この素晴らしい命に眼魂を!   作:DECADE

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この不運な境遇にお情けを!

「アレね。二人じゃ無理だわ。仲間を募集しましょう」

 

 蛙の唐揚げを頬張っていたアクアが、唐突にそう告げる。

 

 遡ること数時間前、意気揚々と蛙討伐に出かけた俺たちは、早速一匹の蛙に遭遇。武蔵さんの教えの賜物というべきか、贈り物のおかげと言うべきか、金属類を身に着けていた俺は蛙の捕食対象からは除外されていた。

 

 なので遠慮なしに向かっていった俺を踏み潰しに来た両生類をなんとか避けながら捌いて捌いて捌き続けた所、あと少しで倒せそうというところでアクアが、

 

「ふふふ、チマチマと削るしか能がない貧弱冒険者と、近接遠距離回復援護の全てを兼ね備えた完璧なる女神の違いを見せてあげるわ! 喰らえ、必殺のゴッドブロー!」

 

 などと宣い弱った蛙に光り輝く拳をぶち込んだ。

 

 傷つき体液を垂れ流す蛙は脂肪と筋肉によってその衝撃を受けきり、むざむざ弱った自分に食われに来たとしか思えないアホをぱくっといった。見捨てるのもアレなので捕食中で動かない蛙を捌き切って助けると、アクアはわんわん泣きながら礼を言ってきた。傍若無人という他ないアクアが礼をいうのも納得すると言うほど、蛙の分泌液は臭かった。

 

 そこへ三匹追加が来たので粘液でヌルヌルなアクアを引っ張ってどうにか街へ逃げ帰った次第だ。

 

 で、ひとっ風呂浴びてから酒場で食事中の現在。自分が食事に成りかけた経験を払拭するためか、単に食い意地が張っているだけか、俺の皿の唐揚げまで手を伸ばすアクアに、俺はため息をついた。

 

「まあ戦った感じ、俺一人じゃ一度に相手にできるのは二匹が限度だし、お前は蛙相手には無力だし、それは正解だな」

「なによ無力とか! 言葉を選びなさい。心優しい私の腕力が、偶々愛らしい蛙のつぶらな瞳の前に引けてしまっただけのことよ!」

 

 ほう、じゃあその愛らしい蛙さんの胃袋にもう一度inしてみるかい。人間相手には大して心優しくもない女神さんよ。

 

「か、カズマ? また眼が怖くなってるわよ? や、やめましょうそれ。なんかカズマさん日に日に怒った時の眼が私がミスした時の親方に似てきてません? ていうか、なんで私とカズマさんであんなに叱り方が違うんですか? なんで私は怒りのこもった眼差しとともにプレッシャー掛けられるんですか?」

 

 そりゃお前のミスは不注意や知識、経験不足じゃなくて余計な事した結果だからだろ。しかも何度同じことで怒られてんだよ。そろそろお前水専門にされそうなんだぞ。

 

「それはともかく新しいメンバーか……けど、俺たちみたいな駆け出しに合流してくれる人なんて居るのか?」

「ふぉのわたひあいるんらはら、なはあなんふぇ」

「口一杯に物を入れたまま喋るな。飲み込んでから喋れ」

 

 ごくり、と食事が喉を通る音が聞こえ、

 

「この私が居るんだから、仲間なんて募集かければすぐよ!」

 

 ドヤ顔の女神に、俺は不安しか感じなかった。

 

 

 

 翌日の冒険者ギルド、片隅のテーブルにて、俺達は席について求人の張り紙を見てきてくれるかも知れない人を待ち望んでいた。

 

「……………………来ないわね……」

「約束通りハードル下げるぞ。取り敢えず、上級職限定を消しておくからな」

「も、もうちょっと! もうちょっと待ちましょうよ。そうすれば未来の英雄候補が……」

 

 席を立とうとする俺を慌てて止めるアクアを見据えて、淡々とした口調で言う。

 

「その台詞は十分前にも聞いた。その更に十分前も。更には三十分前にもだ。他のパーティーは大体一時間から二時間程度で募集メンバーと面接したり連れ立ってクエストに行ったりしている中で、俺達は既に何時間ここでくだを巻いてんだ。幾ら魔王討伐が目標だからって、初心者冒険者の街で上級職限定は厳しいだろ」

「……ぁ、……ぅ……」

「うう……だってだって……」

「ょ……ぃぃ……ぁ」

「後々で転職するなり、取れる手段は幾らでもあるだろ。まずは目先の問題を」

「あのぅ! ちょっといいでちょぅ、か!」

「「ん?」」

 

 若干かみ気味の大声の方を向くと、そこには肩口で二つ結びに纏めた長い黒髪と紅い瞳が特徴的な、可愛らしい服装の上に黒いローブを羽織った美少女が両手を握りしめて立っていた。

 

「えっと、もしかすると、メンバー募集の張り紙を見てきたのか?」

「は、はい……。上級職限定って書いてありましたけど、わ、私、こう見えてもアークウィザードなんです! だから」

「ちょおっと待ったぁ!」

 

 少女の言葉に割って入る大声。そして、最初の少女と似た肩口に届くか届かないかという黒髪と紅い瞳の特徴を持つ、如何にもな魔法使いの少女が歩いて、二人は並んだ。そして、片目を隠す眼帯に指をかざしながらバサッとマントを翻し、

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……!」

「…………そうか。それで、君は?」

 

 何とも言い難い挨拶を取り敢えず受け止めつつ、いかにも関係者と見える隣の女の子に水を向ける。

 

「あぁ、ぇっ、えっとわ、私はゆんゆん、です」

「その赤い瞳……あなた達って、紅魔族?」

 

 アクアの問いに二人は頷くと、それぞれ冒険者カードを俺に手渡してきた。おお、本当に揃ってアークウィザードだ。

 

「私は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の魔法は岩をも砕き、山をも崩す……! その実力、将来性、共にこんな引っ込み思案のぼっちを遥かに上回ると宣言しましょう!!」

「ぼっ!? い、いきなり横からしゃしゃり出てきて偉そうに何よ! 声を掛けたのは私が先なんだから、めぐみんは引っ込んでなさいよ!!」

 

 どうも二人は知り合いらしく、いきなり自分を押しのけようとしためぐみんにゆんゆんはさっきまでのおどおどした様子からは想像できない勢いで噛み付いた。しかしめぐみんも負けじと変なポーズで威嚇する。

 

「そうはいきません!! こちらは既に三日も水しか口にしていないんです……図々しくてもこの人達に面接ついでに何か食べさせてもらわなきゃ、本気で……」

「わわ、いきなり倒れ掛けてるじゃない! 水しか口にしてないって、貴方一体何してたの!?」

 

 取り敢えずウェイトレスを大声で呼び止めた後、飯を注文した。

 

 

 

「へ~、紅魔族の学校の主席と次席ね。凄いじゃないか」

 

 何でも紅魔族とは高い知力と魔力を有した一族で、その名の由来通り紅い瞳が特徴的な魔法使いのエキスパートらしい。で、この二人はそんな紅魔族の里で生まれ育った幼馴染で、里の学校で一番を競っていたライバルだとか。

 

「はい! それで私も最近こっちへ来て、どこかのパーティーに入れてもらおうと……したんですけれど……」

 

 言いよどむゆんゆんから聞き出してみると、どこかのパーティーに入れてもらおうと求人を見回していたはいいものの知らない人に声をかける勇気が中々湧かず、上級職限定という一文が目立ちかつずっと座っていた俺たちを見つけ、何度も何度も心構えを整え続けてようやく話しかけることが出来たらしい。……やばい、ちょっと泣きそう。

 

「そうか……」

 

 何も言えない俺は、ゆんゆんの隣で飯をかきこむ細身の少女へ視線を移した。

 

「んぐ、んぐ……ぷはぁ。生き返りましたぁ~~。いや、お陰で永らえました。感謝します」

 

 感謝はいいが、何故だろう。彼女を見てるとこう、心のどこかが落ち着かないというか……ぶっちゃけ、少し警戒心をくすぐられるのは何故だろう。

 

「まったく……三日も水だけって、何があったのよ。お金でも落としたの?」

「ふん、私には私の事情があります。とにかく、このパーティーの魔法使い枠は私で埋まりました! ゆんゆんはゆんゆんらしく、そこらの原っぱで人がわいわい騒いでいるのを羨ましそうに見ながら隅で自作のお弁当でも食べてなさい!」

「くっ……! 学生時代の事蒸し返すなんて! めぐみんこそお腹空いて倒れる寸前だなんて、また私がお弁当恵んであげなきゃいけないんじゃない!?」

「なにおぅ! でも貰えるならありがたく頂戴しますよ!!」

 

 ……仲がいいのか悪いのか。こういうのを腐れ縁って言うんだよな。

 

「とにかくふたりとも、このパーティーに参加してくれるって事でいいんだよな? 俺は佐藤和真。最弱職の冒険者だ。こっちはアークプリーストのアクア。よろしくな」

 

 それぞれに手を差し出すと、二人は少しの間互いを見つめ合った後、おずおずと俺の手を握った。

 

「うわ、どさまぎに女の子の柔らか~い手の感触を堪能するとか、さすがは最近鬼畜を超えて正真正銘鬼の領域に手が届かせる童貞のカズマさ」

 

 二人から手を離し、俺は小太刀を腰のベルトから引き抜くと、鞘に収まったままの剣先を思い切り駄女神の頭頂部に叩き込んだ。痛えだろ、対お前用として授けられた鉄拵えは。二人が多少引いたが、この先こいつを見ていれば嫌でも武蔵さんの教えを実感するだろう。言って聞かなきゃぶん殴れ、と。

 

 

 

「爆裂魔法は最強。その破壊力に比例して準備時間も長い。あの蛙の足止めをお願いします」

 

 新たなメンバーとともに平原に戻ってきた俺たちを出迎えたのは、蛙のカエル。昨日襲ってきた奴らと色が同じだけど、まさか張ってたわけじゃないよな?

 

 とにかく、位置もバラバラな蛙達は一斉にびょんびょんとこっち目掛けて跳ねてきている。

 

「ば、爆裂魔法? あの宣言って本気だったの? てっきり冗談だと……ねえめぐみん! 今日は普通の上級魔法でも……」

「いや、そこまでの火力ならいっぺん見ておきたい。めぐみんは一番遠くのを狙ってくれ。俺は一番近いのを足止めするから、ゆんゆんはそいつに上級魔法を頼む。そんで中程のやつは……アクア! いまこそ蛙にリベンジだ! 仮にも一応元なんたらなんだろ? 駄目でも腐っても元なんたららしいところを見せてみろ!」

「元とか腐ってもとか言いすぎでしょ! 私現在進行形でちゃんと女神なんですけど! アークプリーストは仮の姿よぉ!!」

 

 涙目で抗議するアクアを一睨みすると、アクアはべそをかきながら駆け出した。そんなアクアに対し、

 

「「女神?」」

 

 二人が首を傾げたので、長刀を抜きながら補足しておく。

 

「を、自称してる可哀想な子だよ。たまにこういった事を口走ることがあるけれど、できればそっとしておいてやってほしい」

 

 同情する二人の視線を感じ取ったのか、アクアは一層走る勢いを増し、蛙の腹部に光り輝く拳を一発ぶち当て、そのまま食われた。

 

「カズマさん、アクアさん食べられましたよ!?」

 

 カエルを斬りつける中、降り注ぐ体液に混じったゆんゆんの言葉に、

 

「すぐに片付けりゃ消化される前に助けられる。そろそろいいか?」

 

 率直な俺の物言いを受け、ゆんゆんが紅い瞳を輝かせ、掌を弱ったカエルに向ける。

 

「エナジー・イグニッション!!」

 

 澄んだ声で唱えられた呪文は、その大業な名に相応しい威力で発揮し、青白い炎が蛙を内側から焼き尽くした。

 

 すげー……上級魔法ってこんな強烈なのか。そんな風に初めて見る魔法の威力に感動を覚えていると……後方から、凄まじい圧力が吹き付けてきた。めぐみんの周囲の空気がビリビリと震えているのが伝わってくる。

 

「見ていてください。これが、人類に可能な最も威力のある攻撃手段。究極の攻撃魔法です」

 

 鮮やかに輝くめぐみんの瞳。杖の先に圧縮された小さな光が灯り、

 

「エクスプロージョン!」

 

 唱えられた呪文と共に光が消え、遠くの蛙の頭上に幾つもの光が回転しながら、吸い込まれるように集まっていく。そして――閃光と爆音、次いで爆風が、平原を一気に駆け抜けた。踏ん張りながらも蛙の方を確認してみると、爆炎の中で蛙は無残に消し飛んでいた。

 

「……すっげぇー。大口叩くだけはあるな」

 

 爆風が収まった直後、俺はアクアを飲み込んでいた蛙を斬りつけながら、めぐみんの方を見てみると、

 

「あっ、近くから蛙が這い出るとか予想外です。……ヤバイです、食われます、ちょ、助け……」

「だ、だから言ったじゃない! めぐみんの馬鹿ぁぁぁぁ!!」

 

 ライバルが放った光の刃に切り裂かれたカエルの体内から救出される、ヌルヌルテカテカの姿があった。

 

 

 

 蛙討伐のクエストを終えた俺たちは、街に帰り着いていた。その中で、変身しなくても意外と俊敏な蛙ともそこそこ渡り合えた実感を噛み締めながら、

 

「うっ、うぅぅ、ぐす。生臭いよぅ……生臭いよぅ……」

「だから普通の魔法を使いなさいって言ったじゃない! あと少しで貴方、蛙の栄養になってたのよ!?」

「蛙の中って、臭いけどいい感じにあったかいんですね……知りたくもない知識が増えました」

 

 現状を振り返り、ため息しかでなかった。アクアは粘液まみれでヌルヌルのままべそをかき、めぐみんは爆裂魔法による過度の消耗で身動き一つ取れないため、これまた粘液まみれの彼女を俺がおぶっている。そしてゆんゆんは、めぐみんに繰り返し説教を続けていた。

 

「とにかく、めぐみん。今後爆裂魔法は緊急時以外は禁止で頼む。基本は他の魔法で」

「使えません」

「……え゛?」

 

 ゆんゆんの口から出たとは思えない低い音を合図に、俺たちは一斉に立ち止まる。めぐみんは俺の肩に指を食い込ませ、薄い胸板を押し付けながら口を開いた。

 

「私は、爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系が好きではなく、爆裂魔法だけが好きなのです。上級、もしくは中級魔法のスキルを取れば楽に冒険できるでしょう。でも私は……爆裂魔法しか愛せない。例え今の私の魔力では一日一発が限界でも、一発撃ったら身動き一つ取れなくなろうとも、それでも、私は爆裂魔法しか愛せない! だって、私は爆裂魔法を使うためだけにアークウィザードの道を選んだのですから!!」

「素晴らしい! 素晴らしいわ!! 非効率を認めながらもロマンを追い求めひた走るその姿に、私は猛烈に感動したわ!」

 

 めぐみんの演説に、アクアが眼を輝かせ賞賛する。そして、

 

「あぁ……学校の首席が……私のライバルが……どうしてこんな爆裂馬鹿に……」

 

 ゆんゆんは残酷な事実に頭を抱え、絶望と呆れの極致に追いやられていた。そして俺は確信する。あの時、警戒心を抱いたのは正しかったのだと。

 

 ここ最近の生活と、二度の戦いで俺は思っていた。この駄女神は俺の想像を遥かに超えたポンコツどころか錆にも劣る使えなさだと。端々に光る優れた能力は認めるが、それらを台無しにしてなお飽き足らない頭の悪さと精神的欠点。はっきり言って、こんな厄介者を抱えながらこれ以上の問題児の対処など無茶にも程がある。

 

「そっか、茨の道だろうけど頑張れよ。ギルドに着いたら、報酬は山分けって事で。縁があればまた会うことも」

 

 ぎゅっと、みなまで言わせんとばかりにめぐみんの手に力が込められた。

 

「我が望みは爆裂魔法を放つこと。報酬などおまけに過ぎず、何なら生活費や雑費を貰える程度でいいと考えている。最強の攻撃魔法を操るアークウィザードをそばに置く対価として、これほど破格の条件はないだろう!」

「いやいや、そんな強力なアークウィザードは、俺たちみたいな弱小パーティーには向いていない。宝の持ち腐れになるだけさ。俺たちにはゆんゆんみたいな普通に強いくらいの魔法使いでも本来高望みなんだ。俺なんかまだ修行始めて間もない、最弱職の冒険者なんだからさ」

 

 掴みかかるめぐみんの手を剥がそうとするが、ヌルヌルと粘液で滑って上手くいかない。

 

「いえいえいえ、私だってまだまだレベル6の駆け出しですから。今後レベルが上がればきっと魔法を使っても倒れなくなりますから、ね?」

「いや、おい、放せって! お前、さては他のパーティーでも捨てられた口だろ! 密閉空間や近距離であんな威力ぶちかませばお陀仏確定だし、状況を選びすぎるんだよ。なんなら今回の報酬は俺たち三人とお前で半々でもいいから! 放せ!」

「見捨てないでください!もうどこのパーティーも私を拾ってくれないんです! ダンジョン探索とかでは荷物持ちでもなんでもしますから! お願い、捨てないでぇ!!」

 

 大声で捨てないでだのと叫ぶめぐみんに、周囲の視線がこっちに集まる。見てくれだけはいいアクアや唯一の救いと言っていい美少女ゆんゆんも居るため、その注目度はなお上がる。

 

「やだ、あんな小さな子を捨てようだなんて……」

「粘液まみれの女の子を二人、それに他にも一人連れてるわよ」

「あんな小さな子を弄んで捨てるだなんて、とんだクズね。他の女の子も片方はヌルヌルで、もう一人は暗い顔して泣いてるし、一体どんなプレイをしたのよあの変態」

 

 あらぬ誤解に、俺の世間体が大ピンチだ。アクアはニヤニヤしてるし、ゆんゆんはライバルの見苦しい様に絶望しているし、めぐみんは状況が自分に優位だと確信している。

 

「どんなプレイだって耐えてみせますから! 先程の蛙を使ったヌルヌルプレイだって大じょ」

「よーしわかった! めぐみん! ゆんゆん! これからよろしくな!」

 

 

 

 蛙討伐の報酬と引取の代金を受け取った翌日、俺は武蔵さんの言いつけで早朝から街の外へランニングに向かう。

 

 指定されたとおりのルートを通っていくと、何やら森の中へ入って、

 

「うわ! くそッ、またワイヤーか!」

 

 どういうわけだか罠だらけの道を悪戦苦闘しながら疾走する事態に陥っている! 内容自体は浅い落とし穴や足元にワイヤー、ロープを張った容易な罠だが、位置や配置のタイミング、距離、その他諸々の要素がこれ以上無いほど噛み合って、回避は非常に難しい。

 

 何度も転倒、落下を繰り返し全身土だらけになりながら森を抜けた瞬間、咄嗟に頭を下げる。すると、先端に吸盤の付いた矢が俺の頭上すれすれを通過した。

 

「いい動きだ。罠も後半は少しは回避出来ていたし、どうやら最低限の勘は身につけているみたいだね」

 

 矢を放った緑のフード付きコートをまとった美女は、薄く笑いながら片手に持った弓の弦を空いた手で弾き、

 

「合格だよ、サトウカズマ。これを上げよう」

 

 ぽいっと、俺に緑色の眼魂を投げよこした。

 

「……あの、名前を聞いていいですか?」

「ああ、申し遅れたね。私はロビン・フッド。この世界風ならフッド・ロビンと名乗るべきか。この通り、君と同じ最弱職の冒険者さ」

 

 ロビンさんが差し出した冒険者カードには、たしかに冒険者と記載されている。レベル45……俺が見てきた中では最高値だな。しかも、凄い数のスキルを習得している。てかドラゴンまで仕留めてんぞ!? なにこれ凄い! やっぱ英雄ぱねえ!

 

「色々驚いてるようだが、そんな暇はないと思うよ? さあ、変身してもうひとっ走り行こうか」

 

 ぎゅっと弓を握るロビンさんは、冷たく微笑みながら矢を取り出した。今度は間違いなく鉄製の鏃を備えた、殺傷能力を持つ矢。

 

「知らないかもしれないから一応教えておくと、冒険者がスキルを習得するには本職の人間からその使い方を教えてもらい、その上でカードを操作しポイントを消費する必要がある。だけど、実はスキルレベル自体はスキルを習得する前から存在しているんだ。正確には、スキルを得る前の経験がスキルを習得してから経験値として加算されると言っていい。つまり、罠に気づくことに手慣れた人間程、罠発見のスキルを得た時点でそのレベルも高いというわけだ」

『アーイ! カイガン! オレ! レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』

 

 弓に矢をつがえ、ギリギリと引き絞られる姿を尻目に、俺は森の中を全力で走った。

 

「いい逃げ足だ! こっちも追い詰め甲斐があって結構!!」

 

 その後、数十回は矢ぶすまにされつつも新たなスキルを覚えた俺は、後何人の偉人の転生者がいるのかを考えて憂鬱になった。

 

 

 

 規則正しい足音が響き渡る。その音から類推するに、この主は人間ではない。かと言って悪魔でも無ければ、モンスターでもない。ならば、

 

「神か」

 

 とうとうこの老耄を直接討つ為に降臨したか。しかし、まだ浄化されるのは勘弁願いたい。話し合いで済むのならいいが、そうもいかんだろう。亜神ならばどうとでも出来るが、本物の神はそんなものとは比べ物にならんだろう。

 

 未知の領域にいる敵。そんなものはいつぶりだろうか。この骸に沸く血も踊る肉もとうの昔に残されていないが、魂が久々に活力を取り戻すのは実感できる。

 

 首から下げたメダルを握りしめ、ゆるりと立ち上がった時、黒い衣服に全身を包んだ目当ての存在はやってきた。それは殺気を立ち上らせる私に一切の敵意を向けず、

 

「お前の希望に沿うかもしれない者がいる。共に来る気はないか。『剣帝』よ」

 

 淡々と、私が最も欲する提案を投げかけた。




 オリキャラ登場。何者かは今後で明かされます。
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