【更新休止中】Fate/ぐだ×ぐだOrder 〜要するにぐだこがぐだおを呼ぶ話〜 作:藻介
時間はそう多く残されているわけではなかった。
噴水広場前のカフェ出入り口。荷物を足元に置いて、現在レジで精算中のマスターを待つ私、アルトリア・ペンドラゴン(オルタ)の両手には、二つのコーヒーカップが握られていた。
一方は当然私の物だ。そしてもう一方は、あいつが持っていてと渡してきた飲みかけ。
右手に持っていたそれをゆっくりと持ち上げる。
——持ち上げかけた。
「…………っ!」
今、私は何をしようとしていた? あいつの飲みかけに、口をつけようとしていた、のか? つまり、それは、俗にいうところのか、かんせゆ、じゃなくて、関節でもなくて、間接キスというやつを、私は、しようとしていたということか?
顔が妙に熱い。中天に浮かぶそれのせいではない熱を払おうと、首を左右に二振り、念のためもう一振り。そこまでしてようやく熱が引いたのと同時、無意識のうちに鼻で笑っていた。
生娘でもあるまいし、何を今更、間接キスなんかで恥ずかしがったりなどしたのだろう。不本意ではあるが、あの(不)愉快な老人にいっぺん通りのそういう知識は教わっている。それに、生前には妻も持った。結局、うまくいった記憶はなかった(それどころか国が一つ滅んだ)が、それでも一つだけ言えることはある。
キスだけでは、子どもなんてできたりしない。
まあ、この身はサーヴァントなんだし、キスとか子どもとかそれ以前の問題ではあるのだけれど。
「(……なんか、自分で言ってて悲しくなってきますね。コレ)」
窓ガラス越しにマスターの姿を確認。店員に何やら質問をしているようだった。他の連中への土産でも選んでいるのだろう。
噴水の縁に座る。自分の分を傍らに置いて、改めて、やつのコーヒーを両手で包んだ。すでにぬるくなっていた。
ここで私が、この飲み口に口をつける理由が、果たしてあるだろうか。
のどが渇いたのなら、自分のを飲めばいい。そのあとで、足りなかったからと、マスターの分を飲む。きっとあいつは、仕方ないな、などといって許してくれるだろう。
また、カップを持ち上げた。けれど、途中で下ろしてしまった。
「(前までの私ならば、きっとできたのだろうな)」
何を意識することもなく、ただあいつを守る剣でさえあれたら、それだけでいいと思えていた頃の私ならば、あるいは。
時間神殿から泣いて帰ってきて、私たちに黙って勝手に旅に出て、そのままあいつは帰ってこなかった。私は誓いを守れなかったのだ。
一度ならず、二度目も失敗して、三度目に甘んじている今の私には、果たしてこの一口はどういう意味を持つのだろう。
しばらくの間、流れる水音に任せて考えていた。その間にも手元の熱はどんどん冷めていって、それを吸収したはずの私の手先は、いつも通りの寒々しい白を保っていた。
「セイバー」
結局、それだけに時間を費やしてしまった。答えは見つからなかった。
「ああ、今行く」
「オレの分は?」
「それなら——」
一瞬思いとどまって、
「そら、これだ」
傍らに置いていた方を渡した。
「ありがとう。見てくれてて」
「かまわん。それで、目的地はどこだ」
「ちょっと離れてるんだけどね、まあゆっくり行こう」
「そうだな」
縁から立ち上がってマスターの横に立つ。かつては私より少し高いくらいだった身長も、もうずいぶんと伸びて、見上げるのに苦労するようになった。その背をかがめて、置いていたコーヒーを手に取ったやつは、なんの疑いもなく残り少ない中身に口をつけた。
「ぬるいね」
「ああ、そうだな」
そういって今度こそ、私は手元のコーヒーを飲み干した。
スカサハ・スカディ「スカサハ様と呼ぶがいい」
ぐだ「じゃあ、スカディさんで」
スカディさん「近所のお姉さんか私は!」
強化が来たキャット「(それはそれで羨ましいのだな)」
ぐだ「それはそれとして塵の要求数をどうにか」
スカディさん「ならん」