立華が着任してから数日。
立華はまだ秘書艦を大淀に任せていた。
’まだ’と言うからには、大淀以外で秘書艦を就けようと思っていたのだ。
各艦と艦隊の動きを確認するため、艦隊の編成を変えつつ、哨戒と訓練を兼ねて立華自らが出撃する艦隊の旗艦に乗り込んでいた。
今日は、朝から太平洋側への哨戒と訓練の艦隊に立ち会っていた。
旗艦に扶桑、空母に飛龍、駆逐艦に漣、潮、朧、曙の6艦であった。
艦隊訓練では、扶桑が一番速力が遅いため、全艦が遅れること無く艦隊行動を行えた。
ほぼ確認課程を終えた頃、三沢基地航空隊の哨戒機から敵発見の報が入った。
「発:三沢基地航空隊哨戒機、宛:大湊鎮守府出撃艦隊、三沢基地より東方500kmで敵艦隊発見!陣容は、重巡洋艦クラス1、軽巡洋艦クラス1、駆逐艦クラス4。空母は認められず!」
「! 提督、哨戒機からの連絡です。 どうされますか?」
「扶桑、ここから敵までの最短接触コースを策定してくれるかい?」
「はい、既に策定済です。ここから南東へ巡航速度で4時間後、1510に接触予定です。」
「そう・・・・。」しばらく考えたのち、
「よし! これより敵艦隊を撃滅する。 進路変更、全艦、南東へ。」
艦隊は敵へ向けて進路を変更していく。
「扶桑、各艦に下令、敵接触まで休息を取るように伝えてくれ。」
「え? よろしいのですか?」
「ああ、構わないよ。 その代り1400には警戒態勢に入るように。」
「了解しましたァ。」ちょっと喜んだ口調で返事をする。
そして時刻は1400。
「時間だ。全艦警戒態勢に移行。艦隊の陣形を変更する。扶桑を中心に、飛龍を最後尾に、駆逐艦を前面に。」
各艦は所定の配置に移動するのを見て、
「飛龍に下令。 索敵機を発進。 同時に、扶桑、観測機を発艦し索敵にあたらせて。」
空母飛龍の甲板上で索敵を行う艦上偵察機が発艦用意をしている。
発艦準備が出来た機から、発艦していく。
扶桑からも観測機がカタパルトから射出されていく。
飛龍から6機、扶桑から2機である。
「飛龍から索敵機の発艦が終了したら、攻撃隊を準備させてくれ。」
索敵機の発艦が終わると攻撃隊が、艦戦を先陣に、甲板に上がってきた。
30分後、索敵機から敵発見の報告が来た。
初報通り、重巡1、軽巡1、駆逐4の艦隊であった。
その報を受けるや否や、攻撃隊の発艦を指示する。
飛龍から攻撃隊が発艦していく。
「提督、飛龍より連絡。敵発見地点に向けて第1次攻撃隊発艦す、とのことです。」
「更に飛龍より通信。発艦総数44、艦戦12、艦攻20、艦爆12。艦爆は水平爆撃、とのことです。」
44機の航空機が飛び上がり、艦隊上空で編隊を組んだ後、目的地へと向かって行った。
敵に空母はいない、との報告ではあったが、今、艦隊直掩は4機が上がっている。
攻撃隊が飛び去ったあと、飛龍の甲板上には直掩用の追加機が整列していた。
「扶桑。敵の編成をどう思う?」
「は? 編成ですか? そうですねぇ、空母が居ませんから、威力偵察でないでしょうか。」
「そうだろうね。」
そこへ艦隊前面に位置する駆逐艦から通信が入った。
「司令官? あたしたちはこのままでいいの?」と朧からだった。
「ああ。攻撃隊の結果次第で陣形は変えるけど、今のままでいいよ。」
「はぁぁい。」
「はあ?? 今のままって、変えるつもりなら今のうちに言ってくれないと困るわよ、このクソ提督!!」
この言い方は・・・・曙だった。
(ここでも、クソ呼びかい?)
「大丈夫だよ、曙。 難しい陣形にはしないから。」
「ふん! 怪しいものね。」
そんなやり取りをしているうち、攻撃隊は攻撃を始めていた。
雷撃機は低空侵入し、魚雷を放つ。
魚雷の航跡が、敵艦に向かう。
命中!
水柱が数本あがる! 敵艦に命中である。
水平爆撃隊は低高度から爆弾を投下する。
水平爆撃は今一つ、命中精度が思わしくない。
だが、軽巡と重巡に命中弾がでる。至近で爆発するものあった。
そして、攻撃隊から報告が入った。
「攻撃隊より通信。敵艦隊に攻撃を敢行せり。 駆逐艦2隻を撃沈、2隻に直撃弾、軽巡を大破、重巡に直撃弾命中、とのこと。」
「ん、駆逐艦2隻を沈めたか。まずまず、だね。」
「攻撃隊よりさらに通信。攻撃終了し、これより帰投す。残存は、重巡1、軽巡1、駆逐1。」
「おお、更に1隻が沈没か。」
「そのようです。残り3隻です。」
「よし、第2次攻撃は必要ないだろう。 扶桑、各艦に砲雷撃戦を下令してくれ。」
しばらくして攻撃隊が帰投してきた。
飛龍の甲板上が空けられ、着艦していく。 未帰還は4機であった。
「司令官! 電探に敵艦の反応あり! 距離およそ4万。」
「攻撃隊の収用完了後、潮は飛龍に随伴して、飛龍と共に後方に退避、残り4艦で扶桑を先頭に単縦陣へ。」
『了解!』
「扶桑、距離3万で砲戦開始だ。敵との距離2万で反航戦に移る。」
「監視所より報告。敵艦隊視認。陣形は重巡、軽巡、駆逐艦の単縦陣の模様。敵速は10~12ノットとみられる。」
「各駆逐艦へ。距離2万で曙を先頭に単縦陣で敵艦隊へ突入、雷撃戦へ。」
敵との距離3万になり、扶桑からの砲撃が始まった。
「距離3万。各砲塔交互射撃により砲撃開始! 主砲、撃て!!」
1番、2番主砲の右砲身から砲弾が打ち出される。
30秒程して着弾。全弾外れたようだ。
観測機から弾着修正指示が届く。
弾着修正して続けて砲撃する。
3射目に命中弾が出る。
「先頭艦に命中弾!」
「続けて砲撃!」
「敵先頭艦、発砲を確認!」
敵からの砲弾が着弾する。扶桑からはかなり離れた場所で水柱があがる。
そして距離が2万になる。
扶桑が面舵を切り、敵と反航戦となる。
同時に、曙を先頭に、駆逐艦3隻の単縦陣が速力を上げて突入していく。
扶桑からの砲撃が数度になり、先頭の重巡に複数弾の命中が出て、速力が落ちる。
「敵先頭艦が落伍します! やりました!」
双眼鏡を覗き込むと、砲身がひしゃげ、艦首から沈みかけているのが見える。既に発砲は止まっている。
「次、2番艦に照準変更!」
2番艦の軽巡に照準を合わせる。この軽巡は既に大破状態で発砲もない。
数度目の砲撃で命中弾が出て、軽巡が艦体中央部から大爆発を起こして沈んでいく。
残りは駆逐艦1隻。こいつも被弾している。
そして、曙たちとの距離が5千となったとき、雷撃が始まる。
「全艦面舵! 左舷雷撃用意! 全魚雷投射!」
とその時、敵駆逐艦の砲弾が曙に命中した。
「きゃああああ!」
艦中央部に命中弾が1発。2番砲が破壊される。
「ぼのたん、大丈夫?」
「いたたたたた・・ 2番砲大破、2番発射管大破、ね。 何とかね。」
こちらの放った魚雷2本が敵駆逐艦に命中する。
水柱が2つ。敵艦が真っ二つに千切れ、沈んでいくのが見える。
「全艦集結せよ!」と立華が指示するが、曙には危機が迫っていた。
「!? 魚雷発射管に魚雷が、残ってる??? そんな・・・・」
被弾した発射管に2本の魚雷が残っていた。
曙は直ちに魚雷を投棄しようとするが、魚雷が投棄されない・・・・
火災が魚雷に近い。いつ爆発するか分からない状態だ。
「提督! 曙に火災発生です。」
「なに? どうした、曙? 被弾したか?」
「中央部に命中弾1、魚雷発射管が大破、2本が発射も投棄も出来ずに残ってるわ・・・・」
「投棄も出来ない、だと?」
発射管に残る魚雷が投棄も出来ずに、爆発でもしたら・・・・日本海軍の魚雷の威力は1本でも、曙程度の艦では、沈没するほどの爆発力がある。
「妖精さん、投棄はできないの?」妖精に呼びかけるも、首を横に振る。
「じゃ、火災は? 鎮火できない?」この問いにもいい返事は無かった。
(ヤバいわね・・・)
そのうち、1本の推進燃料に引火し、爆発した。
曙の艦が震えた。
「ぎゃっ!」
曙の悲鳴がした・・・。
弾けた破片が曙の背中に突き刺さっていた。
数個の破片が艦橋に飛び込んできたのだ。
(ぐっ、ちょっと痛いじゃない・・・・)
その影響で1本が海に落下したが、もう1本が残っている。
「機関室に損傷! 出力低下! だめ、舵も・・・・・」
曙の意識が遠のいていく・・・。
「曙、返答ありません。 提督、どうしますか?」
(返事がない? さっき爆発が見えたが、大丈夫なのか? まさか・・・)
「漣? 曙の状況知らせ!」
「はい、曙からの返事がありません。 魚雷発射管に1本、魚雷が残ってます。火災が発射管に燃え移ろうとしてるみたい!」
「くっ! 扶桑! 最大戦速で曙に向かえ!」
「提督? どうするつもりですか? 魚雷に火が入れば、曙は艦ごと吹っ飛びますよ!!」
「魚雷を手動で投棄するんだ! 急げ!」
「無茶です!! 提督が爆発に巻き込まれる可能性もあるんですよ??!!」
「構わん!!」
「な?! 何を言うんですか!!」
「提督の代わりはいくらでもいる! 俺は、俺は・・目の前で仲間が沈むのを見るのは、再び目の前で見るのは、真っ平御免だ!! 生き残るための、努力を、俺はしたい!!!」
そう言って立華は無線機を掴んで艦橋から出ていく。
「扶桑! 曙に接近したら、艦を接触させてくれ。 接触の瞬間に曙に飛び移る! 頼むぞ、扶桑!」
「提督!! あ、もう!! 知りませんよ?!」
扶桑の呆れた声が、大声になる。
「提督? 曙まで距離1千、最大戦速で曙の艦尾にかすめるように接触します! 提督は艦首付近で待機を!!」
「すまん、やってくれ!」
扶桑の巨体が小さな曙の後部に、接触する! その刹那、立華が扶桑から曙に飛び込んだ。
立華の身体が曙の甲板上に転がる。
「くっ!」
扶桑の艦が離れていく。
「提督、ご無事で!」
「扶桑、各艦に伝達! 曙から半径5千には近づくなと。」
「司令官、漣は傍に居ます!」
「漣? いいから、聞き分けろ!」
そんな応答をしながら曙の甲板上を走る。
(これか! 2番発射管! ヤバイ、もう火が!)
残った魚雷に取りつく。発射装置を操作するも、うんともすんとも言わない・・・。
(やもうえないか・・・)
発射管のロックを手動で解除していく。
火災の熱で熱くなったロックもあったが、全ロックを解除すると、ゆるゆると落ち始めた。
魚雷の後ろを押し、完全に投棄させる。
海に落ち、水没していく。 爆発はしなかった。
次に艦橋へ走っていく。
目標は曙本人である。 返答がないのだ。
「曙?」
艦橋に入って曙をみると、背中から血を流して倒れている。
「曙! しっかりしろ! おい、眼を開けろ! おい!?」
と曙の身体を抱き起すが返事はない。ただ、生きている事は分かった。
「医療妖精、至急艦橋へ!」
時間が長く感じられる・・・・
「うっ・・・・ クソ ていとく? なんで、ここにいるのよ・・・・」
「喋るな! お前を助けに来た。」
「な、魚雷が・ばく・はつ・・・・」
「投棄した。 喋るな。 必ず助けるから。」
「クソていとく・・・・」
といって意識を失った。
気が付くと、曙の右舷に漣が、左舷に扶桑が接舷していた。
それぞれから医療妖精が来て、曙の応急処置を行っている。
破片を取り除き、止血している。
その間、曙の身体を横向きに寝かせ、頭を立華の膝の上に置いている。
応急処置が終わり、医療妖精が戻っていくが、曙は、動かさない方がいいらしい。
「提督? ぼのたんは?」
「漣か? ああ、大丈夫だ。 意識は失っているが、生きてるよ。」
「よかったあ」
「曙の艦は動かないから、漣、朧で曳航してくれるか?」
『はい!』
「扶桑? すまなかったな。 間に合ったよ。 すまないが、飛龍にも連絡して、艦隊集結、大湊へ帰るぞ。」
そう言って、艦隊は集結した。
扶桑を先頭に、飛龍が続き、漣、朧が曙を曳航し、潮が最後尾に就いて大湊へと帰投するのであった。
その間、立華は曙の頭を撫でていた。ずっと。
時折、うめき声をあげる曙を頭を、すぅっと撫でていた。
(容体は落ち着いているな。 何とか大湊まで持ってくれよ。)
曳航すること数時間。
艦隊は大湊鎮守府に帰ってきた。
曙の艦体はそのまま修理ドックに入渠することに。
曙本人も入渠するが、立華は高速修復剤の使用を許可した。
埠頭に居た立華は帰ってきた皆を労い、執務室へと戻っていった。
「みんな、お疲れさま。」
「司令官、ありがとうございます! 曙を助けてくれて。」
と入渠(お風呂)を終えた朧、漣、潮の3人が入ってきた。
「大したことじゃない。 俺がやりたかっただけだから。」と。
そこへ扶桑が来た。扉を激しく開けて。
「提督! 今回は無事だったからいいものの、普通、あり得ません! 無茶しないでください!! 2人とも沈んだらどうするおつもりだったんですか、瑞稀ちゃんも居るんですよ? 信じられません!」
と怒っている。無理もない。あんなこと、普通はしないんだから。
「まあまあ、今回は皆無事だったんだ。結果オーライでいいじゃない?」
「はあ? 結果オーライって訳にはいきません! 次はありませんからね! 分かりましたか? 提督?」
「はいはい。 分かったよ。 これからは無茶しないよ。」
「もうっ」と怒り顔の扶桑だった。
そこへ曙が入渠上がりで執務室に入ってきた。
「入るわよ、クソ提督。」
「どうぞ。」
入るなり顔を赤めている。
「き、今日は、ありがと。 一応、お礼は言っておくから。」
「礼には及ばない。 曙が無事なら、よかった。」
「それにしても、アンタ、バカじゃない? 爆発するかもってときにわざわざ乗り込んでくるなんて。」
「ははっ。 皆無事だったんだ。 それでいいんじゃないか。」
「ったく、何考えてんのよ。 提督のすることじゃないわ。 どういうつもりだったの?」
「どういうつもりもなにも、もう二度と仲間を失いたくない、それだけだよ。 もう二度とあんな思いはごめんだからね。今できる事を全力でやったまでさ。」
皆、呆れている。
「そ、それと、気を失っている間、撫でてくれたそうね。」
顔が赤い・・・。
「ああ。 曙の髪、綺麗だよな。 やわらかくて、さ。」
更に赤くなる。茹蛸みたいに・・・・。
「だから、クソ提督っていうのよ!」
「そうだ! 大淀さん、秘書艦なんだけどさ、曙にやって貰おうと思うんだけど、いいかい?」
「曙ちゃんですか? いいと思いますよ。」
「はあ? 何言ってんのよ。」
「そういうわけで、曙。 ただいまを以て、君に秘書艦を任せる事とする。 よろしくね。」
「どういうつもりよ? あたしも出撃もあるのよ?」
「艦の補修にしばらく掛かるって、明石が言ってたからさ、その間、暇でしょ? ちょうどいいじゃない。どう?」
「・・・・・・分かったわよ。 やってあげるわ。」
「ついでに、瑞稀の面倒もね。」
曙が呆れている・・・・・。
「じゃ、了解も貰ったと。 これで秘書艦に曙、副官に大淀さんだね。 これからもよろしく。」
そうして今日一日が過ぎて行った。