今年最後の投稿…間に合ってよかったです。
あの戦いの後、
ただひたすらと、それも無言で歩いていた。
「……茨木童子、先程は何故退いたのだ。我と貴様ならぬらりひょんを殺す事ができただろう」
痺れを切らした凱郎太が茨木童子に訊く。茨木童子は黙ったまま何も答えないと思ったが、暫くすると口を開いた。
「凱郎太。そんなんだからてめェは
茨木童子は、奴良組本家で繰り広げられた『安倍雄呂血』対『ぬらりひょん』の戦いをその眼で見ていた。
『安倍雄呂血』とは、安倍晴明の子孫とされる陰陽師の一族の
『安倍雄呂血』は偉大な式神使いであり、それのみを考えた場合では、『八雲藍』という非常に優秀な式神を持っている紫より上だろう。
しかしそんな実力者が出した強力な式神も、全盛期のぬらりひょんの前に全て叩き切られてしまった。それも一撃で。
茨木童子はそれを知っている。悔しいが
「それに…お前の腹に一撃を食らわせた変な妖怪も恐らくつえェ。間違いなくお前よりはな」
「ぐ……」
茨木童子は、物事をしっかり頭で考えて行動できるタイプの妖怪だ。それに加え実力も相当なもの。こういう妖怪こそ長生きができるのだ。
「だからこそ今だろうッ!あの状態のぬらりひょんならば我と貴様で…!」
言葉の途中で、凱郎太は寒気を感じ口を閉じた。
そう、茨木童子の〝畏〟を感じ取ったからだ。
茨木童子は凱郎太の一歩前をずっと歩いており、一度も振り返ることはなかった。〝畏〟を感じた際にも振り向かなかったが、それでも凱郎太はわかっていた。
何を?
それは茨木童子が怒っているということをだ。
「何回も同じことを言ってんじゃねェぞ……殺すぜ?」
凄まじいほどの〝殺気〟だ。
今にも首を落とされそう思えるほどの緊張感が凱郎太を包んだ。
「す、済まぬ…」
「手負いの奴を殺しても意味がねえだろ…?」
正々堂々、というわけでもないだろう。凱郎太には、茨木童子に何か考えがあるように思えた。それが今向かっている場所に関係あるのだろう。
「ククク…オレに任せてな」
茨木童子は不気味に笑いながらさらに〝畏〟を醸し出していた。
2人はそのまま
─永遠亭─
川にいたぬらりひょん達は、紫のスキマで永遠亭に帰ってきていた。
にとりは関係なかったのだが、永琳がまだ話したいことがあると言って、無理矢理連れてこられていた。
辺りはもう薄暗くなっている。他の者は別室で夕食を食べていた。
ぬらりひょんと永琳以外の先程居た5人と、永遠亭に残っていたてゐだ。
ぬらりひょんと永琳は2人で治療室に居た。
「ちょっと腹部を触るわよ。 …どう?」
「痛っ…いのう…」
永琳の治療が始まった。予想通り、肋が折れているとわかった。軽く触れるだけでぬらりひょんは随分痛がっている。
「うーん、やっぱり折れてるわね。
…でもあの一撃を食らって、これだけの怪我で済むなんて凄いわね貴方」
感心しながら永琳はツンツンと腹部をつつく。するとぬらりひょんがまた顔を歪める。
「いっ…!だから痛いって言っとるじゃろ!」
「あら失礼」
永琳はクスリと笑う。全く反省していない顔だ。
そして後ろを向いて何かをゴソゴソと探し出した。
「私は…外科的な処置もできるけど…専門ではないし…時間もかかるから………あったあった」
話しながら何かを見つけた。そしてそれをぬらりひょんに「はいあげる」と言いながら渡した。
それは錠剤の薬だった。いかにも怪しそうな色をしている。
「…なんじゃコレ」
ぬらりひょんは手に取った薬を、若干嫌そうな顔をしながら薬を見ていた。
「薬よ」
「……」
そんな事はわかっとる。 と言いたげな表情のぬらりひょん。永琳はそのぬらりひょんを見てニコリと笑う。
「もちろんお代は貰わないわ、助けてもらったんだもの。それにしても
この一言でぬらりひょんは察した。
「お主…ワシを実験台にする気かい…?」
「フフフ…大丈夫よ。私は天才だもの」
自分で天才と言っても全く説得力が無い。しかし普通の治療をしたら完治するのに時間がかかってしまう。ぬらりひょんはそんなに待てるほど気が長くはない。
「いいだろう…飲んでやる」
ぬらりひょんは、親指と人差し指で摘んでいた薬をぎゅっと右手全部で握りしめる。でこには少し汗をかいていた。なにが起こるかわからないからだ。
「うふふ……これだから貴方を好きなのよ私は。
「ハッ…ぬかせ…」
永琳の冗談は、本当に冗談かわからないところが凄く怖い。
「口に入れたら薬を噛み砕いて頂戴。水も要らないからそのまま飲み込むだけでいいわ」
頷きながら、ぬらりひょんは薬を口へ入れた。そして言われた通りに薬を噛み砕き、小さくなった所でゴクッと飲み込んだ。
「…ん?」
「あら、どうかした?」
突然声を上げたぬらりひょんに永琳が訊く。その時、永琳の顔は若干ニヤニヤしていた。
「いや…どうかしたって言うよりどうもしなくて驚いてるんじゃが…」
永琳の言う通りに薬を飲んだのだが、なんの変化も見られない。不思議そうな顔をしているぬらりひょんに対し、「どれどれ…」と服の上から永琳がまた腹部をつついた。
「いてぇって!!!」
先程となにも変わらない。相変わらずぬらりひょんの腹部は痛いままだった。
「あら…」
これまた反省の色は見られない。ぬらりひょんは若干カチンときたが、怒っても腹が痛いだけなので我慢した。
「でも……さっきは本当にごめんなさいね。私を庇ったばかりに」
ニコニコしていた永琳が急に真面目な顔になった。自分を庇ったばかりに怪我をしたぬらりひょんに対してだ。
「お、おう…なんじゃ急に…変なやつだなお前」
「それに〝畏〟を使う妖怪がこれほど脅威的とは思わなかったわ。
…正直甘く見ていた。」
実は、永琳は〝畏〟に関する知識は持っていた。それに関する研究も永琳自体はしたかった…が、自分は〝畏〟を使えないし、そしてこの幻想郷にも〝畏〟を使える者はいなかった。なので泣く泣く断念していたのだ。
「〝畏〟について知ってたのか。幻想郷じゃ紫と藍しか知らねえと思ってたんだがな。まぁ…ともかくあいつら2人はワシらの世界にいた
…謝るのはワシの方じゃ」
「それにしても…あの2人はどうやって…」
それが最大の謎だ。茨城童子、凱郎太の2人はどうやって幻想郷へ来たのか。そもそも凱郎太に至っては400年前に既に死んでいる筈だ。
これがぬらりひょんには嫌な予感しかしなかった。
「…さあな。じゃが、早めに手を打つ必要があるのう」
「(…手を?)」
ぬらりひょんは真剣な顔をして何かを考える。恐らく最悪の事態が起きた時に対処が取れるかどうかを考えているのだろう。
「まぁそれは後で考えればいいさ。それよりメシじゃ!ワシは腹が減った!」
「…フフ、そうね。行きましょ!」
永琳は椅子から立ち上がる際に、またぬらりひょんの腹部をつついた。
「いっ!……たくねえ。痛くねえ…?
んあ?治ってる…治ってるぞコレ!」
ぬらりひょんはハハハ!と笑いながら腹を手でポンポンと叩いたり、軽く殴ったりする。
「さっきの薬はね、服用した者の『治癒力』によってその効果が発揮されるのよ。
…本当は人里の人間の為に作ったんだけど、普通の人間の『治癒力』なんてたかが知れている。そのため人間なら普通に治癒した方が早い」
「……」
「でも妖怪の貴方なら『治癒力』は人間の比ではない…そう思って処方した甲斐があったわ」
「ハッ…さすが、とは言わねえよ」
ぬらりひょんは少し微笑んで立ち上がった。そして治療室の出口へ歩いていく。そして扉の前で立ち止まり、永琳へと振り向いた。
「お主は『海』を作れるんだろう?そんなすげえお主がこんな薬を作れても、なんにも不思議じゃねえからな」
ニコッとぬらりひょんは微笑む。その太陽みたいな笑顔を見た永琳もつられてニコッと笑った。
その後、2人は一緒にみんなの元へと向かった。
はい、第41話でした。
なんとか年内に投稿できてよかったです。ぬらりひょんと永琳って凄く魅力的な2人組だと個人的に思いますね。
『ぬらりひょんが幻想入り』 2018年もよろしくお願いします!
皆様、よいお年を!