夕暮れ時、他のアイドルも退勤して
書類整理に追われパソコンと向かい合うプロデューサーの傍に、珍しく机の下からではなく
隣の机に座ってその横顔を眺める。
プロデューサーは気にしてないし、何も言ってこないけど、誰も見てないこの空間でだけ
隣から眺めるのが、この人を独り占めするのが、好きだ。
「プロデューサーは…森久保のこと…面倒な人って…思わないんですか…」
なんで今更そんなこと。
自分でもそう思いながらも
つい問いかけてしまう
2人きりだと、いつもより安心して話しかけられる
そのことを、自分以外の誰も知らない。
しかし、その問いに返事はない。
「森久保、ハッキリものも言えないですし…逃げてばっかりで…迷惑…かけてると思うんですけど…」
何で自分がそんなことを気にかけなければいけないんだろう、引き止めて来たのはプロデューサーなのに。
それが正解のはずなのに、自分に不正解だと答えてしまう。
プロデューサーの答えに、✖️をつけたくない。
というのが本当の気持ちだってことは、気づいてないことにする。
「正直…森久保には…やっぱりアイドルは無理…というより、森久保がいくじなしのせいで…みんなに迷惑かけることが…無理…なんですけど…」
やっぱりこんな話やめておけばよかった
そう後悔しつつも、開いた口は閉じなくて
なによりプロデューサーの横顔を見ていると
何故だか、変に安心してしまって
思ってることがどんどん溢れでていく。
止まらなくなる。
「森久保…邪魔者って思われたくないです…みんなに…いえ、プロデューサーに…だから……」
泣きそうになる。
また自分勝手に感情をだして
自爆してる自分が
虚しい。
「プロデューサー…森久保、もうアイドルは…」
キーボードを叩くプロデューサーの手が急にピタリと止まる。
「くぅーっ!終わったぁ!」
「うひぇ!?」
今まで黙ってたプロデューサーが突然声をはりあげたことに驚き、変な声が出た
恥ずかしさと動揺で、あわてて隣の机の下に潜り込む
いつもの癖だ。
「んー?どうした乃々、待っててくれたのか?」
しゃがみこんで机の下を覗き込むプロデューサー、目を合わせられない。
「ひ、ひょっとして…聞いてなかったんですか…いい加減すぎるんですけど…」
正直、よかったと安心していた
変なことを口走りすぎた、思い出すだけで耳が熱くなる。
「?…まあいいや、飯行こうぜ」
ニコニコと微笑みかけている…に決まっているプロデューサーと目を合わせないまま顔を逸らす。
「…ご一緒しますけど…。」
そう言うとプロデューサーは手を伸ばして肩に触れてくる
「じゃあそんな所に隠れてないで早く出てこい!時間は待ってくれないぞ!」
そう言われるがままに手を引かれて机の下から引きずり出される。
その間も、目は合わせられないし
耳もまだ熱い
自分は今どんな顔をしてるんだろう
プロデューサーはどんな顔で見ているだろう
そう考えるだけで
とてつもなく恥ずかしい。
「あ、あの…プロデューサー…」
「それとさ、乃々」
ほぼ同時に声が出る、思わず口ごもるが
プロデューサーはそのまま続けた
「だれもお前を邪魔だなんて言わない、お前はお前のやり方でいいんだ…お前を見つけて、ここに連れてきた俺を、信じてくれるなら…俺はお前をどこまでもプロデュースしてやる。」
そう言ってクシャクシャと頭を撫でてくる。
「だから安心しろ、みんなお前を大切に思ってるんだ…それに答えてやるのがアイドルだろ?」
やっぱりいい加減すぎるんですけど…。
いい加減で、力任せで、でも安心できて
油断して、流されて、ずるいんですけど…。
顔を上げると、やっぱりニコニコと微笑んでいる…耳が熱い、頬も、顔全体が…。
この人について行けば、変わるかもしれない
そう少しでも信じてみたあの頃の自分に
この瞬間、少しだけ感謝した。
あの時の自分に応えるためにも
目の前のプロデューサーの期待のためにも
もう少しだけなら…頑張れる…
「森久保…もう少しだけがんばってみますけど…期待は…しないでくださいね…」
「おう、期待してるぞ!」
ひいぃ……や…やっぱり何も聞いてない…
いい加減なんですけど……
むーりぃ……。
森久保ォ!