藍い苺の咲く頃   作:鶉野千歳

3 / 19
提督の過去

「期待しないでね。」

 

と前置きして、グラスに酒を注ぎ、一気に煽った。

立華は伏し目がちに話を始める。 瑞稀を抱き上げて。

 

「この子の母親は・・・・・・俺の妻は・・・・・君が言うように、艦娘だ。噂通りで間違いないよ。名は・・・・・鳳翔だ。 鳳翔型航空母艦1番艦、鳳翔。」

 

「えっ、お艦ですか??」

 

空母娘でも知らなかったろう。当の鎮守府では箝口令が引かれたくらいだからな。

 

「そう。  空母娘の母とも言われる、鳳翔だよ。」

 

大淀がハッとして、携帯端末を操作する。

 

「俺と鳳翔がであったのは、今から3年ほど前になるか。

社会人から海軍へ入り、士官学校を卒業した俺が第2佐世保の提督に任じられたがその時の初期艦が彼女だった。深海の奴らが活発化するのに併せて急きょ作られることになった鎮守府だった。だから、やる事なす事すべてが手探り状態だったよ。それでも俺と鳳翔は艦娘を増やし、資材を集め、敵を倒し、鎮守府を大きくしていったよ。

 うまい具合に、沈没する艦娘はいなかったから、鎮守府運営としては上々だったろう。その代りに、鳳翔には、毎日、出撃させて、秘書艦もやっていたから、疲労が蓄積してたんだろう。

 2年ほど前、ついに鳳翔が倒れてしまった。無理もない・・・毎日が戦闘だったからな・・・・。艦体は金属疲労を起こす寸前で、工廠の担当者からこっぴどく叱られたよ。鳳翔は1か月近く休養、入渠することになったんだが、”出撃しないなら秘書艦業務をやります”って、休まないんだよね。

 そんな健気さも含めて、俺は鳳翔に惚れた、いや、とっくに惚れてたよ。 最高練度に達してたから、俺は・・・迷わず、ケッコンカッコカリの指輪を鳳翔に送った。最初は渋られたけど、受け取ってくれた。「私も・・」といってな。詰まるところ、相思相愛だったんだが・・・・。恥ずかしながら、俺と鳳翔は、愛し合った。 俺は、艦娘って全く気にしてなかった。鳳翔を普通の女の子としか思ってなかったよ。俺も艦娘は妊娠しない、と聞いていたが、ある日、鳳翔が気分が悪いといって倒れた。執務室の俺の前でね。 医療妖精さんに診てもらったら、身体的に問題ない、と。ただし! 妊娠の可能性があると。驚いたよ。 だけど、同時に嬉しかった。2人で喜んだよ。 艦娘が妊娠しない、なんてどうでもよかったんだ。

 俺は、鳳翔の仕事を全部外した。鳳翔のお腹が日増しに大きくなっていた。それを見て更に嬉しくなったよ。そして、瑞稀が生まれた。俺たちは喜んだよ。俺は2人が愛おしくてな・・・・。

 その後、鳳翔は戦列に復帰した。 そして今から3か月前だ。俺は旗艦足柄に乗り、鳳翔を2番艦として、資材を確保して鎮守府に帰投中、ル級改2隻を含む6隻の艦隊に出くわしてしまった。こちらは、作戦終わりで残弾が残り少ない状態だったんだ・・・。随伴する駆逐艦の魚雷は既に撃ち尽くしていたから、戦闘を避けつつ全力で帰投しようとしたが、逃げ切れず、各艦が中破以上という被害を受けてしまった。最後の段階で、鳳翔は旗艦の盾になって被弾を繰り返して、ついに艦隊から落伍してしまった。 叫んだよ。皆、必ず帰るぞって。 もう少しで敵の射程外に出ようかって時に、更に敵の砲撃が命中してしまった・・・鳳翔に・・・・。」

 

立華の目には溢れんばかりの涙があった。それが一筋の流れになった時・・・・

 

「鳳翔は・・・・”瑞稀を頼みます。あなたに逢えて幸せでした”って言ってね・・・・。 次の瞬間、爆沈・・した・・。」

 

一筋の流れが川になり、机の上に海のように広がっていく・・・。

曙が瑞稀を立華から受け取り、あやしている・・・・。

 

「鳳翔が落伍し始めたとき、残りの艦娘から、鳳翔を援護するため反転しよう、と声が上がったが、俺は・・・・、拒否をした。認められない、と。

 鳳翔一人を援護するのに、5人全員が沈むかもしれない可能性があったからな。その時点で敵は6隻が健在だったし・・・。

鳳翔から「殿を務めますから、皆は離脱を。」と連絡があったが、俺はその通りにした・・・・。

俺は唇を咬んだよ。血が出るくらい。 拳も握ってたよ。爪が食い込むほどに、ね。

後で足柄が言ってたけど、その時点で、俺は、泣いていたそうだ・・・・。

多分、鳳翔を犠牲にするかもって分かってたんだろう。

鳳翔を除く5隻が港に帰り着いても、俺は船から降りれなかった。

皆に、いや、瑞稀になんて言えばいいか、わからなかった。

それよりも、俺は・・・なんてことをしたんだってね。

その戦闘も何とか判定勝ちが付いたが、そんなのはどうでもよかった。

鳳翔を、妻を、失った俺には、勝ち負けなんて、どうでもよかった。

 

 ただ、その後、第2佐世保には、居れなくなった。いたたまれなくなった。

何もないところから、2人で作り上げてきた鎮守府だったから、そこかしこすべてに思い出があって・・・・・耐えられなかった。

俺は転属願いを出した。

とにかく、佐世保から離れたかったんだろう。

軍令部預かりとなり、1か月間、療養という形で、瑞稀と2人で暮らしてたよ。

そして今回、軍令部から大湊へ転属と相成ったんだが・・・・。」

 

グラスに残っていた酒を煽った。

 

「どうだ? 面白くもなんともないだろう。

 天龍、君の言ったとおり、艦娘鳳翔が身籠り、瑞稀を産んだ。それは事実だよ。

 そして、瑞稀に母親がいないことも、分かったろう、朝潮、曙。 

 んで、天龍、これで少しは俺のこと、信用してもらえるんだろうか?」

 

「佐世保時代の、唯一の喪失艦が、鳳翔さん、だったんですね? 提督・・・。 それも、最後の戦闘で・・・」

 

携帯端末を操作していた大淀が言った。

 

「ああ。 それが佐世保での、俺の最後の戦闘だよ。」

 

立華は、もう一杯、グラスに酒を注ぎ、口を付けた。

 

「俺は・・・瑞稀が生きるために、提督を続ける、と決めたんだ・・・。鳳翔との約束を果たすために・・・・。」

(今は、これしかない、と・・・・)

 

「もっとも、見ての通り、曙に任せてしまってるけど、ね。 なぜか、曙には、懐いてるんだよなぁ。」

 

立華の話を、目に涙を貯めながら聞いている子、俯いて聞いている子、反応は様々だったが、

 

「ありがとう、提督。 話してくれてさ。 ま、予想以上の回答には驚いたけどさ。あたしらにも希望はあるんだねぇ。」

 

「アンタは、あたしたちを沈めないでよね。ここでは誰一人として沈めないでよね。沈まなければ、涙を流すことはないわ。これはあたしのお願いよ。」

 

「ああ。 努力するよ。」

 

曙も目に涙を浮かべていた・・・・。

 

「あたしは、大丈夫よ。瑞稀が懐いてくれている間は、ちゃんと面倒見てあげるわよ。」

 

その腕は瑞稀を強く抱きしめていた・・・・。

(瑞稀・・・・つらいよね・・・・・。あたしが・・出来れば・・・・・。)

 

2230。

パーティーは御開きとなった。

皆自室へと帰っていったが、立華と瑞稀を抱いた曙が残っていた。

片づけている間宮に「悪いね・・・最後まで苦労を掛けてしまって。」と声を掛けた。

 

「いえ、大丈夫ですよ。提督。 これしきの事は、いつもの事ですから。」

 

とにこやかに答えていた。

 

「曙もありがとう。瑞稀を抱きっぱなしだったね。 疲れたろ?」

 

「そんなこと無いわよ。 瑞稀、軽いし。  ・・・さ、部屋に戻るわよ!」

 

頬がやや赤いが、執務室に戻っていった。

 

その後、立華は瑞稀とお風呂に入って、酒の影響もあってか、瑞稀とともに速攻で寝てしまった。

 

-----------------

艦娘は、元は人間である。

艦体との精神同調ができる感性、適性を持つ女性が選ばれている。

深海棲艦との戦闘が激しくなったいまでは、半ば強制的に適性を持つ女性が探されている。

それは年齢を問わず、下は小学生程度から上は上限知らず、である。

また、艦体は、資材を元に建造されるが、艦娘が居ないと動かない。

艦体は艦娘一人で動くわけでもない。そこはファンタジーらしく、妖精と言われる者たちが

介在する。彼らは人型をしているが、人間ではない事だけは確認されている。

つまり、艦を操る人型と艦そのものと妖精の3つが存在して初めて深海棲艦に立ち向かえるのだ。

艦娘になった途端に、生体的な年齢は固定されるようだ、との研究結果が出ている。

逆に、艦体を解体もしくは失った場合は、その時点から年齢が進む、そうだ。

-----------------

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。