魔法科転生NOCTURNE 作:人ちゅら
【お詫び】
空手部部長・屋敷について。
「#038 現代魔法実習(2)」以前は“柔術部”部長となっていましたが、「#039 不意打ち」を書く際に古い設定ファイルを参照してしまい、“空手部”部長としてしまいました。しかし設定上、どちらでも特に問題は無かったので、以前の記述を加筆修正し、以後は空手部部長に統一したいと思います。
以前より楽しんでいただいていた方々に混乱を招いてしまったこと、誠に申し訳ありませんでした。
「十文字の戦い方を知りたいんだったな。ちょっと待て」
空手にいう
そこから前方への廻し受け、
「
最後に気合とともに
――準備はいいか?
「おう。じゃあこっちから行くぞ」
言うやいなや飛び込みざまに、ロングリーチのストレートパンチを打ち込んでくる屋敷。
あなたは咄嗟に身を捻り、大きく反転しながら後ろ回し蹴りを繰り出す。
踵が屋敷の身体に触れる寸前、グンッと強く押し返される感触。
そのまま逆回転に押し戻されるも、あなたはその勢いを利用して更に旋回して構え直せば、彼は再び三戦に構えて威勢を放つ。
再び薄いモヤ――【
おそらくあの演武によって発動される、古式魔法なのだろう。
「見たか?」
――ああ。
なるほど、これが攻め手を無効化する
確かにコレでは並の技術にはどうしようもない。
まさしく
「次は攻撃する。受けてみろ」
――おう。
あれが【テトラカーン】と同じものであるなら、こちらの攻撃に反応したに過ぎない。
だが、あなたの攻撃のダメージがあなたに返ってきた様子は無い。
であるならば、極めて近しい別の現象、別の魔法であることも考えられる。
その違いを見極めなければならない。
再び屋敷が遠距離から【突進】してくる。今度はパンチでもない、凡庸なショルダータックルだ。
当たる瞬間に跳躍し、全体重が乗ったそれを、あなたは正面から
マガタマが反応しそうになるのを抑え込み、そのまま吹き飛ばされるあなた。とはいえ壁に衝突するのもまずい──物損は面倒──ので、当たる瞬間に半身を引いた勢いで衝撃を旋回力に変換、独楽のように旋回しながらフィギュアスケートのように軽いスキップを繰り返し、間合いを取りつつエネルギーを逃した。
――えげつないな。
「だよな」
屋敷の体重はおよそ七、八十キロといったところか。
その突進のエネルギーが、そのまま全てあなたにぶつけられたのだ。
本来なら生じるはずの反力も、衝撃を分散するはずの肉体の弾力も、屋敷にあるはずのエネルギーも、その全て。
一般人はおろか、
常人なら両腕の骨を折られて当然の一撃だ。
ベクトル操作なのか、斥力場のようなものなのか。
詳しい原理までは分からないが、とにかく衝突する二者の間に分散するはずの運動エネルギーが、全て一方――この場合はあなた――に押し付けられてしまっていた。
「これも完全に同じってわけじゃねえんだが。俺が出来るのはここまでだな」
【アナライズ】は、屋敷の
相当に消費の激しい魔法のようだ。
「十文字はこれを何枚も同時に展開して、しかも破られても瞬時に補填する」
なんだそれ。
これがゲームだったらコントローラを投げて怒り狂うユーザが大量生産されたことだろう。
そんなバグを相手にしなければならない誰かには、もはや同情しか生まれない。
「どうだ。なにか思い浮かぶか?」
……言うまでもなく、あなたに勝つ手段はある。
あなたが本気でその拳を握ったならば、いかなるものも遮ることは出来ない。
神も悪魔も、それらの祖である
だが。
今回それは使えない。
これはあくまで模擬戦、腕試しなのだ。
手加減のできない今のあなたの拳では、いかなる相手も平等に
別の手段が必要だろう。
あなたが小さく「ふむ」と息を吐くと、屋敷は握った拳を見つめて呟いた。
「コイツをものにするのに二年かかった」
誇らしさと悔しさの同居する、
あなたは思わず感嘆の声を上げた。
動作による古式魔法は、全身の運用に寸分違わぬ正確さを求めてくる。
前世で会った古式魔法師は「全身に意念を通すことで
「空手術を始めてから五年経つが、一応使えるレベルになったのは、こいつと
前生における研究で、武術家の動作による古式魔法とは空間に魔法式を図形として記述する技術なのだろう、と、あなたは
故に精度が求められる。
大きな図形ならば多少の誤差も許容されるが、小さく早く、コンパクトにまとめようとすればするほど異常な精度が求められることとなる。
そして動作の中には魔法発動に必要なもの、不要なものが混在している。
それらを丁寧に
習得にかかる時間の長さは、古式魔法が家伝化しやすい
「これが現代式ならCADに記録してボタンひとつだってんだからなあ。現代式マジ反則だわ」
古式魔法も高速化の研究は行われてきたが、現代式のCADを使ったものとは雲泥の差がある。
戦場から古式魔法師たちが駆逐されていったのは、単に破壊力の違いだけではないのだ。
「それでもまあ、手が無いわけじゃねえんだけどな」
そう言って屋敷は腰溜めに拳を握り、裂帛の気合とともに正拳突きを繰り出した。
思わず耳を塞いだ観客たちを見て、ニヤリと笑ってみせる。
なるほどな。
──押忍!
大した
あなたはニヤリと笑って屋敷に一礼した。
* * *
「こんなところでどうよ、服部?」
「十分でしょう。
服部の視線を追えば、第二体育館の扉のわきに掃除機が立てかけられていた。
あなたの砕いた木刀の破片が散らかっていたはずの床も、綺麗に片付いている。
疑問が顔に出たのか、服部は小さく笑って一言付け足した。
「散らかしたものを片付けてもらってただけだ」
ああ、つまり。
そういう口実で、今の
「これで止まってくれりゃあ楽なんだけどな」
「どうでしょう? 頭のいい馬鹿ですからね、
「おお何だ、どんな心境の変化だよ
「……経験則です」
屋敷の冗談めかした問いに、ため息交じりの答えを返す服部は、心底疲れ果てた面持ちをしていた。
先程向こうで話している間になにを言われたのやら。
「それにまあ、さっきやらかしてくれてますし」
「うん?」
「手合わせの最初の、あれです」
「ああ、そうか」
二人が揃ってあなたのことを見やる。
一体なんのことだろうか?
「あれだよ、あれ。あの、これ。なんてんだっけ」
そういって屋敷は左手で拳を作り、右手を添えてみせた。
左右逆なのだが、抱拳礼のことだろう。手合わせの際、屋敷の押忍に応えたものだ。
なにか拙かっただろうか?
「なにかって……これ、
……ああ、なるほど。
前生──二十一世紀初頭──において中国は、必ずしも友好的な関係ではなかったものの、国交を制限するほどでもなかったし、たとえ仮想敵国の人間であれ個人間の交流には──眉をひそめられる程度のことはあっても──批判されることは殆どなかった。
だが三次大戦を経た二十一世紀末の現代において日本は、中国を母体とする大陸国家・
国家と国民個々人との関係性がとことん緩かった前生と、大戦収束後も幾度となく小競り合いを繰り返している現代とでは、その感覚が違うのは当然だ。
ましてやここは国策の最前線、魔法大学の附属校である。
生徒たちの中には、かくあるべしと身を律する手合もいるだろう。
とはいえ在校生の中にも亡命魔法師の二世がいるくらいだ。
流石に
それでもあなたを非難したい人間が騒ぎ立てる材料にはなる。
──なるほど、それは気が回らなかった。
「古流の家なら付き合いもあるだろうし、止めろと言えるもんでもないけどな」
「そういうものなんですか?」
「だろう?」
──ああ。まあ、使う系統にもよるが。
古式魔法師のネットワークとは、いわば類型文化のコミュニティだ。
神道のように日本発祥の系統についてはともかく、陰陽道や密教、修験道、東洋武術といった渡来文化を背景とする魔法師は、それぞれ独自に大陸系の魔法師との縁故がある。
亡命者の受け入れもしていたはずだ。
最新の古式魔法師とされる
とはいえそれは、家祖とされる前生のあなたが研究所に勤めていた頃に構築したものだし、あなたの抱拳礼の由来とはまた別なのだが。
「俺としては、学内では控えてもらいたいな。面倒が増える」
それでさっき、ざわついたのか。
抱拳礼は特に義務ということでもなし、格好いいと思っていたからやっていたに過ぎない。
止めろと言うなら止めておこう。
「今後は気をつけてくれ」
──心得た。
あるいはまた、生徒会長に小言の一つ二つもらうことになるかもしれない。
ま、今更どうしようもないのだが。
感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
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ちょっと短くなってしまいましたが、キリの良いところで切らせてもらいました。
今生でマトモに社会生活を送ってこなかった人修羅さん、認識が前世寄りです。
仲魔たちは人修羅さんのこと甘やかしまくりなので、この件では役に立ちません(笑)
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(20230601)「前生」について
「前生」について「前世」の誤字として指摘していただくことがあります。
実際、一般的には「前世」の方が通りが良いのですが、これは「今生」と合わせるため意図して使用しています。悪しからず。