ステラを放つその日まで   作:蓮太郎

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現実逃避の日

 もし、君が転生を信じるならばあるのだろう。別に君の中ではと言うわけじゃなくて。

 

 そう、俺は転生というものをしたようだ。前は何者だったかということは完全に忘れてしまってるし、思い出しても今に影響はないはずだから大丈夫だと思う。

 

 まあ、前書きはいいだろう。今の俺は駒王学園に在籍する1年生の『芦屋(あしや) 新志(あらし)』と言う高校生だ。特技は弓道、というより弓矢だ。それ以外は運動神経がいい高校生だ。

 

 ただ、弓矢を引く時は本気を出さないようにしている。本気を出せば弓が壊れるし後々が面倒になるということが分かってる。弓矢を使うというのはメジャーだろうけど、何となーく頭の中にある記憶がこう告げている。

 

 

五体四散(ステラァ)したら人生終了ですよ』

 

 

 いや、前世よ五体四散(ステラァ)って何だよ。そりゃ人生終了するわ。でも、これが俺の本気だってことが伝わる。

 

 だからこそ、俺は本気を出さない。そう、Fateというものなんて知らないから!

 

 よし、今日も放課後の弓道部に行こう、そうしよう。弓道できるだけでも安心できる。

 

 弓の腕は明らかに常軌を逸してると言われてるが気にしたことはない。そのせいか友達は1人もできなかったし…………

 

 暗いことは考えるな。今日も矢を放って気晴らししよう。

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

「は、廃部?支取会長、本気で言って…………」

 

「ええ、残念ながら」

 

 会長直々から憩いの場である弓道部が潰れるという宣告を受けた。何故だ!何故弓道部が潰れなきゃいけないんだ!

 

「貴方、何故って顔してるけど…………部員は貴方1人だけだからよ?」

 

「ごもっとも…………」

 

 何故とか言う前に理由は既に分かっていた。元々、ほとんど使われていない弓道場で1人練習してるだけの部活が弓道部だ。存在してるかどうかすら怪しいと同級生から言われてしまうほど。

 

 俺自身が何やかんやで別の部活を手伝ったりしてるから存在がさらに薄くなってるんだろうな。

 

 支取会長に言われて今日で廃部になる弓道部、個人的には惜しいが学校側もこんな寂しい部に費用を回すこともない。それが悲しいところだ。

 

 小間使いまがいのことして過ごしながら勧誘してたけど、誰1人集まらなかった。かつての経験者や、やってみたいと希望した人はいても俺の腕を見てすぐ諦めた。

 

 俺が矢を絶対に真ん中に当てるってのが一番響いたんだろうな。まるで英雄みたいな腕をしてるなんて言われたこともあった。

 

 正直、そう言われても嬉しくなかった。なんでか分からないけど例の五体四散のイメージがかなり強く残っているからだろう。

 

 誰だ火種集めるのによく使いますとか言ったやつは。そいつの身にもなってやれよ。毎回飛び散るのは痛いの話じゃないって。

 

 やれやれ、今日が弓道部最後の日だ。悔いのないように何百回もあの名残惜しい的を撃ち抜こう。

 

 

 …………短い間だったけど、ありがとな。

 

 

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

 

 

 …………はっ、いつの間にか眠っていたようだ。全力を出してないとはいえ何百回も集中して矢を放ったら疲れるよな。

 

 時間は…………深夜0時過ぎてる!?くっ、深く眠りすぎて時間が分からないほど寝ていたか。

 

 もう、ここに弓矢は置いていけないな。着替えるのも面倒だしこのまま持って帰るか。

 

 専用の袋に弓と矢をしまい道着のままで弓道場を出る。そして、感謝を込めて弓道場に一礼して俺は去った。

 

 虚しさがこみ上げてくる。ここの部活としてはかなり短いとはいえ弓矢は長いことやっていたせいか、短くても名残惜しさが出てくる。

 ありがとう、駒王学園弓道場、俺は忘れないぞ。

 

 と、思っていたら旧校舎に明かりが灯ってるのが目に入った。旧校舎と弓道場に続く道は一緒でほぼ使われていないせいで警備もあまり回らないという特徴を持つ。

 

 既に深夜帯なのになんで明かりがついているのか?気になって仕方ない。

 

 もしかして、不法侵入者?俺のように深夜まで残ってるのはどの部でもいないはずだ。確かめるにも手持ちが教科書が入ったカバンと弓矢しか…………

 

 …………弓矢で撃退できるか?高速で連射することもできるから何とかなるはずだ。いや、何バカな事を考えてるんだ。ここに入るまでの警備は厳重だしそう簡単に入る隙なんてない。

 

 あ、警備が厳重なのはいいけど説明したところで出してもらえるか?ギリギリまでやった後に一眠りしたらこんな時間でしたなんて言えねぇ…………

 

 と、思ってたが日頃の行いのせいか何と見逃してもらえることに。いや、別に計算してるわけじゃないがお人好しと言われるほどの行いのおかげだな。

 

 そのまま帰路に着いたものの、何だか嫌な予感しかしない。まるで人間じゃないような、邪悪なものに見られているような、そんな視線だ。

 

 まさか、通り魔とかいうのじゃないだろうな?競技用の弓矢と教科書で対抗出来るなんざ思ってないぞ。いや、弓矢なら何とかなる、か?

 

 …………見つけた。俺の後ろに何かいる。目で見ずともその気配が伝わってくる。さりげなく弓矢をすぐ手に取れるようにして…………

 

「ケケケ…………人間dギャァァッ!?」

 

 今だ!振り返りながら矢を放つ。正直な事を言うとほぼ勘で放った矢だから当たるとは思っていなかった。

 

 そして、そいつはやはりというかなんというか、人間じゃなかった。上半身は全裸の女性で胸に矢が刺さっている。ここだけ聞けば露出狂に矢を放ったと言える。

 

 だが下半身が人間ではなく獣だったら?もはや化け物退治だ。

 

「キサマァ!下等な人間が歯向かうナァ!」

 

 まずい!完全に相手を怒らせてしまったようだ!逃げ切れるわけがない。そして、間違いなく殺されるだろうな。

 

 でも諦めるわけにはいかない!あの怒り狂っている化け物を殺すしかない!

 

「ガァアァァアァァッ!!」

 

 どう仕留めるか、一番簡単なのは頭を狙うことだが動き回りながら攻撃してくるのを避けるのに精一杯で弓を引く暇がない。

 

 くっ、手詰まりか!しまった、避けられーー

 

「げケケケッ!殺った!」

 

 人ではない足のなぎ払いを避けることができず俺は吹き飛ばされてしまった。ぶつかった衝撃でブロック塀にヒビが入り壊れそうになっている。

 

 だけどそこまで痛くなかった。弓も矢もちゃんと手にある。この体勢からでも放つことは可能だ。そうだ、俺、弓を構えろ

 

 あれ、暗くてよく見えないがなんか弓が少しだけ変わったような?この際どうでもいい

 

 集中しろ、狙うは頭だ。あの化け物を倒すのには頭を狙え!この矢はあいつの命を奪うに十分な威力を持つほど引き絞れ!

 

「アァ?お前まだ生きて」

 

 いたのか、と最後は言いたかったのだろうな。言う前にバガンという何かが破裂した音が辺りに響いた。残念ながら、その時点でお前の頭は吹き飛んでるぜ。

 

 …………え?なんで吹き飛んだの?冷静になってかんがえたら、ただの弓矢で頭を吹き飛ばせるほどの威力なんて出せるはずが、え?いや、そもそもこんなに騒いで誰か来たら困るし、どうしよう…………

 

 ああ、うん、こういう時は逃げるに限るな!そして帰って寝て全部忘れよう!

 

*色々起こりすぎて混乱のデバフかかっています。ご了承ください。

 

 現実から逃げる時も大切だ。裏方が後やってくれると考えろ、都合いいけど多分そうだろうな。

 

 俺は逃げるように頭、よく見たら上半身が吹き飛んだ化け物の死体を放置して家に帰って、腹が減った事に気づいたからカップ麺食って寝た。

 

 これが全ての始まりだったんだろうな。そして、寿命が縮んでいくタイミングも、ここからだった…………


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