魔法科転生NOCTURNE 作:人ちゅら
通報を受けて第一小体育館へと駆けつけると、既に問題の中心となる“部外者”はその場にいないようだった。どうやら風紀委員長の
耳を澄まして幾人もの話を聞き分ける。気になる単語を拾うだけで、聖徳太子伝説のように全てを理解できるわけではないが、それで十分だ。
と、すぐに聞き捨てならない言葉が飛び込んでくる。
二人の“部外者”が、二名の“一年生女子”を“
生徒の安全を確保する上で、果たして風紀委員長にどの程度の手並みを期待できるのか。あなたは彼女が九校戦における
念の為、あなたも追跡に加わることにした。
もう一つ念には念を入れて、周囲の
悪魔たちが【マッパー】と呼ぶそれは、マガツヒを自在に操るあなたにとっても使い勝手が良い。
展開されたあなたのマガツヒの中に、強力な悪魔などの存在が居ないことを確認。問題なしと判断して、改めて行動を開始した。
* * *
「止まれ! 過剰な勧誘行為は禁止だ!」
あなたが誘拐犯と風紀委員長とのチェイスを視野におさめたのは、
「差が詰まってきてるわね」
「このままだと逃げ切れないかもな」
まだまだ余裕といった風の誘拐犯の一人、
「これで止められるとは思わないけど」
またたく間に生み出された局所的な下降気流が、障壁となって摩利の行く手を阻む。
魔法攻撃に備えた摩利が、腕輪型CADに手を回したその一瞬で魔法を構築、展開してみせた手並みは、なるほどプライドの高い古式魔法師たちですら「こと速度において現代魔法は古式魔法に
そして地面に叩きつけられた下降気流はそのまま誘拐犯たちを後押しする追い風となって、その逃げ足を加速させる。
一つの魔法現象で複数の効果を得る、実に合理的な運用だ。
風を作り出す現代魔法には、主に空間内の気体の流れを制御するものと、二点の大気圧に偏りを作るもの、熱量を操作するもの、そして大気分子そのものを制御するものの四つがある。
しかし最後の一つは干渉対象の粒度と範囲規模のバランスが悪く、魔法師への負担が大きい。(その解決策のひとつが、第七研究所で開発されていた群体制御技術というわけだ)
そのため一般的には即効性に優れた気体流動制御と大気圧操作、規模と持続性に優れた熱量操作の三つが実際的に運用される「風」の魔法とされる。
極端な熱量の変化が感じられない現状から、今回は前者が用いられたらしいと判断できる。
「……っ! 同じ手が何度も通用するか!」
巻き起こされた砂混じりの風から目を守りつつ、摩利は減衰した推力を魔法で無理矢理に生み出し、下降気流に突っ込んだ。作り出された気圧の偏差に対し、摩利は物理的にその密度をかき乱したわけだ。
魔法式が維持されていない魔法現象は、元より非常に脆弱なもの。
乱暴な手段ではあるが、有効であることもまた事実だ。
「おお、摩利のやつ腕を上げたな」
「ホント。やるじゃない」
だが素早く対応してみせた摩利も、体勢を崩して次の手を打てる余裕はない。
対する誘拐犯二人は、逃げ足を伸ばしてふたたび距離を取り、悠々と評価してみせる余裕すらあった。
見た目には五秒程度の攻防だが、誘拐犯が稼いだ時間はその倍以上。
なるほどこれも現代魔法の戦術というわけだ。
他人事として鑑賞する限り、これはなかなか興味深い駆け引きだ。
だが、これ以上放置しておくわけにもいかない。
脇に抱えられた同級生二人は、常時腹部を圧迫されている状態だ。そこで急加速、急旋回など繰り返されれば、身体にかかる負担は決して小さくないだろう。
誘拐犯を
──【至高の魔弾】
「当たった」という結果を確定させてから攻撃を繰り出す、因果逆転攻撃。数多の神話で語られる神々の
此度は先ほどの突風に散らされた木の葉を目隠しに、同じく突風で巻き上げられた直径三センチほどの小石が死角から飛来すると、正確に誘拐犯の一人の顎を打ち抜き、脳を揺らした。
いかな魔法師とはいえ、因果の死角から繰り出された攻撃に抗う
「
脳を揺らされ脱力すれば当然、誘拐犯が少女を抱えていた腕の力もなくなる。するりと抜け落ちたほのかは、慌てて身を守るべく両手両足を地面に突き出した。だが──
──マカミ。
「おうよ!」
昼日中には目立たない青い火花を散らして現れた
あなたが意識して仲魔の名を呼べば、それが召喚の儀式となる。
紙のように薄く
「あ──」
「軽いな嬢ちゃん。ちゃんと
「あれ? え?」
その外見や軽薄な声音からは想像できないが、いざ戦いとなれば攻撃から妨害、回復、蘇生までこなすオールラウンダーだ。不埒な人間を家屋ごと【ファイアブレス】の一息で焼き尽くす荒御魂と、山で迷った人間を癒やして里へ帰す和御魂を備えた古い神であった。
──うん。
「へいへいさっさと帰りますよっと」
実体を維持するマガツヒが無くなれば、悪魔が物質界に在り続けることは出来ない。悪魔の存在をあまり知られたくないあなたが、
残されたのは、ぺたりと地べたに座り込んで呆然とあたりを見回すほのかと、
逃走していたもうひとりの誘拐犯も、仲間を見捨てていくような性分ではなかったらしい。すぐさま魔法を放つと危険な姿勢で地面に激突する寸前の仲間を中空に固定し、救助する。おそらく物質の相対距離を固定する、強化魔法の一種だろう。
あなたはすぐさま屋上から飛び降りると、ゆったりとした歩みで現場へ向かう。着地の衝撃をそのままにしたため大きな衝撃音が響いたが、あなたは気にもとめない。誘拐犯も風紀委員長も、足を止めてあなたの登場を呆然と見つめている。
──未成年者略取誘拐の現行犯、ということで良いか?
淡々と告げたあなたに、三人の少女が苦々しげな表情を見せた。
* * *
あなたが胸ポケットに入れた録画機材が正常に動いているかを確認しながら宣告したが、二人の誘拐犯はどう答えたものかと困惑し、何かを言おうとしては口を閉じる、ということを繰り返していた。
そして彼女らの返答よりも前に、摩利が割って入ってきてしまう。
「待て。これは風紀委員の管轄だ」
彼女にしてみれば、あなたは獲物を横取りしたようなものだろう。その気持は分かる。だが──
──どういった名目で?
「校内の治安維持は風紀委員の受け持ちだ」
──外部の犯罪者に対しても?
そのあたりの扱いはどうなっているのだろうか。
法的には警察に突き出すのが正しいはずだが、利用申請などが無くても管理責任者──この場合は校長だろうか──が“黙認”している場合、問題にならないことも多い。
加えて昔からこの国の教育機関は外部権力を中に入れたがらない傾向がある。旧態然とした上意下達の教育システムにおいて、教師よりも上位の存在があることは生徒の反発を招きやすく、不都合が生じるという事情も分からなくはないのだが。
三次大戦を経て、軍隊の重要度を再認識することとなったこの国は、効率的な教育システムとして、江戸から明治へ、また二次大戦後に再整備された軍隊式のそれを、未だ継続運用していた。よって外からの介入を毛嫌いする性質も、同じように継承している。
「……彼らは当校の卒業生だ」
──卒業した時点で、当校への帰属は解消されているのでは。
「……………」
少なくとも法的には“部外者”だ。
もちろん、卒業生にも魔法技術の機密保持のため、在校生に準じた義務はある。だが無許可で敷地内に侵入できる権利は無いし、あまつさえ生徒を拘束できる正当な理由などあるはずもない。
──それとも課外活動への勧誘行為として、生徒を拉致することが慣例として認められているのか。そうであるなら自分の不見識だが。
そんなことがあるはずはない。
急所を突かれて黙りこくってしまった摩利が、
「……そうだ、許可証! 許可を取っていれば、少なくとも不法侵入では無いよな」
──それは、ええ、その通りです。
「
「……無い」
「お前な……」
「だって卒業生だぞ? 去年までは何も無かったし」
「いや普通に
「普通に
「ああ、新歓週間だからなあ……」
侵入できたのは、二人が一高生だった頃の
新入生歓迎週間である今週、勧誘活動をしている上級生らはそれぞれ、部のユニフォームを着ているわけだが、特に決まったユニフォームの無い競技の場合、ジャージがその代替となるものだ。またボクシングやレスリングなど露出の多い部の場合も、授業時間内は原則ジャージ着用が義務付けられている。
トータルでおよそ八割の上級生がジャージ姿でいるのだ。中には面倒がってジャージ姿で登校する生徒も後をたたない。しかも彼らにとっては去年まで毎日通っていた学校で、更には不法侵入になるなど考えてもいなかったというのだから、在校生と同じように、堂々と当たり前のように入ってきたに違いない。
顔認証などの高度な警備システムは、建物内にしか無い。敷地内であれ校舎や体育館、講堂、準備棟などに入らなければそれらに引っかかることもない。
あとは校門前に立つ職員の記憶力、観察力頼みになるが、これは主にマスメディアやスパイらへの対策だ。服装や仕草を判断基準をしているので、一高生の制服や学校指定のジャージ姿の同世代は、どうしてもスルーしてしまう。生徒たちとの接点の少ない彼らに看破しろというのは実際のところ、酷な話だろう。
忙しさにかまけて警備計画をおざなりにしていた、ということだ。
事前の警備会議に出席していたあなたにも責任がないとは言えない。運良くそのあたりのことに気がついた人間は誰もいなかったので、あなたは口を挟まずしれっと聞き流すことにした。雉も鳴かずば撃たれまい。
「うちの部、今年は勝負の年だし……」
「だからってなあ……」
聞けば誘拐犯の二名──風祭
九校戦の種目は、慣習として三年ごとに見直しが行われる。去年改定されたのなら、今年、来年と同じ種目になる可能性が高いらしい。
九校戦の競技は在校生枠と新入生枠に分かれている。そして九校戦の開催は八月だ。そうなると去年から力を入れてトレーニングを重ねている在校生はともかく、新入生には実質三ヶ月強しか時間がない。才能のある人間が一人でも多く欲しいと考えるのもまあ、理屈としては理解できる。
だが、だからといって新入生を拉致してどうしようというのか。
強制的に入部させたとしても、強制されたと言われれば部活連は当然、所属を解消することができる。そのやり口が酷いものなら、場合によってはクラブに活動停止などの罰が下る可能性だってあるだろう。あまりに
これには流石に風紀委員長も呆れ顔だ。
あまりの馬鹿馬鹿しさに、あなたも脱力してしまう。
──ひとつ、確認したいことがある。
気になることがあった。
それは
北山雫と光井ほのか。
二人はともに入試成績で総合五位にランクインする優等生だ。それを狙って拉致したのだとすれば、成績情報が漏洩していることになる。
もちろん、偶然という可能性も無くはない。無計画に不法侵入した二人が、
だが──
「今年の新入生トップテンのことなら、卒業生メーリングリストで届いたよ」
「だから居合わせたのは偶然だけど、連れてきたのは偶然じゃなくて──」
感想、評価、お気に入り、いつもありがとうございます。
アニメ二期が始まるとのことで、またちょっと頑張って更新していきたいと思いますが、何分マイペースな性分なもので、気長にお付き合いいただければ幸いです。
(原作を読み直して、先の展開は「ああしたい」「こうしたい」と思いついて、気だけが逸って筆が進まないというジレンマにハマってたりします)
当初はサクっと終わらせるつもりだったんですが、優等生を読み返して「校内に卒業生が乱入してくるのって時代的にどうなの?」というのがちょっと気になったので長引いてしまいました。
次回はこの件の後始末と、司甲の話と、出せれば美少女探偵団……くらいかな? 十文字戦の準備もあるんですが、まあそんな予定です。