3日目の朝。
今日は、大湊へ帰るだけの日程であるため、めったに出来ない寝坊を2人はしている。
時間は0900をとっくに過ぎ、0925になって2人同時に起き出してきた。
ふわあああぁぁっと欠伸をしながら。
「あんたら、寝過ぎやで。」
と母親からの一言で、バツの悪そうな顔の二人である。
遅めの朝食を摂り、出発まで間、縁側に座っている。
「この縁側は、風が通って涼しいなぁ。 ここに居ると、戦争なんて無い平和さを感じるよ。」
「そう? あたしには暇すぎるわ。」
「そう言いなさんな。 奴らとの戦争が無ければ、みんなこんな感じの平穏を味わえていたんだ。 奴らの侵攻を押しとどめてくれている君たちが居るからこの平穏があるんだ。 君たち艦娘の犠牲の上にね。それをみんなに知ってもらいたい、気づいてもらいたい。 感謝してもらいたいとは言わないけど、尊い犠牲の上にあるこの平穏を、しっかりと噛み締めてほしい。 そう思うよ。」
遠くを、空に浮かぶ白い雲を見ながら立華は言った。
(戦争をしなければならない世界を、誰も作りたくは無いんだと思うけど。)
「あたし達だけの努力じゃないでしょ? アンタの分も入ってんのよ? 分かってる?」
「そうだったな。」
日差しは強いものの、心地よい風が縁側を抜けていく。
いつまでもまったりしていたかったが、時計が1200を告げる。
「そろそろ、戻るわ。 また、帰って来るよ。」
「ああ、元気でな。 曙ちゃんも瑞稀ちゃんも元気でな。 このアホ息子のこと頼むわな。 これ、お昼のお弁当や。帰りに食べや。」
「ありがとう、お義母さん。大丈夫、任されて。」
お互いに手を振って。
「それじゃ、またな。」
そう言って車を発進させる。一昨日来た道を逆に辿って。
1230。
渋滞もない田舎道をちょっと飛ばして予定より早めに鶉野飛行場に到着した。
出発予定は1300であったが、立華ら以外の搭乗員の搭乗、護衛戦闘機、輸送機の準備は完了していた。
「飛行場長、ありがとうございました。 では。」
「道中、お気をつけて。」
挨拶もそこそこに輸送機に乗り込んでいく。
荷物がそんなにあるわけでもないのですぐ座席に就く。
「機長、帰りもよろしく。」
「提督、お帰りなさい。荷物の積み込みも完了してます。 いつでも行けます。」
「では、大湊へ向けて、帰ろう!」
「管制、こちら輸送機、離陸準備よし。これより滑走路へ向かう。」
「こちら管制。滑走路クリア、離陸に支障なし。離陸を許可する。 輸送機に続いて護衛戦闘機隊の離陸も許可する。」
エンジン音が高鳴る。
滑走路を速度を上げながら走り出していく。
滑走路を全部使い切ることなく、空中に浮いていった。
続いて4機の烈風も飛び上がっていく。
5機は編隊を組んで北東へと針路を採っていく。
しばらく北東へ向かって飛行していると・・・
「提督、間もなく舞鶴の上空です。」
「そうか。 機長。 やってくれ。」
「何するの?」
「昔の仲間に挨拶するのさ。 機長?」
「はい。 高度500まで降下します。」
高度500mまで降下すると、眼下に街と海が見えてきた。
舞鶴だ。
「あそこが、舞鶴鎮守府だな。」
「提督、左10時下方、湾入口付近に空母2隻を視認しました。 あれではないでしょうか?」
「どれどれ?? おお、そのようだな。 祥鳳と瑞鳳だな。夕立たちも居るな?」
「6隻いるわね。 元大湊の艦隊ね。」
「発光信号を頼む。」
”ワレオオミナト、キカンタチノソウケンブリヲミテアンシンス。ソウケンアレ。”と。
艦隊の上空を周回する。
窓から見ると、祥鳳、瑞鳳ら各艦の甲板上で手を振る人影が見える。
妖精さんも居るのだろう。
「提督、空母祥鳳より返信。」
”テイトクトオオミナトノコンゴノケントウヲイノル”
「皆、息災そうで何よりだ。」
「ええ。 大湊の大ベテランたち、ですからね。」
曙が皮肉交じりに立華に向かって言う。
にこやかに。
それを見て立華も微笑む。
そして・・・
「よし、大湊に向かってくれ。」
「了解。 高度を上げます。 進路、北東、大湊へ。」
編隊は、2度3度と翼を傾け、高度を上げていく。
目指すは、本州最北端、大湊鎮守府。
舞鶴の上空に飛行機雲を残して編隊は大湊へと飛んでいった。
立華の出張は間もなく終わろうとしていた。
出張から帰りついたその日の食堂では、曙が皆の質問攻めにあっていた・・・・。
「Hi! 曙! 出張中、提督とは進展ありましたカ?」
「ねぇねぇ、一緒にお風呂に入ったとかぁ、一つ布団で寝たとかぁ、あったの?」
と青葉が言えば、
「それとも、提督を貶してたとかぁ?」
と衣笠が言う。
だいたい、年頃の女子トークは遠慮と言うものがない。
「あんたたちが思ってるほどの事は、なかったわよ!」
というのが関の山であった。
しかし、曙の顔が赤い。 顔色は口以上にモノを言っている・・・・。
「ほほう・・・ その赤い顔して、何もなかったと・・・・。」
「・・・・・それで納得すると思ってんの!!!! 曙! 白状しなさい!!」
いやああああああ!!と叫んではいるが、この場に味方は誰もいない、可愛そうな曙である。
「何、騒いでるんだよ??」
と出張のもう一方の当事者が、のこのこ現れた。
「皆にお土産を持ってきたんだ・・・け・・・・ど・・・・・」
(なんだぁ、眼が、みんなの眼が、怖い・・)
「Hey! 提督! 曙との二人きりの出張は、どうだったんですカァ??」
「提督、私も聞きたいです。」
と翔鶴までもが追い打ちをかけてきた。
「え~~!!」
そこへ大淀が
「どうしたんですか? みんな、大きな声をだして。」
と涼やかな声で瑞稀を抱き、食堂に入ってきた。
「大淀さんも知りたいですよね? 提督と曙ちゃんの2人の出張で愛情劇!」
「だ、だれが、愛情劇にするんだ!」
「え? 誰って、もう。 提督と曙の2人ジャン。 ね?」
「お二人が仰らないんでしたら、私がお話ししましょうか? 分かる範囲ですけど。」
「「大淀さんは黙ってて!!」」
立華と曙がシンクロする、が、誰も聞いちゃいない・・・・。
既に大淀の周りに人だかりである。
「確か、今回の出張は、提督のご実家に宿泊されていますね、2泊。 ですので、提督のご家族に曙ちゃんを紹介したのだと。 瑞稀ちゃんが曙ちゃんに懐いている姿を見せるため、でもありますね。 ね? て・い・と・く。」
なんとも言えない、冷ややかな視線が立華に集中する。
明らかに、逃げ場は・・・無かった・・・・。
腹を括った。
いずれは分かる事だと。
「分かったよ。話すよ。と、その前にお土産があるから。塩味饅頭。播州は赤穂名品だ。みんなで食べてね。
で、今回の出張の事だけれども・・・・・」
((((うんうん))))
「え~っとね、」
((((ふんふん))))
「皆の期待するようなことは無かったよ。確かに、お風呂も寝床も三人一緒だったけど。」
「「「「三人?」」」」
「そ。瑞稀とね。」
((((はあ・・・))))とため息が聞こえるようだった。
「残念だったね。瑞稀が喋れれば良かったのにね。」
「もう!」とふてくされる曙に「はははははっ」と笑うだけの立華だった。
この問答はしばらく続いたのだった。