魔王制のある世界で   作:勇者ああああ

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 欠陥の多いであろう見切り発車なこの作品に一時でありながら触れるという機会を下さり、ありがとうございます。
 



スライムを仲間に

「魔王様、本日はスライム育成キットなるものを用意してみました」

 

「う……うむ」

 

 神が定めし摂理として魔王を襲名した私は唯一の下僕、リフの用意してくれた奇妙な物体に警戒心を抱きつつも彼女の用意してくれたものならと、どこか安堵してしまうのもこれまでの関係が起因かもしれない。

 そして彼女は勤勉だ。その筋を聞けば主人の命に従っているとしか返事をしない事と魔王の座を受け持ってくれさえすれば文句の一つも無いのだが、毎日三食用意される食事はどれも美味しく、その他においても抜かりはない。

 だからこそ私よりも彼女のほうが魔王に向いている気がしてならない。

 彼女は迷い込んだ余所者を追い払い、時に不死者として住処兼ダンジョンに放っている他、言葉を持たぬ者を知らぬ間に統治していたりと、見る限り欠点がないのだ。

 一方の私は……情けないかな、自己分析に自尊を加えた所で確実に向いていない。彼女のように不死者を作ることなんて出来ないし、言葉持たぬものに至っては鳴き声としか判別ができない。

 その逆も然り。きっと私の声は彼らには理解に及ばず、隣に代弁者が居るからこそ今が成り立っているだけ。

 結果として私が魔王として一応の指示を出せるのは彼女しかいない。そんな悶々とする日々を送り続けているのが現状……とまぁ、私ラックはそんな優秀過ぎる次代候補を従え、今日もまた当人による戦力増強を勧められているのだった。

 

「なぁ」

 

「継承のお話でしたら相応の偉業を成し遂げてからと何度も申し上げているはずですが?」

 

 これである……ちなみに相応の偉業というのは対立種族の滅亡・世界征服のいずれかの事だと出会い初めの彼女が用意した『誰でも分かる魔王のはじめかた』なる著書のせいで学習済み。ちなみに勇者に関しては前者に含まれている。

 当時はまさかの話すぎて驚いたのも過去の事。

 私自身、本来ならば勇者に選ばれる可能性が極々僅かにあった立場だったもの……それが今や赤い手紙一枚で一転して魔王。そりゃぁまぁ驚いて呆れると言うもの。

 ついでにその手紙は祝福として目の前で燃え尽きたのだが、誓約の一端として私の中に刻まれているらしい。

 溜息ひとつ。思いふけっている合間にも彼女は口に出すことはできないが下僕として動いてくれていた。

 

「陸の主人様、準備ができました。補助もいたしますのでまずはこちらへ」

 

 言われて近寄り、手渡された手順書を見やる。

 なになに、まず大きな木を用意します。世界樹であれば文句なし。

 

「世界樹って取ってこれるものなのか?」

 

「おっしゃると思いまして、用意してあります」

 

「準備が良いようで結構……」

 

 次に媒体となる木の周囲に大量の水性マナを放ちます。マナの生成が出来ないのであれば水気でも構いません。

 

「……私が魔法を使えないことは知っているだろう?」

 

「えぇ。ですのでコチラへ大釜を用意してあります、後は火を付けるだけにございます」

 

 そう言って手渡されたのは何のこと無い火打ち石。ただし出処は異次元である。その瞬間はしっかり見ていた。

 彼女が態々次元を切り開いて、態々引力斥力の力を使って手繰り寄せ、至極丁寧に差し出されたのは、そう火打ち石なのだ。

 投げつけて溜め込んだ火性マナを放出する輝石と言う存在があるというのに、今となっては誰が使うかこんな物扱いの物体。

 しかし、自身に他の手段がないので受け取る他になく。なれない手つきで幾度と叩いてコツを掴み火花を散らすのに約二時間。その火花を藁などの火口へ飛ばせるようになるのにまた約二時間……

 

 

 着火消沈を繰り返して居るうちに嫌でも時は過ぎ行き、やっと火がついたと歓喜してみれば目の前に広がるのは気流に波打つ水面。

 当然なのだ、火がついて大釜に入った水が即座に沸き立つはずもない。それにこの熱量では到底湧くまで相応の時間を要するのは見るも明らか。それに燃料も全くと行って足りないほどの量だった。

 一方私が苦心している間に彼女のほうも時間つぶしをしていたようで、落ち着いた所でとうに過ぎていた分の軽食を用意してくれていた。せっかくなのでやっとの昼食にあやかるとしよう。

 住処である洞窟からこんな品々をどうやって取ってきたなんて、いまさら聞くまでもない。

 そんなシャキシャキフルーティーな野菜と塩肉の挟まったパンを齧り、傍らに備えておいてくれた水袋で吸われた水分を補って一息つく。なにはともあれ食があるというのは幸福なことなのだ。自分も昔は貧困で一食二食抜くなんてことは多々にあったけど今はまぁ、何をしているとは言っても一時に浸ろうと思えた。

 そんな一時に浸ろうと目を閉じていると、用事を済ませた彼女の声が聞こえた。

 

「流石です――」

 

「うん」

 

「では、失礼致しますね。ファイア」

 

 ごうっと片手から放たれた火炎。詠唱もあり見間違えようのない魔法なのだが、出来るのなら最初からやって欲しいものだった。

 

「湯が湧きましたのでこの状態を維持しつつ、次の手順に進みましょう」

 

「はいはいっと」

 

 申し立てた所で幾度と目にした結末が見えているので、指についたサンドイッチのソースを舐めつつ置いておいた手順書へと向きなおる。

 えーっとなになに? 用意した木材に窪みを作り、そこにスライムの種を詰め込むと。さて、肝心の種とやらはきっと声に出すまでもなく出てくることだろう。

 

「コチラが種にございます」

 

 目の間に差し出された瓶詰めを受取り、付属品の匙と窪みを作るための刃物を使って触媒へと詰め込んでいった。

 その合間に作業場と化している空間は蒸し風呂状態となり、流れ出る汗が手順二の条件を満たしていることを嫌にも示してくれる。

 

「詰め終わったよ……」

 

 用意されていた水袋はとうに飲み干し、暑さでフラつきつつも空瓶と道具二つを放り投げ補助役へと目を向ける。彼女は汗一つかかずに背後で佇んでおり、その表情はやはり無だった。

 だからこそ私にはささやかな目標を抱いてもいた。

 その結末が数多に残る物語のいずれかに当てはまろうとも、時が来れば覚悟は一応出来ているはずだと信じて、こんな苦労なら乗り越えていけると今も自身へ言い聞かせていた。

 

「では、魔王様。次の手順へと入りますのでお下がり願えますでしょうか」

 

「ん? うん」

 

 この手の類は作業作業の合間に当然として魔法の概念が加わってくるのが当たり前。なにせ『魔』族印の不可思議なスライム育成キットなのだ。

 スライムは動物と人間の学会では論じられているのと、同じく過去の座学として学んだ訳だが。今回のスライムは植物性スライム。言うなればコケの一種なんだと。

 だから見た目は悪くとも生食可という、魔族にとってはメジャーな菜園キットというわけである。

 マナだったり魔法っだったり自分が使えないのを知っていてもなお、こうして彼女は魔王としての何かを築こうと根回しをしてくれている。ソレが必要性の無い遠回りだとしても。

 

「――フリーズ」

 

 その一声で空間は凍てつき、息は純白へと色づく程の変化が襲う。

 きっと私はいつまでも思うことだろう。魔法という一端を見る度にどれだけ定められた使命に向いていないのかという事とやはり彼女が魔王をやれば良いと。

 私がそう思っているとは露知らずと言った様子で、彼女は霜付きキンキンに冷えた世界樹を取り出したなんの変哲もない木の枝で小突く。すると音と共にぷるんぷるんと緑の流動体が溢れ出るわ溢れ出るわ。

 しかし、一方で気付いてしまったのだ。水気と称してあんな大釜を焚く必要性があったのだろうか?

 熱せば水は中へと消える。それは今や主要ではないが、子供が教養として一応に教わる事であり。その逆、冷やせば元の姿か塊として中から現れるというのも教わる。

 つまるところ薄々と気付き掛けてはいたが、最後はやはり徒労であったのだ。

 

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