なげぇ…長ぇよぉ……
では、どうぞ御ゆるりと。
貴方の望みは?
貴方の願いは?
何故にと問います。故に答えなさい。
私は貴方を知りたい。
ここは何処か分からない白の砂浜。いつの間にか居た一夏は、
これはまたいつの間にか居た白い少女と静かな時を過ごしていた。
しかし、突如白い少女は言う「呼んでいる」「行かなきゃ」と。
「え?呼んでいるって、誰がだ。…あれ?」
一夏は少女が言った事に疑問を投げ掛けるがそちらに向くと誰もおらず、まるで最初から
誰も居なかったかの様にこの場は波と風の音しかしなくなる。
彼はよく分からず左右を振り向くが人影は見当たらない。誰も居ない。
疑問に思いながら、とりあえず海から上がろうとした彼の背中に声を投げかけられた。
「力を欲しますか?」
「え…」
誰も居ないこの場に突然問いかける声に一夏は急いで振り返ると、波の中―
先程の白の少女に合わすかの様に、彼女も白―白く輝く西洋
大きな剣を自らの前に立て、その上に両手を預けている。しかし、顔は目を覆うフェイスガードによって下半分しか見えない。
その騎士はもう一度、一夏に問いかけた。
「力を欲しますか?それは…何のために?」
「ん?ん~あ~…難しい事を
彼は女性の何処となく漠然とした問いかけに首を
内容が内容だけに取り留めなく浮かんできた事を口に出した。
「…そうだな。家族?友達?―――うん、仲間だ。仲間を守るためかな」
「仲間を…」
「そう、仲間をな。何て言うかさ、世の中って結構色々と戦わないといけないだろ?
物理的だけじゃなくて精神的にとか経済的にとか、色んな面でさ」
一夏は問い掛けられて纏まっていない事を話しているつもりなのに妙に
少し驚きながらも喋り続ける。
と、同時に「自分はそう思っていたのか」と自身の無意識を自覚していった。
「そういうのって…さ。不条理な事も多いじゃんか。道理のない暴力や押し付けって結構多いぜ?そういうのから、出来るだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う――仲間をさ」
「…そう「あぁ、そうだったんだな」…他にも何か?」
女性が静かに答え頷きかけた時、一夏は自らの言葉に何か見出したのかソレを続けて彼女に告げた。
「いや、さぁ?確かに
「…貴方が師匠と呼ぶ人物ですか」
彼の言葉を聞き、その誰かを問いかけると力強く頷いて返答がくる。
「そっ。師匠を慕うアイツ等を思うと正しく俺がやりたい事をしてきたんだって分かるんだよ。
だから…俺は決めたよ」
「何を…ですか?」
「千冬姉より師匠よりも強くなりたい。
そして…守るのも、世界中の人を守る何てたいそれた事は言えねぇし出来ないし、
けど自分の握れるほどなんてタカが知れてる。だから、俺は両手で抱えきれないほどの人、
仲間達を守りたいんだ」
「それが貴方の力を欲する理由、そして決意なのですね」
凛とした雰囲気であった女性が何処か柔和な雰囲気となり、一夏に聞き返すと彼は「あぁ!」と再び力強い返答がきた。ただし、「まぁ、師匠に『俺の様には成るな』って言われているけどさ」と少し困った様な感じで締まらなかったが。
「だったら行かなきゃね?」
「え?」
また後ろから声を掛けられ振り向くと、白の少女が立っていた。
「ほら、ね?」
無邪気な人懐っこい笑みを浮かべ、一夏をじっと見つめながら手を差し延べている。
彼はひどく照れくさい気持ちに成りながら「ああ」と頷き少女の手を取った。
「それに応援してくれている人も居るみたいだよ?」
「?…それって、あ―――」
一夏の手を取った少女はそう言ってある場所を指差し、彼はその先へと視線をやる。
そこには純白のメガスラッシュエッジが
彼はそれを用意してくれた人を思っていると――空と海、いや世界が眩いほどに輝きを放ち始める。
何かと思うが真っ白な光に抱かれて、目の前の光景が徐々に遠くぼやけていき、彼は夢の終わりなんて言葉が不意に思い浮かぶ。
(あぁ、そういや…)
その終わりに一夏はこれもまた不意に思う。あの女性は誰かに似ていると。白い―騎士の女性。
戦いの定石とは一体なんであろうか。RPGであるならば補助・回復役を先に潰せ、
リーダーを潰せ、そして真っ先に思うのは…弱い奴から潰せ、だ。
「はぁああ!!」
『……!』
これまで長引いている銀の福音との戦いはまた変化していた。
敵は増加した戦力を考えみて、ある決断を下す。
それは、一番弱いと推定できる者から墜とす事であった。
その標的とされたのは箒、銀の福音から見て最弱だと判断されたのである。
事実、箒の紅椿は最新鋭機であるが
経験が足りない事である。
武器――いや、道具全般に言える事であるが道具のスペックを最大限まで引き出すには
使っている道具に対する知識と経験がモノを言うのは間違いない。
例えば、カッターで何かを切る事に対しても素人と普段使い慣れている人と比べれば目に見えて分かるだろう。
そして、ISはISコアと装着者の相互理解がモノを言う部分がある。
それならば、此処に居る誰よりも箒と紅椿は劣っていた。…彼女らの出会いはまだ一日も経っていないのだから。
「ちぃ!?(紅椿っ、スマン!まだ頑張ってくれるか!?)」
現在は箒と福音が互いに回避と攻撃を繰り返す格闘戦へと移行している。
新たな戦力に福音は不意を突いて負傷している側へと攻撃を移した。
多分、敵勢力の確実な排除と場の混乱を狙ったのであろう。
不意を突かれ逃げられた鞘華達は追いかけるが、戦いの最中また成長した福音は
自分を中心として動かす事を身に付けた。
箒以外の負傷していた皆は残存SEを顧みて羽の結界に飛び込む事も出来ず、鞘華達も牽制の為に放たれる乱反射攻撃に阻まれている。
無論、箒もタダではやられはしない。紅椿は状況を見て本来の武装である、ふた振りの刀を箒に持たせた。
斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつける『
今まで借り物であった武装とは違い、これは箒と紅椿専用の武装だ。
即ち、一番実力が発揮できる武器である。
しかし、それは
「!(まだ…だ!まだ保たせてくれっ、紅椿!!)」
ふた振りの刀は端から僅かに粒子が立ち上り始めていた。
これは福音と初めて戦った時にも起こった
紅椿の特徴である
その為、今回は事前に機能を制限して省エネを
むしろ、この連戦で既にSEは枯渇してきている。
それこそ、刀の能力を使えば尽きるほどに…
「ぐぅっ…がはぁっ!?」
『……』
福音の貫手を交差させた刀で防ぐが、その拮抗は一瞬であった。
恐れていた具現維持限界が起こり、そのまま伸ばされた貫手が広がり箒の喉を締め上げる。
SEが尽きかけている紅椿にはなすすべがなく、彼女の薄れゆく意識は自分が福音の羽で包まれ
トドメがさされる現実と走馬灯を見せた。
脳裏に今までの嬉しかった、怒っていた、哀しかった、楽しかった想い出がごちゃ混ぜに流れてゆく。
その最後の方に映るのは二人の人物、身を挺して守ってくれた一番新しく頼りになる男の人…
「
古い記憶から何時も求めていた男の子…そして、今一番に会いたい人、
「いち、か……」
友が何か叫んでいる、新しい仲間が足掻いている。
何もかもが手遅れになった、終わったと思った時…来る。
『ギィイィイィィィィ…!?』
(な、何が起きて…)
突然、福音は箒から手を離した。解放され息と意識が戻った彼女は信じられないモノを見る。
強力な
戸惑う箒も唖然とする皆も粒子砲が来た方向へと目を向ける。そこには、
「俺の仲間は…絶対にやらせねぇえ!」
皆が、何よりも箒が願い思って
「「「一夏!!」」」
白く輝く機体を身に纏った一夏が!
「い、一夏…一夏なのだな!?体は、傷はっ…!」
「おぅ!待たせたな。あー、泣かせちまったか?後で師匠にどやされるな…」
「な、泣いてなどいない!この馬鹿者がっ…」
涙が溢れるのを誤魔化すかの様に目元を拭う箒に、一夏は優しく頭を
本当は心配している筈なのに強がりばかり出てくる様子は彼女らしいと彼は思う。
しかし、何時もの髪型でないのが少し気になり持ってきた物を手渡した。
「ちょうど良かったかもな。これ、やるよ。誕生日おめでとう」
「これ…は、リボン?誕生日…あ」
今日は七月七日-箒の誕生日であった。
朴念神ゆえに自分の誕生日などは忘れいるだろうと思っていた箒は驚きながらも素直に受け取る。ちなみにこれはシャルロットによるアドバイスによって決まったのが、彼らしいところなのだが。
「じゃあ、行ってくる!」
「あぁ!行って終わらせてこい!」
一夏は箒に笑いかけてそう言い、彼女も彼にそう檄を飛ばした。
「さぁ、再戦といくか!」
《
だが、
左手に現れた新兵器《
福音は咄嗟に片腕のビーム翼で防ぐ。
雪羅は複合武装であり、先程の荷電粒子砲や指一本一本にエネルギー刃を形成しクローモードとする事も出来る。
「防がれたっ、ならこうだ!」
『…!?』
防がれた事を瞬時に判断した彼は防がれた腕で自分を押し下げるように動かし、福音の下を潜る様に動きオーバーヘッドキック、その反動で上体を起こす途中で捻りを入れ瞬時に回し蹴りへと繋いだ。
しかも、今の白式の足の甲にはメガスラッシュエッジのショートアックスが取り付けられており威力が増している。
『敵機の情報を更新。攻撃レベルAに上昇させ対処』
福音は復活した一夏と白式を驚異と認め、彼らを最優先排除目標とした。回りに漂う羽の結界を全て彼に向けて放出し、即席の掃射反撃にする。
「そう何度も喰らうかよ!白式!!」
『――雪羅、シールドモードへ切り替え。相殺防御開始』
甲高い変形音を鳴らし左腕の雪羅が変形、そこから光の膜が広がり、撃ち放たれ当たった羽は
これは雪羅の武装の一つ-エネルギー系を無効化する
当然エネルギー消費は激しいが、エネルギー系攻撃を完全無効に出来るのは福音相手にとっては大きなアドバンテージとなる。何せ、福音には実弾兵器が一切ないのだから。
「お返しだっ!月輪で上へ回してくれ!!」
彼の両肩、両脇にはそれぞれアンロック式の三日月状のウェポンラックが存在する。
このウェポンラックに備え付けられた武器は三日月状のガイドレールによって自在に動く。
今、備え付けられている武器はそれぞれメガスラッシュエッジのライフルである。
既にブラスターモードへと変形させており、背後から上へと回されたメガスラッシュエッジはショルダーキャノンの様相で粒子砲を撃ちだした。
自分の攻撃を無効化され、追撃を受ける事になった福音は一時的に回避を優先しようとしたが
白式を振り切れない。
白式の第二形態移行はスラスターも強化されている。メガスラッシュエッジのロングソードやショートアックスを制御翼として使用する事も可能な大型複合式三連ウィングスラスターとなっていた。
これが備わった白式は
複雑な動きをする福音も、常に最高速での回避が可能な訳ではない。
今の白式であるならば十分過ぎる程に追いつける。
『状況変化。現状-最大攻撃力使用』
福音の機械音声がそう告げると、それまでしならせていた翼を自分を包むように折り畳み始めた。
一夏はそれに嫌な予感がするが、呆気なく霧散する事になる。
『…!?!?』
「全く、驚き過ぎてつい見物してしまったじゃない」
「あぁ、無様な姿を見せてしまった…」
「あっ、やほ~。君が新しいお兄ちゃん候補?」
「主人公は良いとこ取りするのがお約束」
怒涛の展開について行けずに止まっていた助っ人達―コトブキカンパニーの面子による一斉掃射によって福音の行動は阻害された。
「雄貴さんに頼まれたのは助っ人。なら、決着は貴方が付けなさい」
「ああ、助太刀感謝するぜ。ええと、」
「鞘華よ。あっちはフィロとマドカ。詳しい事は全て終わってからよ」
「やほほ~♪」「ふんっ…」
「よろしく頼むぜ」
「あと、●漏…今回、一番先にイった故に。それはともかく、アッチからも何かあるって」
「素子先輩っ、いい加減下ネタで呼び掛けるの止めてくれねぇか!?」
一夏は鞘華の紹介により現状の戦力を確認できた。
しかし、微妙に気になる。鞘華は更識姉妹によく似ている様な気がするし、機体の元ネタを模したバイザーをつけているマドカも何処かで見たような気がする。しかも、割と身近でだ。
そんな
「くぅらああ!一夏ぁあ!!アンタ、あたし達を庇おうとしたわね!?
自分の身は自分で守れるっつーーの!!余計な心配はせずにさっさと片付けちゃいなさい!!」
鈴の怒鳴り声が通信にも海上にも響き渡り彼を一喝する。彼女は腕を組み無い胸を張ってこちらは平気だと表し、他の負傷組も頷いてそう答えていた。
「…良い仲間じゃない」
「あぁ!鈴!箒!みんな!!分かった、行ってくるぜ!!」
仲間を信じる事しか出来ない、そんな不甲斐なさと何処からか来るか分からない頼もしさが一夏の心を奮い立たせる。
そして、彼は十千屋が紡いだ縁も信じて彼女らと共に再度福音へと飛び込んでいった。
「織斑先生!こんどは織斑君が!織斑君が!?」
「分かってる。だから、そんなに揺らさないでくれっ山田先生!」
福音との戦いを見守ってた旅館の臨時司令室だが、
山田先生は既に心の余裕を無くしており、千冬は動揺を顔に出さない為に必死になっており
無表情をきめている始末。
「織斑先生!やはり部屋には織斑君は居ません!!」
「だろうな…白式から送られてくるバイタルはどうだ?」
「戦闘に因る軽い興奮状態でありますが、それ以外は正常です。
いえ、正常なのが異常なのですが」
「…帰還したら精密検査が必要だろうが、現状問題ないなら良い」
福音と戦っている一夏が本人であると確認できると千冬は少し安心する。
が、内心では病み上がりでの戦闘など言語道断と怒り、逆に理由は分からないが一夏が復活したのを喜んでいた。
ただし、帰ってきたら必ず説教すると漆黒の意思に染まってはいたが。
「織斑先生、篠ノ之…
「十千屋、若しくは束で」
…束博士の無人機の誘導によって十千屋さんが居ると思われる海域に到達しました」
「了解した。そのまま捜索を…「 ! クラス代表選の時の無人機を確認!?」なにっ!?」
一方で十千屋捜索も進展があったようだ、悪い方向にだが。
束の無人機を追いかける事を命じられた教員は打鉄を一機借りて十千屋捜索を行っていた。
やはり、海流に流されたのかと無人機を追いかけて福音と戦った所から離れた場所を飛んでいると、クラス代表選の時に襲ってきた無人機が数機かたまって浮遊しているのを目撃する。
運が良かったのか、あちらはまだ気づいていない様子だ。
「ちっ、もしかすると撃墜された十千屋を回収するために現れたのか?
束!お前の無人機で迎撃できるか!?」
「モチのロン!とーちゃんには装甲一ミリ単位以下も触れさせねーぜ!
…て?あり??海中に居るはずのアントの信号が途絶えた?」
「なに?」
「きゃぁあああぁあああ!!?!」
「今度は何だ!…な、」
海中から幾つも何かが伸ばされ、それは敵性無人機や束の無人機を絡めとり海中へ引きずり込んでいった。
異様な光景に誰もが唖然としていると、引きずり込まれた地点から何かが浮かんでくる。
機械をバラバラにした後にグチャグチャにして丸めたような物がユックリと浮かび上がってきたのだ。
「こ、これは…一体なんなん「ふふ…」十千屋夫人?」
「あはっ…」「かーちゃん?」
理解も出来ない状況で誰もが黙り込んでいると、急に含み笑いが聞こえてくる。
その方向に目をやると声の主はどうやらリアハの様だ。
この状況で笑いだした彼女に不気味に思いながらも千冬は尋ねる。
「うふふ…あははっ…」
「と、十千屋夫人。一体どう」
「アハハハハははあっぁあhははぁhhァはハハッ!
はhぁあっハハハはぁははぁははああああahaHAahHHH!!
ははははぁははハHァHhァhァh!!!
ははははあぁははぁあははははあ!!!!」
狂った様に…いや、実際に狂っているのだろう。狂気の歓声をあげるリアハに束を除く誰もが恐怖する。
「ユウさん!あぁっユウさん!!
貴方を愛して良かった!貴方に愛されて良かった!
貴方は何が起こっても私の元に帰ってきてくれる!!
焼かれようが
その身が化物になろうが帰ってくる!!
愛してます!全身全霊、愛してますっユウさん!!!」
そう言うとまた狂ったように笑い出す彼女に回りは恐怖、畏怖、嫌悪など様々な感情に支配される。唯一の例外は束だけだ。彼女もあの不気味な物体を見て輝かしい笑みを浮かべている。
だが、重要なところはソコではない。リアハは何と言った。あの物体を見て何と言った?
「…くそっ、頭が追いつかん。アレが
状況はあざけ笑うかのように刻一刻と変化する。こうしている間にも一つの戦いが終わろうとしていた。
一夏とコトブキカンパニーの助っ人、合わせて五人は有利に福音との戦いを進めていた。
素子のFA:G アーキテクト以外は全て高機動の機体であり、一夏の白式、
鞘華のフレズヴェルクは相手のエネルギー系攻撃を完全に防ぐ事が出来る。
だが、福音は敵が強ければ強いほど、集まれば集まるほど攻撃を過激化してゆき一歩も引かない不気味な強さを見せつけていた。
「白式!早いだけじゃ駄目だっ、オールレンジモードに切り替えてくれ!!」
「あー、アタシのマネっこだー!?」
「フィロっ、言ってる場合か!?」
「それよりも
「童●の早●ゆえに出しきるのも早い」
白式は一夏の要望に答え両肩それぞれの三連ウィングスラスターは三分割され、それぞれ肩・腰・
そして、スラスターの両側面からサブスラスターが飛び出しす。先程よりも最高速度は劣るが
機動性を重視したオールレンジモードへと変更を完了した。
分割されたスラスターを見るとフィロが自分の機体:バーゼラルドの真似と言い出し茶化すが、実は一夏達も余裕が有るわけでもない。
特に白式の欠点と言われるSEの大量消費癖は第二形態移行した後も変わらない。
寧ろ、スラスターの数が増えたぶん以前よりも深刻かもしれない。
だが、絶望はしてない。いや、しない。誰もが絶対に勝つと胸の内の炎を燃やしている。
そして、ここにも心火を灯す者がいた。
(一夏が駆けつけてくれた!)
そう、箒である。嬉しいという感情は既に飛び越えていた。心が熱を持ち跳ねる、躍動する。
そして、戦う一夏達…いや、彼を見て何よりも強く願った。
(私は思っていたじゃないか!隣に立ち共に戦い、あの背中を守りたいと!!)
ISを紅椿を願ったのはその為ではないかと、強く、さらに強く、彼の姿を見続ければ続けるほど願いは強くなる。
彼女の願いを汲み取るかの様に紅椿の展開装甲から赤い光に混じって黄金の粒子が溢れ出してきた。
「これは…?紅椿!」
『《
「ワンオフ・アビリティーだと?ふっ、本当に紅椿は私には過ぎた相棒だ。
ありがとう、まだ戦える!」
箒の様子が変わった事に気づくと退避していた負傷組は驚くが、皆が急に納得し笑みを浮かべる。
「箒さん、行かれるのですね?」
「僕らの分まで頑張ってきて!」
「嫁を頼むぞ、箒」
「って、事よ。んじゃ、やっちゃいなさい!!」
「あぁ!皆の思い、願い、全て受け取った!! 行くぞ!紅椿!!」
皆の激励を受けて箒は茜色の空を金色の光で切り裂くように飛んでゆく。
その行先は戦場、いや彼の隣りへ。
「…私達のSEが僅かに回復している?もしかして、紅椿のワンオフの効果?」
「でしょうね。燃費の悪い展開装甲に対する答え、っと言ったところね」
「でも、思いっきり白式との連携前提のワンオフでもあるね~?
まぁ、ボクたちはUEシステムがあるからエネルギー切れはどうにかできるけど」
「そうね、チェーロ。最近は新規格で統一した
「…そこ、アッサリと世界の軍事均衡を崩す話題をしない」
何処か冷めた
それが途轍もなく物騒な話題でもあってもだ。
「一夏!」
「箒!?お前、もう――」
「大丈夫だ、一夏!それよりも、私たちの力を…お前に!!」
福音から一旦距離をとった一夏のもとに箒がたどり着く。
彼は彼女が負ったダメージを心配するが、それを遮り彼女の――赤椿の手が白式へと触れた。
その瞬間、彼は白式を通して全身に電流の様な衝撃と炎の様な熱が駆け巡る。
一瞬、視界が大きく揺れるがそれ以上の異常が起きそれに気をやった。
「な、なんだったんだ? は?エネルギーがSEが回復!? 箒、これは――」
「今は考えるな!義兄さんが言っていただろう!
『躊躇うな、いざって時は迷わず行動しろ』って!!」
「お、おう!!」
「あら、お話は終わったかしら。彼女が来てくれて自分もISも元気百倍の様ね?」
有り得ない事態に一夏は目を丸くするが、箒の言葉により目を福音へとキッと向けた。
その様子に気づいたのか鞘華が確認するついでに茶化しに来る。
「か、かかぁか…彼女!?」
「いや、鞘華さん。俺と箒とは…その、そんなんじゃねぇってか…」
「ハイハイ、ご馳走様。で、一つ提案なのだけど…もう、この戦いを終わらせない?
もう持久戦、消耗戦は嫌なのよ」
「私も鞘華姉さんに賛成だ。成長を続ける福音にこのまま戦い続けても厄介になるだけだ」
「ハイハ~イ!ワタシも賛成!!疲れたーー!!!」
「はぁ、父様にもみくちゃのヌチャヌチャにされてとっとと寝たい」
彼氏彼女の関係だと振られた一夏と箒はしどろもどろになるが、鞘華はそれを受け流し、
一気に攻勢に出て決着を付ける事を提案した。
他のメンバーもその意見に賛成する。事実、福音は戦い続けるほど攻撃が激しく複雑に成っていっている。このまま戦い続けても勝算はあるだろうが態々相手のペースで続ける意味はない。
それに一夏と箒も賛同し身構える。
「作戦は簡単。私たちが道を切り開くわ。後は、貴方の
「ふん、私たちがお膳立てしてやるんだ。失敗などするなよ」
「マドカちゃん。マドカちゃんの分のスラストアーマーを貸してくれない?」
「じゃ、やろうか?元気百倍になってビンビンのギンギンなヤツをブッ刺してイカせてやって?」
「あぁ、分かった (…素子先輩のは無視だ、無視っ!!)」
「うむ (い、一夏のビンビン、ギンギン…)」
各々が思うポジションに着くと、福音も勝負を付けに来ていると感じたのか大量の羽の結界を
用意し、何時でも殲滅出来るよう身構える。
両者が睨み合ったのは何分…いや、何秒も満たない時間かも知れない。
その沈黙は一際大きな波が立った事によって崩れた。
『ギャラァラァァァアアア!!』
福音が羽の結界を引き連れ、広げた翼は今まで以上に輝かせて襲いかかってくる!
「これ、ものスっっっごく疲れるんだからね!!」
フィロは両肩と後ろに備えたスラストアーマー三つ、マドカが持っていたスラストアーマー
三つ、計六つをビットとして使いオールレンジ攻撃を仕掛ける。
更にサブアーム両方を
フィロのオールレンジ過剰砲火によって薄くなったところで、素子が真っ向から突撃する。
「シェルインパクト・バーストっ なんちゃって」
彼女はこの戦いに飛び込んできたと同じように握り拳となって福音へと迫る。
それに対して福音は迎撃を行うが彼女の勢いは止まらず、
だが、その影から飛び出してきたものがいる。
「二爪二刃!切り刻む!!」
それはマドカであった。彼女のサブアームは両方ともシザーブレードになっており、
それとビームサーベル二刀流で福音を切り刻んでゆく。
福音も負けじと応戦するが、単純に手数が違う。起死回生と大きなビーム翼―頭部のビーム翼を輝かせたが、翼は何処からか攻撃を受けて穴が空き不発へと終わる。
「やっぱり、最大の武器はその翼ね…だから、頂くわ!!」
いつの間にか鞘華は福音の後方上空に陣取っており、そこから攻撃したらしい。そして、彼女は二丁のベリルショット・ランチャーの銃身を左右の翼へ向かって振り下ろす。
ベリルショット・ランチャーはTCSオシレータが使われており、TCSを弾丸として発射する。
その為、TCSオシレータで形成されている銃身下部などのエッジ部分はTCSを纏わせることで
格闘武器として使用できるのだ。
武器でもありスラスターでもある頭部ビーム翼を失い福音は体勢を崩す。
そのダメ押しと言わんばかりに、マドカはビームサーベルとシザーブレードの四連同時刺突、
鞘華は腿のスラスターに内蔵されたTCSオシレータのエッジを突き刺す。
多大なダメージを受けた福音は大きな隙を晒してしまう。
そして、この時を待っていたとばかりに二つの影が接近する。
「さぁ!いまだ!!」
「さぁ!いまよ!!」
「「はあぁあああ!!」」
白と赤、白式と赤椿-一夏と箒だ。
「せぇいっ!」
箒が先行し、帯状の攻性エネルギーをぶつける空裂で更に福音を足止めし、すれ違いざまに切り裂き。
「ぜりゃぁあ!」
ワンテンポ遅れて一夏が逆方向から切り裂いた。
二人共その場で体の方向を入れ替え、一夏は雪片の零落白夜と箒は雨月と空裂の二振りの刃を
突き立てる。
エネルギー刃特有の手応え、シールド干渉による反発力を感じながら二人はここは正念場と
力の限りを込めた。
「「これで…終わりだあぁああああ!!!」」
福音はエネルギー翼の復帰、そして最後の足掻きと正面に居た一夏へ手を伸ばすが、
彼の眼前で…停止した。
動かなくなった福音を確認すると二人とも荒い息をして呼吸を整える。目の前で福音の
二人は咄嗟に操縦者を抱き留めて落ないようにするが、キャッチして一息つくと互いの
顔が近いことに気づき両者ともに恥ずかしくなり…つい、手を離してしまう。
「「あ…」」
そんな事をすれば操縦者は下、海に落ちてゆくが轟とチェーロがキャッチし直して危機を回避した。
「あんたらね~、なにラヴコメやってんのよ!?」
一連の動きを見ていた鈴からツッコミが入り、他から一夏と箒に向かって野次が入る。
皆の気が緩み、怒ったり笑ったり泣いたりと全てが終わった事を物語っていた。
だが、世界は優しくは無いらしい。
今日も日が傾いてゆき、今は茜色の空へと成りつつあった。その赤と海の青が交わり黒く見える。
そこから人よりも二回り大きな球体が幾つも海中から出現し、戦い終わった彼らを取り囲む。
「…おいおい、今日何度も言ってる気がするけどさ。一体、何なんだよ!?」
黒く見える海底から
「へぇー、やるじゃん。でも…もっとイケルよねぇ?ぎゃははぁはっ!」
悪意はまだ彼らを逃そうとはしない……。
はいっ、今回で
今回の福音戦で悩んだのは…IS学園側-つまり、主人公勢の戦力が増大してる事ですね。
一夏も十千屋も
それ故に、一夏と十千屋に
だから、次回は…十千屋の出番です。
あぁ…オリジナルの敵対勢力にオリジナル話……IS原作で言う『銀の福音編』は一体何時まで掛かるのだろうか…。orz
そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。