魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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お待たせした上、いわゆる設定回です。すみません。

「部活連」の詳細については本作の独自設定です。
これで原作で見当たらなかった一高がらみの環境設定は大体終わり……のはず。



#027 部活連会頭

「それで俺を呼んだのか」

「私や摩利(まり)がってわけにもいかないじゃない。それにほら、十文字(じゅうもんじ)くん、前に練習相手が欲しいって言ってたでしょう?」

「ほう」

 

 生徒会室の応接スペースで、あなたは真由美(まゆみ)と共に一人の三年生と対面していた。

 誰しも()を感じずには居られないだろう、(いわお)の如き大男。ボディビルダーのようなはち切れんばかりのマッチョというわけではないが、太く丈夫な骨格に相応しいだけの筋肉を備えていることは、制服越しでも十分に分かる。かつての仲魔、金色の鎧をまとった巨人ティターンを彷彿とさせる存在感であった。

 

 その名を、十文字克人(かつと)。十師族の一角を担う十文字家の長男で、日本の現代魔法師の中では知らぬ者のない有名人だ。

 十文字家は「鉄壁」の異名を持ち、何者も寄せ付けない絶対防壁の使い手と言われている。その話を聞いたときは、あの忌々しい物理反射の象面(ギリメカラ)を思い出し、手抜き(AUTO)はするまいと心に誓ったものだった。

 また一高の生徒としては運営委員の最後の一つ、「部活連」の()()として、生徒会長の七草(さえぐさ)真由美、風紀委員長の渡辺(わたなべ)摩利と並び、一高の三巨頭(ビッグスリー)と称されている。

 

 

 模擬戦の観戦を終えたあなたたちが生徒会室に戻った後、真由美が連れてきた彼と、互いに愛想の欠片もない挨拶を交わしたばかりだ。

 近い未来、あなたが被るであろう()()()()()()()()()()()()()()()()という二つの難題について、解決策の相談をするために「十文字くんにも同席してもらった方が良いでしょうね」ということらしいのだが。

 

「新入生を俺の練習相手に、か」

 

 いつの間にやら()()()()()()()()()()()()()()()、という話になっていた。

 

 

*   *   *

 

 

「彼、今年の次席なのよ。でも彼、魔法力は高いけどご実家は古式魔法師で。だから現代魔法の使い方は、()だよく分かっていなくって」

「そういうことか……」

 

 大黒柱と見紛う腕を組み、拒絶の意志を隠そうともしなかった彼だったが、真由美の言葉にようやく腕組みを解き、厳しい四角い顔をいくらか緩ませた。

 

「そういうことか。って、資料は送られてるはずでしょ?」

「閲覧の権限があるのは本来、生徒の中では生徒会役員だけだろう」

 

 どうやら生徒会から慣例として送られていた生徒資料を、十文字は規則違反だからと読んでいなかったらしい。

 およそ高校生らしからぬ威圧感のある風情に加え、この四角四面の遵法精神。先ほどの摩利の振る舞いを思い起こすに、対外的には彼のほうが風紀委員長に相応しいのではないだろうか。

 

「そんなこと言って、また後回しにして忘れてただけでしょう」

「むぅ」

 

 真由美のツッコミに、十文字は反論するでなくただ唸った。

 

 ……よもや外見に反しておちゃめな性格なのか?

 それとも単なる()()か。

 そちらの方が、可能性は高そうだ。

 

 あなたが無遠慮に自らの思考を弄んでいる間にも、二人の話は進んでいく。

 

 

「だがそれならやはり、順を追うべきではないか? 七草がわざわざ話を持ってきたということは、理由があってのことだろうが」

「まあね。そんなところ」

「例の“計画”に関連した話か?」

「関係はあるんだけど、それは副次的なものだから。あくまで生徒の安全が本命ね」

「……どういうことだ?」

「これは私の“勘”なんだけど。十文字くんの時と同じで、たぶん彼、強()()()と思うの」

「七草の“勘”か……」

 

 魔法師が口にする「勘」には、馬鹿にできない価値がある。

 それは未だ発見されていない人間の持つ直観や第六感、あるいはただの当てずっぽうかも知れないが、少なくとも一人の魔法師が認識した現実でもある。現実をその認識によって改変するのが魔法師であるが故に、それはいずれ現実となるだろうという“予知”に近い意味を持つ。

 

 そして一人の魔法師より二人の魔法師、二人の魔法師より三人の魔法師と、より多くの魔法師に広まるほど、それが現実となる可能性は高くなる。だから魔法師は、軽々に「勘」を口にしない。

 ましてや真由美は十師族の直系。その魔法力は並の魔法師の及ぶところではない。立場からも、力量からも、本来であればその言葉は禁忌(タブー)と教育されていてもおかしくはない。

 

 だがその真由美が()()をたびたび口にすることを、彼女との付き合いの長い十文字はよく知っていた。そしてそれがよく当たることも、彼女が確信を持って口にしていることも。

 一見思春期の少女の放埒な振る舞いにも思えるそれが、彼女の持つ何らかの特殊能力に拠るのだろうということも、薄々ながら察していた。

 

「むぅ……」

 

 故に十文字は、彼女の提案を跳ね除けることが出来なかった。

 これもまた、いつもの事であった。

 

 気難しい十文字家次期当主殿が、唯一甘やかしている――ように見える――同世代の女性。そうした振る舞いが周囲の大人たちに、彼らの将来(けっこん)を期待させる原因にもなっているのだが、そうした事情について、当人たちには自覚はない。

 

 

「それに十文字くんの戦い方は、間薙(かんなぎ)くんの参考になると思うのよ」

 

 真由美があなたの力をどのように知覚し、どう理解しているのか。それはあなたには分からない。だが彼女はあの騒動の中であなたが使っていた【マカジャマオン(魔法封じ)】の効果を正確に把握し、あなたに注意を促したという実績があった。なにより彼女の懸念は正しくあなたの懸念であって、だからこそ相談する価値があると考え、現在この話し合いに至っている。

 その彼女の提案であれば、乗ってみても構わないか。そう考える程度には、あなたは真由美を信用していた。

 

「それともう一つ。勧誘合戦の件だけど、間薙くんさえ良ければ、部活連が良いんじゃないかと思うの。さっきも言ったけど、生徒会(うち)でっていうのはちょっと難しいし、風紀委員は摩利がねえ」

 

 真由美が額に手を当て、これ見よがしに「困った」というポーズを見せれば、十文字は「ああ」と納得した風に頷いて口の端をわずかに上げた。ニヤリ、とどこか威圧感のある男臭い笑みだ。

 

「なんだ間薙。お前()渡辺に嫌われたクチか」

 

 笑いが混じり、わずかにキーの上がった十文字の軽口に、あなたは思わず苦笑いを浮かべていた。

 

 正確な理由は分からないが、あの風紀委員長に毛嫌いされているらしいことは、あなたも察している。

 あなたがため息混じりに小さく頷くと、十文字は真面目くさった顔で「あいつは好き嫌いが激しいからな」と呟き、困ったものだとため息を吐いた。

 

 

「事情は概ね理解した。間薙にその気があるなら部活連で引き受けよう。()()()()いつも人手不足だしな」

 

――執行部?

 

「そっか。そのあたりからよね」

 

 真由美は頬に人差し指を当て、小首をかしげてみせた。

 

 

*   *   *

 

 

 魔法大学附属第一高校。通称「一高(イチコー)」は、その運営の一部を生徒に委託している。

 一つめは「生徒会」

 二つめは「風紀委員」

 そして三つめ、最後の一つが「部活連」だ。

 

 

 部活連の正式名称は「()()()()()()()」。

 課外活動のグループを「部」や「クラブ」、その活動を「部活」と呼ぶのは、前世紀から変わっていないらしい――まあ特に変える必要もなかったのだろうが。

 

 部活連という組織は組織の名目上の長である()()の下、隔月で行われる()()()()と、日常的な業務を行う()()()の二つを両輪とする。

 ただし実際に「部活連に所属する」と言った場合は執行部に属することとされる。連絡会議に属するのは部活連の会員とされる各部の代表者=部長のみだからだ。

 

 

 執行部では、部活連の日々の業務として行われるさまざまな管理事務が、その活動の中心となる。

 たとえば放課後における学内施設使用権を学校に代わって管理することや、毎年生徒会から各部へ配布される部費の一括管理、また大会やコンテストなど学外で活動する際の諸手続き代行などだ。各部に代わって学校側や生徒会、風紀委員らとの折衝を行い、生徒たちが集中して健全に活動できるよう支援する。それが部活連の主旨だという。

 

 三つの運営委員の一つだけあって役割としては重要そうなのだが、慣習によって手続きの多くが有名無実化しているとのこと。同じ高校生という立場柄、気安い関係にもなりやすい。いちいち書面で手続きをとるより、口頭のやりとりで済ませてしまおうとするのは、想像に難くない。そして後日、帳尻合わせの書類作りで余計に手間取られることになる。そのあたりの感覚は、前世の高校生とあまり変わらないようだ。

 

 そうでなくとも学校や生徒会、場合によっては風紀委員らとの折衝まで代行するというのは、要らぬ時間が取られるだろうことは予想がついた。前世で研究所に努めていた頃、面倒な折衝を押し付けられては時間のやりくりに追われていた同僚を思い出す。少なくとも他にクラブ活動(やりたいこと)を抱えながらできる仕事ではないはずだ。

 

 役職としても人気が無く、普段は会頭になった十文字と、それぞれのクラブと掛け持ちで執行部に属している二人の二年生しか居ない。それに生徒会から服部が手伝いに入っているそうだが、とてもではないがそれで人手が足りるわけもなく、日々少しずつ未処理の業務が溜まっていくことになる。

 そうして仕事がある程度溜まる都度、各クラブから持ち回りで人員を出してもらって間に合わせているらしいが、勿論駆り出された人員にやる気などあるわけもなく、三つの運営委員の中で、唯一評価が地を這っているとのこと。

 

 だから執行部の専属になろうという()()()な生徒がいれば、これはもう各部から諸手を挙げて歓迎されるのは疑いないのだとか。

 

 

「――以上が課外活動連合会執行部の概要となります」

 

 最初は十文字の言葉足らずな説明に、真由美がちゃちゃを入れて混ぜっ返していた――本人は補足しているつもりだったらしい――のだが、書類仕事を片付けた鈴音が見かねて口を挟んでくれた。

 

 

 市原(いちはら)鈴音(すずね)――生徒会会計。

 生徒会長である七草真由美の秘書のような存在として、理念を掲げる真由美の道行きを目されており、あなたの目から見ても、十七歳にして既に仕事のできる女(キャリアウーマン)めいた雰囲気を漂わせているのだが、その実、結構な毒舌家らしい。十文字も口こそ挟まなかったが、時折その四角い顔をわずかに(しか)めていた。

 

 まあ、それは当然だろう。自分が長を務める組織の客観的評価の悪さなど、誰だって聞きたくはない。そんな評価にさらされ続けようものなら、普通の高校生なら耐えきれないか、若くして胃痛持ちか、さもなくば毛根に重篤なダメージを負うことにでもなりかねない。

 あなたに執行部入りを薦めようとしていた真由美も、バツが悪そうに顔を背けていた。

 

 

 誰もがあなたの執行部入りは無くなったと、そう思ったことだろう。

 だが、あなたはその提案に幾つもの()を見出していた。

 

 

――世話になります。

 

 

 故にあなたは頭を下げ、十文字はその目を見開いて驚きを表した。

 

 

*   *   *

 

 

 その後、中条(なかじょう)あずさが用意した届出書類に署名し、あなたは部活連に所属することとなった。といっても来週いっぱいまでは体験期間という扱いなので、それまでに気が変わったら辞めることもできるらしい。

 現段階において、あなたにその気はなかったが。

 

 

「薦めた私が聞くのも今さらなんだけど、本当に良かったの?」

 

――ああ。

 

 不安げに訊ねる真由美に、あなたは小さく首肯する。

 慰めではなく、本心で。

 

 

 実際のところはやってみなければ分からないが、話に聞いた限り「部活連の執行部に所属する」という選択は、あなたにとって都合が良かった。

 

 勿論、やらなければならない仕事は面倒だし、自由な時間も確実に減るだろう。だが管理事務の仕事については前世で多少の経験もあるし、拘束時間については他の部活動に所属したところで同じことだ。そう考えればマイナス面は大したことがない……まあ、あなたのコミュニケーション能力の低さは問題かも知れないが。

 

 

 そんなことよりこの選択は、あなたという個人にとってのプラス面の方が大きいと判断したのだ。

 

 なにしろあなたが魔法科高校に進学した理由は、極言すれば()()()()()()()()()()()()()()という、ただそれだけなのだから。

 

 魔法という力は、これまで人類文明が発展する中で遠ざけてきた()()()だ。強大な英雄という()を、膨大な物量と集合知という()によって圧倒してきたのが、古代以来の人類文明であった。

 そこに再び神代の英雄がごとき個、魔法師という存在を得て、人類はどのように変化するのか。

 あなたの興味はそこに有る。

 

 

 そんなあなたにとって、魔法と魔法師の未来に関係するだろう人物らを観察する機会が作れそうな部活連執行部は、それだけで非常に大きな魅力があった。

 

 多くの生徒たち――即ち魔法師の卵たち――や、彼らを教え導く教職員といった人間との接点は、まず確実に出来るだろう。それが学業や職責から離れた部活動という、素の人格が表に出やすい環境というのも良い。連絡会議の都合で各部の部長と会う機会も増えるだろう。彼らの協力が得られれば、何かとやりやすくなることも多いだろうと期待できる。

 加えて真由美や十文字といった十師族の関係者に接点ができるのも興味深い。彼らはより大きく魔法師の未来と関わることとなるはずだ。

 

 

 だからあなたに薦めた部活連の風評が芳しく無かったとしても、それを真由美が気に病む必要はないのだ。

 

 だが、あなたが気にする必要はないと言ったところで、彼女の重く沈んだ気分が改善されることはなかった。

 こういうときは冗談の一つも言ってみせるべきだと、かつてあなたを笑った幼馴染を思い出す。なるほど、そうかと仲魔たちの軽口を思い出し、真似してみせたのだが……

 

 真由美は困ったように愛想笑いを浮かべ、十文字は苦虫を一ダースも噛み潰したような表情になってしまった。

 慣れないことは、するものではないか。

 

 

――すまん。冗談だ。

 

 

 夕方の生徒会室に吹き出した笑いが響くと、二つの唸り声が重奏した。

 




感想、評価、お気に入り、いつもありがとうございます。
気付けばお気に入り3000件超、総合評価5000pt超と、まるで想像していなかった領域に。


<s>次回は人修羅さんの知られざる(?)生活回を挿むか、そのまま狂想の一週間イベントかのどちらかになると思います。</s>
克人との模擬戦は新人勧誘週間が終わってからの予定です。

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(20190501)加筆修正
 一部ルビ打ち、傍点を修正しました。

(20181202)追記
魔法師稼業のエピソードを一旦撤回、ロールバックしました。
次回は部活連周りのエピソード、それから狂騒の一週間イベントの話になる予定です。

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