艦隊これくしょん w/ BIOSHOCK INFINITE   作:焼き鳥タレ派

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Stage:4 The Elephant Man

艦娘ってのは奇妙な存在だ。今日はつくづくそう思った。

俺はベッドに寝転びながらその日の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

作戦会議室。

提督をはじめとした俺達は、多くの椅子と机が並べられたこの広い部屋に集まっていた。

俺とエリザベスは適当な椅子に座った。他の連中の位置関係は、まず壇上にいる提督。

そして隅の席に座っている2人の女性。彼の秘書らしき黒髪の艦娘に、

ブラウンのショートカット。どちらもアンテナのようなカチューシャが特徴的だ。

最後に、メガネを掛けた通信士の女性が書記を務めるのか、

黒板に各部隊の勢力図を掲げている。

つまり、カムストックが俺に通信を寄こしてきた時、

司令室に居合わせたメンバーが集まったわけだ。提督が口火を切る。

 

「さて、今後我々が取るべき方針について会議を始めようじゃないか」

 

「昨日攻めてきた奴らがどこから来たかわからねえか?」

 

「彼らの遺体を調べたが、既に階級章も我々の知る陸軍のものとは

まったく違うものになっていた」

 

「見せてくれ」

 

「もちろん。長門君」

 

「はっ」

 

秘書の一人はナガトというらしい。

彼女はトランクから小さなビニール袋に入った布切れを持ってきた。

いくつか手に取って見ると、見覚えのある印。

赤白のストライプに星の付いた青いエンブレム。エンブレムの星がそれぞれ違うのは、

星の数が階級を表しているからだろう。

 

「提督、この階級章は……コロンビアの国旗だ。俺達が戦った世界の」

 

「なんと……やはり彼らが所属していた陸軍部隊は

カムストックの私兵となっているのか!」

 

「必然そうなるな。他に何か情報は?」

 

「今のところは。東から攻めてきたから東部方面の部隊の可能性が高い、としか……」

 

「そいつぁ有力情報だ」

 

「やめてブッカー」

 

「なによー、おっさんだって情報ないんじゃん!」

 

エリザベスにたしなめられ、ブラウンのショートカットが文句を付けてきた。

まぁ、確かに情報はないんだが、彼女は上層部の秘書としては

少々フランク過ぎる気がする。そもそも秘書なのか?当たり前のようにここにいるが。

 

「ああ……それなら確認しておきたいんだが、

日本の陸軍は本当にカムストックの支配下に置かれちまったのか?

いくら未来の技術があるからって、皆が皆、

身元不明の外人のジジイに従うとは思えねえんだが」

 

「よく聞いてくれた。まだ希望は残っている!

昨日大淀君に頑張ってもらって、日本中のあらゆる部隊と通信を試みたんだ。

すると、近畿地方を境に、西側の部隊には

まだ彼の侵略の手は及んでいないことがわかった。

皆はあくまで天皇陛下の元で戦うことを志す、いわば“天皇派”だ」

 

書記の彼女がニコリと微笑む。彼女の名前はオオヨド。やっとわかった。

 

「天皇……そうか!確か日本はエンペラーがトップで国民も絶対視してるんだったな」

 

「その通り。彼らの情報によると、現在陛下には秘密の地下壕に

避難していただいているそうだ。“カムストック派”が皇居に押し寄せる寸前に、

異変を察知した天皇派が陛下をお連れした。そして、あえて要塞化されていない、

基地から離れた場所に急ごしらえの洞窟を作って隠れて頂いてる」

 

「ナイス判断だ。既存の基地なんかに逃げ込んだら、

狙ってくれって言ってるようなもんだからな

……確かに、カムストックに取っちゃ、絶大な影響力を持つ天皇は邪魔な存在だろう」

 

「そう、幸いなことに今のところ“天皇派”が“カムストック派”を上回っている。

海軍と陸軍の約半数、そして天皇陛下による国民の支持を得ている今、

早い段階でカムストック派を叩く必要がある」

 

「おっしゃる通りです。コロンビアの技術によって民衆の支持が揺るがぬうちに

決着を付けなければ。私達には深海棲艦との戦いもあるのですから」

 

長門が発言する。ああ、この毅然とした態度を見る限り、多分こっちが秘書なんだろう。

 

「そっちも立て込んでるって時に、余計な手間をかけてすまねえ。

深海棲艦との戦いには俺も参加する。コロンビアの技術を持ってるのは

カムストックの野郎だけじゃねえからな」

 

俺はスカイフックを軽く回してみる。

 

「止めても……行くんだろうな」

 

「わかってんじゃねえか」

 

「ま、せいぜいみんなの邪魔にならない範囲で頑張ってよね」

 

「っていうかお前は誰だ。ここにいる意味が分からん」

 

「何ですって!レディに名前聞く時は……」

 

「話聞いてなかったのか?俺はブッカーだ!ブッカー・デュイットだ!!」

 

「二人共やめたまえ!ブッカー君、彼女は陸奥。長門司令代理の補佐だ」

 

「ああわかった!ムツだな、ムツ!クソ長いからメモしとかねえと忘れそうだ!」

 

「頭ったま来た!ちょっとあんた表出なさい!」

 

「ブッカーいい加減にして!」

 

「陸奥君も落ち着きたまえ!不規則発言が目立つようなら

退室を命じなければならない!」

 

「わかった、わかったから怒んなよ……」

「申し訳ありません……」

 

また分厚い本で殴られちゃ敵わねえ。しばらくお行儀よくしていることにした。

提督がひとつ咳払いをして話を再開する。

 

「それで、何か妙案はないだろうか。武器の火力では圧倒的差を付けられている。

せめて、天皇派の勢力をさらに拡大し、カムストック派を縮小させるような……」

 

俺は考えを巡らせる。確か、大概のクーデターが失敗に終わるのは、

その後の軍部による圧政や経済不安による国民の不満が原因だ。ならば。

 

「提督。ひとつ聞きたいんだが、この世界、いや、この国では

テレビは一般家庭に普及しているのか?カムストックが俺に交信してきた時のような。

なければラジオでもいい」

 

「テレビはまだあまりにも高額で、ここの司令室や研究所といった一部の施設でしか

導入されていない。一般的なのはラジオだな。これなら各家庭に一台はある」

 

「それだ!天皇にラジオで全国民や、まだ天皇への忠誠心がくすぶってる

カムストック派に呼びかけてもらうんだ!カムストックの企み、欺瞞、残虐性を!」

 

「玉音放送か!確かにそれなら国民も耳を傾け、結束を固めるだろう。

さっそく同胞に連絡を取り、陛下に奏上してもらおう。

そうと決まれば話は早い、一旦作戦会議はここまでとしよう」

 

提督の一言で会議はお開きとなり、俺達はぞろぞろと作戦会議室から出た。

自分の部屋に帰るため階段を上ろうとした時、誰かから声を掛けられた。

 

「あ、あの、すみません。……ブッカー、デュイットさんですよね?」

 

担当部署によって制服が決まっているのだろうか。

振り返ると紫の機能的なデザインの服を来た二人組がいた。

声を掛けてきた方は黒髪を肩の辺りで切りそろえた気弱そうな少女。

もう一人は茶に近い黒を長く伸ばしている。こちらは逆に勝ち気そうな印象を受ける。

 

「ああそうだ、俺がブッカーだが、何か用か?」

 

「わ、私、羽黒と言います。その、ごめんなさい、あの、

失礼なのは十分承知してるんですが……」

 

「ほら、早く言いなよ。大丈夫だって!」

 

黒髪の少女はもう一人に促されるが、なかなか本題に入ろうとしない。

しばらくもじもじして、俺がしびれを切らして立ち去ろうとした時、

彼女は意を決して口を開いた。

 

「貴方の!貴方の魔法を見せてくれませんか!?

あああ、あの、馬鹿だと思われるでしょうけど、活動写真やおとぎ話に出てくる

魔法使いが大好きで、あの、やっぱり駄目ですか?ああ、ごめんなさい!」

 

思わず両手を広げて肩をすくめ、天を仰いだ。やたらもったいぶるから何かと思えば。

 

「なぁ嬢ちゃん、ビガーは玩具じゃなければ見世物でもねえ。れっきとした殺人兵器だ、

覚えとけ」

 

「そ、そうですよね!ごめんなさい!本当にごめんなさい!」

「なによ!ちょっとくらい、いいじゃない!」

「いいの、足柄お姉さん。私がいけなかったの……」

 

足柄とかいう女の抗議を無視して今度こそ立ち去ろうとすると、誰かに肩を掴まれた。

提督だ。俺を隅に連れて行って小声で話す。

 

「あんたまで何のつもりだ!?」

 

「私からも頼む。羽黒君は君に会うタイミングをずっと待っていたんだ。

それに……君達のためにも」

 

「どういうことだ」

 

「言いにくいことなんだが……艦娘の中にはまだ君達に恐れを抱いている者もいる。

君達が味方であり、その力が良き隣人たりうると彼女達に証明してくれれば、

その無用な不信感も払拭されるだろう。彼女達はああ見えて、

艦隊の主戦力たる重巡洋艦だ。その言葉の影響力は決して小さくない」

 

「……これっきりにしてくれ」

 

「すまない」

 

俺は踵を返して羽黒達に近づいた。そして俺は大げさに右手を左肩にかけて回し、

西洋風のお辞儀をした。

 

「先程は失礼致しましたお嬢様方。

本日はブッカー・デュイットの大サーカスへようこそお越しくださいました」

 

「わあ、やった……やった!」

「良かったじゃない羽黒!」

 

「まずお目に掛けまするは、マーダー・オブ・クロウ。

世にも恐ろしき殺人ガラスをこの手に呼び寄せてご覧に入れましょう」

 

俺は左腕を伸ばし、意識を集中。徐々に左手がカラスの足のように白くなり、

鋭い爪が生えてくる。羽黒という少女がごくりと唾を飲む。

そして手のひらに少しだけ黒いエネルギーを放出し、パッと手を開く。

すると1羽だけ大きなカラスが現れた。頼むから暴れんなよ。

 

「すごーい!……まぁ、かわいい」

 

「おっと触れてはなりません、こやつは凶暴な……」

 

ちょん

 

カラスが羽黒の肩に飛び乗った。そして彼女の頬に顔をすりつけている。この野郎!

人食いしか脳がないと思ってたが、ちゃっかり相手見てやがる!

 

「こ、この殺人ガラスを手懐けるとはお嬢さん、ただ者ではありませんなぁ!

お次はマジックの定番中の定番!デビルズ・キス!

全てを焼き尽くす地獄の炎はまさに悪魔の口づけ!ささ、危ないからお下がりになって」

 

足柄と羽黒は緊張した面持ちで2歩後ろに下がった。

俺は再度左手に精神エネルギーを注ぎ込むと、今度は俺の手がマグマのように

熱く燃え上がる。そして拳を握り込み、十分に熱を蓄えた所で手を開く。

すると、ぐるぐると回転する火の玉が手の上で燃え上がる。

 

「すごいです!本当にすごいです!」

「これには私もビックリだわ……」

 

「本日のフィナーレは、わたくし自らが飾りましょう!その名もチャージ!

訳してしまえば単なる突進、しかしただの突進ではございません。

まさに瞬間移動の早業をご覧に入れましょう!

あの廊下の突き当り、花瓶の置かれている棚をよく見ていて頂きたい。

わたくしが一瞬にして移動します!」

 

もう足柄も羽黒と一緒になってビガーに見入っている。

俺は深呼吸し、体内に記録されたビガーからチャージを読み込み、

デビルズ・キスと交換。

 

「さぁ、瞬きなどなさらぬよう。まさに一瞬の出来事です。3,2,1……!!」

 

俺は花瓶に向かってチャージを発動。周囲の時間の流れが停止する。

正確には俺の体感時間だが。俺の身体が猛スピードで廊下の向こう側に引っ張られる。

そしてビガーの効力が切れると、さっきまで俺がいた場所を見つめていた羽黒達が

戸惑い、俺を探す。

 

「お嬢様方!わたくしはこちらですよ!」

 

“え、嘘!いつの間に?”

“何これ、どうなってんの!?”

 

「ただいまそちらに戻ります。今一度目を見開いてよく御覧ください」

 

俺は花瓶から一輪の花を取り、再びチャージを発動。今度は羽黒達の前に逆戻りした。

 

「いかがでしたか?」

 

「キャッ!!」

「ええっ!?……もう何がなんだか」

 

突然目の前に俺が現れ驚く二人。俺は羽黒の制服の襟に持ってきた花を挿した。

 

「ご満足いただけましたでしょうか、お嬢様方。

本日のブッカー・デュイット大サーカスはこれにてお開きです。

またお会いできる日を楽しみにしております」

 

「ありがとうございます!本当にありがとうございました!

私のわがままに付き合ってくれて……」

 

「お客様の笑顔こそ最高の報酬、それではわたくしはこれにて……」

 

「少し待って。羽黒、あなたは先に帰っててくれるかしら」

 

「はい、足柄お姉さん」

 

足柄はしばらく黙っていた。羽黒が帰っていくのを確認しているようだ。

俺が挿した花の香りを嬉しそうに楽しんでいる。

彼女の姿が見えなくなると、足柄は神妙な面持ちで話しだした。

 

「今日は私達の無茶に付き合わせて本当にごめんなさい。

そして、あの娘を笑顔にしてくれて本当にありがとう」

 

「どうした。彼女悩んでるのか」

 

「どう言っていいのか……このところ楽しい知らせなんて全然なかったじゃない。

それでなくてもあの娘は性格的にどんなに辛くても我慢しちゃうの。

私達が気をつけないと耐えすぎてしまうくらい。いつも何かに怯えるように

おどおどしてて、それでも人に寄りかかれないほど不器用で、損な思いばかりしてきた。

そんな時、現れたのが貴方。貴方が超能力で深海棲艦を倒した噂を耳にした時、

ひと目会いたい、どうすればいいだろう、私なんかが会いに行っていいの。

普段のあの娘からは考えられないくらい私に頼ってきた。

そんなこと貴方には関係ない話だってことはわかってる。でも、これだけは聞いて。

貴方は羽黒を助けてくれた。それだけは紛れもない事実よ。そして、もう一度言うわ。

妹を、幸せにしてくれて、ありがとう」

 

「……たまにはピエロになるのも悪くねえ。殺してばかりだった俺に、

他の使い道があったとは自分でも驚きだ」

 

「ブッカー……」

 

「あばよ。少しソルトを使いすぎた。部屋に戻るぜ……羽黒にもよろしくな」

 

俺は足柄と分かれて自室に戻った。どすんとベッドに身を投げる。

エリザベスにソルト瓶を貰おうかと思ったが、寝てれば回復するのに

わざわざティアを使わせるのも何だと思い、昼寝がてら一眠りした。

 

 

ブオオオオン!ブオオオオン!

 

“警告!警告!現在正体不明の「ウルサイ!」ガガッ、キィィーン……”

 

ドシン、ドシン……

 

 

……と思ったが、どうもこのサイレンは俺の平穏を破るのが好きらしい。

しかも今回は妙な地響きのおまけ付きだ。ベッドから飛び降り、ドアを開けると、

俺を呼びに来ていたエリザベスとぶつかりそうになった。

 

「キャッ!……ああ、ブッカー!」

 

「わかってる!外に出たらティアで銃を!」

 

俺達は駆け足で本館の出入り口へ急ぐ。そして扉を開けると奴が居た。ハンディマンだ!

超重装甲のパワースーツで身を固めた巨大なロボット兵士。

だが、その中身は人間である。露出した頭部と心臓がその証。

俺は急いでエリザベスに呼びかける。

 

「スカイラインも要る!足だけで奴とやり合うのは骨だ!」

 

「わかったわ!」

 

武器を出し終えたエリザベスは、今度は空に向けて光を放ち、

鎮守府中にレールを張り巡らせた。銃はどれにする!?

スナイパーライフルは……ちまちま狙ってるうちに被害が広がる!

RPGは精度と弾速に欠ける!やっぱりこれしかねえか!スカイラインで一気に近づき、

至近距離からハンドキャノンで心臓を撃つのが確実だろう。

俺は、手に食い込むほど重量のある銃を掴むと、

本館正面の広場で暴れまわってる奴に向けて駆け出そうとした、その時。

 

「ヘーイ、提督!駆逐艦の娘たち、みんな避難させたよ!……って提督は?」

 

「知るかよ!金剛っつったな!手ぇ空いてるなら手伝ってくれねえか!

あのデカブツに自慢の大砲ぶちかましてくれ!」

 

「オケーイ!ロボット相手なら手加減無用ネ!」

 

「……あいつは、人間だ」

 

「え、それってどういう……」

 

質問タイムはなしだ。俺はスカイラインに飛び乗った。上空から被害状況を確認する。

相変わらず奴が暴れたせいで既に工廠の壁に穴が空き、そこら中の石畳が砕けている。

これ以上放っておけばこの被害が人に及ぶのは時間の問題だ。

俺は空からハンドキャノンで心臓を狙ってみる。

……くそ!2発撃ってみたが、遠距離から高速移動しながら撃っても

当たるものではない。そして銃撃を受けた奴もこちらに気づく。

 

「グアアア、クルシイ!!」

 

奴は力任せに庭園の岩を投げつけてきた。俺は慌ててレールからフックを外して

飛び降りる。危ねえ!直撃を受けてたらシールドなんかただの紙だったろう。

ウィンターシールドが発動。無敵状態になった俺は一気にハンディマンに向かって走る。

そして確実に命中する距離に到達すると、ハンドキャノンを奴の心臓に一発打ち込んだ。

銃声と共に悲鳴が轟く。

 

「ギャアアア!!」

 

激痛でハンディマンは、その巨体からは信じられないほどの俊敏さで飛び回りながら、

あちこちを逃げ回る。ちくしょう、これじゃ手がつけられねえ!

俺は一旦金剛とエリザベスの所へ戻る。二人共本館前の腰くらいの高さの手すりに隠れて

様子を窺っていた。

 

「ここからは任せて欲しいネ!今ならブッカーを巻き込む心配がないから

自慢の41cm砲、バーニングラブするヨー!」

 

「頼む。正確にあいつの心臓を狙ってくれ。そこだけが弱点だ」

 

「心臓?要するにエンジン?」

 

「違う、文字通り有機体の血液を送るポンプだ。

あのアーマーは事故や病気で全身不随になった人間を無理やり動かす

生命維持装置でもあるんだよ!」

 

「え、じゃあ、私が撃とうとしてたのは、人間……?」

 

「やらなきゃやられる、そういうことだ!」

 

「でも、私達艦娘は人間を守るため……そうネ!あなたのマジックで」

 

「特殊装甲のアーマーにはビガーもほとんど効果がねえ!ポゼッションも効かん!」

 

 

「ミツケタゾ!タノム、タスケテクレ!!」

 

 

やばい、ハンディマンに見つかった!動揺している様子の金剛は立ち上がり、

背負っている装備、艤装というらしいが、そいつの砲を奴に向けた。

 

「二人共、耳を塞いで……ドント・カム!!」

 

頭に響く砲声、後ろにいても吹き付けてくる熱風、彼女が戦艦に分類される艦娘だと

聞いてはいたがこれほどとは。41cm砲弾はハンディマンの左足に命中。

 

「ウゴオオオオ!」

 

バランスを崩した巨人はドシンと大きな音を立てて転んだ。

その間に金剛は縋るように俺に問う。

 

「何か、中の人を出す方法はないの、ねえ!?」

 

「あれを見ろ、脱出口があるように見えるか?アーマーを作ったクソ連中は

“永遠の命”とか宣ってたが、あれは医療機器なんかじゃない。

一度入ったら二度と出られない、恐ろしい拷問器具なんだ。奴の悲鳴を聞いてみろ!」

 

 

「クルシイ……タスケテクレ……!」

 

 

「そんな、そんな、私、どうすれば……」

 

「仕方ねえ、俺が行く!」

 

戸惑う金剛を置いて、俺は再びハンディマンと対峙する。

まともにやり合うのは得策じゃねえ、いつもどおりウィンターシールドを発動しながら、

当てられる距離から一発撃ってまたスカイラインに。

ヒット・アンド・アウェイに徹する。左足のダメージで

移動速度も幾分ダウンしているからチャンスだ。俺はレールを駆けながら、

ハンディマンの上空にたどり着くとフックを外し、間近に落下。

大型拳銃を心臓に向けた。が、その瞬間、ノーモーションの右手の薙ぎ払いをくらい、

吹っ飛ばされる。ダメージはなかったが、奴との距離が空いてしまった。

 

「くそ、もう一度だ!」

 

そして再びスカイラインに向け跳躍したが、それを見た奴も

スカイラインにジャンプした。俺がレールにフックを掛けるのと、

奴が大きな両手でレールを掴んだのは、ほぼ同時。この後訪れる展開に俺は青くなる。

 

バリバリバリバリ!!

 

「ぐあああ!!」

 

ハンディマンが両手から高圧電流を放ち、レールを伝って俺の身体を貫いた。

ショックで落下した俺はまともに地面に叩きつけられる。

感電のダメージと落下の衝撃で意識が朦朧とする。

少し離れたところにハンドキャノンが落ちている。手を伸ばそうとするが、

体内に残る電流で身体が痺れて思うように動けない。視界がぼやける。

ドシン、ドシン……最悪なことに奴も近づいている。俺は、ここで終わり、なのか……?

 

 

「ノー!ブッカー立ち上がって!」

 

「ブッカー!?ブッカー!!」

 

 

ハンディマンは倒れたブッカーを踏み潰さんとゆっくり彼に近づく。

どうする、どちらを助けるの私!?金剛の意識が闇に包まれる。

突然究極の選択を迫られた。どちらを助けても人間を殺す。艦娘である私が?

駄目、絶対ダメ、両方助けなきゃ、助ける。助ける……!助ける?

 

“タスケテクレ!!”

 

ふいにハンディマンの叫びが頭のなかに蘇ってきた。助けるってなんだろう。

鉄の檻に閉じ込めて心臓を動かすこと?違う!生きるってもっと素晴らしいことのはず!

提督が与えてくれた生は素敵なものでしょう、金剛!私は彼を……彼を生かす!

 

 

ドシン、ドシンとなおも巨人の足音が迫ってくる。ああちくしょう、ここまでか。

生き返ったと思ったら、たった3日の生還だった。

ひょっとしたらこれは、洗礼の川で死に際に見た俺の夢だったのかもな。

この世の全ては蝶の見る夢、たしか古代中国の学者が……

 

 

ズドォォン!

 

「ガアアァ!!」

 

 

ハンディマンに後方から金剛の41cm砲弾が直撃。

その巨体を揺らし、再び彼を転倒させた。その隙に金剛は、タッ、タッ、っと

軽い身のこなしでブッカーに近づき、彼を背負い、エリザベスの元へ運び込んだ。

 

「エリーは彼の手当をお願いネ!」

 

「わかったわ!ブッカー?ブッカー!」

 

エリザベスが手際よく心臓マッサージや注射でブッカーを治療する間に、

今度は金剛が玄関前の階段を降り、起き上がったハンディマンに立ち向かった。

 

「クルシイ!クルシイ!!」

 

ハンディマンは叫びながら庭園の岩を持ち上げ、金剛に投げつけるが、

うつむき加減の彼女は避けようとせず、主砲で迎撃した。

粉々になった岩の欠片が彼女に降りかかるが、気にかけることなく告げた。

 

「……あなたの偽りの生、断ち切ってあげます!!」

 

金剛は再び砲身に砲弾を装填。胸の心臓めがけて発砲。

直撃はしなかったものの、爆風でよろめき、胴体に41cm砲弾を1発浴びたハンディマンは

仰向けに倒れる。即座に金剛はハンディマンの巨体に駆け上り、

砲身を弱点の心臓に向けた。ドクン、ドクン……間近で見ると、まだ拍動を続けている。

彼が“生きている”証だ。金剛はそれに照準を合わせる。

 

「はぁ、はぁ、……許してくれとは言いません」

 

「タスケテ……」

 

「だからせめてこの言葉を。Rest in peace(安らかに眠って)...」

 

砲声。それと共に彼の生涯は幕を閉じた。

 

 

なんとか瀕死の状態から回復したブッカーは、エリザベスの肩を借りながら

金剛の方へ歩いていた。彼女は背を向け夕焼け空を見つめていた。

 

「倒したんだな」

 

「ええ……」

 

「すまない、俺が……」

 

「ブッカー、聞きたいことがあるネ。……“命”って、何なの」

 

振り返った彼女の頬に二筋の涙。

 

「……自由であるべきもの、だ」

 

「アメリカ人らしい答えネ」

 

「エレファント・マン……」

 

「ホワット?」

 

「コロンビアにいた頃、キネトスコープで見た映画だ。主人公のジョン・メリックは、

生まれつき頭蓋骨のあちこちが大きく膨張し、象のように醜い外見から

凄惨極まりない迫害を受けてきた。見世物小屋では化け物を見るような視線を受け続け、

科学者には実験動物のような扱いを受けた。おまけに大きすぎる頭のせいで、

まともにベッドで眠ることもできない有様だった」

 

「何が言いたいネ……」

 

「物語のラスト、ジョンはその大きな頭で首が折れるのを承知で眠りについたんだ。

自分の意志で、温かいベッドで眠ることを選んだ」

 

「彼もそうだと言いたいんですか!まともに言葉を交わすこともできなかったのに!!」

 

「そいつの顔を見ろ!お前を恨んでいるように見えるか!

憎んでいるように見えるか!?」

 

「あっ……」

 

金剛は機能停止したハンディマンの顔を見る。

硝煙のススで汚れた顔はとても穏やかで、まるで眠るように息を引き取っていた。

 

「自分を責めるなだの、お前のせいじゃないだの、陳腐な慰めを言うつもりはねえ。

だが、それをその男が喜ぶとはどうしても思えねえ、それだけだ」

 

「……」

 

言い終えるとブッカーは、本館へ戻っていった。彼をエリザベスが追いかける。

 

「あ、ブッカーまだ傷が……」

 

「もう大丈夫だ。心配ない」

 

後には金剛、そして先程まで苦しみにとらわれていた眠る兵士が。

彼女は男の頬をそっとなでる。

 

「……人を殺した。私はもう艦娘失格です。それでも戦い続けます。

二度と、貴方のような人が生まれないように。

だから、私に、戦い続けることを、許して……」

 

金剛は彼の大きな頭に顔をうずめる。

夕暮れの鎮守府に彼女のすすり泣く声が小さく響いた。

 

 

 

 

 

「お互い派手にやられたものだな」

 

俺は本館に戻ると、固定した左腕を布で首から下げた提督と長門に迎えられた。

 

「まったくだ。提督は何があった。ハンディマンに右ストレートでも食らったか?」

 

「ハハ、だったら今頃葬式の真っ最中だよ」

 

「あのロボットが暴れた衝撃で倒れた柱の下敷きになったのだ。

幸い当たりどころが良かったから、骨にひびが入った程度で済んだが、

頭を打っていたらどうなっていたか……提督、もうあのような無茶は止めてください。

倒壊寸前の小屋に逃げ遅れた者を探して飛び込むなど」

 

「いやはや面目ない。とにかく、お互い無事でなによりだったな」

 

「まぁ、そうなんだが。俺より金剛の心配をしてやってくれ。

ハンディマンにとどめを刺したのは彼女で、

ハンディマンに入っていたのは……人間だったんだからな」

 

「「!?」」

 

「自分を責め続けてるのは誰の目にも明らかだ。あんた彼女と親しいんだろう。

そばにいるだけでも大分違うと思うからな」

 

「くそっ、カムストックの奴らは、人間兵器まで……!!」

 

「……わかった。今回の一件も玉音放送で流すよう手筈を整えよう。

金剛のことは、私に任せてくれ」

 

「ああ、俺にはどうにもならんことだからな。頼んだぜ」

 

俺は提督、長門の脇を通り、3階の自室に戻った。

さっさとカムストックの野郎を始末してこの戦いを終わらせなければ。

俺はダメージを受けた身体を癒やすため、ベッドに倒れ込む。

目を閉じて考える。

 

……“命”って、何なの

 

金剛の問いが頭に浮かぶ。冷静になって考えると俺にもわからなくなってきた。

彼女達、艦娘は造られた存在だ。しかし、敵を殺すことをためらったり、

敵の死に涙したり。彼女達と交流するうちに、人間と艦娘、

どちらの命がどう違うのかわからなくなった。

ここの艦娘建造技術も超技術と言っていいが、それはコロンビアのものとは全く違う。

少なくとも白人だけに便利な暮らしをもたらしたり、逆らう者を皆殺しにするだけの

欲望の塊では決して無い。血が通っている。それは艦娘達が証明している。

俺は戦う。人間も艦娘も関係なく、カムストックの触手から。

 

 

 

 

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