魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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 人修羅さん、個人としての十文字克人をモノローグで「克人」と呼ぶようになりました。



#052 不満蠢動

 2095年4月26日――火曜日。

 十文字(じゅうもんじ)との模擬戦を終え、生徒会室での話し合いの後。

 

 昼休みには微妙に距離を取る同級生たちの視線や、無遠慮に踏み込んでくる陽キャ勢の質問攻めを、適当にお茶を濁して(かわ)しながら食堂で食事を済ませたり。席を立とうとすれば上級生に話しかけられ、どう対応したものかと悩んでいればクロスフィールド部の副部長が割り込んで制止してくれたりもした。

 どうやら克人(かつと)から先んじて指示が出ていたらしい。

 

 さておき。そうして午後の授業も終わり、では生徒会室で話の続きかな。

 少々の億劫さを感じながら、いつもよりもゆっくりと机の上を片付けて腕時計で時間を確認。さて、じゃあ行きますかと席を立った時。事件が起きた。

 

『zえんkお・すeいT・mい・あん!!』

 

 ハウリング寸前の、(たわ)んで音割れした爆音が、教室のスピーカーから放たれた。

 大声に耳をふさぐ生徒、スピーカーを睨みつける生徒、うるせーと大声を出す生徒、驚いて転びそうになる生徒やロッカーに手を挟んでしまって痛がる生徒。

 一瞬で教室内は騒々しくなる。

 先に廊下に出た生徒たちも同様だ。

 

 おそらく「全校生徒の皆さん」と叫んだスピーカーから、ボゴボゴと湯が沸くような音がする。

 撫でているのか、叩いているのか、口をつけているのか。

 嗚呼、高価なマイクが(いた)む……

 

『――失礼しました! 全校生徒の皆さん!

 僕たちは、学内の差別撤廃(てっぱい)を目指す有志同盟です

 僕たちは生徒会と部活連に対し対等な立場における交渉を要求します』

 

 一度は申し訳無さそうに声を絞るも、大きく息を吸い込むと一気呵成に、自身の立場と主張を(のたま)った。

 

 ああ、二十一世紀末(この時代)は学生もそういう活動をするのか。

 などとあなたは()()()そのものの感想をぼんやり抱いていたのだが、生憎と立場がそれを許さない。

 すぐに個人(あなた)の情報端末がメッセージの着信を知らせてきた。

 

 『部活連の対応を協議する.放送室前に集合――十文字克人』

 

 犯行現場を目の前に()()という独特な言葉選び(チョイス)に面白味を感じながら、あなたは【マッパー(MAG分布感知)】を意識の片隅に置き、早足で放送室前へと向かった。

 

 

*   *   *

 

 

「放送室内の電源オフ、完了したとのことです」

「うむ」

「貸出の鍵も、マスターキーも無いそうです」

「そうか」

「窃盗だな」

 

 放送室前では克人ともう一人、風紀委員長の渡辺(わたなべ)摩利(まり)が、インカムでどこかと通話しているらしい生徒から報告を受けていた。

 あなたが現着すると、会頭が片手を上げてあなたを招き、風紀委員長は胡散臭いものでも見るように顔を歪める。

 

――不法占拠ですか。

 

「ああ。放送室に誰もいない時に侵入、内から施錠しているようだ」

「マスターキーまで盗み出している」

 

――計画的犯行、ということですね。

 

「風紀委員としては手っ取り早く解決したいんだが?」

「だが学校の設備を破壊してまでのことか、となるとな。今、校長にお伺いを立てている」

 

 まあ、設備修繕も業者に発注しての手続きを考えると、生徒が勝手にやらかすわけにはいかないだろう。場合によっては風紀委員の予算から捻出しなければならないかもしれない。

 先日の卒業生の不法侵入の件で、歩道の修繕に関する手続きは風紀委員長にも共有している。お陰で委員用の専用CADの更新を一部諦めなければならなくなったそうだ。強行突入した場合の後始末(あれこれ)を想像して、二の足を踏んでいるのだろう。あるいは部活連の同意を得ることで責任を分散させたいのかもしれない。

 

 そのあたり、どこまで勘付いているかは分からないが、克人は穏便に進める選択を取ったようだ。こちらの手間を増やさないでいてくれたことに、小さく感謝する。

 

 それはそれとして。

 内部には男子生徒が四名、女子生徒が一名。うち男子二名が――

 

――()かれていますね。

 

「む……それはアレか?」

 

 克人は先程の話を忘れてはいなかったようだ。

 あなたの脳内の【マッパー】には、放送室内部のマガツヒの分布が視えている。うち二名の内部に人間のものとは異なるマガツヒ――低(レベル)の悪魔のもの――が重なっているが、完全に憑依されているわけではなさそうだ。おそらく精神に干渉されて暴走状態(Berserk)にでもなっているのだろう。

 先程の音割れも、案外そういう事かもしれない。

 

「何の話だ?」

「後で説明するつもりだったのだが……」

 

――精神が正常ではない生徒がいる。

 

「それは当然(そう)だろう。こんな事をしでかすヤツが正常なはずが……」

 

――()()()とか、()()とか、そういった外的要因で、だ。

 

 他の耳目のあるところで、いきなり悪魔の存在など話すこともできない。ペテン師の法螺(ほら)にされるか、混乱を招くか、なんなら自分が精神病院送りにされるかもしれない。

 それに催眠術や洗脳というのも、あながち間違いでもないのだ。

 精神を錯乱させ、正常な判断力を奪い、常のものではない認識を刷り込む技術――という意味では催眠術や洗脳の一種と言えなくもない。

 

 しかし、そうした話の正誤と関係なく、言葉に迷った克人をあなたが継いだのを、横入りしたとでも思ったのだろう。

 風紀委員長は胡乱なものを見る眼差しで、露骨に不信を滲ませた声であなたに問う。

 

()にそれが分かるというのか? 壁の向こうにいる生徒の状態が?」

 

――現代魔法だけが、この世の不思議の全てではないだろうに。

 

「言ってくれる」

 

 ふん。

 と鼻息荒く言い捨てるとあなたから顔を背け、風紀委員長は「もう話すことはない」と意思表示。

 なんとも芝居がかった言葉遣いだが、そういうお年頃、というやつだろうか?

 随分とまあ嫌われたものである。

 

 とはいえあなたは部活連の対応を協議するために来ている以上、極論すれば、風紀委員長の意向など「どうでも良い」のだ。邪魔さえされなければそれで良い。

 

「で、どうする?」

 

 あなた達のやり取りが終わったと見てか、克人が問うてくる。

 これはおそらくあれだろう、悪魔に侵食されている(催眠状態の)生徒たちについて、ということだろう。

 

 憑依が完了しているなら、悪魔が自らの権能(スキル)を使う可能性もある。だが今回のケースで言えば、精神衰弱状態で虚脱した肉体だけを操り人形(マリオネット)にしているようなものだ。反撃される危険は少ない。

 むしろ取り押さえる際、過剰に肉体を痛めつけることで生徒の自我を失わせ、本格的に悪魔の憑依を成立させないようにしたい。

 

――できればあと一人、協力者が欲しいが。

 

 吉田(よしだ)幹比古(みきひこ)

 神道系の古式魔法を継承しているなら、対悪魔の【(はら)え】や【鎮魂(たましずめ)】も(おさ)めているだろう。

 とはいえ必要になるのは身柄を確保した後のことだ。

 どうするかを決めてからでも遅くはない。

 

 

 そうこうしている間に、風紀委員の一年生――司波(しば)達也(たつや)――も到着したようだ。

 

「遅いぞ」

「すいません」

 

 渡辺が一言叱ると、軽く会釈して司波が謝罪する。

 形ばかりの振る舞いは、挨拶代わりというやつだろう。

 

 その後、簡単な状況説明を受けた司波が「明らかな犯罪行為じゃないですか」と呟くと、鈴音が「暴発させないよう慎重に対応すべき」と言い、摩利が「強引でも短時間の解決を図るべきだ」と再び対応についての摩擦が再燃する。

 どうするのか? と、あなたが克人を見やれば彼は腕を組んで、

 

「ここで何を言っても最終的には校長の判断次第だが……

 俺個人としては、彼らの要求する交渉に応じてやっても良いと考えている。

 元より言いがかりに過ぎんのだ。しっかり反論しておくことが、後顧の憂いを断つことになるだろう」

 

 克人の言にあなたが頷くと、風紀委員長が不満げに表情を曇らせる。

 それに気付いたのか、達也が「では放置すべきだと?」と尋ね、克人は「不法行為を見過ごすわけではないが、学校設備を破壊してまで強行する必要があるかで迷っている」と正直に告げた。

 だから校長の判断次第だ、ということで職員室を通じて校長に連絡を取っている風紀委員の二年を見やるが、摩利の厳しい視線に反応して首を振り、「会議中だそうで……」と歯切れの悪い言葉を返す。

 

「管理システムから鍵を開けてもらうことは?」

「答えられない、そうです」

 

 それは防犯上、答えられないだろうなあ。

 あなたも部活連の施設管理アプリを改良していた際、学校側に電子錠の取り扱いについて尋ねる流れでそのあたりの話題にも触れたのだが、マスターキー絡みの回答は全て「管理上の機密」で拒否されている。

 当然だろう。魔法大学の関連施設はどこも国策機関だ。その管理の中核に関する話など、一介の学生に明かせるようなものではない。

 

 とはいえ、一般生徒ですら冷静でいられない現在のような状況下で、当事者がそれを理解できるとは限らない。

 

「学校は解決する気があるのか!」

 

 ああ、風紀委員長の不機嫌メーターがすごい勢いで上がっていく……

 

 とはいえ気持ちはわかる。

 どの程度まで正確な情報が伝わっているかは分からないが、現実には学校という公共施設の管理鍵の窃盗、施設の不法占拠、放送設備の無断使用による威力交渉(TALK)と、表面化すればおよそ生徒の悪ふざけでは済まない()()である。

 これが小・中学生ならまだ子どもの悪戯(いたずら)として片付けられるかも知れないが、成人間近の高校生。しかも社会的に厳しい視線を向けられがちな魔法師の卵だ。本来なら学校側が強力に主導して問題解決に当たるべき――という考え方は間違えではない。

 

 そのあたりをしっかり詰めて学校と再交渉しようか、と考えたあなたが提案をする前に司波があなたたちを左手で制し、右手で携帯端末を取り出した。

 

「壬生先輩ですか? 司波です。

 ――それで、今どちらに?

 ――はぁ、放送室に居るんですか。それは……お気の毒です」

 

 カナル型イヤホンの通話ユニットを使用しているので内容はわからないが、おそらく現在、放送室内にいる生徒=実行犯と話しているのだろう。

 あなたが言うのも何だが、司波は傍観者でございと言わんばかりの、熱意を持って行動している人間の神経を逆なでしそうな声音である。

 

「いえ、馬鹿にしているわけではありません。

 先輩ももう少し冷静に状況を……ええ、すみません。

 それで、本題に入りたいのですが」

 

 怒鳴られたのだろう。

 司波がイヤホンをつけた耳を押さえ、若干顔をしかめながら話を続けていた。

 言わんこっちゃない。

 

 とはいえ、現状を考えれば司波の気持ちは分かる。

 いかに若気の至りとはいえ、自分の知り合いが後先考えずに実力行使をする無軌道ぶりを発揮したなら、おそらく同じような声音で尋ねてしまっていただろう。

 これまで数度の面識で冷静沈着、泰然自若、およそ感情(こころ)というものを切り離した機械(マシーン)のように思っていた少年に、実はただ感情が希薄なだけのコミュ障疑惑が芽生えて、なんだか少し親近感を覚えなくもないあなただった。

 

「それで、本題に入りたいんですが。

 十文字会頭は、交渉に応じると(おっしゃ)っています。

 生徒会長の意向は未確認ですが……いえ、生徒会長も同様です」

 

 生徒会長が許可したのだろうか?

 ああ、いや市原(いちはら)鈴音(すずね)承諾(OK)のジェスチャーをしている。彼女は会長の意向を無視して勝手な判断をする人間ではないから、そのあたりの判断は許可済みなのだろう。

 

「ということで、交渉の場所やら日程やら形態やらについて打合せをしたいんですが。

 ええ……今すぐです。学校側の横槍が入らないうちに。

 ……いえ、先輩の自由は保障します。我々は警察ではないんで、牢屋に閉じ込めるような権限はありませんよ……では」

 

 司波が話を終えると同時に、あなたは克人に視線を送る。

 あなたの視線に気付いた克人は小さく頷くと、「どちらが踏み込む」と小声で尋ねてきた。あなたが「自分が」と答えれば、克人は「では俺は室内を強化する」と続けた。

 

 狭い室内に五人も詰め込んでいるのだ。克人ではむしろ彼らが出てくるのを阻害してしまうだろう。それにあなたなら、悪魔憑きの生徒を瞬時に見分けて制圧することも可能だ。逆に室内の機材を保護するためには克人の魔法が必要となる。残りの人員を取り押さえるだけの人手は、風紀委員長や司波だけでも十分なはず……

 

 ものの数秒で、そうした判断が行われたわけだ。

 即興ながらスムーズなやり取り(TALK)が出来て、あなたは少し上機嫌になった。

 

 あとは念の為、幹比古にも通信端末で『来れたらすぐに放送室前まで来てくれ』と、テキストメッセージを送っておいた。こればかりは気付かなくても間に合わなくても、あるいは無視されても仕方がない――なんの説明もなく一方的に呼びつける方が常識知らずというものだろう。

 できれば他家(よそ)の古式魔法師が悪魔にどう対応するのかを見ておきたかった、というのがあなたの本音ではあるのだが。

 司波の暴走で対応が始まってしまった以上、どうしようもない。

 

「今のは壬生(みぶ)紗耶香(さやか)か?」

「ええ。待ち合わせのためにとプライベートナンバーを教えられていたのが、思わぬところで役に立ちましたね」

「手が早いな、君も」

「誤解です」

 

 傍らでは真顔でイヤホンを外して携帯端末ごとポケットに戻した司波を、風紀委員長がからかうように軽口を叩いていている。

 風紀委員長は司波に対して、好意的な印象を持っているようだ。

 あなたに対する時とははっきり距離感が違う。

 

 司波と自分で何が違ったのだろうか? と考えが他所に転がりそうになるのを留め、あなたは口を開く。

 

――確認だ。

 

 今はくだらない話に時間を使われていては困る。

 あなたは二人に割り込んで司波に問うた。

 

――保証したのは、壬生紗耶香ひとりだな?

 

「……ああ」

 

 あなたの唐突な介入に、わずかに身を固くしながら司波が淀みなく頷く。

 なるほど司波も、最初からそのつもりだったようだ。

 

「おい、一体何を――」

「中の奴らを捕縛しよう、という話です。

 鍵まで盗み出す連中だ。

 CADも持ち込んでいるでしょうし、それ以外の武器も所持しているかもしれない」

「……君はさっき、自由を保障するという趣旨のことを言っていた気がするのだが」

「俺が自由を保障したのは壬生先輩一人だけです。

 それに俺は、風紀委員会を代表して交渉しているなどとは一言も述べていませんよ」

 

 世間話のようなやり取りだったからか、摩利は気付いていなかったようだ。あるいは相手との関係について多少なりと好意のようなものを見出していたのかもしれない。

 普通の高校生としては常識的ではあるし、騙し討ちにしようという提案に対して拒否反応を示すのは道徳的には正しいとも思うが、好戦的に見えた先程の振る舞いからすると、少し意外ではある。

 

 風紀委員長だけでなく、鈴音も呆気にとられた顔をしている。

 まあ、ああした言葉の細かな違和感に気付くには慣れが必要だ。たとえば日頃から契約書のやりとりをしているような、一つひとつの言葉の意味について精査し、勘案(かんあん)するような環境にいないと難しい。

 あなたも前生では氷川総司令(あのM字ハゲ)とのやり取りで翻弄されながら、必要に迫られて身につけた技能である。

 

 そして一般高校生らしからぬ騙し討ちを提案した独善的(ひとりよがり)司波(悪党)といえば――

 

「悪い人ですね、お兄様は」

「今更だな、深雪」

「フフ、そうですね。

 でも、お兄様? 壬生先輩のプライベートナンバーをわざわざ端末に保存されていらした件については、今更ではありませんから、後ほど詳しくお話をうかがわせてくださいね?」

「……………」

 

 ――妹の司波深雪(みゆき)と安っぽいメロドラマのような空気を作っていた。

 




お待たせしました。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)が慢性化してPC作業が1日1時間程度しかできなかったりするので、しばらくは更新ペースも月1~2回程度が限界だと思います。

感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]も見てますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)

設定厨的には、たとえば放送室で使用されているマイクのメーカーとか考えるだけで、この時代の産業構造とコスト感の話が膨らんだりするわけですが、原作でもどこまで考えられているのか判断できる資料が手元になかったので勝手に設定しています。
(一高放送室のマイクは竹内マイクロホン=現実における三研マイクロホンのCU-55相当としました)

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(20260119)誤字訂正
 Dレイ様、馬酔様、トライデントシルバーホーンカスタム様、誤字報告ありがとうございました。

(20260120)誤字訂正
 雪森様、誤字報告ありがとうございました。
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