………」
鬼は永琳の言うことを理解できているのだろうか。うんともすんとも言わず、表情からも感情を読み取れないので、何を考えているかわからない。
「我はぬらりひょんを殺しにきただけ。
消えるのは…貴様らだッ!!!」
「ッッッ!!!」
〝畏〟の発動。それを〝
その瞬間、フラン、にとり、ウドンゲの3人は完全に気圧されて腰を抜かしてしまった。
一方永琳と先程起きた輝夜はなんとか耐えた。が、足が震えているのをみた鬼はククク…と嘲笑っていた。
「ハッ……」
足が震えている永琳の肩にポンと腕を置いたぬらりひょん。そのまま永琳の前に出て、5人を守るように鬼と対峙した。
自分はぬらりひょんの邪魔になると思った永琳は、腰を抜かしたフランに駆け寄った。
「人間2人に耐えられてるようじゃ京妖怪の名が廃るな…それよりてめぇ、
厳密いうと永琳と輝夜は人間ではない。が、ぬらりひょんからすれば別に大した違いはない。
「何度も言わせるな。我は貴様を殺すためだけに来たと!
…確かに我は400年前貴様に殺された。この雪辱…1日たりとて忘れたことはなかったッ!」
「知るかよそんなモン。てめえがワシより弱かっただけだろう?
それを生き返ってまで逆恨みしてんじゃねえよ」
幻想郷はあの世ではない。だから既に死んでいて、その上別世界の妖怪が来れる筈もない。生き返った際に幻想郷に辿り着いた。という推測にならざるを得ない。
「ほざけ!あの時は油断したが…今日は確実に殺してやるッ!
…得物を取るがいい。正々堂々殺し合うぞ」
「…兎ちゃん、ワシの刀を」
ぬらりひょんは刀をキャンプシートの上に置いていた。なのでそのすぐ横にいたウドンゲに投げてもらおうと声をかけたのだが…
「あ、足が…」
「…!」
先程腰を抜かしたばっかりで、ウドンゲはうまく立ち上がれなかった。
無理もない。彼女達は〝畏〟に対してあまりに無知、無警戒すぎる。
「…悪りい。自分で…」
仕方ないと思ったぬらりひょんは自ら刀を取りに行った。キャンプシートまで辿り着きしゃがんで刀を取ろうとしたその瞬間。
バッ!
「!!」
鬼が飛び上がり、ウドンゲ、にとり、輝夜の3人ごとぬらりひょんを棍棒で潰そうとしていた。
「ヌゥンッ!」
ズドォンッ!
大声と共に棍棒は振り下ろされた。シートの上に置いてあった椅子やバスケットは粉々になったが、ぬらりひょんはウドンゲ、輝夜はにとりを持ち上げて回避したので怪我人は出なかった。
「あ、ありがとう…」
「たまにはする側になるのも悪くはないわね」
お姫様抱っこのことだ。輝夜は見た目貧弱だが、軽々とにとりを抱っこして攻撃を避けた。先程までの足の震えはもうなくなっている。
「ぬらりひょんさん…」
「大丈夫だ、心配すんな。
輝夜!お前らも大丈夫か!?」
輝夜は首を縦に振る。しかしぬらりひょんの方は一切見ない。鬼を警戒しているのだ。
ぬらりひょんは攻撃を避ける際にちゃんと刀を掴み、そのまま腰へさした。
「永琳…フランを連れて下がってくれ。輝夜、お前達もだ。
いま兎ちゃんがいるところまでな」
ウドンゲを少し離れた場所へ避難させてから、ぬらりひょんも鬼の動向を警戒しつつ伝えた。
要するに〝1対1でやる〟ということだ。
「…わかったわ」
会話を長引かせてたら不利になる。そう考えた永琳達は言われた通りに下がっていった。
場にはぬらりひょんと鬼が一騎打ちをする構図となる。
「正々堂々たぁ笑わせてくれるぜ。不意打ちしてくるなんてよ」
「フン…我相手に背を向けるのが悪い。だがもういいだろう…本気で殺しにいってやる」
「…御託はいい。さっさとかかってきな」
ぬらりひょんは右手でゆっくりと刀を抜く。そしてそのまま右肩に持ってきて構えた。
「…ぬらりひょん、ゆくぞ」
シュン…
「…!」
「アレ…また消えた?」
下がった場所から戦いを眺めていた5人。フランには鬼が再び消えたようにみえた。
「これがてめえの〝畏〟か。 チッ…くだらねえ」
ゾクッ!
5人は一斉に鳥肌が立つ。ぬらりひょんの〝鬼發〟だ。しかし先程の鬼と一緒のようで違った。
違いは恐らく害意があるか、ないかであろう。ぬらりひょんは鬼へしか害意を向けていない。
「てめえの薄っぺらい〝畏〟なんざ…
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
シュン…
言葉通りにぬらりひょんが刀を振り下ろす。すると空間が裂け、鬼が急に現れたようにみえた。
「なに…!」
「てめえの〝畏〟は姿を消すことじゃねえ。〝背景に擬態〟するだけじゃ」
「…!!!」
その通りだ。ぬらりひょんの『明鏡止水』などとは違い、鬼のはただ背景に擬態して、身体の色を変えていただけなのだ。だから消えていたわけではない。ちゃんとそこにいたのだ。
「ち、ちょっと待ってくれ!擬態ってそんなこと可能なのか!?
動き回ればその分すぐ身体の色を変えなきゃいけないでしょ!そもそも物理的に無理なんじゃ…」
気になったにとりが大きな声でぬらりひょんに言ってしまった。すぐ我に返り口を手で塞いだがもう遅い。
しかしぬらりひょんは構わず返答する。
「〝畏〟ってのは元から存在する秘められた能力みてえなもんだ。だからできちまう…妖ってのはそんなもんさ」
ぬらりひょんが戦いの最中にペラペラと喋るのは、決して油断しているわけではない。
〈こいつじゃワシには絶対勝てねえ〉
人間同士の戦いよりも妖同士の戦いの方がわかりやすい。
「く…ぐおおおおおッ!!!」
〝畏〟が断ち切られてなお鬼は諦めない。自慢の棍棒でぬらりひょんを襲う。が、
ガキィンッ!
「力自慢がこんなもんか?」
目には殺気が満ちていた。
止めた棍棒を片手でバッと押し返し、隙ができた鬼に下から刀を振り上げた。
ザクッ!
「ぐああああッ……!」
「…! 腕を…」
ぬらりひょんの一撃により、鬼の左腕は斬り飛ばされた。大きな左腕は、地面に大きな音を立てて転げ落ちた。
それを遠くから見ているフランは多少やり過ぎではないかと見ていた。
もちろん命が狙われているということは知っている。
しかしぬらりひょんなら華麗に追い返す、相手の命をとることに拘りはしない…と思っていた。
「終わりじゃ。てめえはここで殺す」
だがそんなフランの理想のぬらりひょんは此処にはいない。甘さを捨て、目の前の敵を斬る。フランの知らないぬらりひょんが此処にはいた。
「これが…ぬらりひょん…」
ふと輝夜がそう呟く。
先ほどまでとは顔つき、雰囲気、纏っている妖気がまるで違う。
「……ぬらりひょんッ!!!」
「ッ! 馬鹿ッ!こっちにくんなッ!!!」
フランはぬらりひょんを止めようと走って近づいた。もちろん鬼の安否を気にしているのではない。自分の知っているぬらりひょんに〝殺し〟をして欲しくなかったからだ。
「(勝機…!)」
思わぬ勝機が鬼へと転げ落ちてきた。隙のなかったぬらりひょんへ大きな隙ができた。これが〝守る側〟の難しさだ。
「死ねぇ!ぬらりひょんッ!!!」
鬼がここぞとばかりに突進してくる。速攻で勝負を決めるつもりなのだろう。鬼の棍棒には〝畏〟が込められている。自分の〝畏〟つまり〝鬼發〟を棍棒へ移動させたのだ。これを〝
このままだと自分は助かってもフランが危ない。だからぬらりひょんは一か八かで鬼に斬りかかった。
『
「…!やべぇ…」
しかしそれが裏目に出た。鬼は突っ込んできたぬらりひょんに合わせ、秘技を繰り出す。400年前は『鏡花水月』で凌いだものの、このタイミングだと間に合わない。
「フランちゃんッ!」
永琳達も助けに入るにはあまりにも遅すぎた。
シュウン…
ズドドドンッッッ!
「─────!!!」
鬼の一撃は凄まじい勢いだった。地面が抉れ、周りの木々がボキボキボキッ!とまるで小さな木の枝のように折れる音が響いた。
しかし鬼は気づいていた。
シュウン…
「…助かったぜ。紫…」
「…いえ」
幻想郷の賢者、そしてぬらりひょんの百鬼である八雲紫が、危機一髪のところで現れた。
「ぬらりひょん様、まだ腹部が痛むのですね?」
「…まあな」
実は最初の一撃のダメージがまだ残っていたのだ。それを紫は見抜いていた。
「何者だ、貴様」
「黙れ……」
いつもとは違う雰囲気の紫。鬼とにとり以外の全員がそれを感じ取っていた。
「下賎で惨めな妖怪よ、美しく残酷にこの大地から往ね!」
ぬらりひょん以上に殺気のこもった眼をした紫が、鬼に向かってそう言い放った。
はい、第39話でした。
原作を読んでいる方はもう分かっていると思いますが、鬼の名前は次の話で出てきます。
ではお疲れ様でした。