魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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 ちょっと挟んでおきたくなったので、屋敷先輩視点での、人修羅さんのお話。
 ちなみに読み方は「やしき・とももと」です。



#043 *4月中旬 屋敷朝基

 2095年4月12日──火曜日、放課後。

 

 その日、部活連から各クラブの部長に集合要請があった。

 なんでも「部活連の執行委員」の紹介だという。

 聞いた瞬間、なんだそれはとも思った。部活連にそんな役職有ったか?

 

 廊下でばったり会った服部(はっとり)に聞いたところ、これまで各部持ち回りで人を出して分担していた事務仕事(オツトメ)()()()やる役職らしい。

 要は事務方ってやつだ。

 

 そんなもん巡回のときにでも挨拶させりゃあ済むんじゃねえの?

 

 とも思ったが、誰もが魔法師としての夢を見るこの一高で、わざわざ事務方をやろうという物好きには興味も湧いた。

 ……まあ二科生に振られりゃ、そんな夢もすぐぶち壊しになるんだが。

 

 

「紹介する。部活連(ウチの)執行部、期待の新人だ」

 

 そいつをひと目見て思ったことは。

 

 ()()()()()()()

 

 この一言に尽きる。

 

 身長(タッパ)こそ新入生らしいが、首筋とふくらはぎの筋肉は鍛えられた肉体を思わせる。

 なにより何気なく()()その姿には一分の隙も()ェ。

 俺の師匠と同じように、もしかしたらそれ以上に自然な形の(つね)の身だ。

 

 

「1年A組、間薙(かんなぎ)シン」

 

 声もいい。

 肚から出た、遠くまで届く声だ。

 なにより呼吸が全く読めねェ。化け物かよ。

 

 あいつは絶対、武術をやってる。それも古流だ。

 手合わせしてみてェ。

 同年代でここまで圧倒的なヤツ、大会でだって見たことねェよ。

 

 

「目ざといやつは知ってると思うが、彼は今年の次席入学で、魔法力の基礎スコアも既に国際A-クラスの逸材だ」

 

 魔法力まで有りやがるのか。

 制服を見りゃ、一科生なのは分かったけどな。

 そうか一科(ブルーム)か。こりゃ空手部(ウチ)に呼んでも無理だろうな……

 

 

「だが諸君には非常に残念なことと思うが、彼の勧誘は無しだ! 彼自身、特定の部活動への参加は考えていないと聞いている」

 

 ああ、専任ってなそういうことか。

 部活動の代わりに運営委員になるってことだな。

 なんでか知らんが、本人の希望ってんなら仕方がない。

 

 ……なんて俺たちが納得すると思ったか!

 

 すぐに「横暴だー」「部活選択の自由の侵害だー」と声を上げるやつが出てきた。

 一年生(しんじん)は片眉上げて小さく笑ってやがる。

 お? こういうノリが好きなのか?

 

 俺も一緒に「部費もっとよこせー」と煽っておいた。

 そいつの笑みが深くなった。

 ああ、いいなこいつ。気に入った。

 

「彼は部活連(われわれ)執行委員の()()という日の当たらない仕事を、快く引き受けてくれた。勧誘や模擬戦などで煩わせることがないよう、各部とも部員への通達を徹底しておいて欲しい」

 

 ふん。なるほど、そういうことか。

 入学次席で魔法力も突出してれば、そら模擬戦(ケンカ)を吹っ掛けるやつは出るよな。

 誰がやらんでも俺がやりたかったくらいだし。

 

 つっても十文字(エリートさま)に言われたまま、ハイハイ言うこと聞くのも芸が無(きにくわね)ェよな。

 ちょっくら文句(アヤ)付けておこうか。

 

 

「服部よう」

「なんだ?」

「話しておくのは良いけどよ。全員(600人)に面通しするわけにもいかんだろう。知らんで勧誘したり模擬戦(ケンカ)ふっかけたりってのを止めんの無理だぜ?」

「むぅ、それはそうか。なら腕章を――」

「却下で」

 

 わはは。あの服部(カタブツ)がやりこまれてやんの。

 まあ嫌だよなあ。小学生(ガキ)の名札じゃねえんだから。

 

「ならば間薙の勧誘禁止は、今月いっぱいとしよう。5月1日に解禁とする。勧誘週間(ばかさわぎ)の後始末にも人手は必要だからな」

 

 十文字がそう切り出す。

 いやまあ俺等は願ったり叶ったりだけどよ。

 本人……なんか困ってねェか?

 

 

*   *   *

 

 

 4月18日――月曜日。

 

 講堂で行われた部活動説明会は、まずまずの成果だった。

 去年の経験(どたばた)から先週いっぱいアチコチ調整で忙しくなると思ってたんだが、予想以上にスムーズに進んだ。

 去年はもっと面倒だった気がするんだけどな。

 

 ま、上手くいって困ることもねェんだけどな。

 

 上手くいったったら表演もか。

 他の連中に恩を売りつつ、きっちり仕事もやってのけた。

 音速拳(マッハパンチ)かましたときの、新入生たちの反応も良かったしな。

 まだ連発できねェのが玉に瑕だが、苦労して覚えた甲斐があったってもんだ。

 

 

「でな、服部よう」

「なんですか」

「結局、誰が指導すんだ? あの十文字(デカブツ)にゃ無理だろうし、お前もその辺はサッパリなんだろ?」

「またそれですか。自分にやらせろって言うんでしょうけど、模擬戦は禁止ってことで話が付いてるんですから、勘弁してくださいよ」

 

 説明会の表演が終われば、次のイベントは5月末の春季大会(ハルタイ)だ。

 高校最後の夏大会(ナツタイ)に備えてガッツリ追い込んでおきてェ。となれば余計なことを考えてる余裕は無ェし、気になることは全部片付けておきてェ。

 

「分かってる分かってる。模擬戦でなけりゃ良いんだろ?」

「暴力沙汰は無しですよ? 問題になれば春大に出場できなくなりますからね」

「そんなんじゃねえよ。ちゃんと了解とってからやるさ。()()()が嫌がったら無しでいい」

 

 どのみち提案(これ)を断るようなら期待はできねェ。

 そんときゃスッパリ諦めるさ。

 

「……分かりました。手が空きそうな日に連絡します。こっちから連絡するまで何もしないでくださいね」

「わーってるって。信用ねェなァ」

「もし辰巳(たつみ)先輩が同じこと言ったら、先輩はどう思います?」

「絶対信用できねェ」

自分(オレ)も今、そういう気持ちです」

 

 3年C組・辰巳鋼太郎(こうたろう)といえば、俺らの世代じゃ知られた戦闘狂(バトルジャンキー)だ。腕が立ちそうなやつを見れば、誰彼構わず模擬戦を吹っ掛ける。A組の渡辺(わたなべ)摩利(まり)にブチのめされてからは大人しくなったが、俺もあいつにはしょっちゅう絡まれた。

 あいつの言う「あと一回だけ」に何度騙されたかわかんねェ。「ちゃんと手加減する」と言いつつ変数設定(パラメータ)ミスって病院送りにされたことも有る。

 いや、腕は良いし、一科のくせに二科生(おれら)を見下したりしない、いいやつなんだけどな。

 

 

*   *   *

 

 

 4月21日――木曜日。

 

 服部の方から連絡があったので、放課後すぐに闘技場――第二小体育館――に移動し、今か今かと待ち構える。

 

 ……どこから話が漏れたのか、自称親衛隊(アホ)が群れてやってきやがった。

 まあなんだ。この数日、ずっと待ち遠しくて浮かれてたからな。ちょっと口を滑らしたりもしたし。それを聞いてた誰かしらがやらかしてくれたんだろうとは思うが、今更気づいても後の祭りだわな。

 

 極秘に済ませようとしてくれてた服部には悪いが――

 

二科生(ウィード)如きが会頭の代役などと、烏滸(おこ)がましいにも程がある」

「粛清してやる」

 

 ――ああもう、さっさと片付けて無かったことにしちまおう。

 

 

 古流武術はとにかく生き(ながら)えることが第一。

 だから自分が圧倒的不利な状況、一対多、多対多の集団戦にも慣れはある。

 

 先手必勝。

 

 「フォーメーションC!」とか呑気に指示を出した司令塔(アホバカ)の懐に飛び込んで、顎先に鉤突き(フック)を打ち込む。どんな魔法師でも鍛えられねェ弱点は、脳味噌だ。そいつを揺らせばそれだけで簡単に無力化されちまう。これは現代式も古式も変わらねェ。

 

 ひとまず一人を撃沈(オト)したら、駆け寄ってきたヤツに向かって飛び蹴りしつつ、腕輪型CADを操作。現代魔法【跳躍】を起動、蹴り飛ばした反作用に魔法を乗せて、連中の囲みの上に跳ね上がる。群れの一人の肩に手を乗せ、肩関節に指を引っ掛けて引き倒すと、。

 

 その後は「義によって助太刀いたす」とか「オレも混ぜろ」とか「テメェら気に入らねえんだよ!」とか言って入ってこようとする血の気の多い観客(バカ)に下がるよう叫びつつ、超接近戦で一人ずつ片付けていく。

 親衛隊連中(アホども)のクロスフィールド部は、あの十文字(デカブツ)に倣った攻防一体の障壁魔法や、汎用性の高い身体強化が中心。障壁は混戦に持ち込めば互いの魔法領域が干渉しあってロクに魔法が発動しねェし、身体強化だけなら格闘家(こっち)の土俵だ。

 魔法が使えなけりゃ、一科(ブルーム)二科(ウィード)も有ったもんじゃねェわな。

 

 とはいえあんまり怪我させると、あとで服部のやつが煩い。なんなら今回の模擬戦(ハナシ)もナシにされるかもしれねェ。

 なるべくダメージが残らねェよう手加減しながら沈めんの。

 ホネ折れるわコレ。

 

 

 ……とかやってたら、ヒョロい野郎が武器(エモノ)を持ち出してきやがった。

 

 ふざけんな! それ壊したら弁償(ベンショー)とか言われんじゃねえか!

 ただでさえ空手部(オレら)は「カラダひとつで部費(カネ)要らねェだろ」とかいって絞られてんだぞ!

 

 あーもう面倒くせェなァ!!

 

 

 なんとか半数くらいは無力化したところで、闘技場(ここ)の入り口の大扉が解錠された音がした。

 視界の端を、開いてゆく自動扉に木刀が飛んでいく。

 すっぽぬけたわけねェな。誰かが狙って投げたか。

 

 あァ?

 高速で回転しながら飛んでいく木刀が、一瞬で粉微塵に消えた。

 今なお絡んでくるアホを無意識にいなしながら、俺の目はその向こうで掌打を構えた一年生に釘付けになった。

 

 ……何だあれ! スゲェ!

 

 勢い余って、つい逆技を極めていた手に力が入っちまった。

 ボグッ!!

 

 あ、ヤベ……

 

 

*   *   *

 

 

 あの親衛隊連中(アホども)が思った以上にアホで良かった。

 いや、アホだからこの騒ぎになったのか?

 

 まあどっちでもいいか。

 いくら相手が服部だからって、(かさ)にかかって二科生(オレたち)を見下した物言い、一科生(エリートさま)が絶対正義ってのは通らねえよ。

 そいつは()()()領分(テリトリー)()()()()()()()()()公平だ。

 粛清だなんだと、運営委員(じぶんたち)の絡まねェところで勝手されりゃあブチ切れるわ。

 それもあの十文字に迷惑がかかる形じゃあなァ。

 

 そんなことより今は目の前のことだな。

 念願叶って新入生(コイツ)と試合えるんだからな。

 なに、理由だって嘘じゃねェ。

 服部も十文字も古流(オレたち)戦術(ヤりかた)は分かんねェだろうし、俺も部員を指導してきた経験は嘘じゃねェし。

 もし期待外れで(よわくて)も、それはそれでちゃんと指導はする。

 

 ……なんて思ってたんだけどな。

 

 最初の抱拳礼(ほうけんれい)にも驚かされたが、見たこともない技の数々はそれ以上だ。

 こいつ、大亜連合(たいりく)系の武術師か。

 こっちの腕を見ながら合わせてくれてるお陰で組手の形になっちゃァいるが……まったく歯が立たねェ。

 

 当たるはずの突き蹴りが、防がれ、流される。

 そもそも攻めに出た瞬間に軸をズラされるから、当たってもダメージにならねェ。

 焦って雑に手を出せば軽くいなされ、元の位置に押し返される。

 俺のほうが指導されてんじゃねェかよ。

 

 こいつ、下級生(としした)じゃねェの?

 やっべ。マジでこんなのがいるのか。

 世界は広いわ。世界マジ広い。

 

 なんで今の順突きが躱せンだよ。大会一位(チャンピオン)相手にも外したことねェんだぞ。

 ……勝ち目がないのが分かっても、体はがむしゃらに手を出していく。

 空手家は攻めてなんぼだ。辛いときに一歩前に出られなくて、どうして戦えるってんだ。

 

 俺の一瞬の気の迷いを突いて、一年坊(コイツ)は一歩踏み込んできた。

 そうしてドアでもノックするように差し出された裏拳が、軽くチョンと胸に触れる。

 それだけで骨が(キシ)み、一瞬で肺の中身(くうき)が押し出される。

 駄目だ……少なくとも今の俺じゃあどうしようもねえ。

 

 「落ち着け」と、その目が語りかけていた。

 

 オーケー分かった。

 頭は冷えた。

 仕事はちゃんとしろってことだな。

 

 伝統(デントウ)は口で教えれば十分そうだな。

 戦いになっても頭に血が上るタイプじゃなさそうだし。

 

 あとは十文字対策か。

 見せてやるよ、俺の奥の手。

 コイツならあの飽き性に、いっぱい食わせてやれるかもしれねェしな。

 




感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]もチェックしてますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)

当初は服部視点で書こうと思ってたんですが、ここで入れとかないと屋敷視点で書く機会が無くなりそうだったので、急遽差し替えました。(ので服部視点での話は先送りに)

次回、十文字との模擬戦が始まる予定です。
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