「セシリアー、俺の射撃ってちったぁ上手くなってんのか?」
「過去のデータと照らし合わせると、一応上昇傾向が見られます。ですが、まだ基本の段階ですから、徹底的に叩き込まないといけませんわね……そう言えば、一夏さんはどうですの?」
「こっちは一週間前から詰まっているな」
「箒の説明が感覚的過ぎるんだよ……『くいって感じ』なんて言われてもわかんないって」
「それは一夏の理解力が低いだけだ!高木には伝わるんだぞ!」
「おう、『くいっと』やったら『ズババって感じ』でやりゃいいんだ」
「ほら、高木はわかってるじゃないか!」
「そんな無茶苦茶な」
「今のは私にも分かりませんわ……」
夜の訓練施設、いつもの四人が自主的な夜間訓練について話していた。
「……前から思ってたんだけど、コウタローには箒が教えて、俺にはセシリアが教えたほうが効率がいいんじゃないか?」
「駄目だ駄目だ、そんな事は。今更私以外の者がお前に教えられるものか」
「同意見ですわ。コウタローさんに今から違う人が教えたら変な癖がついてしまいますもの」
ボソリと呟いた一夏の意見に返ってきたのは、女子陣の否定意見だった。
「そんなものかな……ん?」
怪訝な顔をしながら明後日の方向を見つめる一夏。
「どうした?」
「いや、知り合いに似た姿が見えたんだけど……気のせいだったか?」
「もういいから帰ろーぜー、疲れたよ俺は」
疲労を隠そうともせず、床にぐでり込みながらコウタローが言う。
「コウタローさん、だらしないですわよ」
「だって疲れたし……」
「だが、高木の言う事ももっともだ。もう夜だし、疲れも溜まっている。今日はここまでにしよう、それではな」
「お疲れ様でした」
解散を告げ、部屋に戻る箒とセシリア。
「……一夏ぁ〜、引っ張っていってくれ〜」
「自分で歩け!」
横着しようとするコウタローに一喝してから、一夏は一足先に帰った。
「せつないぜ」
尺取り虫のようにずりずりと体を動かしながら、コウタローも帰ることにした。途中。この光景を見た女子生徒から「部屋まで送ろうか?」と声をかけられたので、お言葉に甘えて部屋まで引っ張ってもらった。ありがとう、相川さん。
翌朝。
「うーん、スッキリ爽快。ぜっこおちょおおおお!!ゥワッハッハッハーッ」
コウタローは翌日に疲れを残さない。
と言うのも、寝る前に自らに徐々に体力が回復する「リジェネ」を、布団をかぶった後は対象を睡眠させる「スリプル」で即座に寝て毎日快眠をおくるからである。全くもって不眠とは縁のない生活だった。
「……朝からうるさいぞ、コウタロー」
「すまんね」
一夏はすでに洗顔を済ませたようで、白いタオルを片手に注意する。
「しかし、コウタローって朝はいつも元気だよな」
「コツがあるのだ」
コウタロー はベッドから出ると、いつの間にやら部屋に設置されていた小型冷蔵庫からラムネを取り出し、くいっと呷った。
「スカッと爽やか、朝はこれだな!」
「おっ、ラムネか。俺ももらっていいか?」
「おぅ、飲みねぃ」
一夏はコウタローからラムネを投げ渡されると、腰に手を当てながらラムネを飲み干した。
「ふぅ……今までやってなかったけど、朝に
こういうのを飲むのもいいかもな」
「炭酸の刺激で目が覚めていいぞ。それはラムネだから大して刺激強くないけどさ」
「それじゃ、そろそろ時間だし準備したら行くぞ」
「あいあい」
洗顔し歯を磨いて着替え、朝食をとってから二人は教室に向かった。
「おいーっす!」
「あ、コウタローくんに一夏くん。おはよー」
「おはよう」
「ねぇ、2組に転入生が来るらしいんだけど知ってた?」
二人が教室に入ると、クラスメイトから声をかけられた。
「こんな時期に?まだ四月だぞ……?」
「中国の代表候補生なんだって、何かトラブルでもあったのかなぁ?」
「国が代表候補生を誰にするかでもめていた可能性がありますわね。あくまでも候補とはいえ、関係ない人からしたら国の代表。単純な強さだけではなれませんもの」
イギリスからの代表候補生、セシリアが軽く説明を入れながら予想する。
「その点、私は強さも美貌も教養も家柄も国威も完璧ですわ!候補生ではなく、代表になるのも時間の問題ですわよー!」
「いよっ、首相!パーフェクトプライド!」
「うふふ、もっと褒め讃えても良くてよ!」
腰に手を当て、高らかに笑うセシリアをヨイショするコウタロー。
紙吹雪まで撒き散らし、実に調子のいいことである。
「……この二人は放っておいてだ。代表候補生だからやっぱり強いのか?」
「弱いわけがないだろう、代表候補生選抜戦を勝ち抜いた猛者だぞ」
いつの間にか箒も話に参加し始める。
「来月のクラス対抗戦どうなるんだろうね、1組からはセシリアさんだろうけど」
「だが、セシリアが風邪などを引いて出れなくなる可能性もある。その時は副代表の一夏の出番だぞ。これからもビシビシ鍛えてやるからな」
「う……お手柔らかに」
猛特訓継続宣言に、一夏は顔を引きつらせた。
「一番頑張らないといけないのはセシリアだがな」
「そうだよ!優勝すればスイーツが半年フリーパスなんだから、頑張ってね!」
「うふふふふ!私にすべてお任せくださいませ!華麗に優勝を勝ち取って見せましょう!!」
「さっすが〜!セシリアさんは話がわかるッ! 」
「さぁ、みんなでセシリアコールだ!」
「おー!」
「「「セッシリア!!セッシリア!!」」」
コウタローらいつの間にか周りに集まっていたクラスメイト達を焚き付け、セシリアを囲んで彼女の名前を連呼させる。
「うふふふふふふ!!」
色取り取りの紙吹雪の中で優雅にポーズを決めるセシリアの顔は、どこか恍惚としたかのように赤らんでいた。
「……箒は混ざらないのか?」
「いや、あれはちょっとな」
ある意味、直接的にばかにされるより傷つく断り方だった。
「なにをやっているんだ、貴様らは……」
床に散らばりまくった紙吹雪、お立ち台のように机の上に立つセシリア、そのセシリアを囲んで持て囃すクラスメイト達。
教室の惨状を見て、もはや怒る気も失せたのかげんなりと肩を落としながら千冬が教室に入ってきた。
「ハァ、ホームルームを始めるから席に戻れ」
「わ、私としたことが……お恥ずかしいですわ……」
顔を真っ赤にしながら、すごすごと席に戻るセシリア。他のクラスメイトも特に逆らうことなくおとなしく席に着いた。
「高木は後でゴミを片付けておけよ」
「へーい」
気の抜けた返事をするコウタローに頭を抱える千冬だった。
鈴音「あ、アレ!? 私の出番は!?」