魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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推敲状態で投稿しちゃった(予約日1日間違えた)ので、後日加筆修正する可能性があります。


#050 身を蝕むもの

 2095年4月26日――火曜日。

 

 模擬戦の名を借りた十文字(じゅうもんじ)克人(かつと)への試練を終え。

 

「本当に大丈夫なの?」

 

 頬を膨らませ、分かりやすく「わたし怒ってます」とアピールする七草(さえぐさ)真由美(まゆみ)を背に、あなたは大の字に倒れた克人の治療を行っていた。

 

 打撃によって体内にのみダメージを与える技法は、放置すれば徐々に対象の身体機能を衰えさせる危険なものだが、適切に対処すれば裂傷や骨折などの外傷を残すものよりも危険は少ない。

 そちらについては古くは活法(かっぽう)、あん()といわれたマッサージ手技で治していく。こうした手技については前世ではきちんと勉強し、資格も取得していたが、今生にまで持ち越せているはずもなく、あくまで現場での応急処置という体裁で行っている。

 

 真由美はあなたが治療をすることについて難色を示したが、克人自身が技術を体験したいと言い出したことで、ひとまずこうした状況になっている。

 

 二十一世紀末の現在においては、市民も自衛のためにある程度の武装が許されており、そのため武術、武道、格闘技といったものは縁遠くなっている。かつての柔道整復師のように、選手や指導者がトレーニング中に応急処置や治療行為を行うこと自体、あまり知られていないようだった。

 むしろ魔法師の【治癒魔法】で擬似的な整復処置をすることの方が主流となっているらしいが、それでは世界の復元力によって魔法が効果を失った時、また同じ状態に戻るだけなので今回のようなケースには使用できない。

 

 さすがに家門で軍事訓練を受けている克人は知っていたので抵抗なく受け入れていたが、真由美は今でも不安そうだ。

 治しやすいよう丁寧に調節していたダメージは、ものの5分もすれば多少の胸焼けが残る程度まで回復する。それも水を飲ませたことで落ち着いたようで、克人は感心した様子で自分の胸を何度も(さす)っていた。

 

 

「俺は、合格か?」

 

 その問いに、あなたが笑って「まあ」と答えると、克人は顔をくしゃりと歪ませた。

 正直なところ「東京の守護者」としては到底十分とは言えないが、マガツヒに干渉する能力があれば最低限、悪魔と戦うことは可能だ。これからも鍛錬を怠らなければ、いずれ相応の力を持つことは出来るだろう。

 また慢心して退屈しないよう、言葉を濁す。

 ここで満足されては困るのだ。

 

 加えて、あなたには新たに気になっていることが有った。

 

 何故、克人の神気(マガツヒ)が戻らないのだろうか?

 

 ペルソナ使いの【神降ろし(テウルギア)】は、より深く自身の精神世界に潜り込み、その身に宿る悪魔(ペルソナ)に接近するものだ。

 それによって世界の記憶(ものがたり)を現実に再現する。

 元々自分の中にあるものだから、潜る過程で精神が疲弊することは有っても、呼び起こされた世界の記憶は世界自身のものであるから、使用者の負担にはならないはずだ。

 

 別の可能性として、たとえば魔術による【降神術】ということであれば、こんな簡単に行える魔術ではない。

 

 だとすると、克人にはペルソナ使いとして何かしらの欠損がある、ということになる。

 いや、現代魔法師は厳密にはペルソナ使いではないので、そういう意味では欠損が有っても当然ではあるのだが。

 

 ……

 ………

 …………

 ……………?

 

 そういえば。

 

 現代魔法師は異界での修行を全くしていない。

 もしかして、単純に霊格(レベル)が足りていない?

 

 思えばあなたの知るペルソナ使いは、異界でシャドウとの戦いの中で霊格を鍛えていた。

 シャドウも人間の想念から生まれた存在であり、その身はマガツヒで出来ている。

 また前世で出会ったペルソナ使いは、異界でシャドウを打倒することで、徐々に「あるシャドウに優越する存在」という世界の記憶が蓄積され、結果としてより高い霊格を得る。という方法で力を強化していた。

 氷川(若ハゲ)によると、これも創世神話(ボルテクス界での戦い)を再現する儀式魔術ということになるらしい。

 

 その他、魔道士には異界のマガツヒを取り込むことで霊格の器を満たし、霊格を高める技術がいくつかある。

 ただしこちらは時間がかかるため、日常の中に組み込まなければあまり効果は期待できない。

 

 

 こうして鍛えることなく自身の霊格を上回る力を行使するには、それ相応の代償を支払う必要がある。

 

 前世のあなたが保健室のセンセイをしていた頃、面倒を見たペルソナ使いの中には、その身に無理を強いたせいで心身を壊し、著しく寿命をすり減らしていた少年がいた。

 

 あるいは想い人の死の定めを覆すべく、自らの生命を供物にした少女。

 瀕死の縁から帰った彼女は、その記憶とペルソナ使いとしての能力を失っていた。

 

 克人の【神降ろし】は、とある悪魔の血の為せる権能(スキル)であるはずだ。

 だとすると、あるいは。

 

――もしかして、君の家系には記憶や力を失った人間はいるか?

 

 ()()()、と尋ねるのは流石に(はばか)られた。

 

「……いや。いない」

 

――そうか……

 

 ならば良いのだが。

 

 生徒会長の表情が、わずかに強張っているような?

 ふむ。

 まあこれ以上、深入りすべきことではないだろう。

 霊格を鍛える(レベリング)修行そのものは、どちらにせよ必要になるのだし。

 

 今日のところは、あなたのマガツヒを分け与えることで応急処置とした。

 やりすぎると生命の性質が悪魔寄りになってしまうので、多用はできないが今回は仕方がない。

 

 

*   *   *

 

 

 あなたは実習室の外で見張りに立ってくれていた服部(はっとり)刑部(ぎょうぶ)市原(いちはら)鈴音(すずね)の二人に模擬戦の終了を伝えると、二人はあなたが普段のままであることに驚いていた。

 有り体に言えば、模擬戦で怪我をするか、そうでなくともひどく疲弊しているだろうと想像していたようだ。

 

 この二人はそもそもこの模擬戦を非公開にするため、歩哨に立ってくれていたわけだが、同時に一年生の次席であるあなたを「三巨頭(ビッグスリー)の二人が私刑(リンチ)にした」といった風評に繋がらないよう、事後の手配も仕事のひとつだったらしい。

 事情を説明されて、配慮が足りなかったとあなたは頭を下げた。

 

 あなたの珍しい失態に「お前も人間だったな」と服部が笑えば、「むしろ人間ですかと尋ねたくなったのですが」と市原が困惑していた。

 

 

 さて。

 と時計を見れば、授業はすでに二限目もある程度進んだ頃だった。

 仕方がないので三限目から出よう、と思っていたあなただが、実際に教室に戻るのは昼休みの後となる。

 「少しお茶にしない?」と真由美から生徒会室に誘われたからだ。

 

 

*   *   *

 

 

「お疲れ様」

 

 生徒会室の(すみ)、くもりガラスのパーティションで区切られた応接セットに腰を下ろすと、そのまま脱力して大きく息を吐く。

 程よく柔らかなソファに、腰が溶けるような感覚を覚える。

 ようやっと精神的な疲労感が顔を出したようだった。

 

「何にする?」

「コーヒー」

 

――お茶で。

 

 自然な流れで問う真由美に、克人が即答する。

 そちらを見れば、備え付けのドリンクサーバーの前に立ってパネルを操作していたので、あなたも自然に注文した。

 一度は遠慮すべきだったろうかと思ったのは、注文を口にした後のことだった。

 

 あなたが気まずそうな顔をしているのを見て、真由美が笑う。

 

「十文字君もだけど、間薙(かんなぎ)君も()()()()の子なのね」

 

 前生では一般家庭の人間だったが幼馴染(つま)は財閥の御令嬢だったため、その子孫となる現在のあなたもそれなり以上の家の出ではある。

 まあ人に仕えられる生活は、仲魔たちとの暮らしの中で身についたものなのだが。

 

 あなたの前に置かれたコップを手にすると、熱を持っていた。

 模擬戦の後、熱を帯びた体はまだまだ水分を求めていたのだが、今のやり取りのあと、さらにアレコレ言うのは気が引けたあなたは、殊更熱い緑茶に口をつける。

 少量でも喉が焼けそうな熱さに辟易しながら、フーフー息を吹きかけて冷ましつつ、少しずつ飲むことにした。

 

 「イタズラ成功!」とばかりにドヤ顔をする生徒会長(まゆみ)に苦笑を返し、感謝を述べておいた。

 

 克人は「暑いときほど熱いものが良い、と言うしな」と、したり顔で口をつけ、すぐに離してカップを揺らしていた。

 熱かったらしい。

 

 

「恐れ入った。正直、古式の戦闘技術(わざ)がこれほどとは思っていなかった」

「そうよねェ。十文字くんが膝をついたり、仰向けに倒されたり。今日は珍しいものを見せてもらったわ」

「おい、七草。それは」

「もちろん他言はしないわよ。でも、ここくらいではイイでしょ?」

「むぅ……」

 

 

 

「それより間薙。実際のところ、お前は古式の中で、どうなんだ?」

 

――どう、とは?

 

「世代がどうのという以前に、お前は強すぎる。まさかそれが古式の標準だとは言わんだろうが」

 

 ああ、そういうことか。

 あなた自身の社会的な立場を問われているのかと、少し身構えてしまった。

 戦力評価という意味では、正直、最上位であることには間違いないが。

 

 創世王(ヒトシュラ)としての言葉通り隔絶した霊格(レベル)

 一瞬でも気を抜けば簡単に即死しかねない戦いの中で目覚めた禍魂(マガタマ)権能(スキル)

 魔法研究に目をつけた各国の特殊部隊(エージェント)に狙われ、(えにし)を守るために戦い続けた十数年の非正規戦の経験。

 そうした騒動が落ち着いた晩年を注ぎ込み、身につけた数多の武術(アーツ)の精髄。

 

 単純な戦闘力で言うなら、負ける理由を探すことのほうが難しい。

 それこそ今回のように、現代魔法しか使ってはいけない、互いに近接した状態からヨーイドンで開始する、相手を必要以上に傷つけてはいけない、周囲への損壊も原則認められない、その上で相手を無力化させなければならない……といった複数のルールによって戦闘力を削られれば別だが、それにしたって負けはない。

 

 これは自惚れではない、純然たる事実だ。

 

「む。それなら良いが。だが家の人間は鍛え直す必要があるな」

七草家(ウチ)も流石に、少しは考えないといけないでしょうね」

「しかし何故、わざわざ手の内をさらすようなことを? 古式魔法師は秘密を暴かれることを嫌うものだと思っていたが」

 

 何故、と改めて問われると難しい。

 悪魔の侵攻を想定した腕試しに切り替えた理由は、九重八雲(ハゲボウズ)の調査票で、十文字家が首都・東京の守護を任じられていると知ったこと。加えてかつての帝都守護たる葛葉(くずのは)家が支援者を失い、いささか以上に力を落としていることがある。

 

 あなたや間薙家、あるいは関係のある古流の家々が現代魔法師を敵視しているわけでもないし、そもそも今回の模擬戦では――少なくともあなたの認識では――暴かれて困るような秘密は見せていない。

 あなたが秘するべきと思うのは古流で継承されている各種()()と、自身のもので言えば生命に直接関与する【ディア(負傷治療)】や【リカーム(復活)】の魔法、それから先日、無用の疑いを招いた【マカジャマオン(集団魔法封じ)】くらいのものだ。

 

 ああ、いや。

 あとひとつ、理由があった。

 

 

――悪魔(アクマ)、というものについて、どれだけ知っている?

 

「それはあれか? 十字教の悪魔祓い(エクソシスト)だとか、そういう」

「もしかして、超常的な寄生物(パラノーマル・パラサイト)のことかしら?」

 

――パラノーマル・パラサイト?

 

「ええ。昔は妖魔とか悪霊とか言われていたもので、人間に取り憑いて別人のようにしてしまうもの、だったかしら? 魔法科高校(ここ)でも魔法史学で少し触れるくらいだから、知ってる人はあんまりいないんじゃない?」

 

――なるほど。

 

 パラノーマル・パラサイトとやらは悪魔の性質のごく一部、というかマガツヒが足らず幽体(アストラル)半物質(スライム)としてしか顕現できていない悪魔(もの)のことのようだが、今回はそれでも話が通じるから、よしとしよう。

 

 

――パラノーマル・パラサイト(それ)かは分からないが、この一高の中にも、悪魔に取り憑かれた生徒がいる。

 

 これまで放置していたが、(つかさ)(きのえ)の件についても進めておこう。

 




感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]もチェックしてますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)

 人修羅さんがマガツヒを他人に分け与える能力は、悪魔召喚のロジックと大差ない(マガツヒを場に放出して対象に賦与している)ので、人修羅さんが初期状態から持っていた権能、という扱いにしています。
(余談ですが、似たような能力を拙作 GodEater Reincarnation の人修羅さんも持っています。ですがそちらでは真3の使用無限アイテム「チャクラ金剛丹」が変化したもの、ということにしています。やってることは大差ないんですが、創世王と混沌王の違いということで)

 感想の方で頂いてたんですが、人修羅さんの仲魔たちの一部は、アパートの隣室を異界化させて遊んでたり、たまに人修羅さんにちょっかいかけてシルキーに怒られたりしています。
 作中で触れていたつもりだったんですが、現在公開されている中では本当に断片(#029, #036)しかなかったので。(SSに移した上で現在非公開のエコービル編で書いていた)
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