ガヴリールドロップアウトが面白すぎてついつい書いてしまいました
ヴィーネにお世話してほしいなぁ...
「はぁ~...また...」
葉が青くなり始めた初夏の朝、とあるマンションの302号室でインターホンと睨めっこしながらヴィーネはため息をついた。
(昨日ちゃんと朝行くっていったのに...)
このまま待っていても仕方がない、そもそもヴィーネにも学校があるのだ。やむを得ず、といった感じで持ち前の合鍵を使用してヴィーネは扉を開けた。
「ちょっとー!正義!」
「ふぁ...むにゃ...」
ヴィーネが勢いよく扉を開けて声を張り上げて部屋入った。ベッドには一人の青年が寝転がっており、その様子を見てヴィーネは またか といった様子でまたひとつため息をついた。
「もー!やっぱりまだ寝てた!」
「なんだヴィーネか...もうちょっと...ってヴィーネ!?」
青年は驚いた様子で勢いよくベッドから飛び起きた。この青年の名前は、不破(ふわ)正義(せいぎ)、ついさっき勢いよく部屋に入ってきたヴィーネとは恋人の仲である。
「もう...またカップラーメンばっかり食べてる...ちゃんと野菜も食べてって冷蔵庫に入れてあげたじゃない」
「いや、ちょいちょい...そうじゃないだろ」
「?」
恐らく昨晩食べたであろうキッチンに置いてある空のカップラーメンの入れ物を片付けながら喋っていたヴィーネの口を止めるように正義はツッコミを入れた。
「お前、何で俺の部屋に平然と入ってきてんの?」
「え? それはこれを使ったから」
何か問題でも? というようにヴィーネは手のひらの合鍵を正義にちらっと見せてみた。
「おまっ...いつの間に...てかそれ犯罪だろ!」
「え...ダ、ダメだった...?」
「いや、別にいいけど...ていうか鍵が欲しかったなら言えよ、そのくらいいつでもやるからさ...」
「そ、そう? わかった...」
少し眠そうに頭をかきながら言ったその正義の発言にヴィーネは少し顔を赤くする。ヴィーネは正義の発言に対して弱い、どうも恋人という関係に慣れていないからだろうかは知らないが、ヴィーネは彼のちょっとした優しさのある発言に対して事あるごとに照れてしまうのだ。
が、しかし―――。
「で、朝っぱらから何?」
その発言でヴィーネの少し赤くなっていた顔は一気に冷めた。
「で じゃないでしょ! 朝ご飯作りに家に行くって昨日連絡したわよね!?」
「あー...そういえば...あはははは...、ま、まあ人間誰でもうっかりする時はあるよな、うん!」
「正義の場合は四六時中うっかりしてるじゃない!罰として棚にあるカップラーメンは全部没収します」
そう言うとヴィーネはキッチンの隣にある棚からカップラーメンをごそごそと取り出し始めた。本心は正義の健康の為なのだが...それは恥ずかしくて心に秘めておくヴィーネだった。
「えー!ヴィーネの鬼ー!」
「はいはい、なんとでも...」
「悪魔!」
今まで元気そうに動いていたヴィーネだったが、その正義の発言を聞くとピタッと動きを止めた。
「あ、あれ...?ヴィーネさん...?」
その様子を見た正義は流石に不安になりヴィーネの元へと近付き、肩に手を寄せヴィーネと顔を合わせた。
「お、おい、大丈夫か?」
「だ、だだだだだ大丈夫...」
「いや、そんなに汗だくで言われても...」
今の発言が気に障ったのかと少し心配する正義だが、その裏腹ヴィーネは別の心配をしていた。
そう、ヴィーネは本物の悪魔である。中学生が設定で自分を悪魔だと自称するアレではなく正真正銘の悪魔だ。その事実をまだ彼氏である正義には話していない。自分が別種族であることを話したらもしかしたら軽蔑されるのではないのか、という不安が彼女にはあった。
当然、正義がそういう人物でないことをわかってはいるのだが、それほどにヴィーネにとって正義に嫌わるのだけは避けたいことなのだ。
(いつかちゃんと言わないと...)
◆
「ヤベー、プリント出すの忘れてた」
同日の夕方。
舞天高校、ヴィーネが通うその高校の1-B教室で金髪の乱れた髪型をしている天真=ガヴリール=ホワイトはプリントと睨めっこしていた。このだらしない見た目だけどガヴは一応天使だ。
「もー しっかりしなさいよ」
その様子を見たヴィーネはガヴに対して話しかけた。そう、この二人は友人関係にある。天使のガヴと悪魔のヴィーネという一見気が合わなそうな外観だが二人はとても仲が良い。
「で、なんのプリント?」
「天界に提出するやつ、独身男性の好きな食べ物10選だってさ、あーだりー」
「あー、結構重要な奴じゃない」
「はー...どうしよ...」
「普段からちゃんとこまめにやらないからそうなるのよ」
ヴィーネのその発言を聞いたガヴはため息をつきながらヴィーネと顔を合わせた。
「ヴィーネはいいよなー、彼氏に聞けばこういうの楽に終わるからさ」
「なっ!?」
予想外のガヴのその発言にヴィーネは顔を赤くし挙動不審になる。もちろん言ったガヴ本人にそういうヴィーネをいじろうという思惑はなく、ただただ楽をしたいという本心からいっただけである。
「あーなんだっけあの...正義さん?だっけ?あー、あの人にやってもらえたら楽なんだけどなぁ」
「ちょっガヴ!私はそんなことしてな...」
「あー、私がいるからあの人は独身じゃありませんって?はっはっは、こりゃまたでっかくノロケられてしまいましたなー」
「ガヴーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ガヴのその発言にヴィーネは更に顔を赤くし、三叉槍を取り出しガヴに向けた。
「ちょっ、タンマ!死ぬ!それ死ぬって!しかもここ学校!」
「はっ」
ヴィーネは急いで武器を収め周りを確認した。幸い誰にも見られてはいなかったようだが感情に振り回されて我を忘れる自分が情けなくなり少しシュンとした。
「ったく、ヴィーネは怒るとすぐ周りが見えなくなるからなー」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
「で、それより彼氏に聞いてくんね? これ」
まったく反省してないな、こいつ。といったヴィーネの表情などまったく気にせずガヴはヴィーネにプリントを向ける。このようなやり取りをもう何度も繰り返しているから最早慣れた、という感じでヴィーネはプリントに手を取る。いや、慣れるのもどうなのかとは思うが。
「それが...」
ヴィーネは自分が悪魔であることを彼に説明してないことをガヴに伝えた。
その発言を聞いたガヴは机に突っ伏す。
「え~...」
一気に落胆したガヴだったが、何かを思いついたように顔を上げてヴィーネを顔を合わせた。その顔を見たヴィーネの頭の中を嫌な予感が右往左往する。
「じゃあさ、何か適当に好きな食べ物聞けばいいじゃん、天界のプリントとか関係なしに」
確かにそれなら理に適っている、と思うヴィーネ。あれ?でもこれってよく考えればただガヴが楽しようとしてるのに利用されてるだけなのでは?とヴィーネは考えた。
「ダメよ、ちゃんと自分でしなさい。天使のお仕事なんでしょ」
「え~、いいと思ったのになぁ..."普通"彼女なら彼氏の好きな食べ物のひとつやふたつは知っておく義務があるよな、"普通"は」
ガヴの頼みを完全に断る体制だったヴィーネだが、ガヴのその発言に対してピクリと反応を示す。その様子を見てガヴはにやりと笑みを浮かべた。
「そ、そうなの?」
「そうだよ、あーでも仕方ないか、ヴィーネちゃんは彼氏さんにそこまで興味がないからなー」
その発言で完全にチェックメイト。ガヴの持っていたプリントをヴィーネは勢いよく奪った。
「か、勘違いしないでよね! こ、これはついでだから! つ・い・で!」
(ちょ、ちょっろ...)
ヴィーネ含め悪魔も天使も下界に関しては知識をほとんど持ち合わせていない、そこであたかも一般論のように人間の恋人の関係を語れば調べてくれると憶測したガヴだったが、ここまで上手くいくとは思ってはいなかったので予想以上の反応にガヴは驚いていた。
「じゃ、彼氏さんによろしくな~」
ガヴは楽をできた嬉しさでにやにやしながら下校するヴィーネを見送ってそう言った。
◆
時刻は午後5時前、舞天高校の校門の前にはポケットに手を突っ込んでヴィーネを待つ正義の姿があった。彼が大学から帰る駅と自宅を結ぶ道とヴィーネの通学路が一緒の為、時間が合う時はこうやって一緒に帰るのが習慣であった。
(ヴィーネ、遅いな...)
普段なら30分程前にはもう来るはずなのだが今日はヴィーネが来るのが遅い、そのせいか校門前には生徒が一人も通っておらず正義の姿が見えるだけである。
などと思っていると学校から1人の生徒が急いで駆ける様子が正義の目に入った。その姿を見て正義は一目で誰かと察する。
「はぁ...はぁ...ごめん、待った?」
「いや全然、なんかしてた?」
「ちょっとガヴと話してて...」
「あー」
正義とガヴは直接面識はないが、ヴィーネがよく話に出すので実質お互いに知り合いのようになっている。恐らく学校のそこら辺の同級生よりは詳しいレベルに。
「そ、それよりさ、正義...」
「なに?」
ヴィーネは先程ガヴと話していた質問を正義に問いかけようとするが、先程の会話が会話なだけに聞くのが恥ずかしく口をもごもごさせていた。
「ヴィーネ...ガムでも食ってんの?」
「えっ!? い、いや?」
「じゃあなんでそんな口をもごもごさせてんの」
その仕草が見られたヴィーネは余計に恥ずかしくなる。と、同時にもうどうにでもなれという気持ちも湧いてくる。
「せ、正義!」
「うわっ!? な、なんだよ」
「正義の好きな食べ物ってなに?」
「え...から揚げ」
簡単。余りにも簡単。聞いてみれば一瞬のこと。それなのに緊張しながら聞いた自分が馬鹿馬鹿しくなりヴィーネは安堵のため息をついた。
「どうしたんだよ急に」
「べ、別にっ! さ、帰りましょ!」
太陽が沈みかけ、夕日が街を赤くするその中を正義とヴィーネは肩を寄せながら共に歩く。ちょっと恥ずかしかったけど正義のことをもっと知ることができてよかった、と思うヴィーネなのでした。
―――後日、正義の夕食にヴィーネがから揚げを作ったのは別の話。