艦隊これくしょん w/ BIOSHOCK INFINITE 作:焼き鳥タレ派
ランプの光だけが周りを照らす、薄暗い執務室。
革張りの上等な椅子に座った、その白髪の老爺は通話を切ると
スマートフォンのアプリを閉じた。このスマートフォン。
ルーテス兄妹はただの“高性能な電話”だと言っており、さして興味もなかったので
大して触っていなかったが、なかなかどうして。必要な“データ”が全て入っており、
アプリという高性能な人工知能を多数搭載している。
適当に画面をスライドして遊んでいると、傍に控えている、
カーキ色の軍服を着た陸軍将校が彼に話しかけた。
「まさか本当に海軍の無線通信に介入するとは、恐れ入りました。
エニグマに匹敵する暗号化防御をいとも容易く突破するとは……」
「エニグマ……旧時代の遺物か。懐かしいものだ。
ところで、頼んでおいたことは滞りなく進んでいるかね?」
「はっ、お喜びください!予定よりやや遅れましたが、カムストック様より賜った
超技術により、先程伊豆大島の浮上に成功したとの知らせが入りました!」
「うむ。我が親衛隊はどうなっている」
「既に精鋭部隊を編成しております。窓の外を御覧ください」
カムストックは椅子から立ち上がり、ゆっくり
テラスへの入り口になっているガラス扉に近づく。
カーテンを開けると、眼下に武装した1個大隊が広大な訓練場に整列していた。
軽く扉を押してテラスに出る。彼に見張り台から探照灯の光が浴びせられる。
カムストックが姿を現すと、隊員たちからどよめきが起きた。
“預言者様、預言者様だ!”
“次はどんな奇跡をお告げになるんだ!?”
“静かにしろよ!御神託が聞こえないじゃないか!”
カムストックはそんな彼らを、片手を上げて制した。ざわめきが一気に静まり返る。
そして厳かな口調で語りだした。
「諸君、勇気ある者達よ、君達の決起に心からの敬意を示す。
この国難の危機に立ち上がった、日本陸軍こそが真なる救国の勇士なのだ。
では、神国日本を蝕む危機とは何か?深海棲艦?答えは否だ!戦うべき敵は列強各国!
彼らは今も世界の覇権を虎視眈々と狙っておる。
今のところは深海棲艦なる化け物にかかりきりでその手を休めておるが、
奴らが死に絶えた時、彼らが真っ先に矛先を向けるのは、この主に愛されし日本なのだ!
これが大天使様のお言葉である」
“そうだそうだ!”
“支那人や露助ならそうするに決まってる!”
“大天使様が仰っているなら間違いない!”
「私は一介の預言者に過ぎない。残念ながら日本の生まれでもない。
しかし、半年前、この国の小高い丘に降り立った時、
国籍などという了見の狭い概念は捨て去った。ただ大天使様のご宣託通り、
諸君に知恵の実を授け、この神に選ばれし日ノ本を勝利に導くこと、
私にできることはそれだけだ」
“この「マシンガン」って武器、すげえ威力だもんな……”
“ああ、村田銃とは全然違う。こいつなら1人で10人と戦える!”
“この「RPG」ってやつも一発で砦を吹き飛ばせるぜ!”
「勝利の栄光を掴むのは他でもない、君達陸軍部隊だけなのだ。
安全な所で小娘に化け物退治をさせるだけで、
自ら血を流す覚悟も持たぬ海軍などでは決してない!
彼らは泥にまみれた携行食料を食んだことがあるのか!
そもそも何日も飢えに苦しみながら行軍したことがあるのか!
膿んだ銃創から湧き出すウジに恐怖したことがあるのか!」
“あるもんか!奴らが一日三食を欠かしたことなんかねえ!”
“鋼鉄の艦に守られて豪華な食事を楽しんでるそうじゃねえか!”
“海軍の腰抜けに御国が守れるか!”
「その通り、勝利の美酒に相応しい存在が君達であることはもう話した。
その象徴たるものが、あの天空都市“コロンビア”である。見よ!」
カムストックは南の方角を指差した。見張り台の隊員が探照灯を空に向ける。
そこには浮上した伊豆大島が。大地が鉄の骨組みで支えられ、
巨大なプロペラやバルーンなどの浮力で一つの島が丸ごと1つ空に浮かんでいた。
隊員達が驚愕の声を上げる。
“な、なんだ、一体何が起こってる!?”
“もしかしてあれ、伊豆大島なのか……?”
“奇跡だ……奇跡としか言いようがない!”
ああ……うおおおおおおおおお!!
武器を振り上げ、もはや雄叫びに近い歓声を上げる隊員達。
カムストックは彼らの興奮が引くのをしばらく待つ。
そして歓声が少し止んだ所でまた語り始める。
「神に近しい空に位置する楽園、コロンビア。そこに住まう資格があるのは、
言うまでもなく神国に命を捧げる諸君である。
しかし、諸君をコロンビアに誘うにあたり、1つの試練が待ち受けているのだ」
“試練?何なんですかそれは!?”
“教えてください、預言者様!”
“俺達なんでもやってみせます!”
見張り台の隊員が、今度は映像投影機で、
2枚の写真を陸軍本部のコンクリートの壁に映し出した。男性と少女の写真。
「男の名はブッカー・デュイット。偽りの羊飼い。かつてこの男は、
言葉巧みにこの少女を誑かして連れ去ったばかりか、
邪魔な者を容赦なく殺戮して回った卑劣極まりない人物だ。
そして少女の名はエリザベス。彼女もまた、大天使様に選ばれた存在。
私は大天使様の声を聞き、彼女はそれを具現化する能力を持っていた。
今、諸君が見た空飛ぶ島を創る術は、私と彼女が共に築き上げたものだ。
だが!またしても奴は現れた。あろうことか偽りの羊飼いは再びエリザベスを連れ去り、
この日本に逃げ込んだのだ。
そこで、戦う術を持たぬ私に勇気ある諸君の力を貸して欲しい!」
“預言者様、ご命令を!”
“命に代えても彼女を奪還します!”
“預言者様の武器があれば、偽りの羊飼いなんか目じゃねえ!”
「ありがとう。君達の覚悟と決意には感服せざるを得ない。心配はいらない。
奴の潜伏先は既に判明している。ここから西に最も近い海軍鎮守府。
奴はそこにエリザベスと共に匿われている。いずれ君達に上層部より指令が下るだろう。
味方と戦うことを心苦しく思うのは致し方ない。
だが、これも日ノ本を強欲な列強の魔の手から守り、
深海棲艦なる害虫を駆除するためにはやむを得ない試練なのだ」
“海軍の奴ら、彼女の力を独占する気だ!”
“ちくしょう、もう海軍なんか味方じゃねえ!”
“皆、今から鎮守府に襲撃を掛けるぞ!”
何名かの隊員が隊列から離れ、訓練場から走り去っていった。
「ああ、なんということだ……偽りの羊飼いは悪魔と契約をしている。
彼らの力でも敵うかどうか。どうか諸君は冷静な判断で、時が満ちるまで待って欲しい。
昨夜、また夢の中で大天使様からお告げがあった。
新たなる知恵の実、圧倒的な神の力の現れ。それが間もなく現れる。
皆の大いなる力となるのは間違いないだろう。君達が彼らと共に戦うのはその時だ。
今日の大天使様からの言伝は以上。健闘を祈る」
“はっ!!”
“預言者様バンザーイ!”
“バンザーイ!”
そして万歳の声を背に、カムストックはガラス扉から室内に戻っていった。
再び革張りの椅子に座ると、将校が彼に歩み寄る。
「申し訳ございません、何名かの兵士が勝手なことを……」
「構わぬ。もし取り返せたらそれでよし、失敗に終わっても、
奴らの戦力を幾分か知ることはできる」
「決行はいつになさいますか?」
「まぁ、そう急ぐこともあるまい。伊豆大島浮上という大事を成したばかりだからな。
彼らの成否を確認してからでも良いだろう」
「かしこまりました」
カムストックは頬杖を付きながら、ランプの優しい光を眺めていた。
その目の奥に宿る意思を推し量ることは誰にもできなかったが。
「ちくしょう、カムストックの野郎!……生き返ってやがった!!」
自分の部屋に戻った俺は隅にあったゴミ箱を蹴飛ばした
「落ち着いてブッカー。でも、嫌な予感ほど、当たるものね……」
エリザベスも俺の部屋に来ていた。そうだ、ゴミ箱蹴ってる場合じゃねえ。
これからのことを話し合わなければ。
「もう一度だ、もう一度カムストックを殺す!何故かはわからんが、
俺とカムストックは分離して蘇った。もう別個の存在だ、
殺しても俺達が消える心配はねえ。だったらやることは一つだろう!?」
「だから落ち着いて。相手はどこにいるのかもわからないのよ?」
「……くそっ、奴はおそらくエリザベスを狙ってる。全てを失った奴は、
サイフォンがなくなり、ティア本来の力を取り戻したエリザベスを奪う気だ!」
「全てを失った、と決めつけるのは危険かもしれないわ。きっと、
浮上した伊豆大島ってところを第2のコロンビアにするつもりなんでしょうけど、
あんなこと一人じゃできない。何か大きな後ろ盾が付いていると考えたほうがいいわ」
「ますます最悪だ!……だが、十分考えられるな。
ちょっとコロンビアの知恵を見せられて、奴の口車に乗せられた連中が、
カムストックを信奉してるに決まってる!」
「そう考えるほうが自然ね。とにかく今日はこれ以上悩んでも仕方ないわ……
休みましょう。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。眠れるかどうかはわからんが」
パタン。エリザベスは隣の自室に戻っていった。俺もベッドに大の字になる。
目を閉じて思いを巡らす。今後のことについて思案しようと思ったが、
疲れが身体に沈み込んでくる。考えれば今日一日で多くのことがありすぎた。
まずこの世に蘇って、ヘンテコな世界を見せられて、化け物共と戦って……
カムストックとの再会。それらを思い出しているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
カンカンカン!!
“敵襲、敵襲!現在、鎮守府東方面から武装集団による攻撃を受けている!
警備兵は直ちに現場に急行せよ、これは演習では……”
俺は甲高い警報で叩き起こされた。敵襲?また深海棲艦とやらが攻めてきたのか?
考えていると、ドンドンとドアが叩かれた。
“ブッカー!?起きて!急いで、大変なの!”
「起きてる、今行く!」
ドアを開けると慌てた様子のエリザベスがいた。
「おい、どうした、何が起きてる!」
「とにかく来て!ああ、どうしましょう、私達のせいよ!」
「……ああ、なんとなく察しがついたぜ」
俺が屋敷から出ると、パララララ、とあちこちからマシンガンの銃声が聞こえてきた。
よく見ると鎮守府の各所で銃撃戦が繰り広げられている。
カーキ色の軍服を来た兵士が鎮守府の警備兵とやりあっているが、
こちらは単発式のボルトアクションに対し、向こうは大量の弾丸を撒き散らす
大型マシンガン。銃口に取り付けられた、穴の多い筒型の消炎器が特徴的な、あの銃身!
間違いねえ、俺がコロンビアで撃ちまくってたのと同じタイプだ!
警備兵も木々や庭園の岩に隠れながら奮戦するが、武器の性能差は圧倒的だ。
俺があれこれ考えるうちに、リロードする隙を見せた警備兵がどんどん射殺されていく。
白い歩道が瞬く間に血の赤で染まる。
「すげえよ!本当に俺一人で5人は殺した!」
「やはりカムストック様のお言葉に従って正解だな」
「雑魚どもはお前らに任せる。俺は偽りの羊飼いをぶっ殺す!」
敵兵は建物の角や遮蔽物を行き来しながら徐々に本館に近づいてくる。
すると、提督が身をかがめながら小走りで俺達に寄ってきた。
「ブッカー君、見ての通り緊急事態だ。君の力を貸して欲しい!」
「一宿一飯の恩だ!やってやるが、なぜ陸軍が出動しない!」
「彼らが陸軍なんだ!理由はわからんが、通信にも応答がない。
一部の隊員のクーデターなんかじゃない!
彼らは……陸軍は我が軍と敵対関係に陥った!!」
「そうか……なら原因は俺達だ。おい、エリザベス。ありったけの武器を出せ」
「……わかったわ」
エリザベスは手のひらから光を放ち、ティアを開いた。
大小様々な武器が掛けられた銃のラックが現れる。
「さぁ、どいつで片付ける」
その頃、神経質そうな陸軍兵がマシンガンを構えながら
艦娘達の宿舎外部の通路を歩いていた。
カムストック様からの賜り物、本当に素晴らしい。思わず銃身に頬ずりする。
彼が歩いた後には、穴だらけにされた警備兵の死体がいくつも転がっていた。
さぁ、あの男と少女はどこだ。彼が辺りを見回しながら歩いていると、
バタン!宿舎のドアが後ろで開き、人影が飛び出してきた。
「動かないでください!」
緑色のロングヘアの艦娘が陸軍兵に砲を向けた。
だが、彼は振り返るとニヤニヤ笑いながら無造作に彼女に近寄る。
彼女は逆に後ずさりしてしまう。
「う、動かないでって言ってるでしょう!死ぬのが怖くないんですか!?」
「怖いよ?怖いとも。君に私を殺すことができるならの話だがね。
君はその手で“人間を”殺したことはあるかい?その結果を見たことは?
手榴弾を食らって死んだ兵士の死体を見たことはあるだろうか。
人間の身体というものは脆いのか頑丈なのかよくわからん代物でね。
私の戦友だったのだが、彼は手足を千切られ腹が破れ腸が溢れても、
なお“痛えよ、殺してくれぇ!”と泣き叫びながら何分間も生き続けた。
君がその砲を撃てば私も泣き叫ぶだろう 、“痛えよ、殺してくれぇ”
……君にその現実を直視する心づもりはあるかね?」
「あ、あ……」
砲身を持つ手が震える。男はマシンガンを構えながらゆっくりと近づいてくる。
怯えるな、私。私は艦娘だからあんなの効かない、きっと、たぶん……
だが、彼女の目に死んだ警備兵の死体が飛び込んでくる。
皆、目を見開いたまま、血まみれになって死んでいる。
いやだ、やっぱり怖い!だれか、だれか助けて!!
「ふん、所詮殺しの意味も知ら“チュイン!!”」
男は何か話したかったようだが、最後まで語ることなく、頭を撃ち抜かれて絶命した。
緑髪の艦娘は弾の飛んできた方向を見る。離れたところに狙撃銃を構えた異邦人がいた。
「おし、一人片付けたぞ!」
俺はスナイパーライフルを投げ捨て、大型拳銃を引っつかみ、戦場に飛び出した。
庭園の真ん中で、大きな岩に3人の警備兵が隠れて銃撃戦を行っていた。
俺は彼らの後ろにスライディングする。一瞬遅れてマシンガンの弾が地面をえぐった。
「どうした、敵はどこだ!」
「向こうの樹の影から連発銃を打ちまくってる。少し顔を出すと銃弾を浴びせられる!
くそ、こんな装備じゃ勝てっこない!」
「俺が殺る、絶対頭を出すなよ!」
「おい、無茶はよせ!」
止める警備兵を無視して俺は目を閉じ集中し、タイミングを測る。
俺の身体を黄色いシールドが包み込む。1、2、3!俺は樹に向かってダッシュ。
向こうからバララララ!とマシンガンの弾丸が飛んでくる。
身体から発生するシールドがバリバリと割れていく。急がないとマズい!
俺は全速力で敵に向かって走る。そしてパリィン!とシールドが破壊された瞬間、
とうとう奴が隠れている樹にたどり着いた。
「なっ!!」
驚きで奴の動きが一瞬止まる。その隙に俺はマシンガンを掴み上げ、
奴の土手っ腹にハンドキャノンを3発ぶち込んだ。“手持ちの大砲”を
至近距離で食らった奴は、何が起きたかも分からず、凶暴な弾丸に腹を食いちぎられ、
内臓をぶら下げて死んでいった。俺は岩陰の警備兵のところに戻る。
「驚いた……君は本当に魔法使いなんだな、とにかく助かったよ」
「んなこと言ってる場合じゃねえ、敵はあと何人だ!?」
「我々もなんとか集中攻撃で2人片付けた。情報によると、残りはあと1人だが、
どこにいるのか……」
「わかった、とにかく警戒を怠るな。見つけたら俺を呼べ、戦おうとは考えるな」
「すまない。我々は捜索に当たるが君も……」
「がはははは!見つけたぞ偽りの羊飼い!!」
耳障りな笑い声が辺りに響く。どこにいる?しばらく辺りを見回してようやく見つけた。
本館の屋上に、一際体格の大きい陸軍兵が仁王立ちしていた。
「お前を殺せば、カムストック様はお喜びになる、
私も晴れてコロンビアへと赴くことができるのだ!」
奴が大きな足元から、いかにも重そうなロケットランチャーを持ち上げ、
俺達に照準を定めた。
「お前らは逃げろ!万一の保険だ」
「どうする気だ!どう見てもヤバい兵器だろう!」
「魔法使いを、信じやがれ!」
手持ちのビガーは……ショック・ジョッキーとポゼッション!
駄目だ、遺伝子配列を切り替える!……間に合え、間に合え!!
ブッカーは精神を集中。彼の心に様々なビガーのイラストが浮かび上がる。
そして目的のビガーにダイヤルを合わせる。
「死ねぇ!」
大柄な男はブッカー達にRPGを発射。高速で飛翔するロケット弾が
正確にブッカーに飛びかかった。逃げ出す警備兵。迫るロケット弾。
着弾まで1秒を切った。その時。
「……間に合ったぜ」
ブッカーは左手を宙にかざす。
ロケット弾はブッカーに命中し彼を粉々に……しなかった。
左手から展開された磁気シールドに受け止められ、空中でガタガタと暴れていた。
「さすがに重えな。返すぜ」
ブッカーがパッと手を開くと、ロケット弾が軌道を180度変え、逆戻りしていった。
「えええええ!?」
敵に撃ったはずの弾が自分に戻ってくるのを見て、陸軍兵は慌てて逃げようとしたが、
足元に置いたRPGに足を取られ、逃げ遅れた。
「ああっ!!」
振り返った瞬間、着弾。大爆発が起こり、陸軍兵は
バラバラの赤い肉片となり砕け散った。
リターン・トゥ・センダー。ブッカーが持つビガーの一つ。
敵弾を受け止め、跳ね返すシールドを発生させる能力で、厄介な重装兵は片付いた。
その様子を見ていた先程の警備兵達が集まってくる。
「殺ったぞ」
「君は……本当に凄いな。とにかくありがとう。
警戒に当たっていた仲間たちによると、今ので最後みたいだ」
「ならいい。次はさっさと逃げろよ。撤退の判断が遅れると戦場では命取りだ」
「さっきの戦いぶりといい、君は軍人なのか?」
「元アメリカ陸軍第7騎兵連隊所属だ」
「戦い慣れているわけだ……あ、提督が呼んでいるぞ」
「ああ?」
エリザベスといた提督が、本館前で手を振っている。まぁいい。
このわけの分からん状況について話をしなければ。
もっとも、蘇ってから、わけの分かることの方が少なかったが。
とりあえず俺達は、またあの執務室で話をしていた。
例によって開け放ったドアから艦娘達が事の成り行きを見守っている。ゆうべの再現だ。
「まずは、窮地を救ってくれたことに感謝する。本当にありがとう」
「礼を言うのは待ったほうがいいぜ。奴らは……俺達が狙いだったんだからな」
「それはどういうことなんだ!?」
「奴ら口々に言ってただろう、“コロンビア”やら“カムストック”やら。
カムストックがコロンビアの指導者だってことは話したな」
「ああ、異世界のオーバーテクノロジーで人心を掌握し、
狂信的な域にまでその忠誠心を高めていたと言っていたね」
「その通り。奴は日本に蘇り、陸軍を使って同じことをしてる。間違いねえ」
「確かに……彼らの死体から押収した武器は見たこともないものだった。
しかし、それがなぜ君達のせいになるのかね?」
「エリザベスの能力、ティアのことはもう知ってるだろう。
奴は彼女の力を喉から手が出るほど欲しがってる。
実際俺も、かつてコロンビアで、死に物狂いで彼女を取り戻そうとする連中と戦った。
つまり、カムストックにとってエリザベスを攫った俺は敵、
エリザベスは取り戻すべき宝。……だから、今日の襲撃も
カムストックが尖兵を差し向けた可能性が高い」
「なるほど……ところで、君は疑問に思わなかったのか。
私が艦娘達を戦わせなかったことを」
「思わねえ。陸での戦いは海でのそれより目に見える結果が具体的だ。
いくら大砲や魚雷で戦えても、中身は普通の女の子なんだろう。
自分の放った砲弾で、敵が血しぶき撒き散らしてバラバラ死体になる様を見続けたら、
心が壊れる。それじゃあ、この辺にするか」
俺はエリザベスに目配せする。彼女も軽く頷く。
「俺達がここにいる限り、今日みたいな戦いがいつまでも起こる。世話になったな。
俺達はどこか軍の手の及ばない、へんぴな村でも探すぜ」
「待ちたまえ!君達2人でどうする気だ!」
「さぁな。あてのない旅に出てもいいし、
カムストックの根城に突撃するのもいいかもな」
「駄目だ!いくら君が超能力者だからといって、日本陸軍全てを敵に回すなど
無謀極まりない!」
「提督、今まで本当にありがとうございました。
ブッカーと再会できたのは貴方がたが私を助けてくれたおかげです。艦娘のみなさんも。
私と仲良くしてくれてありがとう」
エリザベスは提督に深く頭を下げ、艦娘達に小さく手を振った。
「エリザベス君、君のような少女を放り出すわけにはいかない!」
“行っちゃ駄目エリーちゃん!”
“いや、せっかく友達になれたのに!”
「……」
「ほら、行こうエリザベス」
エリザベスに退室を促す。俺も艦娘達の間を通ろうとしたその時、
集団の中から緑色の髪をした艦娘が俺の前に進み出た。そういえば。
あの時、スナイパーライフルのスコープに一瞬映った女の子だ。
「行かないでください……」
「……ああ、君。俺達がいたら君らに」
「茂さんの仇を取ってください!!」
「どういう……ことだ?」
「あの陸軍兵に殺されたんです!いつもサボってばかりだったけど、
私達小さな駆逐艦も可愛がってくれました!一緒に遊んでくれました!
でも、もう笑いかけてくれません!優しく頭を撫でてくれないんです!!
あの袋の棺桶で茂さんは……うわあああん!!」
泣きじゃくる彼女は窓の外を指差す。
衛生兵が死亡した警備兵の遺体を納体袋に詰めて運んでいる。
「……
その時提督が不思議な言葉を呟いた。
「“五省”という、我々海の軍人が心に刻む5つの訓戒のひとつ。
“誠実さや真心、人の道に背くところはなかったか”という意味だ」
「……何が言いたい」
「この五省に生きる我々は、一度迎え入れた客人を都合が悪くなったからといって
荒野に放り出すことなど決してしない!」
「だが!」
「我々にも軍人としての誇りがある!君達に力を使って戦えなどとは言わない!
だが、君達が何と言おうと我々は君達をこの鎮守府で守り抜く!」
「提督……」
「それに、通信遮断された時点で既に陸軍とは事実上交戦状態に入っている。
もう君達がいようといまいと激突は避けられない状況なんだよ。
つまり、我々はもう腹をくくっている」
“そうよ!カムストックだかなんだかしらないけど、
エリーちゃんは渡さないんだから!”
“人を撃ったことはないけど、足止めくらいならできるかも……”
“いざとなったらエリーだけ連れて逃げるから安心してよ、おじさん”
俺は拳を握り込む。せっかく生き返ってエリザベスと再会できたと思ったら、
もうひとりの自分が邪魔をする。こんなに大勢を巻き込んで。
俺は自分のケツも自分で拭けないのか!思わず壁を殴りつける。
「……俺も戦う。カムストックを倒す。だが!後悔しても知らねえぞ」
「後悔するような生き方をしてきたつもりはない」
「エリザベス、すまない。予定変更だ」
「わかってるわ!頑張りましょう!」
艦娘達から歓声が上がる。俺はうずくまる緑髪の少女の肩を抱く。
「すまない。全部俺のせいだ。だが、必ず俺が仇を取る。
大事な人を本当に殺した奴を同じ目に合わせてやる」
「うう、ぐすっ……はい!」
少女は強い目で俺を見て返事をした。その目を見て俺も決意した。
今度こそカムストック、つまり俺自信と決着を付ける。
しかし、他にも重要な問題があることを忘れてはならない。深海棲艦。
本来彼らはこの化け物と戦わなければならないのだ。俺も戦う。
彼らが俺達と戦ってくれるように、俺達も彼らの戦いに参加する。
今の俺に考えつくのはそれだけだが、かつてのコロンビアでそうしたように、
エリザベスと組めばたどり着けないゴールはない。
例えそのゴールがどんなものであったとしても、俺にできるのは戦うことだけだから。