魔法科転生NOCTURNE 作:人ちゅら
ここらで入れとかないと、また書く機会がなくなりそうなので。
次話(orその次)から原作の流れに戻れる……かな?
驚いた。
俺が
次年度新入生の入試詳細――本来は部外秘の極秘資料――を見せられれば、なるほど
魔法師は魔法師でも古式魔法師の出身者。
しかも入試成績は次席、つまり全受験生の二位だ。
魔法大学は本邦の国策機関として、国益に適う魔法師の育成を理念とする。
その附属機関である魔法科高校もそれは同じだ。
そこには出身や世代の区別は本来、ない。
……だが教育カリキュラムは現代魔法の理論であって、古式魔法のそれではない。
当然ながら、そこに利を見るのは現代魔法師家の出身者であって、古式魔法の家に利するものは――あるのかも知れないが――少なかろう。
であるからには、そもそも古式魔法師が入学してくる事自体が稀有だ。
次年度は間薙の他、
吉田の方は入試成績の結果、二科生枠ということで重要度はかなり低いようだが、間薙については理論はともかく魔法力については既に国際評価A+の傑物だ。その才能を活かした有益な人材に育成することが求められる。
次年度には二十八家の直系は居ないようだし、十二分にありそうなことだ。
春休み中、七草と新入生についての打ち合わせを何度か行ったが、間薙については
それに七草は女、間薙は男だ。無理押しをするにも
吉田については、注視する程度に留めることになった。
人手不足でもあるし、なんなら吉田も部活連で持つかと提案してみたが、それはそれで今度は古式魔法師同士でおかしな化学反応――たとえば派閥化など――が起こる可能性を考え、無しとした。
とはいえ二科生制度が吉田を通じて古式魔法師たちの反感を買う可能性もある。
古式ではあるが過去には
二科生制度については七草も、生徒会長であるうちに何らかの打開策を講じたいそうだ。
俺も無くせるなら無くした方が良いとは思っているが、どうも
代わりにできることは協力すると申し出ておいた。
* * *
4月。入学式の前、七草から間薙が中庭にいると聞いて、遠間から視認した。
なんと言ったものか、うまく言葉に言い表すことはできないが、名状しがたい
そこまで強烈な印象は無い。
だが無視できない存在感がある。
活力にあふれるタイプには見えないが、体を動かすことを嫌うようにも見えない。
ただ好奇心は人並み以上だろう。
きょろきょろと視線を彷徨わせる姿は新入生らしい振る舞いだ。
――もしも
首都防衛の任を自らに課した
瞬間、四方八方から視線を向けられた。
中庭を囲う校舎の窓のそこここから、あるいは背後の校舎を挟んだ校庭から、はたまた今の時間は鍵のかけられた屋上から、数え切れない視線がほんの一瞬、自分に向けられたように感じる。
日頃から注目を集めることの少なくない十文字をして、未知の感覚だった。
肌が粟立った。
だが身構えるよりも早く、それは霞のように消え去った。
ベンチに寝そべる間薙は微動だにしていない。
あれは何だったのか。
考えても答えが出ることはなかった。
* * *
七草に呼ばれて生徒会室に出向くと、間薙を紹介された。
間薙と模擬戦をしてやってほしい、という話だった。
新入生の資料の話を出されるが、あれは機密資料であって、本来、俺たちが読んでいてはまずいものだ。
少なくとも口外して良い類の話ではない。
初対面の相手に、規律違反を平然としているように思わせるわけにはいかないだろうと
なるほど改めて事情を聞けば、確かに俺が相手をするべきだろう。
入試成績は、ずば抜けて高い能力を評価されての次席。
しかも首席は女子だ。男子が模擬戦を申し込むには外聞が悪い。
となれば間薙が上級生に模擬戦相手に選ばれるのは十中八九、間違いない。
まして傍流とはいえ現代魔法師の家系である
とはいえ、ただ古式魔法師であるからと侮って良いものなのか?
俺の魔法科高校入学が決まった年のこと。
同じく十師族の九島家前当主、日本魔法師界において“老師”と敬意を集める
自身も次期当主として、より腕を磨かなければならないと思い、老師の“最巧”と評されたその技能について、どうやって磨き上げたのかを問うた。
老師は笑って答えられた。
「最巧というのは私の師事した
魔道士とは、現代魔法成立以前の魔法師の呼称だ。
古式魔法師は派閥によって様々な自称を持つが、古式魔法師という呼称が定着する以前は、そのように呼ばれていたと聞いたことがある。
九島老師は第九研究所の成果である“
第九研究所は古式魔法師の魔法を研究、現代魔法への応用研究をしていたと聞く。現代魔法研究の黎明期から、古式魔法の可能性について追求していたそうだが。
老師に師がいたことも初耳だ。
もしかしたら老師の秘密の一端に触れているのでは、と心が震えたのを覚えている。
老師は表情を和らげ、目を細めて言葉を繋いだ。
「“老師”というのは、元は私の師の
「あの方は貪欲に魔術を学んでおられた。今では魔法と扱われない奇術のたぐいですら、自ら足を運んで頭を下げ、機会を得て身につけておられた。晩年は、当時まだ魔法と知られていなかった武術、体術も学ばれ、そちらでも達人の域におられた」
そんな人物が本当にいるものだろうか。
生まれながらにして十文字家次期当主となるべく育てられた
だがそんな
傍系の魔法師の子供も、「お前は
古式魔法師はわずかな魔法を家伝として継承していたという。
その継承に熱心であるのは分かるが、新たな魔法を学ぶべく
まして体術となると、技術偏重の魔法師との相性は決して良いとはいえない。
現代魔法師は情報強化で身体機能を強化することが出来るが、これも現代魔法の技術であって、古式魔法師の類似技術もそこまでの強度は無いと聞くし。
何十年もかけて一つの
そんな思索を見透かしたように、老師はそうだな、と笑われた。
「本当は、そんなことはなかったのかもしれない。卓抜した技術で、年若かった私が騙されていただけかもな。だが、それはどうでも良いことなのだ。私は私が見たと信じたあの方の姿を追った。追って、学んだ。今の私の技術はそうして身につけたものだ。
それから「君がどのような魔法師になるのか、楽しみにしているよ」と言い残し、老師はお帰りになられた。
そんな事があっても迷っているのは、実際に有力な古式魔法師と出会った経験がなかったからだ。
先にも言った通り、魔法科高校に入学する古式魔法師はほとんどいない。
だがゼロではないし、後天的に古式魔法を学ぶ生徒も、極僅かだが存在する。
特に格闘術の分野では、古流武術と称されるものの中に古式魔法が含まれているため、格闘術を学ぶ過程で古式魔法に触れ、その修業に勤しむ者もゼロではない。
とはいえ、彼らの実力に刮目するところはほとんど無い。
習得にかかるコストが明らかに高く、発動に必要な時間も現代魔法に比べて非常に長く、用途も限定的な古式魔法に優位性を見出すことはひどく難しい。
ファランクスを出すまでもなく【物理障壁】を一枚展開すれば、後はワンサイドゲームになってしまう。
その分野ではそれなりに実力者らしい空手部部長も、障壁を前にして手も足も出なかった。
ひとつ着目すべき点があるとすれば、彼らの多くは修練に対して熱心だ。
その精神性については、現代魔法師たちも学ぶべきだろう。
* * *
それが思い上がりだったと、こっぴどく思い知らされたわけだ。
代償は安くはなかったが、それを上回るものを手にできたと思う。
年下でありながら俺たち学生を一歩引いて見ているような距離感。
壁があるといえばそうだが、むしろ年上の家人らや責任ある立場の成人男性と接しているような気分にさせられる。
職員と諸々の事務手続きの話をしているときなど、うちの家人などよりも余程頼りになりそうな、およそ高校生とは思えない理解力を示していた。
これまで
服部と組ませてしばらく執行委員の仕事を覚えてもらったが、やはり一歩引いて全体を観察するようなところがあったらしい。
新しい人間関係を構築するのはやや苦手そうだが、事務的な手続きについては問題なくこなせるし、部活連の執行委員としては問題なくこなせるだろう。
ということだった。
人手が増えるのはありがたい。
正直、
間薙が入ってくれたことは、正直なところ、助かった、というのが本音だ。
* * *
で、まあ色々とあったが、模擬戦だな。
ルール決めの際、三回やることになったときは、大丈夫かと不安になった。
古流武術の使い手であることは聞いていた。
だが初戦、二戦目は現代魔法のみのルールだ。
実際、初戦はそれなりに工夫を凝らしてはいたものの、やはり現代魔法の基礎知識も足りていないのが丸わかりの運用だった。
特にボールペンを散弾にしようとした
二戦目になって、少し空気が変わった。
【障壁】を出せば手が出せなくなる。
それ自体はこれまで模擬戦をしたことのある多くの
とにかく死角を突くのに長けているし、未来予知でもできるのかと言いたくなるレベルでこちらの行動を阻害してくる。
五分間、こちらはひたすら【障壁】を維持し、間薙はひたすら俺の隙を
そして三戦目。
一気に潮目が変わった。
「一手、御指南」
彼我の距離は三メートル。
普通ならば何の意味もない、せいぜいが牽制程度の行動だろう。
だが、次の瞬間、俺の左肩はハンマー投げの鉄球を投げつけられたかのような衝撃に跳ね飛ばされた。
本能的に危険を感じるより以前に、身体がその場から逃げるように回避行動をとる。
うめき声が漏れたのと、七草の心配そうな声がかかるのと、どちらが早かっただろうか。
「なにが……いったい??」
驚きのあまり、考えるよりも前に言葉が出た。
ファランクスは間違いなく発動していた。
十年以上、使い続けてきた自分の魔法を疑うことなどありえない。
だが、それにしても異質だった。
その痛みはファランクスどころか、魔法師として無意識に身に纏っている情報強化の鎧すら貫通してきた。
魔法を上書きしているのではない。
衝撃の後、身体の情報強化も飛び去ったファランクスも、たしかにその存在を知覚できた。
消されたわけではないのだ。
まるでそんなものは初めから無かったかのように蹴散らしたのだ。
こんな経験は父との模擬戦ですら経験したことは無い。
自分の知る限り、現代魔法学の常識ではあり得ない現象だ。
魔法現象も物理現象も、突き詰めて言えば
だが今の衝撃は、まるで情報次元などはじめから存在しないもののように、それを無視して物理現象を及ぼした。
まるで自然科学とは別の法則が存在するかのように。
間薙の知る古式魔法は、現代魔法学成立以前、研究から取りこぼされたものであるという。
そしてそれは多くの古式魔法にエッセンスとして残っていると。
であれば当然、それは古式魔法師の運用に力を入れていた
間薙はきっと、それを知らせるためにこの場を設けたのだ。
そうして間薙の、古式魔法師の
古式魔法師らしい、古典的な
俺は自身のCADに収められた
このCADは戦闘任務用でないとはいえ、強行偵察の一個小隊程度ならば十分に自衛できるレベルの魔法が記録されている。
だが、間薙の手はあらゆる魔法を貫通してきた。
そうしている間に、俺は身体の不快感に苛まれるようになっていく。
本当に、チョン、と軽く触る程度の間薙の攻撃だが、何発も受けていると次第に内臓がねじれるような不快感を催してきた。
呼吸が乱れ、胃液が逆流するような不快感。
胸焼けどころか喉が焼かれるような痛み。
肩も腕も重くなり、脇腹から足の付根に渡って鉛のスカートでも穿いているような重さを感じる。
目が回る。
自分が何分間こうしているかも分からなくなってくる。
だが――
「どうした?」
「もう止めにするか?」
「立て。構えろ」
ここまで言われて立たないわけにはいかない。
俺がこれまで何不自由無く生きてこれたのは十文字家の次代だからだ。
敵が前にあれば戦うのが責務であり、後ろに守るものがあれば戦うのは義務である。
魔法師としての寿命を削ってなお、国のため国民のために戦った父を誰よりも誇りに思う。
そうありたいと願うのは、そうあろうと誓ったのは俺の意思だ。
出し惜しみをしている場合ではない。
これは指南で、検証の場だ。
古式魔法師が手の内をさらすことなど、本来ならありえないことだ。
それほどに現代魔法師と古式魔法師の溝は深い。
おそらくそのあたりの制限を取っ払うために、間薙はわざわざこうして他者が介入できない環境を設けたのだろう。
俺はその意気に、労に報いなければならない。
十文字家の秘術。
脳の魔法演算領域をフル稼働させて、一時的に魔法力を強化する技術。
【オーバークロック】
代償は、魔法演算領域の縮小。
親父はこれで魔法力の殆どを失った。
だがこれで対抗できるのか否か。
他のいかなる魔法をもってしても対抗し得ないものに、対抗しうる手段があるのか否か。
それが分かるだけでも今使う価値は十分ある。
俺は覚悟を決め、切り札を切って間薙を迎え撃った。
『
それが間薙の声なのか、七草のものか、あるいはただの幻聴か。
まるで自分の中から響くような声とともに、起動した【オーバークロック】の最大出力でファランクスを発動。
初めて間薙の攻撃を跳ね返すことに成功し、俺はその場で大の字に倒れた。
感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]もチェックしてますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)
というわけで、十文字家の【オーバークロック】は本作では【テウルギア】相当の能力ということになりました。
現代魔法師以前の古式魔法師(ペルソナ使い)のBS能力を、ろくに理解しないまま使っていたので色々と問題があったわけです。
原作では成長の機会がほとんど無かった上級生グループですが、本作では人修羅さんが絡んでいるのでちょいちょい何かしらあったりします。
その辺でまた原作とは違った流れができてきたりするかなーって感じですが。
もっとたくさん書きたいけど、可処分時間も体力も調達するだけで一苦労なんですよね。
お待ちいただいてる方々には本当に申し訳ない。
(P.S.)
ぎっくり腰&坐骨神経痛で丸一週間、椅子に座れなくなってました。
歳は取りたくないやーねー
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(20250911)誤字訂正
猫またぎ様、誤字報告ありがとうございました。
(20250911)加筆修正
[三男] → [次男]
I am stupid様、報告ありがとうございました。
(20260120)誤字訂正
雪森様、誤字報告ありがとうございました。