魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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前話(#045)で観戦者についての説明(要約:実習室内には間薙シン、十文字克人、七草真由美の三名。室外に服部刑部、市原鈴音が見張ってる)が抜けていたので加筆しました。


#046 鉄壁無双

 それにしても今回の一件、よくよく考えてみると随分と気を遣われていることが分かる。

 その最大のものは、これが学園最強、そして十師族直系にして次期当主とされている十文字(じゅうもんじ)克人(かつと)による()()であるということ。そして上級生から模擬戦をふっかけられた際の対応について()()()()()()()()ことを、建前として挙げられていることだ。

 

 上手いことを言ったもので、要するにこれは――模擬戦についてのみではあるが――「十文字克人が後見人(こうけんにん)となる」「あなたは申し込まれた模擬戦について自由に拒否して良い」という御免状を与えたに等しい。

 なにしろあなたが模擬戦を断った際、その振る舞いについては十文字が教示したとされるのだ。

 それにケチを付けるということは、十文字の教えが悪かった、ということに()()()()()()

 

 だから実際にどのようなことを教えたのかを開示しないし、観戦者も最低限とされた。

 ルールが分からなければ抜け道(セキュリティ・ホール)も分からない、というわけだ。

 

 その中には、もしかしたら「誰それとは戦うな」と十文字が助言したのかもしれない、というものもある。そうであったのなら、その相手は十文字にその力量を――少なくともあなたに危害を加えられる程度には――認められた者、ということになる。

 上手くすれば戦わずして名を上げることにも繋がる。

 もちろん、正面から叩きのめされる可能性もあるが。

 

 ()()というものをよく理解した、実に貴族的なやり方である。

 質実剛健な武人のイメージからは乖離しているが、学生としての振る舞いと貴族としてのそれは競合しない。

 あるいは隣で小さく手を振っている生徒会長・七草(さえぐさ)真由美(まゆみ)の入れ知恵だろうか。

 

 無論、そこには何らかの思惑があるのかもしれない。

 なんにせよ、ありがたいことだ。

 

 

*   *   *

 

 

 第二戦は、現代魔法に白兵戦――長射程武器を使用しない接近戦――を加えたもの。

 慣れ親しんだ古式魔法こそ使用できないが、そもそも前世の後半生では古流武術の研鑽を道楽としてきたあなたである。実のところ、現代魔法(マジック)武芸(スキル)がどこまで通用するかの検証の場であるこの第二戦に、一番の期待を込めているといっても過言ではない。

 

 「標準規格での魔法の運用」「市街地の建築物のデータの取り方」「市街地での魔法の仕様に関する基本的な注意点」など、ひとしきり第一戦の感想戦を終えたあなたたちは、第三実習室に大小さまざまな障害物――大きなものでは廃タイヤを積み重ねた高さ2メートルの柱から、膝から腰ほどの高さに積まれたプラスチックの衣装ケース、適当に撒き散らされた数十個のゴムボールなど――を配置し、市街を模した環境を作っていく。

 

 昔のアニメ作品だとこうしたバトルフィールドには謎に先進的な設備があって、スイッチひとつで床からせり上がってきたり、どんでん返しのように壁が回転したりして、あっという間に障害物が展開されたりしたものだが、生憎と現実には隣接された用具室から人力で運び出し、設置していくという地味なものだ。

 

 強いて言うなら大きな荷物の移動時には台車に【滑走】の魔法――対象の摩擦係数を減らす――をかけたり、不安定に積まれたものには【硬化】の魔法――相互の位置情報を固定する――をかけたりして手間を大きく軽減している点は、技術の進化……と言えるだろうか。

 

 なお、これらは各クラブから出た廃棄物が殆どで、ここでどんな有り様になろうが廃棄費用は殆ど変わらない。

 ただ補償についての言質を適用すれば、本来は部活連の丸かぶりだった支払いが、生徒会との折半になる、というだけだ――もともと年間契約で一括払いの処分費用を、わざわざ個別に再計算するほうが面倒なので、これについては対象外ということにしたが。

 

 障害物の設置については十文字の提案で、あなたにとっても寝耳に水だったので……その、生徒会長はそう睨まないで欲しいのだが。

 費用はともかく出し入れが面倒なので、無くても良いんじゃないかと真由美から()()()がかかったが、それでも「必要だ」と十文字が押し切れば、仕方ないかと諦めたようだった。

 

 

*   *   *

 

 

「開始の合図を、頼む」

 

 あなたと克人が5メートルほど離れて対峙すると、真由美は小さく肩をすくめてから、凛とした声で「はじめ!」と号令した。

 

 弾けるように床を蹴ったのは、あなた。

 対する克人はゆったり後退しながらCADを操作する。

 

 一足飛びに間合いを詰め、掌底による一撃を試みるあなた。

 

「早い、が」

 

 だが、ギリギリのタイミングで克人の魔法が発動する。

 対象自身の速度をベクトル変換によってそのまま返す【障壁魔法】は厄介だ。

 ただしそれは慣性の向きを()()()魔法現象であるため、対策――最も一般的なものは情報強化によって身体を一個体と定義すること――していればそれまでの慣性との衝突で身体におかしな負荷がかかることはない。最初から逆進していたものとして全ての情報が書き換えられるのだ。

 

 突然そうなれば脳はパニックを起こしてしまうだろうが、この現象は先日、屋敷に食らって学んでいた。確実に来るかは分からなかったが、来る可能性は想定していた。

 だから次の手が打てる。

 

 全身の関節を緩めていたあなたは、跳ね上げられた腕の慣性に身を任せて大きく飛び上がった。そのまま身を捻って慣性を円運動に変換すると、空中でCADを操作しつつ着地。即座にその場から飛び下がると、入れ替わるように飛び込んできた十文字の拳が宙を切った。

 

 瞬時の緊張を大きなため息として吐き捨て、十文字は再び身構える。

 対するあなたは両腕をだらりと垂らし、脱力した無構えから独楽(こま)のように旋回する跳躍。瞬間的に折りたたんだ腕がわずかに十文字の視界から隠れるタイミングで左腕のCADを操作し、そのままの勢いでアッパーの軌道で左の掌底を繰り出す。

 

 当然のように合わせてくる十文字の【障壁魔法】。

 同じことの繰り返しになるかと思われた次の瞬間、不可視の障壁に触れた掌底はわずかに減速して十文字の脇腹をかすめる。

 あなたはそのまま身を入れ、腕を絡めるようにして投げに打って出たが、相手はその勢いを利用して大きく飛び、辛くも逃れられてしまった。

 

「十文字君!?」

「……大丈夫だ」

 

 十文字が防勢に回ったことに驚いた真由美の声に、十文字は片手を上げて応えていた。

 だがそのこめかみにうっすらと汗を滲ませ、十文字も先ほどとは違った緊張を感じているのだろう。見るからに豪壮な男が、気合を入れるように鋭く息を吐き、大ぶりな仕草で腰を落とし、身構えた。

 

 

 少し甘かったかな、とあなたは反省する。

 掌底を当てなかったのは、十文字が予想外に無防備だったからだ。おそらくあのまま打ち込んでいれば、肋を折るくらいのダメージになってしまっていた。だから()()()()()()()()()()()()()()()を利用して打ち込みをずらし、投げに切り替えたのだが。

 どうせだったら柱の方向に投げればよかったな、と反省する。

 

 例の()()の座標情報を、空間ではなく自身の拳に再定義した魔法。

 自身の拳と座標情報が重なった魔法式を対象滅させる、一種の()()()()として作ってみたが、思ったよりもうまくいって、自分でも驚いていた。

 

 いかんせん想子(サイオン)波が残るごく僅かな時間にしか効果がないため、CADを操作し発動してから一秒弱しか機能しない。あなたの持つ異常な魔法出力と、刹那の時間を活かす身体能力。その両方が求められるという、現実的にはまったく使い道のない魔法なのだが、思いついたからには試してみたくなったのだから仕方がない。

 

 そちらに気を取られたがため、投げに切り替えてからは惰性で体を動かしてしまった。

 影の城の女王あたりが相手であれば、そのまま槍の一投で胸に大穴を開けられていたところだ。

 

 とはいえ気になっていた課題を終えたことで、あなたの心には余裕ができていた。

 折角の機会だ。残りの時間、現代魔法(エッジ)古流武術(レガシー)がどこまで通じるか、挑んでみるとしようか。

 

 

*   *   *

 

 

 久しく無かった“挑戦者”という機会に高揚したあなたは、持てる限り、さまざまな技法による攻撃を試みた。

 

 拳を握ることこそ禁じたが、それ以外の打撃――掌底や指先、肘、膝、足刀、足尖、靠など――の技芸を繰り出し、その全てが“鉄壁”の異名を取る十文字家の技術に防がれていた。

 篠突く雨の如き連撃も、無拍子によるフェイントも、視界の内外へと跳び回る高速移動も。更には新しく用意された数多の障害物を利用しての攻撃も、堅牢な障壁に包まれた巨人に触れることを許さない。

 

 

 十師族“最硬”、()()()()の異名は伊達ではない。

 家門の代名詞とも言える得意魔法が打ち破られ、僅かながら揺らいだ十文字の心も、再び安定を取り戻してゆく。

 

 先程のあなたの魔法を警戒し、連続して多数の障壁を生成し続ける十文字家の家伝たるファランクス。四系統八種の障壁を不規則な順番で絶え間なく繰り出し続ける多重移動防壁魔法は、流石に単なる打撃でどうにかできるものではないようだ。

 

 それが都度入力を必要とするようなものであれば、集中を阻害すれば突破できる。

 だが一度の操作で完了してしまうものである以上、いかに技芸で相手の心身に干渉しても意味がない。

 なるほど、これなら人間相手で(おく)れを取ることはないだろう。

 

 しかし。

 

 それは安全地帯に隠れ潜むようなものだ。

 要塞を築き上げ、持久戦による負けない戦いを展開する。

 人類史において中世と呼ばれた時代、世界各地で盛んに行われた戦争の形態。

 それはやがて、火薬という新技術によって打ち砕かれることになった。

 

 彼が現代魔法師の先人として、あなたを教導してくれようという心意気。

 それは素直に嬉しいものだ。

 

 だが。

 

 あなたは敢えて見え見えの飛び蹴りを繰り出し、障壁に跳ね飛ばされるようにして距離を取る。

 あなたが手控えた時、あくまで守勢を軸にした障壁魔法による戦術は、あまりに脆弱なように思える。

 

 これは現代魔法に疎いあなたに対する教導ではあるが、あなたが攻め手を試すばかりでは片手落ちだろう。

 むしろどのように身を守るべきか。それを学ぶ場ではないのか?

 敢えて手を止めたあなたは、わかりやすく構えをとると、前手で手招きしてみせた。

 

――来い。

 

「よし」

 

 小さく応じた十文字が、反転攻勢に出る。

 

 太い指でCADを操作すると、不可視のなにかが射出される。

 あなたの後ろにあったビールケースが、上からプレス機にかけられたように軋んだ音を立ててひしゃげ、やがて耐えきれずに砕けた。

 

 なるほど先ほどの障壁を移動させる魔法だろう。

 それを攻撃に応用している、というわけだ。

 

「いくぞ」

 

 その言葉と同時に、再び不可視の障壁を矢継ぎ早(やつぎばや)に射出する克人。

 

 だがその攻撃にはC()A()D()()()()()()という、あまりに分かりやすい前動作がある。

 発生点こそ分からないが、それでもただ攻撃が来るとさえ分かっていれば、あなたにとっては十分だ。

 現代魔法は“脳にある未知の領域を使用して無意識下で構築される”と言うが、実際には発動プロセス中の意識に大きく左右される。変数の代入がその顕著なもので、能動的な魔法ほどその必要性は大きくなる。

 無意識下で効果を発揮する受動的な防御魔法であればともかく、攻撃の意思、気配を読むのは武芸の十八番(おはこ)だ。

 

 故にあなたはそれらをただ()()()()()という技能によって躱し、あるいは敢えて接触することで生じる現象を利用し、攻め手に利用していく。

 

 傍から見れば、往年のバトル漫画もかくやのアクションシーンが現実空間で繰り広げられていた。

 

 ……途中、目くらましに二本の廃タイヤの柱を拳一つで引きちぎり、衣装ケースを粉々に砕き、ゴムボールも一つ残らず破裂させ、床面や壁面にいくつもの凹みを生み出した攻防に、顔を青くした生徒会長のことは……気付かなかったことにしておこう。

 




感想、評価、お気に入り、ここすき、いつも本当にありがとうございます。
たくさんコメント、ここすきポチポチ頂けて、通知が来るたびにニヨニヨしています。

次回更新はおそらく21日頃になると思います。

P5X 始めちゃいました。
ソシャゲだし、どうかなーと思ったらなんかCSと遜色ないガチゲーで驚いてます。
リセマラはしない主義ですが、フレンドの蓮がめっさ強くて正直ちょっと揺らいだり……
(佐原海夕だったんで初期からサポ枠埋まったのは助かったんですが)

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(20250711)誤字訂正
 翠野碧様、誤字報告ありがとうございました。

(20260120)誤字訂正
 雪森様、誤字報告ありがとうございました。
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