魔法科転生NOCTURNE 作:人ちゅら
ざっと調べてみたんですが、明確な基準が見つからなかったので、大雑把に魔法力ランク≧魔法師ライセンス(魔法力の評価ランクが魔法師ライセンスの上限)という扱いにしています。
「
「それは比喩ではなく、そのままの意味でか?」
――ああ。
ふむ。と腕を組んで考え込むように口を閉ざす十文字。
まあ、 いきなり言われて信じるのも難しかろう。
「それでその、悪魔に取り憑かれると、どうなるの?」
――悪魔の種類にもよるが、共通するのは精神的に摩耗する。
受肉するほどではないにせよ、この
マガツヒは生命体の強い情動によって生産される。
そのため悪魔は憑依対象やその周辺の人間を操り、彼らの感情を大きく揺さぶり続けようとする。人間がそのような環境に置かれれば、それだけで疲弊し、摩耗するのは当然だろう。
――その過程で、まるで人間が変わったような振る舞いをすることもある。
人々の感情を揺さぶるため、悪魔に取り憑かれた人間は言動が過激になったり、攻撃的になったり、行動的になったりすることが多い。
特に
――あとは急に魔法が使えるようになったり、か。
「魔法を!?」
「それは……」
――と言っても現代魔法学では超能力者の分類になるだろうが。
悪魔が取り憑いて使う魔法は、あくまで悪魔自身の【
憑依対象の能力を
とはいえ先日の実験においても【天使】メルキゼデクあたりは興味を持っていたようだし、今後は何らかの手段を講じて間接的に現代魔法を使う悪魔が出てこないとも限らないが。
「その、悪魔が取り憑く際、手順や条件はあるのか?」
――それについては
強い悪魔であれば力
そして弱い悪魔であれば、対象の意識の隙に付け込んで揺さぶりをかけ、時間を掛けてジワジワと精神を侵食してゆく。
その揺さぶりについても、直接的に声をかけていく悪魔もいれば、対象の生活環境に干渉して精神を摩耗させ、抵抗力を弱らせて最後は力尽く、という悪魔もいる。
「なるほどな」
「じゃあ取り憑くにも手順、というか段階があるのね?」
「その、取り憑かれている生徒というのは、どの段階だ?」
先日の様子では、ほぼ乗っ取りは完了しているように見えた。
あれだけ精神が摩滅し、
何らかの事情で――おそらくは悪魔の
そうなると憑依した悪魔もマガツヒを得る手段がなくなる。
そんな状態で乗っ取りを完了し、肉体まで奪ったとしても、回復に相応の時間がかかることになるし、しばらくは肉体の生命維持に
当然、マガツヒを必要とする権能を振るうこともできない。
それでも現界すること、この物質界で生きること自体を望んで乗っ取りを選択する悪魔の方が圧倒的に多い。
多くの悪魔がこの物質界への現界を望むのは、それが己の存在を示すことに繋がるからだ。
現界し、権能を振るい、新たな逸話を生み出す――即ち世界の記憶に新たな姿を刻み込む――ことは、もはや悪魔の本能と言ってよい。
そうしないのは悪魔自身に別の目的があり、喫緊に行動する必要があるからだろう。
「目的……」
目的がないなら、急ぐ必要がないなら、悪魔は時間をかけることを躊躇しない。
知性体に憑依しさえすれば、その寿命が尽きるまでいくらでも機会を待つことが出来る。
更には別の知性体に乗り換えられる環境であるなら、知性体の寿命すら気にする必要がなくなる。
悪魔それぞれの性分にもよるが、基本的に悪魔の時間感覚はひどく冗長だ。
いつ失うかも分からない憑依の機会を見送るよりも、憑依してから寝て、知性体として飯を食い、ダラダラと過ごしながら万全の状態を作れるのであれば、九分九厘、そちらを選ぶだろう。
それでも手持ちの
あれだけ消耗した肉体に憑依すれば、肉体的に回復するまで保有するマガツヒは生命維持活動に持っていかれてしまう。完全に憑依すれば行動範囲は対象の肉体に縛られてしまうことを嫌う理由は、自由に動ける状態を維持しなければならない、なんらかの事情があるからだろうと推測できる。
――何をしでかすつもりか、までは分からんが、用心に越したことはないだろう。
「なるほどな」
「それで急にあんなことしたのね」
正直なところ、
なにそれ、と真由美が笑って場の空気が弛緩し、一時中断。
コーヒーを淹れ直しながら、益体もない世間話に花を咲かせる。
まあ、話題のほとんどは真由美の小さなストレス発散だったのだが。
* * *
「で、その取り憑かれた生徒って誰なの?」
ひとしきり愚痴を吐き出してスッキリしたのだろう。
真由美が責任者の面立ちで尋ねてきた。
――3年F組、司甲。
剣道部の騒動の折に見かけた、衰弱した姿。
精神を蝕まれ、
「司甲……剣道部の
「二ポイント上昇か。低ランク帯では無い話ではないが、C+ならC級ライセンスは取れるな」
「そうね。筆記の成績も悪くないし、剣道部の実績も個人で都大会の三位。あ、でも霊子放射光過敏症なのね」
そういえば、その件は確かどこかで読んだ記憶が……
――ああ、これだ。
部活連の記録を整理していた際、動画データの文字起こしをしていた中にあった。
――セミナーに参加して、克服したとか。
他の霊子放射光過敏症の生徒に対し、そんな文言で勧誘していたのを、風紀委員が迷惑行為として通告しているデータがあったのだ。
あの
「そんなことがあるのか?」
「気の持ちようで変わることもあるかもしれないけど、どうなのかしら?」
「というより……それってやっぱり、悪魔の?」
かもしれない。
魔術や呪術に通じた悪魔にとっては簡単な話だし、そうでなくても器用な悪魔なら、対象の
それに悪魔がいくら精気を吸い取ったところで
「なるほどな。長年それに悩まされていたのであれば、救いの神と思ったかもしれん」
「でも代償が大きすぎるんじゃないかしら?」
そこは個人の価値観次第だから、なんとも言えないが。
だが司甲にとっては、本当に救いの
なにしろそれまで彼の唯一の肉親である母親が、それこそ精魂尽きるほど東奔西走して探し求めたのが「司甲に普通の生活が送れるようにすること」だったのだ。
親の心子知らずとは言うものの、そうした想いは伝わっていて欲しいものだ。
そう、思う。
「――間薙君?」
司甲の家庭事情について思いを馳せていたら、思考の海に潜ってしまっていたらしい。
呼びかけられていたことに気づいていなかった。
――いや、すまない。
「それで、なんだけど。その
「その、悪魔とやらが何か目的を持っているとして、取り憑くのはその目的に近い人間を選ぶのではないか?」
ああ、そういうことか。
確かにそれはそうだろう。まあ、近場に取り憑ける人間が一人しかいない、とかであれば仮初めの宿として取り憑くこともあるだろうが、選べる立場であるなら選ぶのが自然だ。
しかし、何かあっただろうか……?
【見鬼】の力が暴走していることと、旧い古式魔法師――賀茂流陰陽道――の末裔であること、それから……
――強いて言うなら……
司甲の母親の再婚相手、その連れ子が反魔法
あなたがそう呟くと、二人は跳ねるように前のめりになり、真剣な、ともすれば殺意すら感じられるほどの形相であなたを睨む。
そんなに大事な話だったのだろうか?
「あのね
「――七草、それは一般開示されていない」
「あっ……」
嗚呼。
「……とはいえ
「先日、司波君から例え話としては聞いたけど、本当にいるかは…………いえ、でも前に父からテロリストの活動が活発になっているから注意しろって」
「
「そこまでは。でも、知っていても不思議はないわね」
そうした情報は首都の防衛戦力に伝わるものではないのだろうか?
それとも十文字家と七草家の関係はそこまで緊密ではないのか。
いまいち判断はできないが、さておき。
そんな機密まであの短期間で調べてきたのか
それに、そんな機密をあんな茶封筒で気安く投げ渡してくるあたり、情報管理はどうなっているのかと問いたい。
まあシルキーから手渡されたということは、おそらくはあなたの住居に直接持ってきたのだろうし、そこまで持って来さえすれば、この世のどこよりも安全であろうことは疑うべくもないのだが。
その辺の事情も知っているのだろうか?
まあ、それは置くとしよう。
「間薙。その
それに何か有っても紹介者の
東道青波には異界封じやら救助活動やらでこれまで散々迷惑をかけられてきたのだし、たまには逆に思いっきり迷惑すると良いと思う。
案外するりと躱してしまいそうでもあるが。
クソジジイめ。
そもそも口止めもされてはいないのだが、念の為「他言無用」と断りを入れてから
「
おそらくは。
実際、見た限りで
「聞いたことはある。何年か前に十文字家の名前で技術交流を願い出たが、断られてしまったそうだ。だが、諜報能力まであるのか?」
「よく知らないけど、
寺の人間は身辺調査が得意、とか言っていた気がするが。
まあ、あなた自身も書面でそう知らされただけなので、真偽の程は定かではない。
なにひとつ保証できるものがない以上、裏付けは各自で取ってもらうしかない。
「まあ、それはそうね」
「こちらも家の方から当たってみよう」
それが一番スマートだろう。
「ひとまず、その情報が正しいとして考えましょう。何を狙っているのかしら?」
「先程の話からすると、セミナーへ勧誘していたらしいな。それが目的ということは?」
「でもそれだけだったら別に今すぐじゃなくてもいいんじゃない? 何も知らない新入生をカモにすることが狙いだとすれば、今しかないでしょうけど。勧誘していたのは新入生だけじゃないのよね?」
――ああ。
録画データによると、新入生というよりメガネ着用者、つまり霊子放射光過敏症の生徒に狙いを定めている風では有った。
「相手がブランシュ、という前提で考えるなら、テロか」
「だとすると流石に絞り込めないわね。校内の隙を狙うつもりなら、むしろ勧誘週間の方が狙い目だったんじゃないかしら」
「次の校内行事は?」
「中間試験ね。来月の第二週」
「それじゃないか? 生徒、職員も本校舎にまとまったところを」
「かしら?」
その後もしばらくカレンダーを前にうんうん唸っていたのだが、三人集えど文殊の知恵には至らず、考えても分からないものは分からない。
ということで放課後、今度は風紀委員長も交えて警戒態勢について話し合うことにして、ひとまず解散となった。
時計を見ると、今から戻っても午前の授業には間に合わない。
授業途中から入るのも面倒だと、あなたは図書館に足を向ける。
同じ姿勢で凝り固まってしまった肩をまわし、大きなため息を吐いた。
感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
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[追記]
東道青波と九重八雲について加筆しました。
(人修羅さんが八雲を売ったことに違いはありません)
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(20251009)誤字訂正
ジョージX様、誤字報告ありがとうございました。
(20251009)加筆修正
> あれが現代魔法師たちにも、国の中枢にも影響力を持っていることは分かっている。
東道青波について上記一文を追加しました。
推敲中に誤って削除していたみたいです。すみません。
(20251013)加筆修正
> なにより
> 口約束にどの程度の効果があるかは分からないが、少なくとも今後の取引材料にはなる。
(20251020)加筆修正
七草真由美が司波達也から「ブランシュ」の名を聞いた時期を「昨日」から「先日」に修正しました。(原作のタイムシートを読み間違えていました)
(20260120)誤字訂正
雪森様、誤字報告ありがとうございました。