魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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なんだかんだ言って原作の登場キャラって皆エリートだよね。って話。


#045 現代魔法の教導

 2095年4月26日――火曜日。

 

 その日は朝から学校全体がどこか落ち着かない空気だった。

 どこから話が漏れたのか、当校において三巨頭(ビッグスリー)の一人とされる十文字(じゅうもんじ)克人(かつと)が、新入生次席と模擬戦を行うことが知られていたからだ。

 

 入学時より無敗。

 三巨頭の残る二名、現生徒会長の七草(さえぐさ)真由美(まゆみ)とは引き分け(ノーゲーム)、現風紀委員長の渡辺(わたなべ)摩利(まり)を完封して“一高最強”と目される彼だが、模擬戦を行った記録は意外と少ない。

 十師族の一角たる十文字家の次期当主という立場が、彼から私的な時間を奪っていた。

 家の都合で学校を休むことすら少なくない彼に、私事として模擬戦を挑むことは、心情的にも時間的にも政治的にも難しい。

 

 そして何より十文字家の十八番。

 攻防一体、十師族“最硬(さいこう)”と称される数多の障壁魔法で敵の心を折るその戦術が、若き魔法師の卵たちの心を折り、その芽を摘まないように、との配慮からだ。

 

 勝って当然。

 なにしろ彼に一矢報いただけで、その能力に一目置かれる程である。

 それが魔法師としての十文字克人に対する評価だ。

 

 その彼が、事情があるとはいえ模擬戦を行う。

 相手は新入生だというからすぐ終わってしまう可能性は十分にあるが、元より現代魔法師の戦いは秒殺が常道である。

 

 少しでも十文字の手の内を見たい者――これは障壁魔法の使い手や、逆に対障壁魔法の戦術を模索する魔法師のどちらかに分かれる。

 一高最強を再確認したい者――九校戦で一年時から圧倒的強者として君臨した十文字に憧れ、一高に入学した男子生徒は少なくない。

 残酷な見世物(ショウ)に昏い愉しみを覚える者――その大半は二科生の模様。

 

 中には新入生がどこまで食い下がれるかに興味のある者や、上手くすれば勝つのではと考える者もいるにはいたが、大勢(たいせい)としては前述の通りだ。

 

 だがその模擬戦(イベント)は非公開である。

 模擬戦自体は元より公開されるものではない──護身術を磨くために手の内を晒しては本末転倒だ──のだが、思春期の高校生たちが自分の好奇心を抑えるのはなかなかに難しい。だから多くはルールから逸脱しないよう予想を語り合ったりするし、中には会場を盗撮するために様々な口実を用いて侵入を試みたりする。

 

 そうした騒動を避けるための処置が講じられ、本来なら一時限目の授業中であるはずが、あなたは第三演習室にいた。

 

 他に入室しているのは生徒会長・七草真由美と、部活連会頭・十文字克人の二名。

 外では他に誰も立ち入らないよう、生徒会会計・市原(いちはら)鈴音(すずね)と部活連副会頭・服部(はっとり)刑部(ぎょうぶ)の二名が、見張り番をしている。

 

 

*   *   *

 

 

 模擬戦の立会人になる真由美が、手元の端末に表示されたテキストを読み上げる。

 

「模擬戦は全三回。

 最初は魔法大全(インデックス)登録の魔法のみで、格闘、白兵戦は無し。

 次に魔法大全非登録のものを含む現代魔法、格闘、白兵戦もあり。

 最後が戦技条件無し。

 状況は都市部における不意遭遇戦、互いに事前の魔法準備は無し。

 装備は学校指定の制服、鞄、模擬個人用端末。CADは二台まで。

 それぞれ10分以内に合計10秒以上相手を無力化した者を勝者とする。

 また、相手に全治二ヶ月以上の怪我を負わせた場合、立会人および観戦者に危害を加えた場合は無条件で失格とする。

 ……本当にこれでいいの?」

 

 頷きかけたあなたを制し、向かい合った十文字が口を挟む。

 

「想定は都内だろう? なら時間は各5分だ。それだけあれば警察なり警備なりが現着する」

 

 模擬戦の建前は自己防衛の訓練と指導。

 それを建前では済まさない、ということか。

 理解は出来るし、そもそも対人戦で5分もかかるはずがないのだ。それで構わないだろう。

 

「それから……なにこれ」

 

――昨日、署名をいただきましたよね?

 

「あ、アハハハハハ」

 

 設備の物損については従来、学校側で補填されるものだが、生徒の自主学習として行われる模擬戦についてはグレーな部分が大きい。

 そのため念の為、ダメ元で条件文の中に『設備の損害補填について必要な分は生徒会と部活連の折半とする』と潜り込ませておいたのだが、何のリアクションもなく通ってしまったのであなたは申請し忘れたかと後から複写(コピー)を確認したほどである。

 もしかしてちゃんと読んでいなかったのだろうか?

 

「……ほどほどにしてね?」

「善処する。いや――」

 

 七草の小さな懇願に、無表情で応じる十文字。

 だがすぐに何かを思いついたように、大きく無骨な手のひらで話を制止する。

 

「初戦のみルールをひとつ加えてくれ」

 

――ふむ?

 

「先手は間薙に譲ろう。間薙の魔法発動を開始の合図とする」

「十文字君?」

「これは()()だ。多少の損害は諦めてくれ、七草」

「ああ、もう……」

 

 色々と試したいあなたにとっては願ったり叶ったりの条件だが、十文字には何か考えがあるらしい。

 憂鬱そうな素振りを見せる立会人に、あなたは左右非対称の表情で笑ってみせた。

 

 

*   *   *

 

 

「じゃあ、いつでも始めていいわよ」

 

 立会人の気疲れを含んだ声と同時にあなたは腕輪型CADを操作し、ひとつの魔法を起動する。

 効果は「対象を一方向へ移動する」という、先日の実習で使ったものだ。

 

 およそ高校生の規格から外れた巨体が即座に後方へと吹き飛ばされる。

 わずかに表情筋を動かし驚きの感情をあらわにする十文字。

 だが壁に衝突する直前、彼は太い指で器用にCADを操作し、自身の情報構造体(エイドス)を強化した。

 

 壁面に背中の隆起した筋肉が接する直前、彼の巨体は停止する。

 わずかに浮いた踵が床に着くのと同時に次の魔法を展開、十文字があなたに向けて手を振ると、見えない壁のようなものに押されるのを感じた。

 

――なるほど。

 

 字義通りに【障壁魔法】で発生した障壁に移動属性を与えた、ということだろうか?

 だがそれは身構えた前手をほんの少し押し返しただけで止まった。

 おそらくは小手調べですらなく、ただあなたに「こういった魔法があるぞ」と教えるために放たれたのだろう。

 

「他の連中から色々と聞いているとは思うが――」

 

 魔法を解除した十文字が、不意に結ばれた口を開いた。

 いかにも質実剛健、石垣直角といった風体の男であるが、その言葉も巌のごとく、硬く、重い。

 

(オレ)も十師族の人間として、家では魔法師の指導をしている。一高の生徒たち(あいつら)に言われているように、まったく指導できないわけではない」

 

 言いながらCADを操作し、次の魔法を起動する。

 ふと前方から迫りくる不可視の圧を感じ、あなたは半身でそれを躱す。

 

「ただ、十文字家(うち)のやり方は軍隊式だからな。学生相手には都合が悪い」

 

 あなたの横を行き過ぎた“なにか”を起点に、あなたを取り囲むように不可視の【障壁】が展開される。

 なるほど、これも【障壁魔法】の応用か。

 

「とはいえ、今のお前に必要なのは軍隊式(こちら)だろう。お前のためにも、この国のためにもな」

 

――国のため、とは大きく出たな。

 

 思わず応じたあなたの言葉に、十文字の顔つきが一段と厳しいものになる。

 

「魔法師が国力を左右する。それは過言だと俺も思うが、それを信じる人間にとってお前は極上の獲物に見えるだろう」

 

 【障壁】があなたを取り囲む。

 現在のあなたは、見えない縦長の箱に閉じ込められたような形だ。

 

「従来、成績優秀者といえば二十八家か、数字付き(ナンバーズ)か、そうでなくとも名の知れた家の者がほとんどだ。代々魔法師の家系に生まれ、育てられてきた人間は、幼い頃から自衛の術は教えられている。だが――」

 

 最初の一戦の条件は現代魔法()()

 ただ破れば良いのであるなら難しいことでもないが、()()はルール違反だ。

 自分で決めたルールを自分で破るのでは何の意味もない。

 

 それに存外、十文字は本気であなたを教導しようと考えているようだ。

 

「古式魔法師は侮られやすい。魔法力の高い古式魔法師の卵の存在が知られれば、それだけで騒動の種になるのは目に見えている」

 

 ()()という言葉も随分と控えめなチョイスだろう。

 過去には十師族直系の身柄を誘拐する事件すら有ったと言う。

 碌な警護も付いていない市井の出(いっぱんじん)の魔法師の卵の危険性など言うまでもない。

 

 彼はそれを教えようというのだろう。

 その責任感を無為にするのは、あなたの性に合わない。

 

 ならば――

 

 十文字の重い言葉をよそに、あなたは CAD を操作し、一つの魔法を起動する。

 それは先程と同じ、単一移動系魔法の初歩。

 ただし発動地点をあなたの眼前、おそらく【障壁】が存在するだろうその次元(イデア)に向けて。

 

「っ!?」

 

 刹那の時を待たず、あなたを囲んだ不可視の()が崩壊する。

 

 あなたの持つ、馬鹿げた魔法力による力技。

 それはどうやら日本現代魔法師界の上澄み中の上澄みたる、十師族の次期当主殿の魔法にも有効であるらしい。

 

 偶然の事故で知った現代魔法のロジック。

 使えれば御の字、くらいの気持ちだったが意外なほど有効だったようだ。

 

 事実、十文字の目が見開かれ、鋭い眼光があなたに向けられている。

 

「俺の【障壁】を跳ね除けるか。とんでもない魔法力だな」

 

――お眼鏡に適ったかな?

 

「む……いや、もう少し続けよう。次はそちらから攻撃してみてくれ」

 

 残り時間は、あと3分ほど。

 

 

*   *   *

 

 

 ……なるほど、これは硬い。

 仕切り直してからちょうど2分が経過した頃、あなたは内心で驚嘆していた。

 

 無論、最初から現代魔法で勝てるとは思っていなかった。

 こと現代魔法において、克人はおよそ百年の蓄積を背景に持った、十八年の英才教育の結晶。

 対するあなたは、興味こそあったものの接点を得て三ヶ月、CADを手に入れ訓練できるようになったのが二ヶ月前、魔法大全(インデックス)の一部を閲覧ができるようになってから半月しか無いのだ。

 

 技術格差というものを侮る気持ちはない。

 むしろ健闘している方なのだと思う。

 初手で力技(カード)をひとつ切って牽制したのが良かったのか、悪かったのか。あれ以降、克人はこちらの手の内を窺うように守勢に回っている。

 お陰でこちらは魔法の調整(チューニング)を実験し放題というわけだ。

 

 現代魔法は――系統外魔法を除いて――自然科学に依拠している。目的のために必要な現象を作り出す理屈(ロジック)は比較的考えやすい。

 そこであなたは、先日教わった現代魔法の簡易ビルドプログラムを使って、あれこれ魔法をカスタマイズしてみた。

 そしてそれを状況次第で実験できるよう、CADに登録しておいたのである。

 

 とはいえ、あなたは腕輪型CADの操作にも慣れていない初心者である。

 流石に目視しなくても入力はできるが、操作に多少の意識を取られてしまうため、わずかな隙に相手が動きを見せるとつい反応してしまい、更に入力が遅れてしまう。

 

 加えて簡易ビルドプログラムで作れる魔法は、安全マージンを大きく取っているため無駄が多い。

 おそらく試行錯誤を繰り返して洗練されたプログラムとはコンマ数秒ほども違うだろう。

 お陰で狙ったタイミングでの魔法発動が難しく、用意してきた戦術はまともに機能していない。

 

 十文字がここまで本気で指導をしてくれるとは思っていなかったため、ひとつでも使えれば御の字と用意してきた戦術パターンは、既に使い果たしてしまった。

 現状でやれることは、距離ごとの違いやCAD操作の工夫など、細かな手筋の変更くらいしか無い。

 そのため傍目には意味のわからない挙動が増えてしまい、外野からは格ゲー初プレイの対戦動画のように見えるかも知れない……などと無意味なことを考えていたりする。

 

 

 実際に直面すると、魔法のみで大怪我をさせずに無力化する、という条件は殊の外難しい。

 現代魔法の効果は物理現象、それも瞬間的なものが主だ。

 個人を無力化するとなると武装解除に加えて転倒、拘束、気絶、等の方法があるわけだが、これを魔法現象でもたらそうとするなら、直接的、間接的のどちらの手段を取るかによって魔法の用法が大きく異なる。

 

 このうち直接的な手段については、早い段階で諦めた。

 

 直接的な手段とは、現代魔法において対象の情報構造体(エイドス)に直接働きかけ、状態を書き換える行為だ。

 これは対象者自身の情報強度や領域干渉力によって抵抗されるため、事魔法師相手には効果が減衰、無効化しやすい。

 しかし生物、特に人体を対象とする魔法は、一種の禁忌として研究に強い制限がかけられている。

 無責任な高校生の手が届くところには置かれていない。

 

 そのためアクセスできるのは生物、非生物を問わない汎用的なものばかりだ。

 それらも人体に行使した際、どのような効果が生じるか予想がつかないものを除くと、安全かつ実戦的な魔法というのは限られていた。

 念には念を入れ、安全装置(セーフティ)として魔法の効果範囲をあらかじめ定義したものを複数登録したが、今度はそれらを戦闘中、瞬時に取捨選択することができなかった。

 

 アイデアこそあれど、現実問題としてそれを実践する能力に欠けていた。

 実際に十文字相手に試行して、それを痛感させられることになった。

 

 そのため中心となるのは間接的な手段だ。

 間接的な手段とは、現代魔法学において対象の情報構造体(エイドス)()()()()効果をもたらすべく、周囲の環境情報に手を加えるものを指す。

 ただこれも、実用には多くの経験則を必要とする。

 

 たとえば床の振動波を増幅する魔法によって床を揺らし、相手の足場を不安定にする用法がある。

 この魔法をどの程度増幅すれば相手の動きを止められるのか?

 また逆に床の素材を振動波によって破壊しないでいられるか?

 これらを変数化し、現場で指定するのは意外と難しい。

 これは「床の上にいる相手を転倒させる魔法」ではなく単に「床に振動を伝える魔法」でしかないからだ。

 

 あなたの魔法力(ちから)ならば、大地に対して強く大きく増幅すれば局所的な地震を起こすことすら難しくはない。

 だがそれによって建物の倒壊や地割れ、液状化現象などが起こるかを決定することはできない。

 それは建築物――床面や壁面、その内部構造――や大地の組成その他の複合的な要件から発生する副次的なものだからだ。

 

 これと同じことが、対人効果についても言える。

 複合的な要件を加味して魔法を選択、威力を調整しなければならない。

 訓練されていない徒弟(アプレンティス)にできることではない。

 それらは科学的な知識を身に着け、また様々な実例から経験則として学習した者だけが、適切に魔法を運用できるというわけだ。

 模擬戦とはそのための舞台でも有るのだろう。

 

 結論として()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言える。

 

 知識と経験、両方が備わって初めて目的どおりに運用できる専門技術(どうぐ)というわけだ。

 

 火事の原因になるからと言って火を恐れてはならない――とは言うものの、コレ、本当に未成年者に扱わせて良いものなのだろうか?

 

 

*   *   *

 

 

 残り1分も使い果たし、あなたはすっかり手の内を出し尽くした。

 

 ボールペンのキャップを飛ばして目眩まし、すぐさまボールペンそのものを()()()()()破片を散弾状に魔法で飛ばそうとしてみたときは、破片が一塊のままに飛んでいったので意味がなかった――そもそも【障壁魔法】を貫通するほどの威力はなかったとはいえ。

 

 加減の分からない地揺らし――床面に対する【振動増幅】――は、建物の安全性を考えて魔法大全のデータそのままに使ってみたが、今度は十文字の【障壁魔法】に跳ね返されてしまった。

 

 それなら音波の増幅はどうかと思ったが、これも同じく十文字の展開した【障壁魔法】に干渉され、あなたは自爆する前に魔法効果を終了した。

 

 単純に十文字の【障壁魔法】が厄介というのもあるが、それ以前に現代魔法の使い勝手がすこぶる悪い。

 これが悪魔たちの魔法であれば、もっとファジーに融通が利くのだが。

 

 格闘技能が使えない中、純粋な現代魔法での戦いは、今までのあなたの常識からあまりにかけ離れすぎていた。

 

 

「お前の気質が善性であるのは分かった。勝ち気に逸って力任せに魔法を使わなかったからな」

「正直、助かったわ。実習室の設備は安くないから」

 

 立会人による終了の合図の後、一度目の感想戦となった。

 

 なるほど戦い方を見れば為人(ひととなり)が分かるということか。

 この男、軍人というより武人に近いのかもしれない。

 

 並ぶ生徒会長の感想も、実に率直なものだった。

 あまりに実感のこもったそれに共感し、あなたも思わず笑みを浮かべてしまう。

 どうせ大概の物損は、魔法による応急処置で済ませているとはいえ、だ。

 

「扱いづらかっただろう?」

 

 全くその通りだった。

 思った以上に現代魔法は扱いづらく、危険だ。

 想定通りに扱うには、相応の時間を訓練に費やす必要がある。

 現代魔法師というのはれっきとした()()()のひとつなのだ。

 

「まずはそれが分かれば良い。下手に応用を考えず、まずは標準規格(スタンダード)を使いこなせるようになることだ」

 




感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]もチェックしてますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)

時間が空きすぎて書式を忘れてたり、今さら昔作った原作資料の間違いに気付いてプロットが崩れ去ったりしてもうダメのドピンチ。

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(20250630)誤字訂正
 楓流様、誤字報告ありがとうございました。

(20250711)加筆修正
 模擬戦の実施環境(見張りを立てて観戦者をシャットアウト)について追加しました。
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