魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

18 / 46
本来ざっくり三行くらいで済ませてさっさと生徒会室に行くつもりだったんですが、一高の雰囲気や入門用CADのちょっとした設定、シンと達也の客観(?)評価を補足するために説明回。

前回の予告と異なりますが、視点をもう少し一般的なところに移して、摩利メインです。



#016 *4月9日 渡辺摩利

 4月9日 放課後。

 

 風紀委員長の渡辺摩利は、風紀委員に入れる新人について七草真由美と相談していると、トラブル発生の急報が入ったので二人で駆けつけた。

 途中、何かに警戒した真由美に止められて介入を遅らせたりはしたが、結果として見れば今回()あっけなく片が付いた。

 

 上級生、それも生徒会長と風紀委員長という、学内における二大権力(パワー)そのものが現れたのだから当然だろう。特に二人は去年、一昨年と九校戦の出場競技でそれぞれ二年連続チャンピオンに輝いた有名人だ。よほどの跳ねっ返り(バカ)でもなければ、まず食ってかかろうとは思わない。

 

「そこまでだ!」

 

 だから摩利が声を上げて制止をしてすぐ、騒動は沈静化へと向かった。

 とはいえ放っておいても構わない、というものでもないのが面倒なところだ。

 

 

 元よりこの時期の新入生同士の喧嘩の仲裁は、上級生にとってはそれほど難しくはない。少なくともその場を収めるだけならば、ほとんどの場合はただ上級生が声をかけるだけで止まる。もっとも、それだけでは上級生が居なくなってから仕切り直し、なんてことにもなりかねないんだが。

 

 これは()()()()()()という地位の差だけでなく、魔法師として歴然たる力の差があるため――あるいはそうした認識が広まっているためだ。

 実際、政府の補助金制度や所持資格の一部免除などの措置が取られている入門用CADを、進学祝いに買い与えられたばかりの新入生と、以降一年以上も現代魔法学について叩き込まれ、魔法式の構築や効果的な運用などの訓練を積んだ上級生とでは、魔法師としての練度が違うのは当然だろう。

 

 故にこの時期、まだ上級生だけで構成される風紀委員は、騒動とあらば即座に駆けつけることが求められる。駆けつけさえすれば収まるのだから、肩透かしも良いところではあるのだが、その光景、その事実が風紀委員という組織の存在感を新入生らに印象づけ、その後の抑止力となるのだから手を抜くわけにもいかない。

 もっとも、そのお陰で騒動の規模にかかわらず「とりあえず風紀委員を」とばかりに呼ばれて下らない口論に付き合わされることも多く、日に日にダダ下がりしていくメンバーのモチベーション維持に苦労するのもこの時期だ。

 慢性的な人手不足はどうしようもない。

 

 実力とやる気があって信頼できるヤツがダース単位で欲しい。

 目指せ風紀委員の人員倍増。

 それは歴代風紀委員長の切なる願い。叶わぬ夢であった。

 

 

 ちなみに魔法師直系の子女、特に戦闘に秀でた家門の出自であれば、魔法技能師の国家資格こそ有さないものの、すでに魔法師として実践の場に立っている者も存在する。彼らは幼い頃からCADを与えられ、その扱いについてもそれなりに習熟している。その能力は当然ながら、上級生たちに決して劣るものではない。

 だが彼らは往々にして聞き分けが良く、仲裁があればそこで手控える者が大半を占める。それは彼らが上級者に対する振る舞いについて、まず厳しく指導(きょういく)されているためだ。なにしろ若輩者に魔法という武器を与えようというのだから、そうでなければ現場になど出せはしない。

 

 

 今回の場合はそれに加え、CADを構えた一科生たちの()()()()()()()()()()()()()()()ことも大きいだろう。摩利はそう理解する。

 

 彼らにしてみればそれまでの騒動、単なるイチャモンつけに過ぎなかったようだが、そんな事はもはやどうでもよくなっているに違いない。自身を支える()()()という矜持、その源泉である魔法力の評価の一つが、魔法式の展開の速さだ。

 魔法科高校の新入生は、往々にして魔法を絶対の力と誤解しやすい。非魔法師が魔法師に勝てるはずはないと誤認し、その非魔法師の技能である体術に魔法が負けるはずがない、と信じ込んでいる。それなのに、魔法師としては()()()()()であるはずの二科生の体術に敗れた。彼らの自信は粉々に砕けたことだろう。

 

 だが、摩利に言わせれば()()()()()()()()()()()

 

 伸縮警棒に見せかけた法機(CAD)を天秤担ぎに、打ち据えた一科生を見下ろしている二科生の名は千葉エリカ。公にはされていないが、魔法と剣技を融合させた魔法格闘技(マジックマーシャルアーツ)の一つ・千葉流剣術の宗家の娘だ。15歳にして既に印可に届く腕があるとされ、時には年上の門人らに稽古をつけることすらある。

 同じ千葉流剣術の門弟である摩利は、エリカと道場で何度も手合わせをしているが、純粋な剣の腕で言えば摩利の上をゆく逸材である。

 

 それが得物の伸縮警棒を片手に、一科生を打ち据えていた。

 

 無論、十分に手加減していることは分かっている。警棒が多少歪んでいるところを見ると、()()()()()()()()()()()()素のまま殴ったのだろう。それは分かるが、それにしたってエリカのやつ、やりすぎだ。

 摩利が睨みつけるとエリカはバツが悪そうにぷいっと顔を背け、下がっていた友人らのところへと逃げていった。

 

 

 相手がそんな強者(エリカ)だったと知らずに突っかかった一科生の多くは、あたふたと取り乱しながらも単一工程の簡単で安全な魔法を試している。

 もちろん攻撃性のものではない。入門用CADにセットされた動作確認及び基礎訓練用の光波振動系魔法。ただ自分の指先が光る、それだけのものだ。最大光量も低く制限されており、目潰しなどに使えるようなものでもない。変数は光の強さと、自分のどの指を対象とするか、たったそれだけ。

 

 だがこの魔法は、彼らのほとんどが()()()()()()()()()使った魔法なのだ。特に入門用CADは初期設定から一週間はこの魔法しか使用できないよう制限されている。彼らは数え切れないくらいこの魔法を使い、魔法師となる夢を膨らませてきただろう。

 ささやかな光を宿した指を大切に逆の手で包みこみ、その発動を確認して彼らは大きく安堵のため息を吐き出し、崩れ落ちた。

 

 

「大丈夫そうね」

「まあ、()()()に一度負けたくらいで折れるようじゃあ先が知れてるからな」

 

 真由美は彼らの様子を見て、そっと胸をなでおろしていた。

 心配していたのは跳ねっ返りではなく、彼らが自信を喪失してしまうことだったようだ。心配症な彼女らしい。

 

「それはそうなんだけど、ね」

 

 つっけんどん(いつもどおり)に返した摩利に、どこか奥歯に物が挟まったようなつぶやきを漏らす真由美。

 さっきからどうも様子がおかしいなと思いつつ、必要なら話してくれるだろうと、摩利は信じて話題を変えた。

 

 

*   *   *

 

 

「ところで真由美。さっきの()()()()()でいいよな?」

「いいんじゃないかしら。本人に確認する必要はあるけど」

 

 先ほどの騒動に収拾をつけた二科の男子生徒を、摩利はたいそう気に入っていた。

 真由美の方はそれどころではなかったが、ひとまず気持ちを切り替えたかったところでもあり、摩利の提案を検討してみることにした。

 

 一年E組、司波達也。

 筆記試験は過去最高の高得点を記録したのに、魔法力が入学資格最低ランクだったために二科生に。それで年子の妹が総代。普通ならもっとヒネてもおかしくなさそうだけど、わざわざ妹のリハーサルに付き添ってくるくらい、面倒見が良いお兄さん。

 悪くはなさそうだけど、二科生ってことは実技面に不安はあるはず。

 

「それじゃあ早速……」

「ちょっと待って摩利。実技面はどうするのよ。力は必要でしょ?」

「それなら大丈夫。風紀委員(ウチ)は基本、ツーマンセルだからな。腕の良い奴をつければ足りる」

「じゃあそれは摩利に任せるけど、それでもさすがに今は駄目。ハンゾーくんが反対するだろうから、先に鈴ちゃんたちに話を通しておかないと……」

「ああ、それもそうか」

「それにこの後って、嫌がられそうじゃない?」

「確かに。じゃあ明日。よろしくな! いやあ、良かった良かった」

 

 未だ決まったわけでもないのに、一件落着とばかりに真由美の肩を叩いて喜ぶ摩利。

 それには応えず真由美は中庭で会った少年(たつや)のことを思い出し、クスリと笑う。

 

「普通科ならモテたでしょうね」

「ああ、ウチは見る目のないやつが多いからなあ」

「でも下手なことすると結婚(しょうらい)に影響が、なんて考えちゃうんじゃない?」

「学生のうちくらい、自分に正直に生きたって良いだろうに」

「あら、そんなこと言っちゃって摩利。修次(なおつぐ)さんは良いの?」

「馬鹿。そんなんじゃないって。そんなこと言って、実は真由美の方がああいうのがタイプだったとか?」

「馬鹿ねえ、そんなんじゃないわ」

 

 軽口を叩き合い、軽いスキンシップを交えるようになって、真由美はようやくささくれ立った気分を落ち着けつつあるようだった。

 

 

 真由美が調子を戻してくれて、摩利は密かに息をつく。

 ことさら明るく振る舞った甲斐があったというものだ。

 

 現場に駆けつける直前の制止。あの時、真由美の表情からは完全に色が抜け落ちていた。そのまま貧血で倒れるんじゃないかと不安になったほどに。

 

 そのくせ直後には騒動を制するために飛び込んだ摩利を後目に、真由美は一人の男子生徒とじゃれついていた。「参考人に」とか言っていたが、騒動の輪から離れた男子(かれ)に目をつけた理由はなんだろう? まさか本当に好み(タイプ)だったわけでもあるまい。

 

 小柄だがスタイルの良い(トランジスタ・グラマーの)真由美が、やや上背のある一年生男子の腕に(すが)りついた様は、不思議と絵になっていた。あれは「この場から逃がさない」という意思表示なのだろうが、それが本当に参考人としてなのか、それとも色恋の為せる業なのか、摩利にはちょっと判断が付けられないところではある。

 真由美は一目惚れをするような情熱的なタイプではないし、違うとは思うのだが、眩しげに細められた眼差しで迎撃され、うっすら頬を染めて「あら」なんて撃沈されかけていたようでもあり。

 摩利はこれでも真由美の親友を自認しているが、それでも時々、本気と冗談の区別がつかなくて翻弄されてしまうことがあるのだ。

 

 そうそう。木陰から真由美の様子を隠し撮りしていた生徒は、今ごろ服部(はっとり)のやつにコッテリ絞られていることだろう。あれで能力至上主義の性格さえなければ、本当に有能なやつなんだが。証拠のデータを見たらきっと憤慨して、でも直接は言えないので遠回しに指摘しようとして、結局はまた真由美と市原のやつにからかわれるに違いない。

 

 

 この十数分の出来事を思い返し、摩利は軽く吹き出してしまう。

 どう捉えたのか真由美がかさにかかって「違うからね!」と言い募ってきたものだから、堪えきれずに笑いだしてしまった。

 

 

*   *   *

 

 

 ひとしきり騒いでから静かになった真由美の視線を追うと、その先にはやはりあの男子がいる。

 

 一年A組、間薙シン。

 

 成績、評価ともに悪くはなかったが、摩利からすれば、あまり好印象を抱けるタイプではなかった。特に今、目の前で展開されている姿はいただけない。

 騒動が治まった今になって、蒸し返すように森崎を挑発し、追い打ちをかけるあのやり口。その意図は分からないが、とにかく摩利の性分とは合わない。風紀委員に入れたら何より自分とトラブルになりそうだ。

 

「あたしは見廻りに()()けど、真由美はどうする?」

「もうちょっと見てくわ。念のためにね」

 

 さりげなく先ほどまでのデスクワークから逃げる宣言にも特に反応せず、そっけない返事をする真由美に、一抹の不安を感じながらも摩利はその場を後にした。

 




感想、評価、お気に入り、いつもありがとうございます。
執筆を優先しているため、個別にお返事できずにおりますが、全て楽しく拝見しております。

今回ちょっと蛇足かなとも思ったんですが、今のうちに補足しておかないと後になって入れ込めずに迷走しそうだったのでぶっ込ませてもらいました説明回。

真由美視点で書いていたものを摩利視点に直したため、ちょっとおかしな部分があるかもしれません。
そのへんは後日修正するかもしれません。


(20170725)誤字訂正
 kubiwatuki様、誤字報告ありがとうございました。

(20170723 追記修正)
 本作構成に関する後書きのアレコレは一旦削除しました。
 次回・七草弘一、次々回・達也&八雲視点の補足エピソード、その後本編に戻ります。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。