9話 始点
濃い二ヶ月間だった。
ここまで勉強したのは初めてじゃないだろうか。
知恵熱なんてこの歳でもなるんだなって実感した。
だがその甲斐もあり、無事宮永咲は龍門渕高校に入学できたのだ。
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入学式から少し経ち、部活動紹介や体験入部などが始まり、新しい学生生活に色めきたつ新入生と部員を確保するべく奔走する在校生達。
ちなみに麻雀部は部活動紹介も部員募集もしてなかった。
元々が衣のため
なお咲は入学式当日には既に部員扱いになっていた。
つまりどういうことかと言うと、麻雀部は今までどおりなのだ。
そのはずだった。
「ですから、私達の部は部員募集してませんし…」
何時も通り部室に向かった咲が見かけたのは、2~3人の女生徒に囲まれてあたふたしている智紀であった。
「どうかしたんですか?」
声をかけた咲に何やら嫉妬のような感情を含んだ目を向ける女生徒達。
身に覚えがない状況にそれなりに困惑している。
「えっとですね…」
智紀が言うには自分たちは麻雀部に入りたかったのだが新入部員を募集していなかった。
それにもかかわらず同じ1年生の咲が麻雀部にいることに対して抗議をしに来たらしい。
咲は入学前から入部が決まっており、今年度は咲以外の部員を取る予定はないと説明してはいるが納得しないらしい。
「騒がしいですわね…」
部室の前で騒いでいることに気づき部屋から透華と衣が顔を出した。
「何事ですの?」
「実はまるまるしかしか」
「かくかくうまうまということだな?」
「そういうことであれば簡単な方法があるぞ!」
そういう衣はニコニコ顔であった。
「咲に勝てたら入部させてやるぞ!」
数分後、麻雀部の雀卓に倒れ込む三人の女生徒がそこにあった。
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倒れ込んだ女生徒は保健室に運んでおいた。
流れで同級生と対局することになった咲であるが、そもそもが疑問なので聞いてみた。
「なんで部員募集してないんですか?」
「それな、オレも疑問だったんだよ」
「全国出場する実力を持つ部ですからね。入りたい人は多いと思いますが」
どうやら純や智紀も理由を知らないらしい。
「お父様との約束ですの」
そう口を開いたのは透華であった。
「この麻雀部は衣のために作ったというお話はご存知ですよね?」
…要するに衣の力を恐れている透華の父親は、衣が交友関係を広げるのを快く思っていない。
麻雀部もあくまで衣のために透華が無理やり作ったもの。
その際に必要以上に部を拡張しない事を父親と約束しているのだそうだ。
「ですので衣が卒業すれば麻雀部は事実上消滅し、その後在校生が必要に応じて再度立ち上げるという予定でしたの」
話は理解できた。咲が入部しているのも特例なのでこれ以上透華が父親との約束を反故にするようなことになれば、最悪麻雀部の解体もありえる。
それは透華の願うところではない。
「他の生徒の皆さんに納得しろなどとは言えませんが、これが私が出来る精一杯ですの」
事が事だけに公には言えないですがと、透華は申し訳無さそうな表情をしていた。
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龍門渕家の事情が垣間見えた一日であったが、それはそれとして麻雀部の活動の時間である。
今日は【来たるインターハイに向けて何をするか】の会議である。
「やっぱ特訓じゃねぇの?去年は俺たちの時間が取れなかったからやれなかったけど今年はやれるぜ?」
去年は麻雀部のために衣と透華以外の転校手続き・引っ越し作業などなどで、特訓らしいものは特になかったそうだ。
「特訓って言っても何するの?僕たちが強くなるためにたくさん麻雀するだけならいつもと変わらないよ?」
「それも大事ですけど、今年は他にもやることがありますわ?」
「ん?何かあったっけ?」
「分かりませんの?今年は咲さんがいるんですのよ」
「?」
「今年から部員が6人ですのよ。団体戦は5人チーム、あとは分かりますわね?」
「…そういうことか」
「合宿で行うのは個々人の能力の向上はもちろん、他校の研究、参加メンバーの選定などですわね。大まかな部分は咲さんにお願いすることになると思いますわ」
「任せてください。他校の傾向を調べて、その上で選べばいいんですよね?」
「うむ、咲に任せれば間違いないな!」
「流石に買いかぶり過ぎだよ衣ちゃん…」
龍門渕高校は前年度長野代表である。
衣という
それを阻止するためには個々人の能力を上げるのが最も確実。
衣の去年の宣言…今年こそ全国優勝を目指すために龍門渕は一分の隙も見せない。
そこで咲は情報収集が得意な、中学時代唯一の友人に連絡をとった。
「もしもし京ちゃん?ちょっと頼み事があるんだけど…」
次回(か次次回)、オーダー発表