ゴールデンウィークって完全に名前負けしてますよね。何がゴールデンなのか…1ヶ月くらい休みにしてくれよ。
「この辺りでいいでしょう」
『迷いの竹林』から出る為に、ぬらりひょんとフランは紫のスキマで移動していた。移動といっても要した時間は1分もかからなかった。やはり思っていた通りに便利な能力だな、とぬらりひょんは改めて感じた。
着いた場所は見渡す限り何もない草原のような場所だ。しかし目の先には大きな山がそびえ立っており、ここから山の
しかし何もないこの場所に対し、ぬらりひょんは少々呆気なさを感じていた。紫は、恐らく昨日の茨木童子らの襲撃があったことを思い出して、安全な場所を選んでここに連れてきたのだとは思うが、それが逆にぬらりひょんにとっては退屈だった。
「わー…何もない…」
フランもぬらりひょんと同じように考えているのだろう。いや、ぬらりひょんとフラン以外にも殆どがそう思うはずだ。本当にここは何もなく、退屈を凌げそうなものは見当たらない。
「ありがとよ、紫」
しかしきちんと感謝を伝える。これは紫の〝善意〟だからだ。紫はそれを聞き、ニコッと笑って応えた。
「もう行くのか?」
「お2人を見送ってから、ですね。では良い旅を」
いってらっしゃい。
と、ニコニコしながら静かに手を振って送り出してくれた紫。フランもその紫に「いってきまーす!」と豪快に手を振って応えた。
紫は2人を見送った後、スキマを開いた。
そして───
「さてと。私も動かないとね」
そう呟きながら、何処かへと向かった。
───────────────────
ぬらりひょんとフランは暫く歩き続けていると、山の麓に辿り着いた。そこは小さな村になっており、ワイワイと活気溢れていた。そこに居る者も当然人間だけだ。ぬらりひょんが見る範囲での話だが。
この並びには魚屋、八百屋、それに百貨店のようなものなど、生活品中心の店が多く建ち並んでおり、フランはそれをキョロキョロと見渡していた。
一方、村の住民はフランの事を不審な目で見ていた。無理もない。人間にはまず七色の羽など生えていない。
「おいフラン。ちょっとこっちに来い」
「えー?なにー?」
流石にまずいと思ったぬらりひょんは、フランを脇道まで引っ張っていき、自分の紺色の着物をフランに羽織らせた。もちろん羽を隠す為にだ。しかし羽織はフランには大きすぎて、地面スレスレの長さだ。
「なんでこれ着るの?」
「いいから着とけ。面倒事に巻き込まれたくなけりゃな」
よく考えると、その面倒事すらフランは楽しみそうだから困ったものだ。色々な経験を積ませてあげたいが、トラウマを植えつけるようなことはしたくない。力をコントロールできているとはいえ、何かフランの気に障ることがあれば、何が起こるかはぬらりひょんにも予測がつかない。
そんな事を考えていると、急に視界がぶれた。左右にそして小刻みに。
「えっ!何!?」
「地震…か。慌てんなすぐにおさまるさ」
フランを落ち着かせる為にぬらりひょんはそう言う。しかし地震はおさまるどころかどんどん強くなっていく。
おっとっと と足元がおぼつかないフランの両肩をぬらりひょんを支え、激しい揺れに耐えていた。
「…おさまった?」
「みたいじゃな。えらく長かったのう」
暫くすると激しい揺れはおさまった。時間にすると1分といったところだが、その時間は体感だとさらに長く感じた。
2人は脇道から出ると、地震の影響からか、並びにある店にも多少の影響が出ていた。建物ごと崩れたりはしていないが、賞品を並べるための棚や、団子屋などの飲食店のテーブルやイスなどが倒れたり壊れていたりしていたのだ。
それだけではなく、子供も多い村だ。あまり無い事だけに怖かったのだろう。沢山の子供の泣き声などが響き渡っており、ちょっとしたパニックになっていた。
「こりゃひでえな…」
「…!」
ぬらりひょんが周りを見渡していると、フランが急に走り出した。それも全速力で。
「!? おいフラン!どうしたんじゃ!」
ぬらりひょんの言葉に聞く耳も持たずに、一直線に何処かへと駆けていくフラン。ぬらりひょんはフランを追いかけた。
真っ直ぐ進んだり、カクッと曲がり道を曲がったりと本当に何を感じて何処へ向かっているのか見当もつかない。
単純に『走る』ことのスピードでは、フランはぬらりひょんさえも凌ぐ。故にぬらりひょんとフランの差はどんどん大きくなっていった。
遂にフランは村を抜け、山へ突入していった。依然そのスピードは落ちない。
「あ、あいつどこまで……なッ!?」
「きゃっ!?」
ぬらりひょんは急に
目の前には綺麗な女性が倒れ込んでおり、ぬらりひょんもその女性に乗りかかる形で倒れ込んだ。顔と顔は息のかかるほど近づき、はたからみればあらぬ誤解をされても仕方のない場面であった。
女性は綺麗な紫色の髪をしており、着ている服もこの村の住民とは違って華美なものだった。帽子も被っていたが、それはぬらりひょんとぶつかった際に地面にヒラヒラとゆっくり落ちてしまった。
「わ、わりい…!」
「いえ…」
ぬらりひょんはすぐに顔を遠のけ、女性に手を貸して起き上がらせた。そして落ちた帽子を拾い上げ、パタパタと土をはたいて女性に返す。
「すまねえ。よく見てなかったもんでのう…怪我はないか?」
ぬらりひょんは真正面をひたすらに見ていた。しかしぶつかったのも真正面からだ。つまり、本当の事を言うと───
女性はクスッと笑って帽子を受け取る。そして自分の体をキョロキョロと見渡したのちに、「大丈夫みたいです」とまるで人ごとのように答える。
ぬらりひょんは一目見て気づいていた。それはこの女性がこの村の住民ではない事。いや、それ以前に───
人間ではない、という事に。
「その通り、ですよ」
「…え?」
「ご察しの通り。私は人間ではありません」
ぬらりひょんは気づいただけであって、何も口には出していない。しかし女性はまるでぬらりひょんが考えている事を見透かしたように返答する。
反対に女性からは何を考えているか全くわからない。お淑やかに笑ってはいるが、それが愛想笑いなのか本当の笑いなのかすらわからない。
一言でいえば『謎』
雰囲気はなんとなく八雲紫に近しいものを感じた。
「お主…心が読めるのか?」
「え?……フフフ…」
一瞬驚いた表情を浮かべた女性は、すぐに口に手を当てて笑い出した。今の顔を見る限り、『心が読める能力』を持っているわけではないようだ。
「なんじゃ違うのか…じゃあなんでワシの考えとった事を?」
「
「は?」
「私は永江衣玖と申します。お見知り置きを」
ぬらりひょんは理由を訊いた筈だが、女性は急に名前を言い出した。マイペースというかなんというか、少しズレているとぬらりひょんは感じた。
『永江衣玖』そう女性は名乗った。
「お、おう…まあよろしくのう衣玖。ワシは───」
「では私は用があるので失礼しますね」
「へ?」
ぬらりひょんも自己紹介をしようとした瞬間、衣玖はくるりんと回って何処かへと向かおうとする。あまりにも突然な出来事だったので、ぬらりひょんは開いた口すら塞がらない状態になっていた。
しかしすぐに我に返り「待てよ!」と衣玖の腕を掴んで何処かへ行こうとするのを止めた。
「どうされました?」
「どうってお主…ワシまだ名前すら言ってねーんだが…」
「それはそうですね。うーん…では小休憩にしましょうか。すぐそこに美味しいお団子屋さんがあるようです。2人で行きましょうか」
ポンっと右手を左手の掌におき、衣玖はそう決断した。ニコニコ笑っているが依然何を考えているかわからない。
「(なんじゃこいつ…)」
何処かへ向かう途中であった筈なのに、それを忘れたように衣玖はぬらりひょんの手を引いて団子屋へ連れて行こうとする。
紫とは違うタイプの〝苦手な相手〟に、ぬらりひょんは戸惑いを隠せなかった。
はい、第45話でした。
今回やっと初めて私の好きな衣玖さんを出すことができました。しかし好きであるが故、多少のキャラ崩壊があるかもしれませんがご了承ください。
ではお疲れ様でした。