説明会+十六夜君達のコミュニティ加入から暫く経過した頃。
「カゲロウ」
「何かな?」
十六夜君がこっそりと僕に耳打ちしてきた。多分、先程の説明会で彼特有の何かに触れたみたいだ。幸い、黒ウサギはこっちに気づいていない。もとい僕が即座に気配を認識できないようにしたから気づく事がないのだ。
「ここいらにギフトゲームを仕掛けられるヤツはいるか?」
「そうだね。“世界の果て”に幻獣と蛇神がいるよ」
「へえ。やっぱ面白いな、お前は」
「魔神の孫だからね。蛇神と言っても“
「ヤハハ。それはお前なりの挑発か?」
「それに関してはご自由に。行くなら今だよ」
「ならそうさせてもらうぜ」
十六夜君はいい笑顔で答えると一回の跳躍で森へと消えた。彼は色眼鏡を使わずとも飛びぬけた力と頭の回転の早さは強力な武器なので心配の必要はないし、いざって時はこっそり付与したギフトが発動するだけだ。
「クスクス。ほぼ同い年なのにどうしても年下を相手にしている気分だね」
『ダンチョー。それって老ケテるって感じだよ』
「地味に傷つくからそれは止めて」
魔神のクォーターとはいえ、僕はまだ20歳だから。
「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」
箱庭の外門前でダボダボのローブを着た小学生くらいの少年が石造りの階段に座っていた。彼が残されたメンバーのリーダーをやっているだろうね。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三人が?」
「はいな、こちらの……え、御三、人?」
カチンと固まり、こっちを見る黒ウサギ。
「十六夜君なら世界の果てに行かせたよ。彼、かなり鬱憤とか貯めてたからね」
「な、何故そんなことをしたのですか!?」
「さっき言った通りだよ。それに、十六夜君はこの七桁では
最後の一言に限ってやや真剣な表情で言うと黒ウサギは何か言いたげだったけどすぐに引いた。
「ま、魔神ですか!?」
ジン君が驚くのも無理はない。魔神は魔王の中でもトップクラスの実力者の総称だ。祖父ちゃんも魔神だったけど、ギフトゲームでは負けた相手にパイ(味は絶品)を顔面にシュートするくらいで何も奪ってなかった、と言うよりシリアスな空気をコメディに変えるくらいだったし。
「正確には魔神の孫でクォーターだよ。それに僕は外道以外にはまともかつ公平なゲームをだすからね。祖父ちゃんは負けた相手にパイをぶつけるとかコメディ系のものだけだったし」
「はあ、そうなんですか……」
「それより黒ウサギ。元凶の僕が言うのもなんだけど、彼結構奥の方に行ってるよ」
「本当に今更言う事ですかこのお馬鹿様!!」スパァン!
僕をハリセンで叩き、髪の色を黒から淡い緋色に変え、彫像を利用して外門の柱に水平に張り付いた後―
「一刻程で戻ります! ジン坊っちゃん、あとは任せました!!」
門柱に亀裂をいれる程の脚力森の方へで跳んでいき、数秒で見えなくなった。
「……。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です」
「まあ、よっぽどのイレギュラーさえなければ大丈夫だよ。それに、十六夜君のポケットに隷属させたダオロスを待機させてるからね。彼女ならどんな姑息な手を使おうと無駄だからね」
「ダオロスって邪神ですよね? 確か、無限に膨張してダオロスに触れたものは異次元に飛ばされて二度と戻らないと……」
「じゃあ、ゲームオーバー?」
「いや、ギフトゲームで勝負した際に色々と調整させたから彼はゲームオーバーにはならないよ。膨張も数を操るギフトに変えたし、異次元飛ばしもテレポート的な力に変えてるから問題ない。それに隷属させたのはダオロスだけじゃないけど、それはまたいつかでね」
「それなら先に箱庭へと入るとしましょう。エスコートは貴方とカゲロウ君がしてくれるかしら?」
話しを切り上げる時に不快感を得ないようにした笑みをして終わらせる。ジン君は箱庭の住人だからまだ混乱状態だけど、飛鳥さんの一声ですぐに正気に戻った。
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。三人の名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
「僕はカゲロウ=クローサー。コミュニティ“トリックスター”の長にしてサーカス一座の団長だよ。ジン君。君のコミュニティと同盟を結ばない?」
「えっ?」
「僕達は君のコミュニティがピンチなのを知ってるよ。その上で二人はコミュニティに加入するし、僕は同盟を結ぶ。悪い話しじゃないでしょ? それと、
「「「ッ!?」」」
三人が一瞬だけ息を止めたのを感じる。魔神としての貌で言ったのはまだ三回目だけど、やはりと言うか恐怖を感じさせたみたいだ。けど、厳しくした方が良いと思えるからあえてこの表情でいることにしよう。
「ただ戦力を強化するだけじゃ意味がない。それならリーダーの名と打倒魔王のフレーズを売り込むしかないからね。黒ウサギから聞いた話しじゃ先代は魔王を隷属させたと聞いた。ノーネームになった今、僕が言ったやり方で先代以上のコミュニティにするしかないんだよ」
「先代を……超える……」
「そう。じゃあ、もう一度聞くよ、君は覚悟はあるのかな?」
「あります。仲間を、コミュニティを守る為に前へ進みます!」
僕と真正面で向かいあったジン君の表情はリーダーとしてのものだった。僕は魔神の貌のままポカンとしてしまってただろう。視界の端にいた耀さんが噴き出していたから。
「プ、く……フフ」プルプル
「あはは。これは一本取られたね。うん、最高の返事だ。惜しみなく協力させてもらうよ。よろしくね、ジン君」
「こちらこそ、カゲロウさん」
「話しは終わったみたいね。さ、箱庭へ入りましょう」
飛鳥さんがジン君の手をとり箱庭の中へ入る。僕と耀さんもあとに続いた。
「フ、フフッ」
「いつまで笑うの?」
「だって…あの顔で、茫然…フフッ」
『お嬢、ツボにはまったんやな』
耀さんの忍んでない笑いはカフェに着くまで止まらなかった。
「げふっ」
「ば、バカな……!? 邪神が人間に手を貸すなどありえんはずだ!」
所変わってトリトニスの滝。そこには十六夜と黒ウサギの他に蛇の水神。そして地に伏した男二人と彼らを狂気的な目で見下ろした緑色の髪が特徴の少女がいた。
二人の男は体の六割が蟲と同等のものとなっており片目が複眼だったり、両腕が人のものではなく大きな爪が目立つ無骨で無機質なものとなっている。
「ヒヒッ。私は団長からちょっと頼まれただけなのサ。邪神ダオロスを隷属させた団長の頼み事は断らない主義だからネ!!」
「おいおい。あいつ、こんなサプライズを用意してたのか!」
「まさか、一桁並みの実力と理不尽さを持つクトゥルフ神話の邪神を隷属させていたなんて……!! カゲロウさんは一体……?」
黒ウサギが驚愕するのは当然。クトゥルフ神話に記載されている邪神は総じて最低で三桁を超す実力とギフトを持ち、ギフトゲームで命を落としたものは数知れず、魔王よりも危険な存在として認知されているのだ。その邪神をカゲロウは隷属させているという現実は到底信じられないものである。
「まあ、命を奪うって指示はなかったから放置しとくヨ。【次はないけどね】」
ダオロスのドスが効いた声に男達は失神する。ダオロスは「んー、やり過ぎたネ」と言いながら指を鳴らす。すると男達は一瞬にしてトリトニスの滝から消えた。
「さてと、黒ウサギ。十六夜が勝ち取ったギフトゲームの報酬を貰いに行ったラ?」
「あ、そうでした!」
黒ウサギはハッと正気を取り戻して水神へと向かう。十六夜はその行動を少し見たあと、ダオロスに向き合った。
「初めまして、かナ。私はダオロス。団長と副長にあっさりと負けたしがない邪神サ」
「逆廻十六夜だ。しっかし、魔神、水神に続いて邪神とは、マジで面白いな」
「ヒヒヒ。これはまた胆が座った人ですネ」
二人は笑っていたが、何故かイラついていた黒ウサギに仲良くハリセンでしばかれたそうな。
ガルドは次回で登場させます。但し、原作とは展開が違いますが。