IS×FA 遥かな空を俺はブキヤで目指す   作:DOM

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何処か中途半端ですが…我慢できなくなったので投稿します。
過糖に成り過ぎて死ぬかと思った…

では、どうぞ御ゆるりと。


IS×FA60ss:ありがとう、一夏

 戦いが終わり、戦士たちは安らぎに身をゆだねる。

 戦い終わり、平和が訪れるかもしれない。

 だが、また新たな戦いの幕が上がるかもしれない。

 そんな事は誰も知らず、知る事もできない。

 あぁ、けど今は…オヤスミ。

 月がそう答えている。

 

 

「なんだろうな…」

 

 都会と違い、満月の明るさが良く分かる海辺で物思いに耽る少年が一人。

 言わずもがな、一夏である。

 激戦を生き抜いたり、結構大事な内容だったような気がする夕方に見た夢が思い出せなかったり、日常を感じた夕食では自分が慕う師匠が居なかったり…と、ハードすぎる一日を終えかけて

非日常と日常のギャップにモヤモヤしたものを感じていた。

 

「はぁ、それにしても師匠は大丈夫だったのかな」

 

 一夏達は激戦を終え、旅館に帰還すると千冬からの説教を真っ先に受ける事となった。

 それは当然だと言えるし、甘んじて受けなければならない事でもあるので反論はない。

 しかし、それよりも気掛かりだったのは十千屋の事である。

 彼はコトブキカンパニーによって緊急搬送させられた。

 いつの間にか呼ばれていたのか、胴体が丸ごとコンテナとなっている妙に平べったい飛行機に

搬送され、臨海学校の為に持って来た機材も助っ人に来てくれたメンバーも同じ様にそれに乗って行ってしまったのである。

 一応、学園側と十千屋の世話になっているメンバーには

「命に別状はない。ただし、精密検査は必須」

と連絡されているので無用な心配であるが、心情は別だった。

 今回の戦いでは考えさせられる事も整理するべき事も沢山ある。

だが、大人と子供の間である多感な時期でもある一夏は、自分に出来たかもしれない事、

分からない事などを考えてしまい浮足立っている所がある。

 それが妙な心のざわつきになっているのかも知れない。

 

「そこに居るのは一夏、か?」

 

 突然名前を呼ばれ、一夏はそちら側に振り向く。

 月明かりのせいで姿が浮かんでみたのは、水着姿の箒だった。

 

「箒…?そういえば、昨日海で見かけなかったけど……」

 

「あ、あんまり、そう見ないで欲しい…お、落ち着かないんだ……」

 

「す、すまん」

 

 彼女としては大人しい抗議に彼は慌てて体の向きを変える。

 しかし、彼の目は彼女の水着姿を鮮明に映していた。

 白い水着、それも彼のイメージからすれば珍しいというよりも絶対に着なさそうなビキニタイプ。(ふち)の方に黒いラインが入ったそれは、かなり肌の露出面積が広く――とても艶やかで魅力的である。

 

(い、いかんぞ、これはかなり気恥ずかしい…)

 

 彼は先ほどとは別の意味で酷く落ち着かない気分をどうにかしようと誤魔化そうとするが、

あまり上手くいかない。

 さらに一メートルほどの間を開けて隣に座った箒が、どうしても気になり意識してしまって

ますます心は乱れる。

 

「……」

「……」

 

「なぁ、一夏…」

 

「なっ、なんだ?」

 

「もう少し、傍によっても良いか…」

 

「あ、あぁ…箒が良いんなら」

 

「そうか…」

 

 普段と違う雰囲気と姿の彼女に彼は生返事気味に返答し、それを落ち着いた様子で受け取った彼女は距離を詰めて座った。

 その瞬間、彼の心臓は張裂けそうなくらい高鳴る。何故なら…

 

(ちょっ、ちょっとぉおぉお!?箒さん!近すぎじゃありません!?!)

 

 箒と一夏の距離は肌が触れ合うぐらい、いや既に素肌の腕同士が触れ合っているぐらいの距離まで詰められたからだ。

 彼は今までにない展開にどうしたらいいか分からず、ただ固まっているしかない。

 そんな中で箒から口を開いた。

 

「一夏、怖くなかったのか」

 

「え、何が?」

 

「今回の戦いだ。一夏はどうだったのだ」

 

 間近にある彼女の素顔に彼はドギマギするが、憂いを帯びて揺れる彼女の瞳のせいか浮ついた心は抑えられてゆく。

 そして、いったん目を閉じて自身の心に問いかけその答えを口に出す。

 

「怖かったか…どうか、か。『分からない』って答えるのが妥当かな。

 やるべき事、なす事に追われてそれどころじゃなかったかもしれないな」

 

「そうか」

 

「でも…」

 

「でも?」

 

 一夏の答えに何処か納得した感じで箒は受け止める。

 だが、彼の答えの続きに今度は彼女が胸が高まった。彼は真剣な表情でその答えの続きを語る。

 

「結果論みたいだけど、俺ができる事が出来ない事。お前()や皆を、守る事が出来ないのは

 途轍もなく怖いと思う。…そうじゃなくて、本当に良かったぜ」

 

「一夏、…あぁ、分かった。お前らしいよ」

 

 一夏の答えに箒が微笑むと、彼もつられて口元が緩む。互いに思う、彼を/彼女を守れて良かったと。

 

「なぁ、箒。こんな事を聞くなんて、なんつうかさ…お前らしくないってゆうか。

 いや、ごめん。今回は仕方がない…か?」

 

 普段と違う雰囲気と語りかけに一夏はつい箒に原因を尋ねてしまう。

しかし、尋ねるうちに今日の戦いを思い返すと仕方がないと思い謝罪する。

 今日の戦いは本当に危険で今まで以上に激しかった。

十千屋も自分(一夏)も正真正銘、撃墜してしまっていたかもしれない。

 それが彼女の心に多大な負担になってしまったのではないかと思ったのだ。

 それ故の謝罪であったが、その言葉は途切れさせられる。

 箒が一夏へ縋る様に抱き着いてきたからだ。

 

「ほぉっ!?箒さん!?え、うぇえっ!?!」

 

「ああ、私は怖かったんだ。

 本当に怖かったんだ…義兄(にい)さんが、何よりもお前が一夏が居なくなってしまうかもって

 …怖かったんだ!!」

 

 嗚咽が混じるような告白に一夏は何も言えなくなってしまう。こうさせてしまった事に対しては自分にも非がある様に思えるし、泣きついてきている女の子を恥ずかしいからと突き放す様な真似は出来るはずがない。

 自分に出来る事、それを思った時に彼の片手は優しく彼女の肩に触れる。

 ビクリと肩を震わす彼女に対して、そのまま優しく語りかけた。

 

「大丈夫だ。俺は此処に居る。師匠だって、絶対に黙って居なくなったりしないさ」

 

「本当…か」

 

「あぁ、俺は此処に居る。何故か怪我が治っちまっているし、体の調子だっていい。

 師匠は…師匠の家族への溺愛っぷりを見てれば分かるだろ?師匠は義妹()を置いては行かねえよ」

 

 一夏からは見えないが語りかけに箒は安心したのか表情が、何よりも雰囲気が柔らかくなる。

これに安心したのか彼は肩を撫でおろすが、再び緊張させる様な事を彼女が言う。

 

「一夏…」

 

「なんだ?」

 

「良ければ…私を抱きしめて欲しい」

 

「うぇ…え、えっとぉ」

 

「ダメか?」

 

 今度は『抱きしめて』ときた。この男、朴念神の身なれどちゃんと男としての欲などはある。

こんな美少女に抱き着かれ、しかも今度は甘えるかの様にねだられたら…そりゃ、もう分かるだろう?

 だが、傷心気味である少女に付け込む様な真似は(おとこ)としての矜持(プライド)が許さない。

故に、一夏は恐る恐る箒を抱き寄せる。

 緊張感とその他諸々から逃れるために頭の片隅では、

(師匠なら慰めると同時にイタダいちゃうんだろうなぁ…)

と失礼な事を思いながらであったが。

 

「こ、こんな感じで…良いのか?」

 

「もう少し…強く……」

 

「お、おぅ」

 

「…居る。一夏は此処に居る。ありがとう、一夏。大好きだ

 

 ただ純粋に嬉しいと彼女の(ぬく)もりと鼓動で伝わってくる。

彼にもそれが伝わり自分の事の様にうれしく思うが、確かにか細い声であったが聞こえた。

 その内容に一夏は何度目かの度肝が抜かれそうになる。

流石の朴念神でも彼女が自分(一夏)をどう思っているかは理解した。

 今までは一番親しい仲間と感じていたが、何度かあった十千屋夫妻による男女間の情操教育、

ド直球に好意をぶつけてくる面子、それによって素直に告げられれば察するくらいには矯正されたのである。

 もう、思考回路は停止(ショート)寸前の状態だ。それなのに箒と目が合ってしまう。

 

(え?えぇぇえ!?箒さん、何で目を閉じて、唇をやや上向きにして

 突き出してるんですか!?!……やっぱり、箒って綺麗だし、可愛いよな)

 

 場と今までの雰囲気に流され、彼の目には彼女しか映ってない。

濡れ鴉のようなしっとりした黒髪も白磁の様に綺麗な肌も、閉じられた瞳を飾る震える睫毛も、

自分の事を待ちわびる桜色の唇も…彼女の何もかもが魅力的に感じた。

 だから、月明かりで伸びた二人の影は…一つに重なった。

 ほんの数十秒、いや数秒かもしれないがこの時の気持ちは永遠を感じられた。

 

「ほぅほぅ…あたしは出し抜かれた様ねぇ?」

 

「ぃぃぃいぃいぃい!?りりりりり鈴!?」

 

「あ…はっ!鈴!!何故此処に!?」

 

 至近距離で掛けられた声によって一夏と箒は現実に引きずり落される。

 抱き合ったままであるが両者ともに顔を離し、声がした方向に向くと鈴が居た。

 二人の行為をマジマジと覗きこむ様に(かが)んで両頬杖をついて、本当に至近距離でコチラを見ている。

 細目で「そうかそうか」と変に納得してるが不機嫌そうに覗き込む彼女に、二人は気まずい気持ちで視線を逸らすが…ソコにも、居た。

「あらあら」と片手を頬にあてて此方を優しく見守る様子は淑女だが…目は笑っていないセシリア。

 腕を組み仁王(ガ〇ナ)立ちでこちらを見張るラウラ。

 この場の雰囲気とこの後に起こる惨事を予想し、頬を軽く掻きながら苦笑気味のシャルロット。

 一夏にはあまり自覚は無いが、いつもの面子の中で自分に好意を持ってるメンバーが勢揃いしていた。

 

 一夏と箒、互いに真顔になり真夏の日中でもないのに汗が大量に吹き出す。

そう、冷や汗という名の汗だ…。

 修羅場、大惨事大戦、今日は死ぬには良い日だ…謎のヤバ目のフレーズが次から次へと彼の頭の中に浮かんでくる。

 下手に動けば()られる。それも一夏と箒の共通意識なのか、固まったままだ。

 その中で鈴が両手を伸ばし、彼の頭を固定する。あ、こりゃ…首コキャ(折り)されるな、と?

思いきや…

 

 ぶちゅうっ!ちゅ~~~ぽんっ…

 

「「「おっおぅ!?」」

 

 確かに首筋を痛めそうなくらいの勢いで一夏の顔面を鈴は引っ張ったが、その勢いで彼と自分との唇を重ね合わせ吸い上げる。

 いきなりの行動に回りは素っ頓狂な声を上げ、やられた彼の思考回路は停止(ショート)した。

 キスしてるのか吸い付いてるだけなのか分からない彼女のとのやり取りは、気が済んだのか

小気味よい音をたてて唇を離し、彼女は彼を突き放す。

 勢いは軽くであったが思考停止していた彼は大きく仰け反り、彼女は腰に手を当てて指を突きつけながら彼を見下した。

 

「あたしのキスは安くないわよ!そこんトコロ、よ~~くっ!考えなさい!!

 あと、こんな事…誰でも良いってわけじゃないからね!!!」

 

 鈴は怒った様に言い、言い終わったら終わったで大股で旅館の方へ帰ってしまう。

 でも、十分に明るい満月の光は鈴の顔が真っ赤である事を鮮明に照らし出していた。

 

 ちゅっ「ふふっ、答えは急ぎませんわ。せめて卒業までには確り決めて下さいませ」

 

 セシリアは呆然とする一夏の頬にライトキスをして、そのまま優雅に去っていく。

 

 チュチュチュッ!

 「ははっ、僕が言えた事じゃないけどさ。きちんと愛してくれれば、愛人ポジでも構わないよ」

 

 セシリアとは反対の頬に、ワザと音を出し細かいキスを何度もするバードキスをサラリとし、

これまたサラリと問題発言をしてシャルロットは軽やかな足取りで旅館へと戻っていった。

 

「まぁ、なんだ。嫁がどう答えを出すか分からんが、覚悟があるなら究極のVater()方式…

 全員と付き合うやり方もなくもないからな。では、セカンドキスを」

 

 あからさまに唇を押し付け強引にキスし終わると、ラウラは堂々と歩いていく。

 

 怒涛の展開に一夏の頭は思考停止どころかポンコツ寸前である。

その時に至近距離、というより隣からため息が聞こえてきた。

 そのせいで一夏はある事実を思い出し、そちらへ油の切れた機械の様に首をギクシャクさえながら動かす。

 そう、隣にはずっと箒が居たのだ。彼女は冷めた目でコチラを見ている。

 今までのパターンからすると…死亡フラグは建て切ってあとは俎板(まないた)の鯉、どうすることもできない。と、一夏は諦めかけたが…

 

「はぁ…私が言いたい事はだいたい奴らが言って行った。私の話を聞いてくれて感謝する。

 では、また明日だな一夏」

 

 仕方ない奴だ、といった雰囲気で箒は体についた砂を(はら)って行ってしまう。

 予想した反応と違うため一夏は呆然とする。

 そして、彼は今までの事を思い出し、悶え、困惑し、また呆然となる。

 奇々怪々な動作を繰り返す彼、そんな彼を月は柔らかい光と湛え見守っていた。

 

 そして、次の日…

 

「うヴぁ~~~、じんどい・・・」

 

 ゾンビの様な声を上げているのは一夏である。昨夜は怒涛のラブコメ展開で身もだえし、

そもそも昨夜浜辺に居たのは旅館を抜け出していたからで…教師(千冬)にバレ大目玉。

 そのせいで睡眠が全くとれなかったのだった。

 辛そうだな、と同じクラスの一夏ラヴァーズが動き出そうとした時、一夏達が乗るバスに

見知らぬ女性が入ってきた。

 

「ねぇ、織斑一夏くんって居るかしら?」

 

「あ、はい。俺ですけど、なにか?」

 

 彼は一番前に座っていた為に即座に返事をする。

 その女性は、だいたい二十歳くらい。一夏達よりも確実に年上で、十千屋や千冬と変わらないくらいに見える。

 容姿は夏の日差しで煌めいて見えるくらい鮮やかな金髪、格好はカジュアルタイプのブルーの

サマースーツを着こなし、開いた胸元で大人の女性としてのオシャレと色気を出していた。

 掛けていたサングラスを胸の谷間収納し、腰を折って一夏を見つめてくる。

その視線は品定めというよりは純粋な好奇心からくる感じを彼は受けた。

 

「へぇ。君がそうなんだ」

 

「あ、はい。そうですけど…あなたは?」

 

 美女が覗き込んでくる姿勢と彼女から僅かに香る柑橘系の香水(コロン)と彼女自身の香り、色気(セクシャル)満載な彼女に対して一夏は落ち着かなくなる。

 そして、彼女からの返答も落ち着かなくなるものであった。

 

「私はナターシャ。ナターシャ・ファイルスっていうの。

 君にもっと分かり易く言えば…『銀の福音(シルバリオン・ゴスペル)』の操縦者よ」

 

「え――」

 

 全く予期してない人物の登場に彼が困惑していると、頬に柔らかな感触を感じた。

 

 チュッ「ふふ、これはお礼。ありがとうね、白い騎士(ナイト)さん」

 

「え?は…うぅ?」

 

「じゃあ、またね。bye(バーイ)

 

「は、はぁ…」

 

 何か上手くいったのか上機嫌な様子でひらひらと手を振ってバスから降りるナターシャ。

 一夏はそんな彼女をボーっとしながら手を振り返して見送るしかなかった。

 

「…一夏、また新しい女でも引っ掛けたのか」

 

「………」

 

 夏の日差しの様に鮮烈な印象を残していった彼女に一夏はボーっとしていたが、

誰かに声を掛けられ嫌な予感がした。

 そこには、いつもの四人が冷たい目でこちらを見ている。

 

「……。え~~と」

 

「お茶、しんどそうだったからな。要るか?」

 

「あ、はい。アリガトウゴザイマス」

 

 嫌な予感は離れないが、しんどいのは事実なので彼は箒からお茶が入ったペットボトルを受け取り口に含んだ。

 

「まぁ、それは私たちが回し飲みした残りなのだがな」

 

(ブゥっ!?……ゴクリ)

 

 彼女から告げられた事実に、口に含んだお茶を吹き出しそうになる。

だが、咄嗟に車内を汚してはいけないと思って何とか飲み干した。

 計四人分の間接キス、その事に一夏は羞恥で頬が熱くなっているの感じながら困惑の表情で四人を見る。

 だが、見なければ良かったとすぐにそう思った。

 

「ふふ、お前にしてはよく我慢したな。もし、吹き出したのなら…なぁ?」

 

 飲み干す以外の何かの反応(リアクション)した場合、何かするつもりだったらしい四人を代表して箒が彼に語り掛ける。

 冷たく嗤う彼女らの手には、その()()()だった時の得物が握られていた。

 箒はすっかりお馴染みになったハリセンだが、厚紙と厚手のテープで補強され更に痛く大きな音が出るようになった物を持っている。

 セシリアは前に見たステンレス製の立派なゴム鉄砲だが、二丁拳銃となっており両手で上げている。

 ラウラは訓練等に使われるゴム製ナイフを手遊びしている。

 シャルロットはビー玉が数珠つなぎになっている棒の様な何かを頬にあてて持っている。

 

 色んな意味で身の危険を感じた一夏はこの後、ビクビクしながらIS学園への帰路につくのであった。

 

 

「・・・・」

 

 バスから降りたナターシャは、目的の人物を見つけてそちらに向かった。

 

「おいおい、余計な火種を残してくれるなよ。ガキの相手は大変なんだ。

 …特にあいつ等は()()()の影響を受けて特にな」

 

 そう言ったのは千冬。どうやら彼女に会うのも目的の一つだったらしい。

 ナターシャは、その言葉に少しだけはにかんで見せる。

 

「思ってたよりもずっと素敵な男の子だったから、つい」

 

「やれやれ…だな。それよりも昨日の今日だが体調は大丈夫なのか?」

 

「ええ、それは問題なく。――私は、()()()に守られていましたから」

 

 彼女の言う『あの子』とは、つまり今回の事件を引き起こした福音の事を指す。

 それを察した千冬の表情は険しくなった。

 

「―――やはり、そうなのか?」

 

「ええ。あの子(福音)は私を守るために、望まぬ戦いへと身を投じた。

 強引な進化(セカンド・シフト)、孤立の為のコア・ネットワークの切断…あの、父性を感じた囁きを聞くまで正気を見失っていた」

 

 言葉を続けるナターシャは、先程までの陽気な雰囲気を一変させ、鋭い気配を纏っていく。

 

「私は許さない。異常に気が付けても止められないほどにあの子の判断能力を奪い、

 (すべ)てのISを敵に見せかけた元凶を――必ず突き止め、報いを受けさせる」

 

 色白な手が更に白くなるほど手を握り締めて、彼女は話し続ける。

 

「あの子を凍結処理にする?…ふざけるんじゃないわよ。

 何よりも飛ぶことが好きだったあの子が、翼を奪われた。

 相手がなにであろうと、私は許しはしない」

 

「そうか…」

 

 自分すらも死地に追い込むような決意の彼女に千冬は声を掛けた。それと同時に…

 

「だが、それは徒労で終わるぞ?」

 

「えぇ、はぁっ?」

 

 それと同時に切迫した雰囲気は微塵も残さずに消えた。

 なぜ千冬がそう言ったのか分からないナターシャは詰め寄る。

 

「え、はぁ!?どういう事なのよ、それっ!?!」

 

「こういう事態に動かない筈がないのが居るからな。

 まぁ…果報は寝て待てと、日本の(ことわざ)にもある。

 二・三日待てばお前とそいつ(福音)にとって吉報が届くんじゃないか?」

 

「いや、訳が分からないわ…一体、どうなったらそうなるのよ」

 

「…私だって分からない。いや、分かりたくもない。

 下手すれば大国の経済活動が破滅させられる事が出来るヤツらなど…」

 

「え……ナニソレ、コワイ」

 

 千冬が顔を押さえたまま、仰いで語る内容に…ナターシャは素に戻って無表情で寒気を感じるのであった。

 

 

 その頃、海上の何処か…一体のIS無人機が何かを探していた。

 受信されるとある()()を頼りに海原を行く。

 暫くすると、信号元を発見しそれを抱きかかえる。大きめのリンゴ位の透明なカプセルであった。

 その中には、猫がモデルと思わしき薄緑色を基調とした手の平サイズのロボ娘が入っている。

 彼女?は両手を大きく振って無人機を歓迎していた。

 そして、新たに届いた彼女からの信号は…

 

「我、重要情報入手完了…ニャ」

 

 通信内容に無人機が頷くと、二体は揃って帰路につく。

 二体は妙に平べったい飛行機に収納されていった。




はい、何とか一か月以内に投稿完了しました。
前半のラヴコメに耐え切れずに出してしまった感が半端ねぇです…。
強制的にですが、一夏ラヴァーズの内模様はとりあえず落ち着けました。
この結果がどう作用するかは…自分にもわかりません。(;´∀`)

さて、次回は今回の裏話――と、言って大人サイドの話を1~2話して今度こそ『銀の福音編』を終えたいと思います。
その後、2~3話くらいオリジナルして、感想欄でも良くしてくださる
『インフィニット・フレームアームズ~俺アームズでブンドド~ 』の作者『たちゅや』氏との
コラボSSを書きたいと思ってます。
そして、ほぼ完全にオリジナル編となるだろう小説IS四巻目にあたる『夏休み編』へ入っていく
予定です。
ハードな(自身の労力&能力的に)予定ですが、こんな感じで進めたいと思います。
…一応、四巻を読み切らないとなぁ。

そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。

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