魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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今回ぶっちゃけ修行回なので、読み飛ばしちゃっても大して問題ありません。(直近で必要な情報については最後にまとめときます)

ほぼ推敲してないので書き直す可能性があります。

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【お詫び】
 空手部部長・屋敷について。
 「#038 現代魔法実習(2)」以前は“柔術部”部長となっていましたが、「#039 不意打ち」を書く際に古い設定ファイルを参照してしまい、“空手部”部長としてしまいました。しかし設定上、どちらでも特に問題は無かったので、以前の記述を加筆修正し、以後は空手部部長に統一したいと思います。
 以前より楽しんでいただいていた方々に混乱を招いてしまったこと、誠に申し訳ありませんでした。



#042 サイオンとマガツヒ

十文字(じゅうもんじ)の野郎に一発ぶちかましてやってくれ」

 

──応よ。

 

「んじゃ、また気が向いたら手合わせしてくれや」

 

 互いに軽く握った拳をチョンと当て、まるで長年の知己のように別れるあなたと屋敷(やしき)に、服部(はっとり)は軽く頭を振った。

 

沢木(さわき)と気が合いそうだなあ、お前」

 

 ……誰だって?

 

「いや、忘れてくれ。面倒が増える」

 

 ふむ。

 本気でげんなりした顔でそう言われては退くしか無いが。

 面倒ごとの種であれば、名前は一応覚えておこう。

 ()()()、だったな。

 

 

 その後、服部(はっとり)に従ってルートを巡回して一日が終わる。

 部活連の部屋で特記事項無し(いじょうなし)の報告書を作り、戸締まりをしての帰り際。

 これまでなにか思い悩んでいた風の服部が、ようやくあなたに口を開いた。

 

「あー。その、な。答えられたらでいいんだが……本当に会頭に一撃入れられる算段がついたのか?」

 

――()()が正しければ。

 

「さっきのか? ただパンチに想子(サイオン)波を重ねただけにしか見えなかったが」

 

 なるほど。

 やけに()()けに見せたと思ったが、あれで見破られることはない、ということなのだろう。

 

 あなたは小さく頷くに留め、服部と別れる。

 ふと思いついたので、図書室に立ち寄ると、いくつかの魔法の基礎データを読み込んで下校した。

 

 

*   *   *

 

 

 2095年4月21日20時32分。

 

 一高の最寄り駅のトイレで着替え、吉祥寺駅へ。

 駅前再開発から取り残され、シャッターに埃の積もった年代物の商業ビルの通用口から中に入ったあなたは、その瞬間、()()()()姿()()()()()

 

 ――【異界(いかい)】と呼ばれる空間がある。

 従来、人間が認識する物質(アッシャー)界――物質の()()によって構成された世界――とは異なる次元(レイヤー)の総称だ。歴史上、数多の宗教家や魔術師たちが、神話や伝説によって語り継いだ、この世ならざる場所。

 伝承と共に在るこの神秘は、奇縁によって物質界に姿を現しては、迷い込んだ人間を惑わす。

 その結果がどうなるかは、【異界】の主次第だ。

 

 近代以降、科学の光によって人類世界から駆逐されたはずのそれは、しかし二十一世紀末の今なお存在する。

 なにしろ再創世により人類史に刻まれた人修羅(ヒトシュラ)という幻想が、()()()というカタチを得て実在するのだ。科学の光がいかに強かろうと、人類が営々と思い描いてきた幻想(りそう)を消し去ることなど出来はしない。むしろ光が強ければ強いほど、照らされた幻想(あなた)の落とす影は昏く、濃いものとなる。

 

 あなたの踏み込んだ先も、コンクリート打ちっぱなしの雑居ビルの一室。

 壁には赤黒い塗料でおぞましい模様が描かれ、床にはその原料たる若者たちの屍が無数に転がっている。

 

 ほんの半月ほど前、ここには一人の悪霊が居た。

 実家を介した依頼を受け、それを駆除したのは良いものの、どうした具合か【異界】はその後も残り続けている。

 あるいは別の時空、別の歴史において、この地に強く縁を持つものだったのかもしれない。

 

 ま、その辺の事情について、あなたはあまり気にしていない。

 都合よく利用できる【異界】がある、というだけで十分だ。

 

 

――グレムリン、

 

 あなたが小さく呟けば、眼前に()()()()()()()()()()が現れる。

 機械に悪戯をするとされ、第一次、第二次大戦における航空機乗りに恐れられた存在らしい。

 ほとんどの道具がデジタル化となった二十一世紀末の現代においては、恐るべき力を持つ悪魔だ。歴史が若い割に、古い伝承に則った【妖精】、人間に害をなす【邪鬼】、電脳世界に住まい電気信号を操る【電霊】、といった複数の側面を持っている。

 とはいえ歴史が若いため、道具に依存しない悪魔たちにとっては依然として雑魚扱いではあるが。

 

「今度はなんだい、ブラザー」

 

 実のところ、今生においての召喚率は一、二を争うレベルだったりする。

 

 

――ギリメカラ、

 

 象頭の悪魔ギリメカラは、九つの災いを操る魔王マーラの乗騎とされる。

 逸話そのものは少ないものの、釈迦(シャカ)を惑わせようとした魔王の乗騎であり、あまりの巨大さ故に討伐できない魔物として、また釈尊の威光の前にひれ伏したことでも知られる。

 分厚く固く弾力のある象の皮は、自然の鎧として一切の物理攻撃を跳ね返す。その【物理反射】の権能は、ボルテクス界でのあなたを散々苦しめたことで、より強固な神話として彼の能力を強化することになった。

 

「ははッ!」

 

 人修羅を前に、その巨体を精一杯縮こませてひれ伏す魔物がそこに居た。

 

 

――メルキゼデク。

 

 旧約聖書『創世記』や『詩篇』に登場し、後に啓示(メシア)派十字教へと続く血統に証を授けたとされる賢者。

 義の王、サレムの王、また()()()()()()()()ともされる高貴な存在。

 物質を汚れたもの、霊こそが清浄なもの、霊知こそが尊ぶべきものとしたグノーシス主義では力天使の一人で、平和(サレム)を司る天使の長ともされる。

 アブラハムに天界の神秘(カバラ)を授けた、印欧語圏における魔術師の祖の一人とする説もある。

 

 だが召喚された悪魔は、銀で造られた戸板のような双翼、真鍮に覆われ目も鼻も口も隠された頭部、同じく真鍮の輝きを持った腕甲と脚絆、果ては紫色の全身タイツと、もはやツッコミが迷子になる有様である。

 

「召命に応じ参上した」

 

 どこから出しているのかもわからない声は、非常に凛々しい。声は。

 

 

――ちょっと実験に付き合ってくれ。

 

 あなたの言葉に三体のテンションは大きく下がった!

 

 

*   *   *

 

 

 【電霊】として召喚したグレムリンには、CADへの魔法式の登録と調整を頼んだ。

 図書室から魔法大学のライブラリにアクセス、ダウンロードしたのは【反射障壁(リフレクター)】という系統魔法。領域を設定し、その範囲内に侵入してくるもののベクトルを反転させる効果を持つ。先ほど屋敷が見せてくれたものに最も近いものがこれだろう、と目星をつけたのだ。

 時間があれば自分で触ってみたかったが、今はひとまず対策を立てる方が先決と、電子のプロを呼び出した。

 

「こりゃまたデカいプログラムだな、おい」

 

 魔法のプログラムデータそのものは、魔法大学のライブラリにアクセスすれば手に入る。

 とはいえ実用できるかは別だ。

 魔法師の脳内にあるとされる魔法演算領域にその魔法の構造を読み込み、サイオンの情報構造体としてイデアに投射、イデアの情報構造に正しく干渉できなければ正しく効果を発揮できない。

 

 生徒会会計・市原(いちはら)鈴音(すずね)の先日の言葉が確かなら、正しく発動するには正しくイメージすることが必要だ。

 あなたの手札の中で【反射障壁】に最も近い権能を持つものとして、【物理反射】のギリメカラを呼んだ。

 

「反射する、イメージのために殴られる……」

 

 そして何より、これからやりたいことは、そうして発動された魔法の攻略であるということ。

 つまりあなたの他にもう一人、魔法師が要る。それも現代魔法が使える魔法師が。

 だが当然ながら、あなたの人脈に、あなたの実験に付き合えるだけの現代魔法師はいない。

 故に現代魔法が使える悪魔として、メルキゼデクを呼んだ。

 

 ほぼすべての悪魔が、現代魔法を使うことはできない。

 彼らはそれぞれの伝承に基いた権能を持つが、同時に概念に無い能力は何ひとつ使えない。

 

 ……はずなのだが、わずかながら使える悪魔が存在した。メルキゼデクもその一人だ。

 

 他にも使えたものも皆、何故か【天使】と【堕天使】に限られていた。

 何らかの事情、理由はありそうだが、ひとまずは置いておく。

 

「で、私がその魔法を使って」

 

 あなたが持っている手段で【反射障壁】を破れるか。

 また、手持ちの現代魔法で対処法があるかどうかの実験だ。

 

 

 まずは物理的な反射のイメージを見せるため、ギリメカラを素手で殴る。

 一口に【物理反射】の権能といっても、悪魔によってその実態は様々だ。純粋に“物理的なベクトルを反射する”ものもあれば、呪術や神性によって“受けた傷を相手に返す”ものもある。あなたの仲魔のほとんどは後者であり、前者の能力を持っている中ですぐに思い浮かぶものと言えば、ギリメカラしかいなかった。

 

「ま、まだですか……」

 

 ギリメカラの象皮はベクトルを反射するとともに攻撃部位にダメージを与えるものだ。

 剣で切れば剣が折れ、拳で殴れば拳が砕ける。

 もっとも、あなたはマガタマの加護によって【物理無効】であるため、そうしたダメージを受けないのだが。

 

「メルキゼデク、も、もう分かったのでは……?」

「いま少し」

 

――辛抱してくれ。

 

 ギリメカラを殴りつけても、跳ね返されて自身の体勢が崩れる。

 まるでトランポリンで飛び跳ねているようだ。

 連撃を入れようとしても、跳ね飛ばされてしまうために使える技は限られてしまう。

 

 あるいはここから新たな技が出来ないか?

 一人稽古では得られない感覚が面白くなり、気付かぬうちに熱が入る。

 

「ヒィィィ!!!」

 

 もしもここで、人修羅(あなた)を最強たらしめた【貫通】の権能を発揮したなら、悪夢の魔象とてただでは済まない。

 もちろん、あなたにそんなつもりはない――反射のイメージを崩しても何の得もないのだから。

 だが、かつての敗北によってすっかり心の折れてしまったギリメカラは、()()()の恐怖にみっともない悲鳴をあげて逃げ回るようになってしまった。

 

 まさかこんなことになるとは、とあなたは軽く頭を振る。

 別にギリメカラをイジメたいわけではないのだ。

 そりゃあボルテクス界では散々()()()()()()が、今さら恨み節があるわけでもない。

 

 あなたはメルキゼデクが頷くのを確認してから、ギリメカラを送還(RETURN)する。

 ついでに魔貨(マッカ)――悪魔たちがマガツヒをやり取りするための通貨――を謝礼として送っておく。

 

「ほいよ。メルキゼデクの旦那ならこれで使えるだろ」

 

 ちょうどそのタイミングでグレムリンから声がかかった。

 CADの整備ができたらしい。

 

「もうちっと加減してやれねえのかよ」

 

 いや、十分加減したつもりなのだが。

 

「ヒヒヒ。ま、俺様は楽しめたからいいけどな」

 

 グレムリンの方が、よっぽど酷い言い草だと思うのだが。

 まあ、ギリメカラには後でもう一度謝っておこう。

 

――で?

 

「こちらはいつでも構いませんよ。人修羅」

 

 では第二ラウンドといこうか。

 

 

*   *   *

 

 

「アガペー」

 

 メルキゼデクが展開した【反射障壁】は、魔法式のとおりに機能していた。

 拳や足が領域に触れると、それまでのベクトルが()()する。屋敷が使ったものと同じ効果だ。

 試しに瓦礫を投げつけてみたが、やはり領域に触れると元の軌道をなぞるように跳ね返ってくる。

 

 武術による受け流し――ベクトル()()――とは異なり、受ける側の意識は関係ない。ただ領域に触れた瞬間、その領域の独自ルールに強制的に従わされる。

 現在既知とされる現代魔法のほとんどは自然科学の範囲に限られているが、だからこそ強固な部分もある、ということか。

 

「なるほど。このように……」

 

 【天使】たちが現代魔法を使う時、いつも「アガペー」と唱える。

 聖書における「神の愛」「無償の愛」を指すとされる言葉が、どうして現代魔法と関係するのか。

 

 ともあれ、動作確認は成功ということで実験を開始する。

 

 ひとまず服部の誤解した、サイオンを込めた突き(パンチ)

 現代魔法学風に言えば「攻撃をサイオンで強化する」といったところか。

 

 まずは軽くジャブから。

 

――()ッ!

 

 やはり障壁は機能し、あなたのジャブは勢いよく跳ね返される。

 だが一切サイオンを通さない攻撃と異なり、わずか寸毫の間だが反射までにタイムラグがあった。

 

 では次、サイオンをより強く。

 

――()ッ!

 

 強い抵抗を感じたものの、あなたの拳は障壁のある領域を突き破る。

 

 魔法強度――イデア次元におけるサイオン分子の連結強度――を上回る強度で殴れば良いのか。

 いわゆる「レベルを上げて物理で殴る」が通用するわけだ。

 まあ十師族嫡男の魔法強度を上回らなければならない以上、一般的な魔法師には「りろんはわかった」でしかないのだろうが。

 

 そう言うあなたにも、これは少々リスキーだ。

 サイオンを操る能力は人修羅としての権能(スキル)ほど自然に使うことが出来ない。あなたはまだ、現代魔法師としては駆け出しの(ヒヨコ)に過ぎないのだから。

 手加減に難のあるあなたの拳がどんな結果をもたらすかは、あまり想像したくない。

 

 では次。屋敷に教示された正しい方法。

 古流武術に言うところの、攻撃に()()を通す。

 

 今度は拳に想子(サイオン)ではなく霊子(プシオン)――マガツヒ――を込める。

 

――()ッ!

 

 ここで奇妙な現象が発生する。

 

 あなたの突き出した拳は、何も込めなかったときと同じように押し戻された。

 しかしマガツヒは本来の拳の到達点まで、何事もなかったかのように到達する。

 企図せず「遠当て」のような()になってしまった。

 

「今のは、一体?」

 

 メルキゼデクも首を傾げる。

 

 現代魔法の原理は、万物を情報構造(エイドス)化したイデア次元に新たな情報(MAGIC)を構築することで、その他の情報に干渉する、というものだ。その結果として情報構造に加えられた変化が、物質次元に反映されることになる。

 あなたが魔法大学のインデックスからダウンロードした【反射障壁】は、領域に侵入した情報構造の慣性力情報を反転させるもの、と説明されていた。

 特に対象を設定していなければ、あらゆる物質を反射するはず。

 だが実際にはマガツヒは反射されていなかった。

 

 サイオンはマガツヒに干渉できないのか、それとも【反射障壁】の定義不足だったのか。

 メルキゼデクに【反射障壁】を再定義して展開するよう指示をし、もう一度繰り返す。

 

 結果は変わらず、マガツヒだけがあなたの想定した身体操作どおりの形になって消える。

 

「アガペーではマガツヒには干渉できない?」

 

 どうやらそのようだ。

 そういえば、現代魔法では精神に干渉する魔法を「系統外魔法」として、特殊な才能が必要なものとしている。もしかしたら一般的な現代魔法の魔法式そのものは、マガツヒ=プシオンに影響できない、ということなのか?

 

 気になるところでは有るが、十文字との模擬戦で【テンタラフー】や【原色の舞踏】を使うわけではない。

 ただ古式魔法には現代魔法を攻略する手段がある、ということだけ記憶して、この疑問についてはまた後日としよう。

 

 

 その後、手持ちの現代魔法で【反射障壁】を攻略できるかあれこれ実験していたら、危うく終電を逃しそうになり、帰宅後にシルキーに小言を言われたことを付け加えておく。

 

 

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【今回の要点】

 ○ギリメカラくん虐めちゃってゴメンナサイ

 ○【反射障壁】は人修羅パワーで突破できそうだぞ!

  ×でもその勢いで殴ったら「相手は死ぬ」んじゃない?

 ○【反射障壁】はマガツヒに干渉できないっぽいぞ?

 

 他の要素については設定厨の悪癖ということで。

 




感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]もチェックしてますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)

今回登場した吉祥寺の商業ビルというのは、メガテンフリークお馴染みの「吉祥寺エコービル」です。
実際には名称が変わり、改築工事が行われ、既に存在しない物件ですが、こちらの世界では何故か残っています。

※仕事のシフトが変更になったので、今後は木曜更新の確率が上がります。


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(20230622)誤字訂正
 銀太様、誤字報告ありがとうございました。

(20250328)誤字訂正
 ゆうや117様、誤字報告ありがとうございました。

(20260120)誤字訂正
 雪森様、誤字報告ありがとうございました。
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