正直、読む前に連載を始めたことを後悔しました。
てな訳で変更点です。↓
・『熱変動耐性ex』からex を抜きました。
・『思考解読』を『思考読破』に変更しました。
・No. 2に朧流のワードを追加しました。
・No. 3に登場したグレンダの名前をガルマーに変更しました。
・No. 4に、「シュナ様はオーガの里の巫女である」、「シオンはシュナ様を守る役に就いている」という要素を追加しました。
ちょっとの変化ではありますが、理解していただけると嬉しいです。
もし変更し忘れがあったら教えてもらえると助かります。
遂にこの時が来た。
紅髪の少年オーガは、今目の前にいる眠そうな宿敵を見てニヤリと笑う。
一年前からゆっくり進行してきたこの計画。
今まで599回味わってきた屈辱を、今日こそは。
「絶対に勝つ・・・!」
◇ ◇ ◇
今日の私は何時もより機嫌が悪かった。
弟に何時もより1時間も早く起こされたのだ、当然だろう。
弟にはそれ相応の対応という名の仕返し(つまりは朝食抜き。紫髪ちゃんにでも作って貰えばー?)をして少しは気が済んだものの、やはり睡眠が足りないというのは私にとっては大問題のようだ。
自慢じゃないが、私は夜に強い。
・・・ちょっと誤魔化してみた。
正しくは朝に弱い、である。
朝から昼にかけて、太陽が南の空に登っていくまでの時間はまだ寝る時間だと思う。
だって眠いし。
人間の三大欲求のうち、オーガになったことで睡眠欲が大幅に上昇した気がする。
修行とか何らかの予定がなければ大抵12時位まで寝てるし。
いやまぁ確かに、ちょっと寝過ぎたかなーって思うこともしょっちゅうだけど。
よく寝坊して弟に怒られるけど。
だからって、一時間も早く起こされなければならない意味とは。
そんなことを考えながら、私と弟は何時もよりずっと早く修行場に向かっていた。
大きな楓の木。
このオーガの里のシンボルとされている綺麗な木の前の広場が、私たちの修行場だ。
木々の葉が朝日に照らされてキラキラと輝いている。
・・・ふーん、ここって、朝はこんなに綺麗なんだ。
初めて知ったな。早起きもたまには悪くない?
いや、やっぱ悪いな。寝る時間が足りなくてまだ頭がよく回らない。
『痛覚無効』のおかげで頭が痛いってことにはなってないだけマジなんだけど。
朝の空気を思いっきり吸い込んで伸びをする。
「お、来たな。待ってたぜ」
不意に声が聞こえ、そちらの方を見てみると、そこにいたのは。
「若サマ・・・?」
「おう。ちゃんと約束通りの時間だな」
「一応約束だからな」
約束?
弟は若サマと私を一時間早く連れてくる約束をしてたってこと?
なるほど、意味がわからんが私の睡眠不足は弟だけでなく若サマのせいでもあるらしい。
若サマ、許すまじ。
でもなんでこんな早く?
「よくわかんないけど私になんか用?」
「ああ。今日こそは、なにがなんでも勝たせて貰うからな」
「は・・・どゆこと?」
「・・・お前、本当に頭回ってないな。朝弱いのは知ってたが・・・。まぁちょうどいいか。今から俺と模擬戦しようぜ」
模擬戦?
・・・あぁ、理解。
正攻法じゃまだ私には勝てないから、私が朝弱いのを利用して少しでも有利に立とうってとこか。
なんか意外。
正々堂々戦って勝たなきゃ意味ねぇ!とか思ってそうなのに。
今のところ私と若サマの戦績は、599戦599勝だったかな。
次も勝ったら600勝だ。
もしかして600連敗はプライドが許さない的なあれかな?
まぁいいか、実際まだ頭回ってないし、そんなに勝ちたいのなら適当に流して負けてあげようかな。
「いいよー、じゃあやろっか」
「随分軽いな・・・。絶対負けない自信があるのか?」
「んー?まあ本気だせば負けないだろうけど、別に勝ち負けに拘ってる訳じゃないし、今回は適当に終わらせるつもりだからさ」
そう言った瞬間、若サマ目付きが鋭くなる。
あっちゃ、もしかして怒らせちゃったかな?
まぁ、若サマに勝たせてあげればきっと怒りも消えるでしょ。
大丈夫、なんとかなるなる。
「・・・絶対後悔させてやる」
「あ、そう。頑張れ」
こうして私と若サマの600戦目の模擬戦が始まった。
迫り来る刀を受け止める。
受け流したりかわしたりするよりも受け止めるほうが頭を使わなくて良いから楽なんだよね。
「ッチ。朝で手ェ抜いてこれかよ」
若サマの舌打ち。
ちょっとそれは語弊があるな。
私は何時もの手合わせの時だって本気だしてないよ?
実際ユニークスキルは使ってないし、一番得意な型も使ってないし。
でもそれは師匠と私の手合わせみてたらわかる気がするんだけど・・・うーん。
にしてもやっぱ眠いな。若サマはこんな朝早くて眠くないのかな?弟も。
早めに終わらせて少しでも寝るか。
じゃあバレないように慎重に負けてやるとしよう・・・っておっとこれは?
一度中斬りを放ち、素早く刀を持ち帰る。
そして放たれるのは、タイミングの狂った変幻自在の一撃。
時雨蒼燕流攻式五の型、五月雨じゃないですか!
私が昔教えた、五月雨モドキ。
実戦で使えるようになったんだねぇ。
ちょっと感動だよ。若サマも強くなったね。
まぁ、私にかかれば避けられないものじゃなかったけど。
五月雨を上手くかわして、満足して気が抜けた瞬間。
背後から迫り来る、ナニカの気配。
「ッ!?」
本能と微かに感じた反応に従って降り向きざまに刀を振り上げる。
カキーンと心地よい音がなり、私と若サマの刀が打ち合ったのがわかった。
「マジかよ・・・」
若サマの呆然とした気配がするが、私はそれどころじゃなかった。
嘘・・・何時の間に?
『魔力感知』でも感知しきれなかった。
まさか今の・・・“隠行法”?
まだ荒削りって感じではあるけど・・・一体何時の間に使えるようになったの?
今までの手合わせでは全く使ってなかったのに。
そういえば、何時もより技のキレも増してる気が・・・。
そこまで考えて、ある予想が私の頭をよぎった。
そして考えれば考えるほど、それが答えだとしか思えなくなってくる。
弟と若サマの約束、600戦目の手合い、初めて使われた“隠行法”。
まさか・・・。
かなり前から私を倒すために計画されてたってこと?
出来ることは全てやって、確実に私に勝つために?
わざわざ朝早い時間にしたのは、私が本気でやれない時間だからってだけじゃなくて、私にこの計画がバレないようにするため?
そこまでして、私からたった一つ白星が欲しかったってこと?
なにそれ。
なんなのそれ。
面白すぎるじゃん!!!
自分の顔がにやけていることを自覚する。
一体何時からこの計画を立てていたのだろうか。
私を倒す、ただそれだけのためにどれだけ若サマは頑張ってきたのか。
考えるだけで楽しくなってくる。
後にベニマルとして魔王の右腕を担う彼にとっては通過点でしかないであろう私に、そこまでしてくれたことが嬉しい。
ついさっきまであった眠気なんて、とっくに吹っ飛んでしまった。
ごめん、若サマ。私は君を見くびってたみたいだ。
そこまでして本気で勝ちに来てる相手に、適当に終わらせるとか失礼にも程があったね。
あまつさえ、負けてあげてもいいやとか・・・ごめん、私がバカだったよ。
よし、今までのお詫びとして、本気で相手をしよう。
正真正銘、私の全力で。
だから・・・勝てるものならやってみなよ。
「いくよ、若サマ」
『
『
『
私の身体のどこか一部が相手に触れていればいいのだ。
朝早いという最悪なコンディションなどお構いなしだ。
頭は既に冴えて来ている。
大丈夫だ。問題は無い。
『思考読破』で若サマの攻撃を読み、捌ききる。
私が『
あとは相手に負けを認めさせるだけ。
狙うは、完全勝利だ。
◇ ◇ ◇
「いくよ、若サマ」
そういった瞬間、相手の纏う雰囲気が変わった。
「!?」
今までのどこか抜けた空気感から一転した、感じたこともないようなオーラ。
気を抜けばその雰囲気に押し潰されてしまいそうだ。
観戦していた彼女の弟である蒼髪も、その圧倒的なオーラに息を飲んでいるのがわかる。
紅髪は理解した。
今目の前にいる彼女が、自分相手に本気をだそうとしていることを。
そして、初めて彼女こ本気を引き出せたことに歓喜する。
この計画の目標の一つが達成されたことを意味していたから。
残る目標は勝つことのみ。
紅髪は今まで以上に集中して相手と対峙する。
一挙一足、その全てを見逃さないように。
そして、少しの綻びを見つけたその瞬間、
「もらった!」
紅髪はとびだした。
それが、相手がわざと作った隙であると気付かずに。
一気に間合いを詰める。
そして一気に刀を打ち下ろす。
しかし、その攻撃はかわされた。
諦めずに何度も攻撃を繰り返すが、どれも全て避けられてしまった。
なにかがおかしい、でもなにがおかしいのかわからない。
何時もなら受け流したりするような攻撃も全て避けきる彼女を見て思う。
しかしその雑念とも呼べるそれが頭をよぎったその一瞬、彼女は動き出していた。
気付いた時には、身体が宙に浮く感覚。
慌てて地面に手をつき、受け身をとる。
どうやら、足を引っ掻けて転ばされたようだ。
ゆっくりと紅髪を見やるあおみどり髪。
急いで立ち上がり、ふと自身の『魔力感知』が切れていることに気が付いた。
何時もよりも視界が狭くなっていたのだ。
それは、『魔力感知』ではなく自身の目のみで周りを見ている証拠。
不思議に思いながら改めて起動させようとした。
しかし、紅髪の顔は驚愕に染まることになる。
(『魔力感知』が無くなってる!?)
あり得ないはずのことに呆然とする。
ついさっきまで使えていたはずのスキルが無くなるだなんて。
相手の顔を見ると、相手は紅髪を見つめニヤリと笑う。
決定だ。確実に彼女になにかをされた。
「おい・・・一体なにをした?」
「さぁ、なんだろうね?」
楽しそうに笑い、刀を構える彼女。
そして。
「・・・時雨蒼燕流 攻式八の型――」
――篠突く雨。
それは、今まで見てきたどの型よりも鋭く、力強く、美しかった。
紅髪の目のみでは決して追い付けない――いや、『魔力感知』すら反応しきれないだろう速度で放たれたそれは、彼と彼女の圧倒的な実力の差を否応なく見せつけてくる。
刀は彼の喉元寸前で止められ、その風圧が紅髪の頬に薄く傷をつける。
紅髪の600連敗が決まった瞬間だった。
◇ ◇ ◇
静寂が訪れる。
若サマの攻撃を全て捌き、隙を見て足払いを仕掛けた。
その足と足が触れた一瞬に全力で『借用』を発動させ、若サマから『魔力感知』を
最後に、私が今使える最強の剣技――篠突く雨モドキ――で叩きつけた。
誰もが認めるであろう、私の完全勝利であった。
ゆっくりと刀を喉元から放し、鞘に納める。
『借用』した『魔力感知』を返すと、若サマは驚いたように私を見た。
「・・・姉さんの、勝利だ」
我に返ったらしい弟がそう宣言した。
途端にその場に響く拍手。
戦闘中で気付かなかったが、いつの間にか紫髪ちゃんと姫様が来ていたらしい。
「あそこまでお兄様に圧勝するなんて・・・さすがね」
「私は姐さんが勝つと信じてました!やはり姐さんは最強です!!」
「見事だ、姉さん。予想以上だった」
それぞれ私の勝利を褒めてくれた。
いやぁ、そうやって褒められちゃうと照れるな・・・。
そして、負けてしまった若サマはというと。
刀をゆっくりと下げて、上を見上げていた。
「勝てなかった、か・・・」
何時ものように叫ぶのでもなく、泣き喚くのでもなく。
ただ一言、ポツリと小さく呟いた。
・・・きっと、今日のこの勝負にかけてたんだろうな。
出来ることは全部やって、格上の私に絶対に勝つために。
それがわかるからこそ、なんて声を掛ければいいのかわからなかった。
・・・いや、もしかしたら考え過ぎなのかもしれないな。
今の彼に慰めなど無用。
今の私が彼に言えるのはきっとこれだけだ。
静かに若サマの前に立つ。
そして、右手を差し出した。
「楽しかったよ。またやろうね」
それは、紛れもない私の本心。
だって、本当に楽しかったから。
若サマは目を見開き、私を見つめた。
少しの間を経て、彼は嬉しそうに「おう」と言って、私の右手を握ってくれた。
その目がうっすらと潤んでいたことは、見なかったことにしてあげようと思う。
この話では、小説版を元に書いていこうと思っています。
これからもよろしくお願いします!