【更新休止中】Fate/ぐだ×ぐだOrder 〜要するにぐだこがぐだおを呼ぶ話〜   作:藻介

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ぐだ男の幕間その3。今回は英霊旅装から想像してます。


幕間3 ひと口

 時間はそう多く残されているわけではなかった。

 噴水広場前のカフェ出入り口。荷物を足元に置いて、現在レジで精算中のマスターを待つ私、アルトリア・ペンドラゴン(オルタ)の両手には、二つのコーヒーカップが握られていた。

 一方は当然私の物だ。そしてもう一方は、あいつが持っていてと渡してきた飲みかけ。

 右手に持っていたそれをゆっくりと持ち上げる。

 ——持ち上げかけた。

「…………っ!」

 今、私は何をしようとしていた? あいつの飲みかけに、口をつけようとしていた、のか? つまり、それは、俗にいうところのか、かんせゆ、じゃなくて、関節でもなくて、間接キスというやつを、私は、しようとしていたということか?

 顔が妙に熱い。中天に浮かぶそれのせいではない熱を払おうと、首を左右に二振り、念のためもう一振り。そこまでしてようやく熱が引いたのと同時、無意識のうちに鼻で笑っていた。

 生娘でもあるまいし、何を今更、間接キスなんかで恥ずかしがったりなどしたのだろう。不本意ではあるが、あの(不)愉快な老人にいっぺん通りのそういう知識は教わっている。それに、生前には妻も持った。結局、うまくいった記憶はなかった(それどころか国が一つ滅んだ)が、それでも一つだけ言えることはある。

 キスだけでは、子どもなんてできたりしない。

 まあ、この身はサーヴァントなんだし、キスとか子どもとかそれ以前の問題ではあるのだけれど。

「(……なんか、自分で言ってて悲しくなってきますね。コレ)」

 窓ガラス越しにマスターの姿を確認。店員に何やら質問をしているようだった。他の連中への土産でも選んでいるのだろう。

 噴水の縁に座る。自分の分を傍らに置いて、改めて、やつのコーヒーを両手で包んだ。すでにぬるくなっていた。

 ここで私が、この飲み口に口をつける理由が、果たしてあるだろうか。

 のどが渇いたのなら、自分のを飲めばいい。そのあとで、足りなかったからと、マスターの分を飲む。きっとあいつは、仕方ないな、などといって許してくれるだろう。

 また、カップを持ち上げた。けれど、途中で下ろしてしまった。

「(前までの私ならば、きっとできたのだろうな)」

 何を意識することもなく、ただあいつを守る剣でさえあれたら、それだけでいいと思えていた頃の私ならば、あるいは。

 時間神殿から泣いて帰ってきて、私たちに黙って勝手に旅に出て、そのままあいつは帰ってこなかった。私は誓いを守れなかったのだ。

 一度ならず、二度目も失敗して、三度目に甘んじている今の私には、果たしてこの一口はどういう意味を持つのだろう。

 しばらくの間、流れる水音に任せて考えていた。その間にも手元の熱はどんどん冷めていって、それを吸収したはずの私の手先は、いつも通りの寒々しい白を保っていた。

「セイバー」

 結局、それだけに時間を費やしてしまった。答えは見つからなかった。

「ああ、今行く」

「オレの分は?」

「それなら——」

 一瞬思いとどまって、

「そら、これだ」

 傍らに置いていた方を渡した。

「ありがとう。見てくれてて」

「かまわん。それで、目的地はどこだ」

「ちょっと離れてるんだけどね、まあゆっくり行こう」

「そうだな」

 縁から立ち上がってマスターの横に立つ。かつては私より少し高いくらいだった身長も、もうずいぶんと伸びて、見上げるのに苦労するようになった。その背をかがめて、置いていたコーヒーを手に取ったやつは、なんの疑いもなく残り少ない中身に口をつけた。

「ぬるいね」

「ああ、そうだな」

 そういって今度こそ、私は手元のコーヒーを飲み干した。




スカサハ・スカディ「スカサハ様と呼ぶがいい」

ぐだ「じゃあ、スカディさんで」

スカディさん「近所のお姉さんか私は!」

強化が来たキャット「(それはそれで羨ましいのだな)」

ぐだ「それはそれとして塵の要求数をどうにか」

スカディさん「ならん」

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