魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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【加筆修正】
・屋敷の所属を柔術部から空手部に変更しました。




#032 部活動説明会

 一口に部活動――正式には「課外活動」――と言っても、その種別は運動系、文化系ともに多岐に渡る。また、魔法科高校ならではというべき部活動も少なくない。例えば魔法を使った競技(スポーツ)や格闘技がそれだ。

 

 

 第三次大戦が終わった後、魔法師たちの処遇について、各国は頭を悩ませることとなる。彼らが強力な兵器であり、有力な抑止力であることは確かだ。だが多くの国々にとって彼らは一個の人間、市民でもあり、個々人の意思は尊重しなければならない。彼らを確保したいと思っても、それを強要することは出来ない。

 終戦後も軍人であることを希望した魔法師たちは、漏れなく軍部にその席を用意された。だが退役を希望した魔法師たちの行き先が問題となったのだ。

 

 戦時下においては有力な兵器として市民に喝采を浴びた魔法師たちも、平時においては常に凶器を携えた危険人物だ。そうでなくとも戦時中に大量徴発された兵士たちが、戦後に放逐されて行き場を失い、時流に乗り遅れて社会から爪弾きにされてしまうことは歴史の常である。彼らがそうなってしまった場合の損失を思えば、目も当てられない。

 だが今後も有用な戦力として維持、どころか更なる増産しなければならない魔法師たちが、市民からの支持を失うことは望ましくない。魔法師と非魔法師の融和は、世界中どの国々でも頭を悩ませる共通の問題となった。

 

 だが、国家首脳部が何らかの決断を下すよりも前に、市民が行動を起こした。

 

 戦時中、駐留軍の兵士たちは余暇に持て余したエネルギーをスポーツに興じて発散することはよく有る。その中に飛び入りで加わった魔法師が、魔法を使ったアクロバティックなプレイを見せたことが有り、それがちょっとした話題になったのだ。

 そしてその場に居合わせた兵士の中に、それを見世物(ショウ)に出来ないかと考えた人間が居た。

 

 世界各地で同じような動きがあったが、世界初の興行を成功させたのがUSNAだったのは、お国柄とも、地力の違いとも言われている。

 戦後間もなく、まだ魔法師たちに好意的な――あるいは無邪気な好奇心のみの――人間が多かったことも功を奏した。帰還兵たちが伝聞に語った魔法師たちの超人的な身体能力は、瞬く間に物見高い市民たちの支持によって、各地で招致競争が起こるほどの人気を得たとなった。

 

 無論、魔法師という種族を見世物にすることについて、人権意識から批判する流れも有った。そのため単純な見世物(サーカス)興行はごく短期間に終わってしまう。だが、その間にも目端の利く人間たちが我先にと魔法競技団体を設立し、またたく間に魔法競技(マジック・スポーツ)と言う文化は魔法先進国の間で普及していったのだった。

 

 

*   *   *

 

 

 講堂では現在、各部活動(クラブ)による説明会が行われている。まあ説明会と言っても実際は新入生らの関心を惹くためのパフォーマンスがほとんどで、活動時間や過去の大会成績などといった細かな説明は行っていない。そうした情報は、生徒たち一人ひとりに貸与されている個人端末で確認できるからだ。

 

 お陰で舞台(ステージ)上では現代魔法を使ったど派手なパフォーマンスが次から次へと繰り広げられている。中には部活動とは全く関係のない曲芸じみたものもあるのだが、あなたがリハーサルの際に確認したところ「うちの部の伝統」だと言われてしまった。

 総責任者である部活連会頭の十文字(じゅうもんじ)克人(かつと)も、「特に危険でない限りは各部に任せて良い」との見解だったため、とりあえずあなたは危険性だけのチェックを行った。

 

 何人かはアクロバティックなパフォーマンスに勢いが付きすぎ、壇上から転落しかける一幕もあったので、演目の内容変更を指示することになったが、ほとんどは問題なしということになった。

 見事なパフォーマンスを見せた面々に話を聞くと、どうやら春休みの間に特訓していたらしい。伝統というのもあながち建前だけではないのかもしれない。

 

 ちなみに、転落しかけた生徒については、立ち会っていた十文字や服部(はっとり)刑部(ぎょうぶ)、また当日の打ち合わせに来ていた風紀委員の三年生らの魔法により、事なきを得た。「より実用的な魔法技術を」という現代魔法のお題目は、こうしたときに目の当たりにさせられる。

 ここでもまた、実地で現代魔法の運用について学べる機会となったのは、役得というべきか。

 

 

*   *   *

 

 

 一ヶ月以内に行われるだろう十文字との模擬戦のこともあり、あなたは上級生たちの見せる現代魔法のパフォーマンスを、主にCADの取り回しについて学んでいった。

 

 CADの操作、特に九十九の起動式を搭載できる汎用型CADは、ほぼテンキー操作が必須となる。これはこと実戦を考えたとき、見逃せない不利を抱えていた。

 

 たとえば腕輪型CADや指輪型CADは、CADを着けた腕に対して反対の手指で操作しなければならない。その間、わずかであれ両手が使えなくなってしまうわけだ。また両腕の動きは非常にわかりやすく、警戒されやすい。両腕をともに体の前、あるいは後ろに持っていくというのは重心がズレてしまい、体術を併用する上では強い制限となってしまう。

 携帯端末──要はスマートフォン──型CADなら慣れれば片手でも操作は可能だが、持ったままの立ち回りでは片手が塞がってしまったり、衝撃を受ければ落としてしまう可能性も十分に考えられる。かといって魔法を使うたびに取り出し、使い終わったら収納するのではタイムラグが大きすぎる。

 

 これらは戦闘行動の中では相当特殊な挙動となるため、あなたがこれまで習得してきた挙動に組み込むのは骨の折れるものになりそうだった。一瞬であれ両腕が使えなくなるというのは、刹那を争う戦いにおいて致命的だ。

 

 ならば音声入力はどうかといえば、これはあなたにとっては選択肢にもなりえない。

 仲魔たちから神代の武芸を学んだあなたにとって、戦いの中、呼吸を盗まれるなど冗談ではなかった。マガタマの加護を絶ち、苦しい訓練の末に、細く、長く、いつ吸い、いつ吐いたかも知覚させない高度な呼吸法を身に付けたのは、人体の挙動が呼吸という身体機能に支配されているためなのだ。

 

 

 いっそのこと、先日見た司波(しば)達也(たつや)のように、操作の少ない特化型CADの使用を検討すべきかもしれない。

 

 だが特化型CADには一度に九つの起動式しか記憶できない上、それらは系統の組み合わせが同じでなければならないという、厳しい制限がある。現代魔法についての知識に乏しい現在のあなたに、適切な選択をすることは難しいだろう。

 

 初心者らしく、戦術の基礎に立ち返って考えるべきか。

 だが相手は障壁魔法の達人(ギリメカラ)として知られた男だ。それはあまりに愚策というべきだろう。

 

 

 果たしてどうしたものか。

 あなたは卒なく司会進行を行いながら、模擬戦の件については誰かに相談に行ったほうが良さそうだと、手元の進行表で顔を隠しつつため息を吐いた。

 

 なお、この時のあなたについて、参加した一年生たちに「無愛想なやつだなあ」と思われていたことを知るのは、随分と後になってからのことである。

 

 

*   *   *

 

 

 あなたの思索をよそに、舞台の上ではスクリーンにプレイ動画を流しながらの解説が行われていた。今はレッグボール部の紹介だ。

 レッグボールとはフットサルから派生した競技で、四方だけでなく天井まで透明の壁でフィールドを覆い、反発力を極端に高めた軽いボールを使う。そうすることで、ボールの移動にドリブルと直線的なパスだけでなく、壁や天井に当ててピンボールのように反射させるという選択肢が増えるわけだ。プロの試合ともなればボールは縦横無尽にフィールド内を高速で跳ね跳に、選手はそれを追いかけタイミングを合わせて相手ゴールにパワフルに蹴り込む。プレイするだけでなく見るだけでも楽しい、ど派手な球技であった。

 

 流石に講堂の壇上では狭すぎて、その高速プレイを実演できない。

 とはいえレッグボールは元より人気のスポーツだ。スーパープレイの映像で見せるだけで、勧誘効果は十分にあるのだろう。あわせて一高のレッグボール部は年二回の大会においても全国出場経験の豊富な有名校であった。放っておいても部員は集まりそうだ。

 魔法禁止が標準的レギュレーションとされる非魔法競技系クラブであるため、特に二科生の人気が高いらしい。中には魔法力はギリギリでもレッグボール部に入るために一高を選んだ二科生もいるとか。「かくいう自分もまぐれ狙いで」と、誇らしげな部長が微笑ましかった。

 

 

 続いては空手部。部長の屋敷(やしき)ほか、空手部の三年生四人が壇上に上がった。

 屋敷が赤、ほか四名がそれぞれ青、黄、緑、桃色の道着を着ていた。お前らどこの特撮ヒーロー(レンジャー)だ。

 

 一科、二科を問わず人気のあるレッグボール部の直後は、ほとんどのクラブが嫌がった。例年、レッグボール部の紹介映像に沸いた観客は、しばらく友人たちと盛り上がって壇上など見もしない。そんなタイミングで宣伝をしたいと、誰が思うだろうか。

 

 調整に頭を悩ませていたあなたのところに「空手部(うち)がやろうか?」と話を持ってきてくれたのが屋敷だった。

 

「代わりにちょっと、目こぼししてもらいてえのよ」

 

 笑って出された提案を、あなたは少し悩んでから許可した。それが──

 

 

ドバンッ!

 

 

 屋敷の得意技、音速拳(マッハパンチ)である。

 

 実際に音速を超えているわけではなかろうが、最高速度に乗った瞬間の衝撃波で今のように爆音がするのだ。効果範囲は最大でも半径五十センチほどだが、近接格闘術においては十分すぎる威力だ。今回は機材への配慮もあって衝撃波はすぐさま消したのだが、それでもとんでもない音だった。

 

 レッグボールのスーパープレイの話で盛り上がっていた観客も、流石に何事かと全員がその発生源へと視線を向けた。すかさず居並ぶ空手部員は二人ずつに分かれて演舞を始め、屋敷はマイクを取って部活の紹介を始めた。シンプルだがうまい手だ。

 

 空手部で教えている“空手”は、前世で隆盛した打突特化の“空手道”とは異なり、打撃のほかに投げ技、絞め技も普通にある総合格闘技だ。その中でも特に、ある技法に則った古式魔法を組み合わせたものを、ここで教えているらしい。

 屋敷はそれを秘密だと言ったが、武術系の古式魔法はだいたい三つの技法のどれかを使うと相場が決まっている。あなたはそのどれもを学んでいたし、屋敷のそれも、その区分から外れるものではなかった。

 

 それは挙動──体の動きそのものを起動式とした魔法である。

 

 

 主に中国武術で語られる「気」や「(けい)」と呼ばれるものがこれにあたる。

 全身の力を無駄なく使うことで、近代格闘技のロジックには無い力を発揮する。そう提唱してきた古流武術の理法が、実は無意識に魔法を行使する技術だったと解明されたのは、第三次大戦中のことだった。

 伝統的武術が古式魔法の使い手──魔道師──の一派であるという見識は、一九七〇年代、オカルトブームの波に乗って広まった、混沌魔術(ケイオスマジック)という古式魔法学派が提唱した理論だった。それを現代魔法学の方法論で再発見したのは、旧領の南半分を大漢に分断され、また現代魔法学研究の中心を担っていた崑崙方院すら奪われ、窮地に陥っていた大亜細亜連合──通称「大亜連合」──だったらしい。

 

 これ幸いと、大亜連合政府は大陸全土の武術家たちに「参集せよ」と呼びかけた。

 だが武術家たちは、かつて大陸全土に広がった革命の嵐の中、自分たちがどのように扱われてきたかを忘れてはいなかった。そのため当初は召集に応じる者もほとんどいなかったという。だが政府のなりふり構わぬ懐柔政策に、次第に参加者が増え、最終的には連隊規模にまで膨れ上がったとか。

 彼らは後に大漢崩壊後の巻き返しの原動力になったという。

 

 もっとも、その成功によって古式魔法師たちの発言力が強化されてしまい、大亜連合では近年まで古式魔法重視の方針を取らざるをえなかった。お陰で魔法研究においてはすっかり後進国となってしまっていたというから、なんとも皮肉な話である。

 

 

 閑話休題。

 

 

 かつてワイヤーアクションによって映画の中でしかお目にかかれなかったような、人間業とは思えないアクロバティックな演舞が繰り広げられる都度、観客たる一年生たちがどよめき、歓声を上げている。これはこの次に紹介する部が割を食うことになりそうだ。

 

 屋敷に迷惑をかけただけで終わらずに済んで良かったと、あなたはほっと胸をなでおろした。




感想、評価、お気に入り、いつもありがとうございます。

しばらく続く新入生歓迎週間のイベント中は、原作劣等生&優等生のイベントと並行して、模擬戦の準備話になると思います。(という体裁で設定を垂れ流します)

空手の型(套路)を起動式とする魔法については、千葉流剣術奥義【迅雷斬鉄】の「膨大な型稽古を必要とする」ってのをヒントにしています。(【迅雷斬鉄】自体はぜんぜん違う現代魔法なんですが)
隠蔽、奇襲をモットーとする古式魔法としては、こんなんもありなんじゃないかと。

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【お詫び】
 空手部部長・屋敷について。
 以前は“柔術部”部長となっていましたが、「#039 不意打ち」を書く際に古い設定ファイルを参照してしまい、“空手部”部長としてしまいました。しかし設定上、どちらでも特に問題は無かったので、以前の記述を加筆修正し、以後は空手部部長に統一したいと思います。
 以前より楽しんでいただいていた方々に混乱を招いてしまったこと、誠に申し訳ありませんでした。

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(20230531)加筆修正
 ・[柔術] → [空手]

(20260120)誤字訂正
 雪森様、誤字報告ありがとうございました。
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