あれから少女はあまり墓地に現れなくなっていた。
閉ざされていた心は少しずつ解きほぐされ、周囲に溶け込めるようになっていった。
以前はいつも冷たく無表情な顔付きをしていたけれど、時折り、その顔に笑顔の花が咲くようになっていた。
少しずつではあるけれど、引き取られた家でもよく喋るようになり、積極的に家族の輪に加わるようになった。いいお姉さんになるべく、弟である赤ん坊の面倒も進んで見るようになった。
あの二階建ての建物が新しい我が家なのだと、受け入れることが出来たのだろう。
止まり続けていた少女の時間は動き始め、再び、歩むことを始めた。
あのガキ大将風の少年とも和解……は出来ていないけれど、少なくとも、一方的にいじめられることはなくなっていた。
少女が反撃することを覚え、また、庇ってくれる友達も出来たのだ。
勝手に兄のポケモンを持ちだしたこともバレ、少年は後からこってりと絞られたらしい。しばらくの間は彼も大人しくなるだろう。
少女は墓地に行かなくなったが、その代わり、日中から町なかでよくムウマの姿が見られるようになっていた。
イタズラ好きのよなきポケモンの名にかけて、いつか少女のことを心の底から怖がらせて、その恐怖心をすすってやろうというのだ。
今日も今日とて、少女の後ろをフワフワと浮遊しながら追いかけるムウマの姿が目撃されていた。
しかし、少女はそんなムウマの気持ちを知ってか知らずか、恐怖心の代わりに手作りのポフレなどをムウマに分け与えたりしていた。
「どう? 初めて作ってみたんだけど、美味しいかしら?」
意外にも、少女の作るポフレはまずかった。
見た目がポフレというより進化に失敗したベトベトンみたいになっている時点で嫌な予感はしていたのだが、予想通り、味もたいそうひどかった。この世のものとは思えないような渋味と苦味を併せ持っていたのだ。思わずぶほっと吹き出してしまう。
『ちょ、ちょっと待って、これ凄くまずいんだけど』
険しい表情をして訴えたが、少女は構わずに二品目を差し出してきた。
「あら、気に入らなかった? こっちのは砂糖もいっぱい使ってるし、美味しいと思うんだけど」
さらに変な形に焼け焦げた謎の物体をおすすめしてきた。
あーんと口に含ませようとしてくる。
「遠慮しないでどんどん食べてね」
『いやいや、謹んで遠慮させてもらうよ!』
戦々恐々としながらムウマは逃げ出した。
「あっ、この間のお礼なんだからしっかり食べていってよ」
恐るべきポフレを持って追いかけてくる少女。
こっちが怖がらせて怯えさせるつもりだったのに、ムウマの方が怯えさせられていた。町なかで少女とムウマの追いかけっこが繰り広げられる。
……案外、一人と一匹はいいコンビになるかもしれない。
降り積もっていた雪は溶け、地面からは若葉が芽吹こうとしていた。
冬の間姿を隠して動きを鈍らせていたポケモンたちも、やがて活発に動き回るようになるだろう。
町には春が近付いていた。
おしまい。
お読みいただきありがとうございました。
最後まで少女の名前は本編では出てきませんでしたが、少女の名前はヨツバ。
マフラーは、生前母親が手作りして彼女に贈ったものらしいです。