名前ないのめっちゃ不便!!!
「まぁ!来てくれたのね。久しぶり!」
「ん。姫様久しぶり~。元気してた?」
爺さんに用事があるとかないとかで稽古が午前中のみだったある日の午後、私はとある少女の元を訪れていた。
同年代のオーガに比べたら比較的小柄な体格で、朱色の髪と二本の小さな白い角を持つ少女。
「わたくしはいつだって元気ですわ。貴女は?」
「勿論元気だよ。はいこれ差し入れ。朝急いで作ったから何時もより雑だけど・・・まぁ許して」
「何時も何時もありがとう。貴女の料理は本当に美味しいもの、何だって大歓迎よ。・・・
「・・・あ、あはは・・・。多分、無理じゃないかなぁ・・・?」
「お、それもしかしてあんたが作ったのか?旨そうじゃん俺も食べていいか?」
「「若サマ(お兄様)の分はありません」」
「ひでぇ!」
彼女――後の
◇ ◇ ◇
私が初めて姫様に出会ったのは確か4年前。
私がこの世に生を受けて12年と少したった日だったと思う。
当たり前のように厳しい稽古を受けたあとの昼休み、彼女が若サマのお昼ご飯をもってやって来たのだ。
原作知識で知ってはいたけど、あの若サマにこんなに可愛い妹がいるってのはちょっと信じられなかった。
私と5歳以上歳の離れた彼女だが、その後料理や裁縫の話で盛り上がって、ちょくちょく私が遊びに行くようになって今に至る。
裁縫に関しては姫様のほうが上手だが、料理の腕前に関していえば私のほうが上だった。
まぁいすれ姫様は『
まだ今の時点では上である私の料理を姫様は気に入ってくれていて、あげると本当に美味しそうに食べてくれる姫様はやたら可愛い。
この可愛い姫様が若サマの妹だなんて、やっぱり嘘だよ絶対。
姫様が入れてくれたお茶で一息付いた私達。
私が今日持ってきた料理も大好評(若サマがこっそり食べようとしていたのでそれ相応の対応をさせてもらった)で嬉しい限りだ。
「そういえば、この前作ってた着物は出来たの?」
「ええ。結構苦労したけれど、その分満足いくものが出来たわ」
見て見て、と嬉しそうに姫様が持ってきたのは、桜色の綺麗な着物。
触り心地バッチリの肌に優しい着物だ。
細部まで計算しつくされたそれは、姫様の裁縫の腕がよくわかる素晴らしいものだった。
「お~、流石姫様。私じゃこうはいかないよ。やっぱり織姫の名は伊達じゃないね」
私がそう言うと、姫様は嬉しそうに微笑む。
・・・可愛いは正義。本当にその通りだと思う。
「次は貴女の着物を作ってみようと思うのだけれど」
「あれいいの?」
「勿論!貴女からはいつも料理を貰ってばかりだから、ちゃんとお返ししないと」
「んーそんなに重く考えなくていいのに。でもありがとね、楽しみにしてる」
「ええ。きっと素晴らしいものを作ってみせるわ」
うむ。
いいねぇ、なんか妹みたい。
とにかく騒がしい私の周りにおいて、姫様は唯一の癒しである。
◇ ◇ ◇
それは、今から4年ほど前の日でした。
お兄様にお昼ご飯を渡すため、お父様に聞いて初めて稽古場に行ってみたのです。
私は余り人前というのは得意ではなく、この稽古場にも私の知らない人がいるようだったので、用事が済んだらすぐに帰るつもりでした。
木と木の間から様子を覗いてお兄様を探してみます。
お兄様は、知らない人と手合わせをしているようでした。
私はお兄様の実力はよく知っているつもりでした。
お兄様はまだお兄様の師匠である爺ややお父様には敵わないけれど、いつか里の長になる者として認められるだけの実力は持っていましたから、そのお兄様が剣で少し歳上らしき女性に押されている様子を見たときは信じられず立ち尽くしてしまいました。
その時です。
「・・・?誰だ?」
私の存在がバレてしまいました。
恐る恐る見てみると、そこにはお兄様と同い年くらいの蒼髪の少年がいました。
私はこの者を知っていました。
確かお兄様の友人でライバルである者です。
「・・・こんにちは」
「・・・!姫様でしたか」
蒼髪さんも私を知っていたようでした。
それもそうでしょう。私は次期長であるお兄様の妹であり、お兄様よりも上位の巫女なのですから。
「このような場所に一体なんのご用ですか?」
「・・・お兄様に、お昼ご飯を持ってきたの」
「そうですか。なら申し訳ありませんが少しお待ちください。あの手合わせもそろそろ終わる頃ですので」
それ以降蒼髪さんは口を開くことなくお兄様達の手合わせを見ていました。
何故もうすぐ終わるとわかったのでしょう?
気にはなりましたが、人見知りの私には、よく知らない相手に質問する勇気はありませんでした。
蒼髪さんの言う通り、手合わせはすぐに終わりました。
一際甲高い音が響き、お兄様の持っていたはずの刀が弾かれたのです。
「フッフッフッ・・・。これで、私の267勝だね!」
「くそっ今日はいけると思ってたのに」
「まだまだ甘いですな若。これは、暫く若だけ訓練二倍にする必要があるかもしれませんのぅ」
「ゲッ・・・」
「頑張れ若サマ!」
「流石姐さんです!かっよかったです!!」
「・・・うん、ありがと。でもあのね、そろそろその姐さん呼び止めて欲しいんだけどなぁ・・・」
「姉さん、昼休み終わったら次は俺とやろう」
「お、やる?いいよいいよ、弟だからって遠慮はしないからね?」
途端、お兄様の周りが賑わい出しました。
お兄様にあおみどり髪の女性、爺やに蒼髪さん、それから紫髪の女の子。
お兄様の修行仲間なのでしょうか、なんやかんや言いながら仲の良い様子が見受けられました。
・・・いいなぁ、なんだかとっても楽しそう。
「ん・・・あれ、お前なにしてんだ?こんなとこで」
そこでお兄様は私に気付きました。
此方に歩いてくるお兄様に駆け寄り、手に持っていた荷物を渡します。
「どうした?」
「これ、本日の昼食です。お兄様、持って出るの忘れてましたよ」
「うわマジか。ワリィなわざわざ」
「いえ。・・・では、わたくしは帰りますね」
「おう、気をつけて・・・」
「ちょっと待ちな姫様」
私を制止する声が聞こえ、そちらを見てみると、発言したのはどうやらあおみどり髪さんのようでした。
「・・・わたくしに、何か用?」
「いや、特に用はないけど。折角だし、お昼皆で食べようよ。今日は私沢山作ってきてあるからさ」
「え」
本当にびっくりしました。
まさか、わたくしが誘われるとは思ってなかったのですから。
次期長の妹であり、オーガの巫女であるこのわたくしが。
でも同時に・・・少し、嬉しかったのです。
このように誘ってもらえるのは初めてで。
まるでわたくしを受け入れてくれているような、そんな気がしたのです。
あの日から、わたくしの世界は少しずつ広がっていきました。
お兄様と蒼髪さんはあおみどり髪さんを越えるため日々練習を重ねていますが、未だに勝てたことはないそうで、いつも悔しそうにしています。
現在ではわたくしを守る役になっている紫髪さんは以前あおみどり髪さんに助けてもらったことがあるらしく、それ以来姐さんと呼んで慕っているそう。
爺やは剣を扱えない私に、柔術を教えてくれました。
まだ上手には扱えないけれど、いつかお兄様達の隣で戦う日が来てもいいように頑張るつもりです。
あおみどり髪さんの料理はとても素晴らしかったです。
私も料理には覚えがあるのですが、あおみどり髪さんには敵いません。
剣も強く料理も上手いとは、あおみどり髪さんはとても凄い人です。
引きこもってただただ織物をしていたあの頃とは違う。
わたくしは今、優しい友人達と共にとても楽しい日々を過ごしています。
次は!多分!若サマ!!