魔法科転生NOCTURNE 作:人ちゅら
楽しい時間は過ぎるのが早い。
魔法大学付属第一高校でも特優とされる
「はい。おしまい、おしまい。
「同意する」
――同じく。
立会人――
正直なところ、千日手の膠着状態に陥っていたのも事実なのだ。
結局、あなたも会頭も攻め手に欠けた。
そういうことだ。
古流武術の
対する十文字も【障壁魔法】による防御はともかく、意外なことに一対一の対人戦での攻撃には不慣れな様子が窺えた――そもそも彼の立場では、一対一という構図にならないのかも知れないが。
「護身、という意味ではおそらく心配はいらないだろう」
「そうね。油断は禁物……なんて言っても、
「狙撃や集団戦については、必要と思うならまた後日、だな。そのときは七草にも参加してもらおう」
「ぅえぇっ!?」
「
「嗚呼……まあ、そうね。分かったわ」
感想戦の流れで出された実戦訓練の提案。
一度は難色を示した真由美だが、十文字に指摘されると逡巡しながらも、承諾した。
しかし家の人間を関わらせない方が良い、というのはどういうことだろうか?
「腕の良い魔法師はどこも不足しているからな。目をつけられれば面倒が増える」
「十文字君のところはまだ良いわよ。理解のある御当主だし」
「放任主義なだけだがな」
「
なにやら戸惑うように俯き、悩んでいる真由美に、あなたと克人は顔を見合わせる。
互いに「思い当たることはあるか?」と問うように、そして同じく「心当たりはないが……」と眉間に
七草が何を悩んでいるのかは分からないが、そんなことよりも
実習室に散乱した、障害物だったもの――あるいは本当にそのものになったとも言えるが――をどうするか。
このまま雑然とした環境の想定とするか、それとも。
「
なんとまあ寛大なことか。
とはいえ、これまでのアレコレを思い出せば迷惑をかけられたというのは間違いではない。
最初の
あなた自身は
とはいえ、やりすぎるわけにもいかない。
あなたの意図をわかりやすく伝えるために、少々手間だが更地にしてからの方が都合が良い。
あなたの言葉に「よし」と頷くと、十文字は太い指で器用にCADを操作し、障壁を操作して残骸を一箇所にまとめる。
器用なものだ、とあなたが感心していると「どうせ床は張替えになるだろうからな」と独りごちる十文字。
ああ、よく見れば残骸を引きずった跡が床のパネルが傷だらけになっている。
「そこまで細かい
もしかしたら苦笑しているのかもしれない。
「さて。では始めるとしようか。七草――」
「はいはい。じゃあ三戦目。改めてルールを確認します。
現代魔法、古式魔法、ともに使用可。
物理攻撃、格闘、ともに可。
ダメージは全治二ヶ月を超えないもの。超えると判断された場合は立会人権限で加害者を失格とします。
異議は無いわね?」
全治二ヶ月というと、重傷というほどではないが軽傷というには重いレベル。
先日の、服部と司波の模擬戦では捻挫程度を上限としていたが、それより条件は緩くしてもらった。
全治二ヶ月程度の負傷というと、高校生だと部活動で発生する負傷事故に多いもの。
あなたも前世では軽度の骨折や靭帯損傷、肉離れなどよく面倒を見たものだった。
逆に打撲は、骨に影響しない程度であればそこまでいかない。
二十一世紀末の現代では、こうした負傷は現代魔法の【治癒魔法】によって
ただし現代魔法による現実改変は、現実側の復元力に圧されて効果を失う。身体の自然治癒力が魔法によって復元した状態に及ばなければ、魔法の効果が切れた瞬間に本来の状態へと戻ってしまうらしい。
無機物と有機物で復元力に差が生じることを、現代魔法では改変後の物体の――主に分子構造の――化学的変化が、熱力学第一法則によって保持されるからだろうと仮定しているようだ。
生体マグネタイト研究を放逐した現代魔法理論は、未だ情報構造体の核たる
「……間薙くん?」
――ん? ……ああ、問題ない。
また思索に没頭してしまっていたようだ。
我に返ればあなたの眼前に、俯き加減のあなたを覗き込んだ真由美の顔があった。
どこか本気で心配しているような表情がおかしくて、あなたは彼女の鼻頭を指でつついてみた。
ぷう。
* * *
第三戦。
あなたの
さて。
ここからは少し真面目にやらなければならない。
挑戦者の楽しみも、手加減の試行錯誤も――こちらは次の機会を設けてもらえそうなので――ひとまず棚上げとする。
約束を、果たさなければならない。
――一手、御指南。
「なに?」
あなたは敢えて腰溜めに正拳突きの構えを取る。
十文字はなにかを感じ取ったのか、素早くCADを操作すると、ただの障壁ではなくファランクスを展開する。
が、あなたは敢えてその完成を待った。
「間薙君!!」
立会人の悲鳴のような呼びを置き去りにして。
きっかり一秒後、繰り出される正拳突き。
あなたが拳を振り抜いた次の瞬間、三メートルほど離れていた十文字の左肩が見えないなにかに突き飛ばされ、大きく体勢を崩させる。
「むぅ……!」
「十文字君!?」
大きく唸り声を上げつつ、転がるようにして素早くその場から離れ、体勢を立て直す克人。
あなたは構えを解いて、ただ自然体でそれを見下ろす。
「なにが……いったい??」
心の底からの驚きが、その声音に表れていた。
そのことに後から気づいたように、我に返って顔をしかめる十文字。
――お節介な
――退屈している暇は
この世界は
巌の甲冑に閉じこもり、窮屈そうに細く息する漢に、あなたは応じた。
これは先日、
「
その言葉の真意について訪ねたとき、彼は一言「あの野郎、つまらなそうだった」とボヤいていた。
何があったのか詳しくは知らないが、あなたも模擬戦をしていて気付いたことはある。
鉄壁に守られた十文字は、あなたの実力を測ること、あなたの性根を観察することに関しては興味を持っているようだったが、これまでの結果についてはおそらく想定内だったのだろう。どこか退屈そうだった。
言葉にするならそういったところだろうか。
どうやら【障壁魔法】は現実の物理空間に異常な性質を与える魔法でありながら、結果については現実の物理法則に準拠している。
【障壁魔法】とは壁を作る魔法ではなく、ある空間に高密度の個体の性質や、特定の物質に干渉する性質、はたまた特定の電磁波に干渉する性質を与える魔法なのだろう。
そうすることでその力は現実と魔法、両者の支援を受けて強固なものとなっている。
だからこそ物理法則に依拠するすべての攻撃は、その壁を越えることが出来ない。
要は無敵チートを使ってゲームをしているようなものだ。
それは楽しみも関心も薄れていくことだろう。
無愛想ではあるが情が薄いわけではない。
戦う者に対する礼も敬意もある。
それでいて武に飽いた達人。
屋敷のような男には、それが不甲斐なかったに違いない。
彼が最後に見せた正拳突きには、その想いが込められていた。
裂帛の気合とともに発されたそれは、刹那の間ながらその拳先に
それはただ「一発くれてやれ」という、それだけの意味だったのかも知れない。
わざわざ
だが彼の鉄壁を超える、退屈を打ち砕く人の可能性を見せるという趣旨を思えば、彼の姿のその先にあるものを見せてやる方が、より効果があるだろうと考えたのも事実だ。
現代魔法師としては上澄みに属するだろう
おそらくほとんどの現代魔法師が知らない、強い想念が生み出す天然の
ただ口伝でのみ伝えられる古流武術の秘奥。
相手に触れずして倒す、神秘の技。
……など様々な呼称を持つが、総じてそれは物理法則を超えた武技のことを指す。
屋敷もそこまで意識したわけではないだろう。
今のままの修業を続けても、おそらく彼はそこに辿り着けない。
だが、それは今はどうでも良いのだ。
ただ十文字が、心の奥底で何処か見下していた存在が、己の牙城を脅かす可能性を見さえすればそれで。
そのことが結果として、彼の“鉄壁”を本当の意味で打ち破ることにもつながるだろう。
それにそれは、もう一つの目的のためにも必要だった。
これは前世からの
創世を成した
――十文字家は、この国の首都防衛を自らの責務としている、と聞いた。
「……ああ」
――そうか。ならば試させてもらおう。
この世界で意思を持つものは人間ばかりではない。
仮にも
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(20260120)誤字訂正
雪森様、誤字報告ありがとうございました。