翌朝
「おはようございます皆さん……………?!」
挨拶をするも、その声は虚しく周囲に広がるばかりだ。
異様に周囲の士気が低い。
辺りを見回すと、目がうつろな兵士達が多く、戦意の喪失を物語っていた。
「………………大王様が負傷なさったことが原因だろうな。
それほどまでに、大王様は、蕞の防衛には不可欠な存在、精神的支柱であったのだ。」
父さんは後ろでそう呟いた。
「…………こればかりはどうしようもないと。」
「ああ。 果たして今日を乗り切れるだろうか」
僕はため息をつくと、惰性で配置につく兵士達に交じり、配置についた。
こうして蕞は六日目の開戦を迎えた
東壁は父さんが四日目に梯子を焼いたため、南壁よりも登城兵が登ってくる拠点の数が遥かに少なかった。
南壁16つに対して、東壁は6つという寸法だ。
もっとも、李牧の本陣がある南壁に1番兵力が集中しているのもあるんだろうけど。
だが。
「と、父さん……………敵、いささか強すぎない?」
「ああ。 おそらく決めに来ているんだろうな」
李牧は大王様が負傷したうわさを知り、もう今日中に蕞を落とすつもりだろう。
温存していた精鋭を各地に投入したようだ。
蕞を落とせば、大王様も自ずと捕縛できる。
大王様を盾に咸陽に無血開城を迫れば良いから、敵には遠慮する手はない。
だが、それより問題なのは
「拙いな…………兵の士気が低すぎる。
このままでは…………。」
僕たちの持ち場は麃公兵のいない左隅であり、北壁に面する場所である。
咸陽に面し、敵の手が比較的薄い北壁からは、度々、100人単位の援軍が送られてきていた。
そのお陰で辛うじて助かってはいるんだけど、いかんせん兵士の闘志が低い。
東壁司令部のある、高楼も既に空だ。
壁三千人将が打って出たのだろう。
「ぐあっ!」
「おい令甚、しっかりしろっ」
「げはっ!」
父さんの周りの大人達は、蕞の予備兵が多いが、その予備兵達も次々とやられていく。
そして、ついに
「ああっ!」
趙兵の一個小隊が父さん達の小隊に半数をぶつけ、残りの半数を、真後ろの階段に到達させた。
「くははっ! やったぞっ」
兵士が降りようとした次の瞬間。
「「「「だ、大王様っ!?」」」」
一筋の光が蕞の東壁を照らす
大王様が、その怪我をおして鼓舞に駆けつけてくれたのだ。
「「「「うおおおおおおっ!」」」」
戦意を喪失していた兵士が息を吹き返した。
「よし、コレならなんとか…………!!」
父さん達の小隊に押し戻される半個小隊。
「よし、僕たちは階段を降りている敵の背を撃つぞ!」
「「おうっ!」」
父さんは蕞東壁民兵の残兵力5100のうち、1200人を統率している。
うち、僕は100人くらいを与えられていた。
その100人に僕は号令を出し、一気に階段を駆け下り、まさに城門を開けようとしていた半個小隊の背を撃つ。
「ぐはっ!」
「ち! あと少しだったのによ!」
すっかり勝利を確信した兵士は油断しきっていた。
東壁を塞ぐ巨大な石を持ったまま、僕たちの隊の餌食と化している。
「やめろぉおお!」
城壁から降ろされていた子供達もこれに合流して、敵を撃ち払う。
程なく、僕たちは半個小隊の殲滅に成功した。
「よし、塞いでおいてくれる?」
「うーん 難しいや。 重いし。 」
「ちっ。 手伝うよ」
蕞は六日目にして東壁から崩れるところだったのを危うく食い止めることが出来た。
僕たちは東門を改めて固く封印すると、戦場に戻る。
「はあっ!」
「やるな坊主っ!」
「なんのこれしきっ!」
押し込まれていた東壁を完全に押し返しにかかる。
そのうち、僕たちは麃公兵のいる部分まで押し返しにきていた。
「にしても、あのガキ兵、やるな。」
「ああ。 相当にな。」
一段と硬い鎧をまとった精鋭・麃公兵からそんな声が聞こえてくる。
そして、東壁は完全に持ち直し、蕞防衛戦六日目を終えた。
その夜
「章覇。 少し良いか?」
父さんが僕に話しかけてきた。
「何? 父さん?」
「お前は、蕞が落ちるとしたら、どこから落ちると思う?」
そんな質問を投げかけてきた。
「…………………北壁?」
1番兵力が少ない。 故に精鋭を集中させれば瞬く間に落ちるのが北壁だ。
「いや。 北壁の介億という大将は六大将軍随一の軍略家・胡傷の弟子の昌平君の側近で、妙な防城兵器を有しているし、配下の指揮官も粒揃いときている。
この東壁には麃公兵がいる。
南壁の飛信隊は言うまでも無くたたき上げられた精鋭。」
「つまり…………西壁が1番落ちやすい………と。」
「ああ。 風を摑まれているため、初日の東壁は苦戦していた。
それを考慮して、麃公兵が東壁に置かれたと考えるのが自然だ。
ということは、西壁は風を掴んでいるため、その分、他よりも配置された精鋭が少ないはずだ。
それに今日、1番早く前線に出陣したのが西壁の大将・昌文君様だった。」
「なるほど。 で、何故、そんな質問を?」
「章覇。今から馬に乗る練習をしてもらう。」
父さんからそんな意味不明な案が出た。
「は?」
「蕞には200頭の軍馬がいる。
明日、お前に兵200を分け与えるから、その200を率いて、西壁、或いは他の壁かもしれないが、階段を奪われたら即座にその方面に救援にむかえ。」
「で、でも兵士の数が…………!」
東壁の兵は、初日の9000から既に民兵4200、麃公兵400、壁隊100、総勢4700程度にまで減少しており、父さんが動かせる兵力も補充を受けて900余りしかいない。
「案ずるな。 大丈夫だから。
足の悪いこの父よりも、お前のが強いだろう?」
「…………わかりました。」
そして、僕は夜が更けるまで、馬の練習をさせられた。