魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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第一章 入学編
#000 転生


 長い長い戦いを終えた時、目の前にあったのは元通りの日常だった。

 あの日のことを思い出して、あなたは小さくため息をつく。

 

 悪魔たちの跋扈するボルテクス界から帰ってみれば、大学受験を控えた高校二年生。

 将来のことを考えれば、遊んでいる余裕など無かった。

 そんな絶望的な戦いに、恩師は根気よく付き合ってくれた。

 まあ最終的には彼女のツテで地方の大学へと滑り込んだので、受験勉強をした甲斐があったのかについては、あまり自信はないのだが。

 入学式、壇上に立ったMハゲ男の「してやったり」という表情が、少し面白かった。

 

 

 一見すると平穏な二十一世紀初頭の日本も、前世紀末のクーデター騒ぎからこっち、あちこちで騒動は起こっていたらしい。

 中には「そんな事あったっけ?」と首をかしげることもあったが、歴史科の副読本にも書かれていたし、ネットで検索すればきちんと出て来るのだから、事実なのだろう。世事に疎いのは昔から変わらない。

 

 大学を卒業してからは「世を忍ぶ仮の姿」とか言って養護教員、いわゆる保健室の先生になったりもした。

 もちろんちゃんと資格は取ったが、就職が決まったのはひとえにあの若ハゲのコネである。

 そして就職したその年にその学校ではおかしな事件が発生し、アマラ経絡の出来損ないのような塔に、夜な夜なアタックする学生たちの世話をみる羽目に。どうやら受胎した東京(トウキョウ)のギンザで世話になった、BARのママの分霊(わけみ)の仕業だったようなのだが、学生の手には余る代物だったのだろう。片目を隠した無口な少年を供物代わりにして、一年ほどでどうにか終結した。

 ママと話し合いの結果、分霊の災厄(おイタ)を封じるにはどうしても少年の肉体が必要だということなので、魂の方は別に用意した器へと移すことになった。その素材となる泥を採りに、ジャンクヤードとかいう別世界へと行く羽目になったりもした。戸籍と周囲の人間の記憶を調整するため二歳ばかり若返った彼は、別人として後に八十稲羽という寂れた町で別の事件に遭遇したという。修学旅行で月光館学園に来た折には、多少ヒントを出しておいた。無事解決したそうだ。

 

 

 その後も色々な戦いに巻き込まれながら――ほとんどがアマラ経絡に落ちては見知らぬ場所で見知らぬ少年少女と殴り合うだけだった気もするが――どうにか生き延び、かつては生命の極致を競った幼馴染と入籍し、奈良に移住してとある研究施設に勤める。

 それから小氷河期の到来によって寒冷化の進んだ地球で三十年ばかりを過ごした。

 

 2045年、資源の枯渇を原因とする戦争(後の第三次世界大戦)の勃発を目前にして意識が途絶える。

 たぶん死んだのだろう。

 死因は不明。

 妻である千晶とは先年に死別していたし、子供たちもとっくに自立していた。思い残すこともなく、気楽なものだった。

 

 人修羅として生まれ変わったあの日、既に魂は輪廻から外れてしまっている。膨大なマガツヒを核とする彼にとって、物質界の肉体が滅んでも、魂はアマラ深界に設えられた彼のための【玉座】に還るだけのこと。

 

 

 ……の、はずだったのだが。

 

 

 どういうわけだかあなたは再び人間として生まれていた。

 本当に何故こうなったのかは分からない。

 

 だが自分は確かに、2079年の日本に生を受けていた。

 

 そして2095年。国立魔法大学付属第一高校の校門前にいる。

 あなた――間薙(かんなぎ)シン――は、今日から二度目の高校生というわけだ。




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(20190507)誤字訂正
 Arwin様、誤字報告ありがとうございました。

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