また1ヶ月以上空いちゃいました(⌯︎˃̶᷄ᗝ˂̶̥᷅⌯︎)
───カキンッ。
そう音をたてながらコインが宙を舞う。フランとぬらりひょんは、そのコインを睨むくらいに強く見つめていた。
「表じゃッ!」
「裏よッ!」
コインが宙を上がり切った瞬間に2人はそう宣言した。ほぼ同時に。
なに、大したことでは無い。ただこれからの行き先をコインで決めようとしているだけである。
はたから見たら「なんだそんな事で」と笑う者もいるかもしれない。しかし当の本人達は大真面目なのであった。
2人が宣言した後、コインはゆっくり落ちてきて後はフランの手の甲に収まるだけ────
の筈だった。
「ぬらり……あいたっ!」
「……」
「……」
しかしその瞬間、落ちてきたコインが急にスキマから出てきた八雲紫の頭に当たり、軌道を変えて地面に落ちてしまった。
コインは地面でグルグル回りながらやがて静止した。『表』のままで。
「よっし!ワシの勝ちじゃあッ!」
ぬらりひょんはまるで子供のように飛び上がって喜ぶ。ただ〝笑う〟事に関して飛び上がったのはいつ振りだろうか。
〝老い〟というものは身体だけではなく、心にまで沁みていくものだとぬらりひょんは実感した。
「え?な、なに?」
紫は何が何だかわからずに、とりあえず周りをキョロキョロと見渡す。しかしそこには満面の笑みのぬらりひょんと、頬をプクーッと膨らませながら怒っているフランしか映らず、余計に紫を混乱させた。
「もうっ!今のなし!コンティニュー!」
「おいおいフラン。人生ってのはなぁ、何があるかわからねえんだぜ?やり直しなんて甘えじゃ甘え」
チッチッチと人差し指を振りながら、ぬらりひょんはフランを軽く煽るような顔で見ていた。その顔でイラッとしたのか、フランは先程よりもさらに頬を膨らませる。
依然、紫は話についていけない。
説明が入るのを待っていたが、よく考えればこの2人がわかりやすく状況を教えてくれる筈もなかった。性格的に。
「あの〜…これは一体…」
「もう!紫きらい!」
ついにフランはプイッとそっぽを向いてしまった。自分に落ち度があるのか、と段々とオロオロし始めた紫が面白く、ぬらりひょんはひたすらニヤニヤしていた。
しかしさすがに少し可哀想と思ったのか、キリのいいところでぬらりひょんは紫に事情を説明した。
「…成る程。コインで道を…申し訳ありません、私のタイミングがよろしくなかったみたいで…」
ぬらりひょんの説明により、紫はやっと事の一部始終を理解できた。悪気がなかったとはいえ、自分が現れるタイミングが悪かった事は事実だったので、紫は深く頭を下げた。
(こいついっつも頭下げてんなぁ…鴉天狗みたいじゃな)
とそんな紫を見ながら、ぬらりひょんは密かにそう思っていた。
「なぁに、気に病むことはねえよ。お主のおかげでワシの選んだ方に行けるんだからな」
ぬらりひょんは寛大だ。
ましてや自分に都合のいいことに至っては、まるで慈悲深い女神のような性格になる…と自負している。
そんな風に考えていたぬらりひょんを見たフランは、少々変なものを見る目だった事に紫だけが気づいていた。
「はぁ…まあいいわ。
次───
次とはなんだろうか、とぬらりひょんは考える。その中で考えついた答えは───
「まさかお主、分かれ道を全部コインで決めるってか?」
「あったりまえよ。コインというものはその為に存在してるのよ?」
否。
コインの存在理由はそんな事ではない。が、ぬらりひょんも紫もツッこまなかった。
「おいおい…それじゃあ山に着くのはいつになるかわかんねえよ。今なんて右見ても左見ても竹しかねえんだから」
そうだ、と紫はここで自分の目的をふと思い出す。
「ぬらりひょん様。ここは『迷いの竹林』といって、幻想郷の中でも非常に迷いやすい場所で御座います」
ぬらりひょんとフランが永遠亭を出てすぐに永琳は気づいた。何に気付いたのかというと、
(あの2人…迷うのでは?)と。
ぬらりひょんが1番最初に来た時には妹紅に運んでもらい、その後博麗神社に行く時は鈴仙、そして川に行く時は輝夜と、この竹林近辺を行動する時は決まって誰かが側にいたので迷うことは無かった。
しかし今はどうだろうか。この近辺に詳しいものはおらず、どちらかと言うと行き当たりばったりのぬらりひょんとフランは迷う確率が高いと永琳は思い至ったのだ。
その後永琳は、寝坊してぬらりひょんを見送る事が出来なかった紫を叩き起こし、すぐさま此処へ向かわせたのだった。
「迷い…でもあん時は…」
とぬらりひょんは小さく呟く。皮肉でもないその小さな呟きに対し、紫は何か引っかかった。
「何か気になる事でも?」
「…いやぁ、なんでもねえさ。それでお主はどうしたいんじゃ?」
なんでもないことはないだろう。何について考えているのか自分にはさっぱり理解できない事が、紫は多少もどかしくもあった。
「それで…失礼ですが、やはり私のスキマでお送りしようかと。勿論山まででは御座いません。この迷いの竹林を抜けた先まで」
これが紫の提案だ。
道中楽しみたいと言っても、迷いの竹林ではそうはいかないと考えたのだ。
ぬらりひょんはキセルを取り出し、いつもみたいに蒸し始めた。機嫌が悪いというわけでもないが、良さそうでもない。つまり何を考えているのか全くわからない。
「そうじゃな。ここはお主の言う通りにするか!」
やがてニシシと笑いながら、ぬらりひょんは紫の提案を飲んだ。今の間はなんだったのかと問い詰めたかったが、なんとなく怖かった紫はそのまま黙っていた。
「え〜!結局スキマで出るの〜?」
「いいじゃねえかスキマ。それともフラン、お前此処に残って野垂れ死ぬか?」
「ぶーっだ!いいもん!その時はぬらりひょんを食べれば私は生き延びれるし!ぬらりひょんは美味しそうだから興味があるわ!」
フランのブラックジョーク。
いや、ジョークではなく本音かもしれないと思ったぬらりひょんは少しだけ鳥肌が立った。フランの無邪気な笑顔が恐ろしさを倍増させる。
「こ、こええなお前… まあ冗談はさておき、さあ紫頼むぜ」
「え?あ、はい!」
2人のやりとりにポカーンとしていた紫だったが、すぐに冷静さを取り戻し、スキマを展開する。黒く、暗く、不気味なスキマだ。
八雲紫はスキマ妖怪と呼ばれているが、その本質的なものをぬらりひょんは感じ取っていた。
全ての妖怪は人を襲う、と大昔から言われているが勿論そうではない。大半がそうなのであって、そうではない妖怪も存在する。
しかし、それはその妖怪の生き方、性格によって決まるわけではなく、〝妖怪の本質〟がそう決めているのだ。
例を挙げると、奴良組にいる妖怪はほとんど前者である。人を襲い、喰らいながら生きていく。しかし、いま奴良組の妖怪は人を襲う事はしない。それは総大将がぬらりひょんだからである。
ぬらりひょん自身も人を襲い、喰らう妖怪だった。が、ある時にそれに疑問を抱いた。これは不必要なものではないか?と。
稀にいるのだ。
〝妖怪の本質〟に抗って生きる者が。それがぬらりひょんだ。
希少。本当に希少な存在である。〝妖怪の本質〟とは人間の持つ
あくまで難しい、のであって、出来ないわけではない。故に変えることもできるのだが、ぬらりひょんが他の妖怪とは違うところは、
長い歴史の中でも例はないだろう。
普通の妖怪なら抗うこと自体をしない。出来ないのではなく、しないのだ。自分が自分じゃなくなることに対し嫌悪、恐怖を抱くのは人間も妖怪も同じことだ。
だがぬらりひょんは変わった。ある日突然に。
その瞬間を目撃した者はいないとされている。牛鬼はもちろん、鴉天狗、一つ目、雪羅、達磨ですらも『元のぬらりひょん』を知る者はいない。
下僕だけではない。ぬらりひょん自身も記憶から消えていたのだ。わずかに残っている記憶も薄っすらとぼやけており、思い出すのは困難であった。
一方、八雲紫は普通の妖怪とは違って、人を襲う事はしなかった。これもまた紫の〝妖怪の本質〟であり、勿論人間に対する優しさ、慈悲などではない。
思い至った行動ではないのだ。本能的に行動してしまうのが八雲紫であり、ぬらりひょんを幻想郷へ迎え入れたのもこれが要因だろう。
───と、ぬらりひょんは紫の本質を見抜いていた。
ハッキリ言えば掴み所のないタイプだ。こういうタイプの妖怪は、ぬらりひょんはあまり得意ではない。味方に置いておくのも敵とするのもだ。
しかし、だからこそぬらりひょんは紫に大きな興味を持っていたのだ。
「では、行きましょう」
「レッツゴー!」
微笑ましいフランの笑顔とは裏腹に、ぬらりひょんはこの時に嫌な予感がしていた。
戦闘時以外の自分の予感などほぼほぼ当たらない事はわかっているし、当たっても大したものではない。
それでも一瞬、たった一瞬だけこう感じてしまったのだ。
〝此処にはもう戻ってこられない気がする〟と。
はい、第44話でした。
この小説も折り返し地点に来たんじゃないかな〜と思います。完結がいつになるかはわかりませんが、決して失踪はしないので読み続けてもらえると嬉しいです。
ではお疲れ様でした。