【更新休止中】Fate/ぐだ×ぐだOrder 〜要するにぐだこがぐだおを呼ぶ話〜   作:藻介

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遅くなりました。監獄塔編開始です。
例によって、まだ現地には行きませんが。


新説・監獄塔に復讐鬼は哭く
1 やはり、私はどうしても


 胸が、ずっとずっと痛いままだ。

 

「行こう、セイバー」

「ええ、■■■」

 

 私のことを呼ぶ少年。時々忘れてしまうその名前を、今は思い出すことができなかった。どこかの教会前、朝日が昇り彼の顔が逆光で見えないけれど、誓いは確かにこの胸に在って、足取りは軽く石畳を叩く。

 ――――――と、唐突に風が周りの風景を拭い去っていく。そのあとに、私は木造の古い家屋で一つの影と相対していた。

 

「来い、セイバー!!」

 

 どうやら、彼が私を呼んでいるらしい。けれど、後もう少しだけ。それであの影を。そのうちに、別の暗闇へとひきずりこまれた。

 次に目を開いた時、痛みは傷となって実体を得ていた。

 

「――――――――」

 

 傷に何かが沁みている。もう彼は私のことを呼んではくれないらしい。

 それでも、なぜだかとても嬉しくて、誇らしくて、同時に、それら全部を足しても足りないくらい、悔しくて。

 

「強くなりましたね。■■■」

 

 私はそれからずっと、胸が痛いままだ。

 

 

「目が覚めたか、セイバー」

 また、同じところで夢から覚めてしまった。

「ああ」

 それもあってか、多少声のトーンが落ちていたかもしれない。

 まだ眠気の取れない頭を回し周囲を確認する。全体的に白い近未来的な部屋の中、殺風景とも言えるその部屋の印象とは裏腹に、何かの食べかすやその包装紙が辺りに散らかっている。

「汚いな」

君が(・・)やったんだろ」

 私のいる足場――どうやら私はベットに寝かされていたようだ――の傍らで何かの端末をいじっていたらしい染みのような黒髪頭から失礼な返しが飛んできた。

「そうだったか?」

「そうだ。覚えていないとは言わせないぞ。いきなり人の部屋に現れるなり『突然だがこれからは料金を割り増しすることにした。差し当たって、ハンバーガーを10ダースよこせ。文句は聞かない』なんて言ってきて、その上食べかすやらゴミやらをほっぽいて、あまつさえ寝落ちするやつが一体どこにいる」

「さあ、知らないなそんな不敬な輩。教えるがいいマスターよ。今すぐそいつの首を撥ねてやろう」

「なるほど、では自害するといい」

 無論令呪が飾り以上の意味を失っているこいつに、そんなことができるわけはないのだが。そう思い、再び布団に寝転んだのが私の運の尽きだったらしい。

「ふっ、なめてもらっては困るぞセイバー。オレをいつまでもあの純情可憐で無垢でアンニュイな被捕食系一般枠マスター上がりだと思っているならばそれは大間違いだ!」

 突然音もなくヤツの手足が私の顔と胴の左右にとびかかる。全く無駄のない動き。

「これは」

「そう、宝具『花婿失踪事件(ケース・オブ・アイデンティティ)』。過去の実在非実在の探偵のスキルを一時的に獲得する」

「なるほど、ではこれがあれのル〇ンダイブというやつか。全く、恐れ入るなその最低宝具」

「いや、むしろそれ探偵とは対極にある存在だろう。いま獲得しているのはツンドラ委員長ロリ吸血鬼変態中学生浮遊霊反定立(アンチテーゼ)あと妹二人に式神童女に囲まれたハーレム系変態主人公のスキルだ」

「よし、今すぐモルガっていいか?」

 とは言ったものの、位置取りや力の入れ具合まで計算されているらしく、どこに力を入れようと抜け出せる気がしない。まあ、全力の半分くらいの勢いで魔力放出すればどうにかなりそうだが、そうすればこいつも一たまりもあるまい。

 そんなことを考えているうちにもヤツの吐息が顔にかかって、頭の空白が徐々に増えていく。

「このまま君を押し切って、死にたくなるほど辱めてやろうか!」

「くっ……、いいだろう。いつかはくれてやろうと思っていた操だ。だが、ここではまだ渡さん。どれほど凌辱されようと、私はまだ死んでたまるものか……」

「……………………。なるほど、ではしょうがない。オレのヘタレセンサーがこのくらいでやめとけと言っているが、最終兵器を出すしかなくなった」

「なにを」

 そうしてヤツは懐に手を突っ込むとそこから一つの歯ブラシを取り出した。

「フン。大仰な言い草で何を取り出すかと期待してみれば、歯ブラシとは。笑わせる。貴様なら、とある極東の都市民にお見せできない物でも出すかと思っていたのだがな」

「いや、君はオレをなんだと思ってるんだ」

 知れたことを。

「他人やら自分やらをいたぶって遊ぶサディストなのかマゾヒストなのか分からない倒錯変態女装趣味なマスター、だと思っていたが」

「さいですか」

 ヤツが一つ溜息をついた。その顔に不覚にも少し色気を感じてしまったあたり、どうやらこの場の特殊性に少しはあてられてしまっているらしい。決して、普段からそういうふうに思っていたわけではない。

「で、その歯ブラシで貴様は何をするつもりなのだ?」

 気を取り直し聞いてみる。するとヤツはごく当たり前のことを言うように、

「何って、歯を磨くんだよ。歯ブラシって、そういうための物だろう?」

 当たり前のことを口にした。

「ま、まあそうだが。しかし誰が? 誰の歯を?」

「オレが、君の」

「貴様が、私の?」

 ああ、と頷くマスター。まるっきりわけが分からない。まるっきりわけが分からないまま、私を押し倒した姿勢のままで、じゃあ行くぞーと実に軽薄な掛け声とともに手にした歯ブラシを私の口内へと滑り入れた。

 瞬間。

「――――――――――!?」

 あまりの刺激に言葉が言葉にならなかった。

「はうっ! ……ぅぐぅ」

 出るのは、そんな悲鳴とも取れない喘ぎのみ。私の声帯のどこからそんな声が出いるのか、想像以前に理解ができない。

「ふ、ようやく気付いたかセイバー。歯磨きの恐ろしさを」

 歯ブラシの毛先が口内の溝を撫でていく度に、頭の空白領域もゆっくりと理性を侵攻していく。そんな状態だから、正直なところこの刺激に抵抗するのに手一杯で、ヤツの歯磨き講習の内容は半分も頭に入ってこず、結局、単語単語しか聞き取れない。

 その単語から察するに、知らない人に髪を切られるのを嫌がる――髪結の精霊に任せっぱなしな私にとってイマイチその不快感は理解できなかったが、まあ概ねそんな風に、それほど親しくない相手から身体を触られることには一定の心理的抵抗が生じるとのこと。これをヤツはタッチングと言っていたが、それを頭髪や皮膚などの体の外側ではなく、口内というまがいもなく体内でやってしまえばどうなるのか。

 認めたくはないし、言葉にして身も蓋もなく形容するのも癪なのだが無論その結果はこの通り、快感が生じるのである。

 実際問題、肉体のデリケートなところを毛先で撫で回されているのだから、気持ちよくならないわけがない――と、

「まあこれもおおよそ全部受け売りなわけだから、自信満々に言っても虚しさしかないがね」

 そんな風に抜かすものだから、やはり一度その最低宝具ぶっ壊しておくべきだろうなと思ったものの、本来形を持たない宝具にカテゴリされるわけで、使用不能にするにはそれこそこいつのマスターに令呪を使ってもらうか、木の枝のように陳腐なこの肢体ごと吹き飛ばすしかないわけで、しかしそうなると今後こういう情事は二度と起こらなくなるわけで、いや別段、残念がってなど…………、だめだ、思考がうまく回らなくなってきた。

「よし、そろそろ限界だろう。どうだ、死にたくなるほど恥ずかしい気持ちに、なっ、て」

 と、唐突に、無遠慮かつ繊細に口内を闊歩する歯ブラシの動きが止まった。まるで食事中にいきなりそれを取り上げた飼い主でも見る犬のように――とは形容したくなかったが、そうとしか思いつかないほど、この時の私の頭の中は空っぽでその端から徐々に何かの感情、というより一種の幸福感に近いものの浸食を許していたのだから現時点で何を言っても詮無きことだったわけで、そんなだからやはり、やめてしまうのか? などとでも言い出しそうな顔でヤツを見上げてしまっていたのだ。

 そして、まるで何かを考えないように、作業に没頭してその何かを忘れようというように、けれど余計記憶に染み付いてしまっているように、再度蹂躙を始めた毛先は休むこともなく、それでいて丁寧にタップを踏みしめ、さらに私の中に快楽を流し込んでいく。

 互いにうわ言のように互いの名前を呼んだり、粗い息をこぼしたり、言葉にならない喘ぎ声を出してみたり、そんな状態を繰り返し、繰り返し、繰り返し繰り返し、繰り返して。

 そうして、時間を数えるのを忘れてしまった頃。

「………………セイバー」

「なん、ふぁ、……言って、いってみうがいい」

 それまで目的もなくただ並べられるだけだった名前を呼ぶ声に、何かを懇願するような意思を感じた。

「その、……いい、かな」

 それだけで言わんとするところははかれた。

「いいとも」

「私、で、後悔しないか?」

 最初に押し倒した時の威勢の良さはどこへやら、すっかり立場が逆転し、一人称も昔の頃のものに戻っている。全く、何が昔のオレのままだと思うな、か。貴様はいつまでたっても、未熟で、女々しくて、いつも脆い正しさを信じていて、それに縛られていて。全くこいつは弱いままだ。それでも、この弱々しさを悪くないと感じてしまっている自分がいてしまう。けれど、今は、こういう時くらいは。

「シャキっと、ふぃろ。きしににごんは無い。きひゃまが、男であるきひゃまが、それで、どうする」

「……ごめん」

「それでは、こちらがふあんになってしまう、だろうに」

「え……、それって、つまり」

 二度も言わせないでほしい。騎士に二言は無いのだから。

「きさまが、りーどするのだぞ。おとこらひく」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」

 そうして、互いに心ここにあらずといった感じで、ヤツは私の背中に手を回そうとして、私はその邪魔にならないように両の腕を頭上へと上げて、待ちに待ったその時を待つ。その到来は、

 

「何をしようとしているのだな、ご主人、そして黒騎士王」

 

 思いもよらぬところから邪魔された。

 否、むしろそれはある意味では救いであったかもしれないが――無論私にとっては邪魔だてに他ならないその声の主は、一人でに閉まる自動ドアの扉を背に何とか料理らしきものを落とさずに抱えられてはいるが、その顔は常に東奔西走八面六臂するその性質からは想像できないほどに無、すなわち真顔、それを通り越して顔とすら認識することを脳が許容せず、駅構内の案内ピクトグラムのようとも見える。

「ご主人、黒騎士王。正直に答えるのだな。どうしてご主人は黒騎士王の歯を磨いてあげながら慈愛顔で押し倒し、あまつさえ服を脱がせようと背中の結び目に手を伸ばしているのだ? どうして黒騎士王は辺りにジャンクフードの包み紙をまき散らしながら、その中にあって満足気な顔で押し倒されているのだ?」

 もう一度言おう、正直に答えるのだな。と復唱して、

「場合によっては別にグレてしまっても構わんのだろう? 具体的に言うなら、初対面の相手の口の中に歯ブラシではなくホッチキスを突っ込んで、そのままかちゃりと口を半永久的に閉じてしまうような感じに。より具体的に言うなら、相手の人体の構成元素を並べた立てた上で貴方の価値なんてそれ以下でしかない、むしろもっと別のところに使った方が世のため人のためなんじゃないの? と回りくどく存在否定するくらいに。さらにより具体的に言うなら、上述のようなことをしながらも古典的かつ情熱的に英語で愛の告白をするくらいに。またさらにより具体的に言うなら」

「やめろ! それ以上はいけない!」

 そう長ったらしく垂れ流されるうちに桃色の空気はどこへやらか立ち去り、マウントを決めていたヤツも世界の法則を乱そうとする獣を止めようと、布団の上から退散してしまった。

 後に残された私は、とっくに口から取り出され湿ったまま放置された歯ブラシを見て、舌打ちを何度もしながら体育座りを決め込む。決め込んで、俯いて、柄にもなく思ってしまう。

 どうして、私はいつもこうなのだろうな。と。

(―――――――――――貴方では、■■は救えません)

 深い、深い深い虚に沈んでいる気分だ。生ぬるい泥のような感触がして光も音も通さないのに雨音だけが聞こえてくる。

「やはり、私はどうしても」

「どうしても、なんだ?」

 その泥へ強引に入りこんで来るように一つ声がした。その声に耳を傾けようと俯けた顔を上げればいつの間にか泥はどこかに行っていて、その晴れ目にヤツが申し訳なさそうに立っていた。そこにさっきまでの弱々しいヤツはいない。いつもの、いつもこいつが他に見せる、外面のこいつだ。

「何でもない。それより、あの猫はどうした」

「どうにか事なきを得たよ。危うくセイバーが俯いている間に心中を図られるところだったけど、どうにか説得した」

「よく説得できたな」

「だてに修羅場はくぐってないさ。おかげさまで」

 そうか。と適当に流しておく。

「で、なんだったんだ?」

「なんだとはなんだ」

「なんだとはなんだとはなんだ……ってそうじゃなくて」

 まだ混乱状態から抜け出せていないのだろうか。私の頭の中はまだ三割ほど空白のままで、考えがまとまらない。こいつは何が言いたいのだろう。

「だから、君は用事があってここに来たのだろう? それが何だったのかを聞いてるんだ」

「……それならば、ただハンバーガーをせびりに来ただけだが」

 いや、違うだろ。などとヤツは吐き出すように言った。

「君はハンバーガーなんて、それこそ戦闘中以外は毎時間毎分毎秒食べている」

「いや、さすがに寝るときは食べていない」

 あと入浴中も。ふやけてしまうだろう。

「確かにそういう時があるとしても、わざわざオレのところに来てまで食べにくる必要は無い。食堂に行けば、だれかが用意してくれるのだろうから」

 なぜだろう。無性に胃がムカムカしてきた。いや、これは腹が立っているというのかもしれない。

「そんな君がこうしてやってくるというのは、きっと何か話したいことがある時だ。だから、茶番はこのくらいにして」

「茶番、と言ったか」

 私の返しに唐変木が一瞬固まった。その隙にヤツの襟をつかみ体勢を百八十度回転、背中に回したそれを中天を通して一気に振り下ろす。極東で言うところの背負い投げというやつである。大丈夫だ、問題ない。手加減したし投げた先には先ほどまで二人寝そべっていたベットがある。多少脳髄がシェイクされただろうが、死にはしない。

「……え?」

 そしてヤツはいまだ状況が理解できていなようだ。そんな間抜けに覆いかぶさる。

「えっと、セイバーさん?」

「ああ、そこまで言うのなら聞かせてやる。私はな」

 手足を抑えてつけられて、身動き一つとれないヤツの耳元に私はそっとささやいた。

「私は、マシュ・キリエライトのことがどうしても、苦手だったんだ」

 




ぐだ男の宝具ですが、『探偵』の基準は『広義のミステリー(ホラー含む)において探偵的行動をしたことのある人物』というつもりです。人外化はさせる気はないです。フィードバックが怖いので。

あと余談ですが幹也礼装狙ったらふじのんが宝具2になりました。
たぶん食堂の一角で激辛麻婆豆腐を食べているんじゃないかとか勝手に想像してます。
塵が足りません。

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