【更新休止中】Fate/ぐだ×ぐだOrder 〜要するにぐだこがぐだおを呼ぶ話〜 作:藻介
伏線回収回として書いたつもりですが、よくよく読み返してみればそんなでもなかったです。あと、ちょっとしたUBWリスペクトなセリフもあります。
それでもお楽しみいただけたら幸いです。
あなたには、全てが許されているのだと、少女は語った。
やり直すことも、繰り返すことも、好きな場所、好きな時間、好きな人へ会いに行くことすらも、自由なのだと。
歌うように、謡うように、唄うように、謳うように。時に微笑みすら浮かべて、少女は少年へと語る。
しかし少年は、決して頷かなかった。
これは罰なのだと、あの一瞬、ほんの少し、たったそれだけの勇気すら出せなかった。そんな臆病者への罰なのだと。少年は自らを嗤う。
求めてはいない。
求めてなんかいない。
求めてはいけない。
許しだなんて、救いだなんて、自由だなんて、求めてはいけない。
少年はやがて青年になった。
少女は青年に尋ねた。本当にこれでいいのかと。いつまでも甘い砂糖菓子のようなその声が、青年にはもはや聞こえていなかった。
それでも、少女は尋ねる。かつて白い天文台の中で、何度も、たわいもない話をしていた時のように。
「ねえ、マスター。あなたが欲しいものはなあに?」
ただの幻想に力はない。何か、しっかりとした基盤があり、ある程度の信憑性や信仰があって初めて、それは神秘をまとう。
監獄塔。
劇作家アレクサンドル・デュマの描いた物語に登場する実在の建築物。史実と創作とが入り混じるこの場所もまた、神秘を持つに足る場所であり、今回においては魔術王が邪魔者を排除するための、処刑の場として用いられている。
いや、ちがう。
今回に限った話ではない。
何度も、ここは処刑場として用いられている。それこそ持ち主のいない宝具であるように。建物自体が、一つの英霊であるように。魔術王にとっての罪人と、処刑人とを集める。
今回の罪人、藤丸立花にそう説明したのは、ここの案内人だった。
緑ががった黒いコートと帽子の下で不気味にほほ笑む案内人。時折、高らかに声を上げたかと思うと、またすぐに静かになる。立花は彼のそんなところに一種の不安定さを感じていながらも、ここまでともに5人のサーヴァントを倒してきた彼の強さは信頼していた。
「さて、そろそろお目見えだ。我が仮初めのマスターよ」
暗闇が沈殿した長い長い廊下を抜け、六つ目の扉をくぐった先に広い円形のホールが現れた。これまでの戦闘をふまえると、その中央に処刑人はいるはずだが。
「いな――」
「伏せろ! マスター!」
案内人、巌窟王が叫んだ。反射的に後方に避けた立花の右手側に立ち、腕を一振り。見れば投擲用の短刀が二本。一つはさっきまで立花が立っていた場所に刺さり、もう一本は巌窟王の腕にはじかれ空中を舞っている。そのナイフに向かって、巌窟王の手から砲弾が放たれる。砲弾はみごとにナイフに命中、跡形もなく消し飛ばした。
「まったく、もったいないことをしてくれる」
声が二人の背後から響く。
「今ので底をついた。残っているのなら、ここからそのマスターを刺し殺せたのにな」
「ルーラー?」
振り返った先にいたのは、ぼさぼさの黒髪に青い瞳をした青年。間違いなく立花がルーラーと呼ぶサーヴァント、真名シェリングフォード・ホームズその人。
立花は正面に捉えたその人影に問いかけた。
「あなたが、ここの処刑人?」
「いかにも。カルデアのマスター。分かっているとは思うが君のところのオレと、今ここにいるオレは全くの別人だ。温情など欠ける必要はないし、こちらからかけるそれもない」
「わかってる」
でも。と立花は一言付け加える。
「一つ、教えてほしい」
「いいだろう」
「どうして、あなたはわたしを殺すの」
「オレがここの処刑人に選ばれたから。ここで君を殺すことが、今のオレの仕事だから。そんな、ただの職務上の都合だよ」
「いや、それは違うな」
反論したのは、立花ではなく巌窟王だった。
「見えるぞ。貴様の怒り、憎しみ、我が仮初めのマスターに対する比類なき殺意。どれほど隠したところで隠しきれるものではない。今貴様は、私怨でそこに立っている」
それにルーラーは何の反応も示さなかった。ただ静かに彼の言葉に耳を傾けているだけ。
「己の罪状を明かすがいい。当然あるはずだ。なければ処刑人としてこのイフ城にはいられまい」
「もちろんだ。オレに割り振られた罪状は『傲慢』だよ」
「違う違う違う違う!!」
唐突に巌窟王が吠えた。
「それは! それこそは! 我が罪なれば! 貴様なぞに与えられるようなものでは決してない! 貴様、何の勘違いをしている!」
まるで炎のように叫ぶ彼にも、やはりルーラーはさほど興味がないようで、やれやれとでも言うように溜息をついている。
「残念だが巌窟王。勘違いをしているのは君の方だ。その誤解を解くために、最も手っ取り早い方法をとるとしよう。さて、唐突だが質問だ、カルデアのマスター」
「何?」
「君はここまで何人の処刑人を倒してきた」
「5人だけど」
「それは本当に? そこの彼とともに倒した分だけではなくて?」
こちらの内側に浸透してくるような声だった。誰もが無意識に心のうちに隠していることまで、ともすれば、この監獄塔の闇すらもすべて白日の下にさらしてしまえるといわんばかりに、無遠慮な言葉は、立花のうちから、一つの真実を抉り出した。
「……なら、最初の彼女も処刑人だったというのなら、わたしが倒したのは6人だ」
それに一番敏感に反応したのも巌窟王だった。
「それは本当か? マスター」
まったく別の二人に、まったく同じ質問を投げかけられるのは、多少なりとも困惑するものだ。どうにも、自分が間違っているのではないかと思えてくる。それでも自分が正しいと思えることをしっかりといえるのが、自分のたった一つの美点だと立花は考えている。
「確かに、私が倒したのは6人だった」
「真名は覚えているか」
「うん。1人目がネロ・クラウディウス。2人目がフェルグス・マックロイ。3人目がキャスターのジル・ド・レェ。4人目がジャンヌ。5人目がカリギュラ。そして最後、6人目が天草四郎時貞だった」
「俺の記憶ではこれまでで5人となっている。マスター、ネロ帝を倒したのは俺に出会う前だな?」
彼のいうとおりだ。その6人のうち、彼女だけは巌窟王の力を借りずに倒した。
「さて、巌窟王、そしてカルデアのマスター。推理の時間だ。ネロ・クラウディウスにあてられた罪は何だったのか」
ルーラーにいわれるまでもなく、その疑問にはすぐにぶつかる。彼女はとても苦しんでいるように見えた。傷つけたのだから苦しむのは当然だろうが、彼女は最初から、体ではなく心を嘆いていたように見えた。なら、それを知ろうとするのはきっと間違いではないはずだ。
「消去法で考えるなら、7つのうち色欲、怠惰、憤怒、暴食、強欲、そして巌窟王の、かもしれない傲慢。この6つが候補から消えるから、残った一つ、嫉妬が当てはまると思うけど」
「………………止めろ」
巌窟王がこぼした。が、そこまで大きな声ではなかったため無視された。
「それがあの皇帝にあてはまると思うかね」
「すこしはあてはまると思う。でも、彼女を代表するような感情ともいいづらい。
――――それに、もし仮に当てはまったとしたら、1つ矛盾点が残る」
「それは、何だ」
「…………止めろ」
また、巌窟王がこぼした。
「罪状をあてられていない処刑人はここにはいられない。巌窟王は自分のことを共犯者といっていた。けどさっきので巌窟王も処刑人の一人だった。そうなると処刑人の数はルーラーを合わせて8人になってしまう。罪状の数が一つ足りない。なのに、誰も自分からは消えていない。そこから導き出される答えは一つだ」
「言ってみるといい」
「……止めろ」
「実際に起きていることと認識しているルールが違うなら、きっとそのルールの認識がまちがっているのだと思う。この場合、それはたぶん『罪状が全部で七つしかない』ということ。ルーラー、何か知らない?」
「無論、知っているとも。かつて大罪は七つではなく
「その二つに絞りこめれば十分。なら答えは、憂鬱。あの嘆きは間違いなくそれだ」
「ああ、素晴らしい。正解だ。カルデアのマスター。ではそこからさらにもう一つ分かることがあるだろう?」
「それは――」
「いってみるといい」
「巌窟王の罪は」
「止めろと言っている!!!」
もはやそれは叫びに近かった。
「貴様、いや、貴様に限らず、裁定者という者共はどうしてこうも俺を怒らせる!」
「すまないな。ナイフを失った今、こうでもしないと君を倒せそうにないんだ。それほど下級の英霊だからな、オレは」
「くどい! あの天草四郎時貞と同程度、あちらの方が人として解せぬところも多いが、分かりづらさでは上をいっているぞ」
薄笑いがルーラーの顔に張り付いていた。それこそ、今にも「お褒めにあずかり光栄だ」なんていいだしてもおかしくないほどに。
「そういら立つな巌窟王。どれも状況証拠ばかり、決定打にはなり得ない。それとも、
――疑われることも嫌かね? 自分の存在のあやふやさを」
巌窟王の目が怪しく光った。彼の周囲にも火花が散っている。完全に戦闘態勢だ。しかし、それを手で制し、遮る者がいた。
「ストップ。アベンジャー」
立花だった。
「戦う前にもう一つ、ルーラーに聞いておきたいんだけど」
「さっさとしろ。今の俺では貴様ごと撃ちかねん」
「わかった」
二歩、立花が前に出た。
「ルーラー、三つ聞きたいことがある」
「いいだろう」
「あなたの本当の名前はフジマルリツカで間違いない?」
「そうだが。なんだ? そちらのオレはマスターである君に真名すら明かしていないのか」
「まあね。いや、一応明かしてはいるのか。ただ、ちょっと『シェリングフォード・ホームズ』って感じじゃなかったから」
「どのあたりが?」
「顔、かな。どう見ても日本人だし。コナン・ドイルが想定していたのが日系男性だったってなら話が変わってくるけど、そんな話聞いたことないし。マシュならもしかしたら、何か知ってるかもしれないけど」
後ろをチラ見。煙草をふかしている巌窟王の姿があった。待てないといっていたのはどの口だったのか。その煙草をくわえている口だったのは立花の勘違いなのか。
「他にも疑った理由はあるけど、今は割愛。二つ目の質問、ルーラーって千里眼、それも未来視ができるくらいの高ランクのそれ系スキル持ちだったりする?」
「スキルすらも不明。どれだけ信用されていないんだ君」
うるさい。と、立花がぼやいた。
「それよりも質問に答えて」
「わかった。その答えでは五十点だといっておこう」
「採点してっていったわけじゃないんだけど」
「これ以上は黙秘だ。ありきたりだが、ここのオレを倒してからそちらのオレに尋ねるといい」
「そうする」
「素直で結構」
「じゃあ、最後の質問。とっても個人的なことを聞くから」
だから、どうしろとは言わなかった。立花と同じように、素直に答えてほしいわけでもなかった。ただ、今の彼の答えを聞きたいだけ。
「あなたは、自分がやってきたことを、後悔している?」
ここにきて饒舌だったルーラーの口が長らく言葉を発しなかった。迷っているのか、何かを考えているのか。たっぷり二十秒ほど沈黙が場を包んだところで、再びルーラーの口が開く。
「していない。してはいけないと思っている。そんなことをしてしまえば、手を貸してくれた、そしてこれからも借り続ける英雄たちに、顔向けができないからな」
「そう」
この鈍感。
彼らが
彼らは、立花の勇気を買っているのではない。そんなもの、自分には最初からそれほどないことは明らかだ。それでも彼らが自分を慕ってくれるのは、立花がただの人間だからだ。ただ一人の人間として、やれることを精一杯やろうとしている(つもり)の彼女に、彼らは喜んで手を貸してくれているのだ。
だから、ただの人間である立花はこう答えなくてはならない。
「わたしはいっぱいしてるよ、後悔。もっといい方法があったんじゃないかって。誰も死なないなんてことは望まなくても、それでも、もしここに立っているのがわたしじゃなかったら、もっと少ない犠牲で、ことを終わらせられたんじゃないかって。
だって、いつも最後に残るのは、今を生きているわたしとマシュの二人だけ。何も残らないことは解ってる。ここで死んだ人たちは、本当はなかったことになってるんだってことも知ってる。それでも、いつまでも覚えてる。後悔せずになんていられない」
「それでも、してはいけないんだよ。でなければ、前に進めないだろう? 多少の犠牲など気にするな。そんなもの大義の前には無意味だ」
ああやっぱり、わかってないんだ。
今ようやく、立花は気づいた。いつも全てを見ているように助言してくれていた彼、ルーラーは本当は、本当に大事なことから目をそらし続けているのだと。その結果見えていた
「質問は終わったか。我が仮初めのマスターよ」
半分ほどになった煙草を捨て、巌窟王は立花に歩み寄った。
「終わったよ。ところで今のこと、アヴェンジャーは知ってたの?」
「さて、何のことを聞いているのか。それすらも俺にはさっぱりだが」
「そうだよね。ごめん」
「かまわん」
「それと、謝るついでに、一つ、わがままをいいたいんだけど」
「いってみろ」
「最後に一発、ルーラーをわたしに殴らせて」
ふいに、巌窟王の表情が固まる。だがすぐさま、高らかに声を上げて笑い出した。心の底から愉快だといわんばかりのその声は、小さな水音しかなかった監獄に響き渡る。そして、これまたふいに笑い声を止めて。
「いいだろう。この身は仮初めとはいえ、今は貴様のサーヴァントだ。それくらいは叶えてやる」
「ありがとう」
きっとルーラーは止まれなかった自分のなれの果てなのだろう。なら、それを止めるのは誰だろう。きっと一番の適役は、今回も自分ではないかもしれない。それでも、自分にできることなら。
「行くよ、ルーラー。その捻じれ曲がった根性。ここで叩き直す」
「失くしたものがあるとすれば」
「マシュ・キリエライトを守れないフジマルリツカはここで死ね!」
「認めない! そんなの、絶対に認めない!」
「地獄を見た」
「誰かが死んでいた」
「誰かが苦しんでいた」
「その全てに興味がなかった」
「軍神よ我を呪え」
「男の話をしよう。たった一人、止まれなくなってしまった男の話を」
次回、『失せモノ探し』
※ここに登場するセリフがすべて出てくるとは限りません。