魔法科転生NOCTURNE 作:人ちゅら
国立魔法大学付属第一高校。
単に「第一高校」「
魔法師とは、魔法を扱う人間のこと。
魔法とは、かつて超能力とも呼ばれた超常的な技能のこと。
それは前世のあなたが、施設で研究していたものでもあった。
魔法師となるための第一条件は、純然なる才能。持って生まれた先天的な能力とされる。
魔法そのものは情報次元の書き換えによる干渉技術に過ぎないが、それを実行するために必要となるのが「サイオン」という
以下、サイオンの制御、現代魔法式の構築と展開、CADの操作、などの技能が求められることとなるが、これらは訓練によって後天的に身につけることが可能だ。その訓練を行うのが魔法科高校であり、サイオンを保有する未成年者は魔法科高校への進学が推奨された。
だが魔法科高校は未だ全国に九校しか無い。おかげで年々増加する受験生に対し、合格倍率も無視できないところまで来ており、不満の声もあがり始めている。前途多難といったところか。
短い小氷河期の訪れによる食料の枯渇と、それに伴う国家間のパワーゲーム。生き残りを懸けた第三次世界大戦を乗り越えた各国は、その過程で大きな結果を出した魔法の力に注目した。そして現在、世界は
重篤な資源不足、特に化石燃料の枯渇は各国の軍事バランスを大きく塗り替えることとなったが、その間隙を埋めて余りある力を、魔法師たちは戦時下に立証してみせたのだ。各国は競って魔法師の育成に力を注いでいた。
故にこの第一高校を始めとする魔法科高校への入学は、現代社会のエリートとしての第一歩とされる。
新入生ともなれば、
……というのはこの学校の実情を知らない人間の大半が考えることだ。あるいは十分な防御力を備えた面の皮をかぶった大人なら、実情を知っていてもなお、そのように声高に褒めそやす。
現在も壇上で、たかが十五歳そこそこの少年少女にどれほどの重責を背負わせたいのか、溢れんばかりの美辞麗句と訓令を並べて言祝いでいる男がいた。教職員や保護者の列に目をやれば、感激の涙を拭う姿も見て取れる。数多の儀礼がそうであるように、二〇九五年度国立魔法大学付属第一高校入学式もまた、第一義は主催者のためのエンターテイメントであった。
例外も、いないではなかったが。
* * *
――魔法は人をどこへ
あなたは魔法という技術に強い関心を持っていた。
かつてボルテクス界での戦いにおいて、魔法とは闘争の手段に過ぎなかった。それは資源の枯渇により魔法依存度を高めた現代社会においても、あまり変わりはない。三次大戦によって損耗した戦力の穴埋めとして、魔法師はまず国家の軍事力、抑止力として評価されている。
だが魔法とはそれだけではない。
現代の魔法研究は、こと理学的分野において多大な発展をもたらした。現代魔法がある種の論理構造の発見を基盤とするが故に、その研究は周辺の学術研究との相互作用を必要としたのだ。様変わりした現代の生活様式の多くも、その恩恵によって支えられている。
2004年。あまたの戦いの末にあなたが望み、蘇えらせたこの世界は、しかし人修羅と化したあなたにとって、とても生きづらいものだった。
あなたはトウキョウ、アマラ深界と、意志ある存在たちの致死毒のような極限の問いに晒され、無理矢理にも答えを出すことで生き延びてきた。そのあなたの目には、何ひとつ答えを出さず、自分を傷つけるものと戦おうともせず、ただ愚痴をこぼして虚ろな笑いを浮かべるだけの人間は、何を成すこともなく死んでいった野良悪魔たちと重なって見えた。
もし祐子先生が叱ってくれていなければ、そんな人間ばかりではないと、再び見直す機会をくれなければ、あなたはどうしていただろうか。いや、そもそも彼女がいなければ東京受胎も、あなたが人修羅になることもなかったのだが。
そんな中、あなたは観察者となることを選んだ。
コトワリを拓く権能を与えられた種族、
人修羅としてマガタマに秘められたすべての力を自在に
人間とは個の力のみで成り立っているものではない。集団となり、社会となって、離合集散を繰り返しながら歴史を紡いできた。ボルテクス界ではコトワリの下、悪魔すら従えて、より大きな力として新たな世界を目指して戦っていた。
それはこの世界とて同じことだろう。
一人ひとりはボンヤリと生きているようでも、俯瞰してみれば大きな流れを作り出している。
それに気付いたとき、あなたは俄然、興味が湧いたのだ。
「この世界がどこへ向かっているのか」ということに。
氷川のコネクション、つまりはガイア教団のツテで大学へと進学すると、統計学的手法に没頭した。ビッグデータやデータマイニングという言葉が語られるようになる、ほんの少し前のこと。試行錯誤を重ねていた時代のことだ。
最初はあまり上手くいかなかった。何に注目すれば良いのか、それを見出すことができなかったから。ただ無作為に集められた情報は、あなたを溺死させるだけだった。増えすぎた人口と経済の停滞。民族対立と社会不安。気象と食料生産量から導き出されたそれら大戦の予兆は、過去の歴史と大差ない。そこに新たなコトワリの産まれる土壌を見出すことはできなかった。
だが、その中にひとつ、おかしな情報が混じっていた。
おとぎ話の中だけで語られてきた、超常能力とされた技能だ。
東西冷戦の時代には大小様々な研究の対象とされ、冷戦の終結とともに下火となっていたはずのもの……のはすだったが、いつの間にやら先進諸国はさまざまな名目で研究費を捻出し、その額は増加の一途を辿っていた。
西暦1995年の日本では、実例が観測されたという記録も見つかった。一般には秘匿されたものだったようだが、ガイア教団にしてみれば当然の知識に過ぎなかった。
その力の原理は、従来の熱力学的見地からは乖離したものだった。故に大多数から無視され、故にごく一部に価値を認める集団が現れた。エネルギーの枯渇と、それによる軍事的抑止力の崩壊を恐れた者たちだ。彼らはそれを省エネ、環境保全運動、飢餓対策、民主化、人類進化論などの美辞麗句で飾り立て、罵倒と冷笑を浴びながらも一歩ずつ着実に歩を進めていた。
あなたもまた、魔法に目を向けるようになった。自らも魔法研究へと足を踏み入れ、古都・奈良に新設された研究施設で職を得るに至った。研究者兼
そして今生。
生まれ変わった21世紀末の世界は、魔法という新たな技術に拠って立っていた。
その技術は魔法師という個人の力に依存し、その力は国家の在り方を左右しうるという。
まるで神話の時代に語られた、あまたの英雄たちのようではないか。
ならば魔法に関わる人間たちが、歴史の鍵となることは確実だ。
彼らを観察することで、大きな流れ、新たなコトワリを見出すことができるのではないだろうか。
たとえばあのとき生まれ出るに至れなかった、彼女の
人間社会の中で魔法のあり方を問い、まだ見ぬ新たなコトワリを見出す。
それがあなたが立てた、今生の目標である。
* * *
魔法大学学長、日本魔法協会理事、その他政府関係者や支援者らの長い長い
平和ボケと言われた時代の無関心さで、ボンヤリと壇上を眺める。
言語に絶する美少女がそこに居た。
「新入生代表、
――マネカタ? いや、違うか。しかし……
誰もが見惚れる絶世の美少女に対し、あなたは一人、おかしな既視感をおぼえていた。
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