一対の魔王   作:ウィナ

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図らずとも時期的に大体ちょうどいいお話になった?


8話 試練

時は進み冬の暮

 

年も明け冬休みが終わり、卒業までもう3ヶ月もないそんな時期。

 

それはいつも通りの日常に訪れた。

 

--------

 

いつも通り授業が終わり、いつも通りハギヨシの迎えが来て、いつも通り龍門渕高校を訪れた咲。

強いて違いを挙げればいつにもまして賑やかであった。

 

「何かあったんですか?」

 

「ええ、今日は学校説明会ですわね。中学生の方々が来てますわ」

 

「あー、そう言えばうちの学校にもパンフレット来てましたね」

 

高校受験を2ヶ月後に控え、学校見学に訪れる中学三年生たち。

それを他人事のように眺める咲に、透華が声をかけた。

 

「そう言えば、咲さんはもう受験校決めてますの?」

 

すっかり忘れていたが、衣と出会う前は近くの清澄高校へ行く予定だった。

だが、咲にとって唯一と言ってもいい同性の友人のいる龍門渕高校もいいなぁとは思っていた。しかし、

 

「うーん、やっぱり清澄に行くと思います。家のこともあるので寮に入るわけにもいきませんし、ハギヨシさんに毎朝迎えに来てもらうわけにも行かないですしね」

 

衣から熱烈アプローチを受けてはいるが、父親と二人暮らしというのもあり家を離れる訳にはいかない。

咲としても苦渋の決断である。そして何より…

 

「やっぱりお嬢様校だけあってレベルも高いですし…」

 

そう、純粋に学力が足りないのだ。

 

以前衣たちが部室で定期テストの点数自慢大会をやっていたのを見たのだが、桁違いとまでは行かないがそれでもレベルの高い問題ばかりであった。

こう言っては何だが清澄に行く予定だったので受験勉強らしいことは何一つやっていなかった。

 

「なるほど…分かりましたわ」

 

納得の行く答えを得られたのか、透華はそれ以上詮索することはなかった。

そして、何やら用事があるようで、先に部室へ向かったようだ。

 

「さて、職員室行きますか」

 

いつも来ているので馴染んではいるが、結局のところ生徒ではないので、校内を歩き回るにも一応許可がいる。

私服校ではあるが、そのあたりの規律はきちんとしているのもまた、龍門渕高校の特徴なのだ。

 

 

 

そうして、いつも通り形だけの書類を書いて部室へ向かう。

扉を開けると部室の真ん中に雀卓が…無かった。

 

 

 

一瞬部屋を間違えたのかと思ったが、部屋の中には透華や衣を始め、麻雀部の面々が揃っていた。

雀卓の代わりに四角い大きなテーブルが置かれ、正面には衣が手を組みながら座っている。

普段とは違う明らかに異様な光景。普段豪気な咲もこれには思わず立ち止まった。

 

「え、何?どうかしたの…?」

 

「…来ましたわね」

 

「まあ、座れよ」

 

純に言われ、何も分からぬまま椅子に座る。

衣は何も言わない。

流石に何かが起こることは分かる。

 

「えっと…何が始まるんです?」

 

「咲、トーカから聞いたぞ」

 

「何を?」

 

「家が遠くて、勉強が足りないから龍門渕に入れないと」

 

「あー…そうだね」

 

「つまり、それがどうにかなれば龍門渕に入れるということだな?」

 

「うーん、そうなるのかな?」

もし何とかなるというのならば、当然入りたいものだ。

学力はなんとかなるかもだが、住む場所はどうしようもない。だからこその選択なのだ。

 

「トーカ」

衣が透華に一声掛けると、透華はため息を吐き、

 

「はぁ…分かりましたわ。住む場所についてはなんとかしますわ」

 

「えっ」

 

「寮に入れないのならばご両親と一緒に近くに引っ越せば解決ですわね?」

 

「えっ」

 

「これで片方は解決だな!さ、咲の受験に向けての勉強会を始めるぞ!」

 

「えっ」

 

何が何だか分からない咲を他所に、一と智紀が本の束を咲の前に置いた。問題集だ。

 

「えっ」

 

「後二ヶ月、宮永さんならなんとかなります」

「いつも麻雀でボコられてるから、これで仕返しだな」

「偶にはボク達の気持ちを味わうのもいいと思うよ」

 

「えっ」

 

思考が追いつかずフリーズしている。

数秒経ってようやく理解が追いついた。

 

「いや、いやいやいやいや、流石にそれはまずいよ!」

 

「何がまずいのだ?」

 

「そこまでしてもらう訳にはいかないって!」

 

「なぜそう思う?衣たちのこと嫌い?」

 

「うっ…いやでもそれとこれとは…」

 

正直な所現状週2~3程度の頻度でハギヨシさんに迎えに来てもらっているのすら割りと気が引けているというのに、それ以上のことをされたときにはいろんなもので押しつぶされそうだ。

こういうところは小心者な咲なのだ。

 

あたふたする咲に透華が紅茶を差し出しながら、

 

「咲さん、これは私達からのお礼ですの」

 

「お礼?」

 

「ええ。見てくださいこの部室を。衣のために作った麻雀部でしたけど、最初はこんな賑やかではありませんでしたわ」

「衣はいつも自室に篭っていましたし、私達も屋敷にいましたから、この部屋はただ部屋の真ん中に雀卓があるだけの空き部屋同然でしたの」

「でも、あなたと出会って、衣は変わって、あなたや衣達と一緒にこの部屋で放課後を過ごすようになってから、この部屋は見違えるように変わりましたわ。最初の頃からは考えられないような大きな変化ですわ!」

「この変化を大切にしたい。この変化に感謝したい。そして、この変化がこれからも続いて欲しい。だからこそあなたには是非、龍門渕(うち)に来てほしいんですの!」

 

「でも、お父さんのこともあるし…」

 

「咲さんのお父様には既にお話をしてありますわ」

 

「えっ」

 

「『咲が望むならば望むようにさせてあげたい』と仰っていましたわ」

 

「……」

 

「やはり気が引けますの?」

 

「そうですね…」

 

「咲」

 

どうするか決めかねていると衣が口を開いた。

 

「衣はこれからも咲と一緒にここで麻雀がしたい」

衣の瞳はまっすぐと力強くこちらを見つめている。

 

「ワガママなのは分かってはいるが、それでも…」

 

「ううん、大丈夫。衣ちゃん」

 

「それでは…?」

 

「いやはや、負けた負けた。龍門渕高校受けるよ」

 

プライドの高い衣が頭を下げようとしてまで貫こうとするワガママ。

これまでのお礼を込めてと言ってくれた透華。

そこまでされては(元々行きたかったのも含めて)靡かざるをえない。

 

「でも、受かるかどうか分からないよ?」

 

「大丈夫、その為の勉強会だ!」

 

「えっと…麻雀は?」

 

「今日の分が終わったらだ!」

 

「そんなぁ~」

 

こうして、咲は龍門渕高校受験を決めた。

しかし、そこには受験勉強という試練が待ち受けていたのだ。

頑張れ咲!負けるな咲!

麻雀の強さは受験に関係ないぞ!

 

--------

 

「あっ、新しい家とか諸々のお金とかは絶対返すから!」

 

「ふふふ、咲に返せるかな?」

 

「えっ」

 

「場合によっては龍門渕家(うち)のメイドとして雇うというのもありですわね?」

 

「えっ」

 

「その場合はオレ達からすれば二重の意味で後輩だな?」

 

「麻雀でこてんぱんにされた分を仕事で返すんだね?分かるとも!」

 

「ええええっ!?」

 

 




実はプロットを書いているところまでたどり着いていないという事実。
逆に言えばここを乗り越えればプロットがあるので筆が進む…はず!
更新が遅いのはプロット無しで書いているからですね…反省です。

次回あたりにはようやく入学式あたりを書いて、10話前半あたりから長野編に入れたらいいなぁ…

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