魔法科転生NOCTURNE 作:人ちゅら
原作ではマジのちょい役ですが、姓がピンポイントに刺さってしまったのでネームドに昇格しています。とはいえ現状、出番はあと一回あるかどうかって程度なんですが。
お陰で長引いちゃって幹比古や会長の見せ場が先送りになるわ、森崎の出番が食われるわで。スマヌ。
2095年4月26日――火曜日・放課後。
生徒による放送室の不法占拠という椿事に対応すべく、部活連の委員として臨場したあなただったが、対応の協議中、
まあ捕縛自体はそう難しいこともない。
そもそも放送室自体はさほど広い空間ではない。内部は男子生徒が四名、女子生徒が一名の計五名で占拠しているようだが、正直なところ、あと一人二人も入れば身動きが取れなくなるほどだ。
よって大勢で突入、その場で確保するのではなく、鍵を開けて出てきたところを引きずり出し、廊下側で捕縛することに決まった。
向こうでどうするかの話し合いに手間取ったようで、こちらが態勢を整えるだけの時間は十分にとれた。
扉の邪魔にならない位置に
摩利はあなたも鈴音と同じ立場に振りたかったようだが、達也が「風紀委員以外の人間もいた方が
ちなみに司波本人は、恐らく
「今から出ますので、扉から離れてください」
内部からの宣言があった後、ガチャリとドアレバーが下りて扉が開く。
あなたは左手を軽く握るとマガツヒを凝縮させ、掌中に収まるほどの悪魔を召喚する。黄色い勾玉のような姿をした
常にアルカイックスマイルを浮かべ、滅多なことでは意志を表さない御魂だが、扉の先に悪魔に取り憑かれた生徒らを察知したのか掌中で身震いした。
最初に出てきたのは壬生紗耶香。
警戒した様子もなく堂々とした様で出てきたので、そのまま司波が誘導して扉から距離を取らせる。
続いて出てきた男子生徒の腕を取り、摩利が合気道の
それを見ていたあなたの掌中を撫でるように、サキミタマがくるりと回って権能を振るった。
【
悪魔に精神を
さて残りは、と振り返った摩利の目に、その場にへたり込む二人の男子生徒の姿が映った。
摩利は「おい」と咎めるように声を放つが、あなたはそこへ割って入り――
――失礼。
肩を貸すように二人を左右に抱え、あなたは放送室を出ていく。
言わずもがな、取り憑かれていた二名だ。
思ったよりも【ドルミナー】が強くかかってしまい、眠っているのか気絶しているのか判別しづらい状態だが、このまま保健室へと護送、対応すればよいだろう。この場に放置しておいたら事情を知らない人間が「叩き起こして尋問しよう」などと言い出しかねない。
精神が削られ、生命力も搾り取られたところにそれはあまりに危険だ。
――会頭。
「ああ。保健室へ連れて行ってやれ」
あなたが担いだ二名をわずかに持ち上げ、状況を示すと、克人はそう指示を出した。
なるほど、いい判断だ。
吉田もそちらに来てもらえば、当初の目的にも十分に……
だがそう都合良くはいかせてくれないようだ。
克人の指示に、摩利が難色を示した。
だが克人も自身の判断に誤りがあると思ってはいない。
互いの端的な言葉の応酬が、険悪なムードを演出してゆく。
「おい」
「調査は回復してからでも良いだろう」
「逃げられたらどうする」
「身元も分かっているのに、か?」
「だが……」
「責任はこちらが持つ。監視したければ、そちらから人を出せば良い」
「そうさせてもらおう」
手間の増える予感にため息を吐きつつ、あなたは遅ればせながら駆けつけた幹比古を拾いつつ、二名を担いで保健室へと移動した。
* * *
「いらっしゃい」
保健室では既に連絡を受けていたのだろう、養護教諭の
入ってすぐ、右側に担いでいた男子生徒を預けると、あなたはもう一人をベッドに寝かせる。
「……睡眠不足に強いストレス、かしら。胃腸にダメージがありそうだし。外傷、ではないわね。
こっちの子は足首を捻ってるし、ふたりとも膝に打撲痕はあるけど、話からするとへたり込んだときに付いたんでしょうね。しばらく起きないでしょうし、寝かせて安静にしておけば回復するでしょう」
ベッドに横たわる二名を
彼女は生体放射――生物が代謝活動を行う際に発する微弱な発光現象――を視覚的に把握できる
お陰で人体を一瞥すれば、健康状態を瞬時に把握することができる、らしい。
あなたはそれが、嘘ではないが真実でもないことを知っている。
安宿家は非常に歴史の古い呪術師――古密教(雑密)系古式魔法師――の家系だ。とはいえ古すぎて魔道士の血を現代まで維持することが難しかったようで、現在では古都に残った本家が、名蹟と、遺物を管理するだけの一般家庭となっている。
だが、怜美は先祖返りをしたらしい。
安宿家は、あなたの前世の妻の実家である橘家とも縁深く、そうしてあなたも幼い日、彼女と会ったことがある。
ひどく怯えられたことを覚えている。
そしてその時、彼女が視ているものを理解した。
彼女はあなたの隣にいた、
今回の件も、怜美はひと目見て気付いたようだ。
あなたが人差し指で「黙っていて」とジェスチャーをすると、彼女は上手いことはぐらかしてくれた。
――だ、そうだが。どうする?
あなたは同行した監視役の風紀委員に尋ねる。
「何がだ」
先日の一件があってから、実習授業でも何かと突っ掛かってくるようになった少年だ。
一科生として魔法力の優秀さを誇り、また司波深雪への執着心を見せていた彼だが、あなたが実習で深雪に比肩する魔法力を見せたことで彼の口実――魔法力の高い者同士で交流を深めるべき――は封じられ、積極的な行動は抑えられている。
代わりにあなたに対する攻撃性が増してしまったのは、思惑通りではあるので仕方がないのだが、部活連と風紀委員という関係もできてしまい、正直ちょっと鬱陶しい。
まさか彼のような差別意識や特権意識の強い――一歩間違えば問題児の側に転がりうる――生徒が、よもや風紀委員になるとは思っていなかったのだ。それも職員推薦枠で。
――このままここで目が覚めるまで待っているか?
あの時の判断――司波兄妹を刺激しないように身代わりにヘイトを買ったの――は先走りすぎたかもしれない、という多少の後悔があなたの言葉を棘あるものにしてしまう。
その辺の事情を知らない幹比古が「なんでこいつら喧嘩腰なんだ?」と怪訝そうに見ていたのは、気付かなかったことにする。
「……先生。起きるまでどれくらいかかるのでしょうか?」
「正確には分からないけれど、少なくとも二時間、できれば三時間は寝かせておきたいわね。必要なら病院に搬送することも考えないと」
「そうですか……。では、起きたらその旨、風紀委員に連絡お願いします」
畳み掛けるような怜美の答えに、森崎は一旦帰ることを考えたようだ。
そのまま背を向けて入口のドアを開けると、あなた達にも出るように肩越しに目で語る。
仕切り直すのも面倒だが、ここであなたが残ると言い出すのも不自然だ。話の持っていき方を間違えたか、と思い至ったところで怜美に目をやる。
何かを察したらしい彼女はすぐに対応してくれた。
「あ、
――不備でも有りましたか?
「確認が必要なところがね。あ、君たちは出てってね。プライバシー保護の観点から」
「……そうですか。では、そいつらの件、お願いしますね」
あっさりと森崎を追い払ってくれたのは良いのだが、その流れだと幹比古も出ていかなければならないことになってしまう。
まあ仕方がない。出来れば夜に時間を空けておいてもらえるよう、携帯端末にメッセージを飛ばしておこう。
* * *
「それで、
どこから説明したものか。
まずこの二名が悪魔に取り憑かれていることについて。
マガツヒが見える怜美にはある程度の見当がついているだろうが、確定情報として提示しておく。
取り憑いている悪魔はマガツヒ不足で未だに名すら確たるものにできない
そうして摩耗させられた挙げ句、放送室占拠などという緊張状態に追い込まれてしまった。
恐らく
哀れとしか言いようがない。
あなたが事件概要について想像しながら説明していると、彼女は何故かあなたに疑いの目を向けてきた。
「その
それについては【異界】にでも連れて行き、せめて意思疎通が可能な状態にしてからでないと、流石のあなたにも分からない。
マガツヒ不足で現界できない半実体の悪魔は、マガツヒを集めて実体化するという悪魔の本能のみに従って行動する。名のある悪魔が遣わした
そんな彼らが
まあそれ自体は彼らの自由意志によるものであるし、不満を抱くこと、行動を起こすことそのものが悪いわけではない。二科生という制度は現場レベルで大きな問題が透けているし、彼らに罪があるとすれば、正当な手続きを経なかったこと。それだけだ。
そう考え、説明してみたのだが、疑いの目は消えていない。
「あなたがやった、んじゃないのね?」
??
……ああ、そうか。
――違います。
確かにあなたがやろうと思えば、他人に悪魔を憑依させることも出来ないことはない。
それこそアパートの隣室で無聊を託っている連中にでも
だが、あなたにそんな趣味はない。
あなたにとって悪魔とは、人類史に刻まれた数多の人々の
まして意思のないスライムとして扱うなど、悪魔の尊厳を踏みにじる行為であろう。
現界させるだけのマガツヒが用意できない一般の魔道士がやるのは仕方がないが、無限にマガツヒを供給できる
なんやかんや理屈をつけてみたが、つまるところ、あなたはそれが気に入らないのだ。
この世のコトワリは
万人の意思は衝突し、闘争によって挫かれることこそあれ、個々の意思の自由そのものを奪うことは大罪であろう――
あなたは内心を露わにしたつもりはなかったが、それでもその憤りは伝わったらしい。怜美が頭を下げ「ごめんなさい」と謝り、あなたは「いいんです」と応えた。
「それで、どうすればいいの?」
流石に悪魔憑きの
ひとまず病院に送り、一泊させてやってほしいと要望しておいた。
おそらく保護者が顔を出すだろうが、泊まりの看病はお断りして、その間に吉田家の手並みを見せてもらうことにしよう。
感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
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安宿姓については、奈良時代の皇后・光明皇后の諱である安宿媛を由来とする古式魔法師としています。とはいえ本当に血を継いでいるわけではなく、施薬院に勤めた官の家系が後の時代に名乗ったとかそんな感じで。(光明皇后の伝承から仏法に帰依した密教僧の系譜ですが、使うのは純密伝来以前の真言加持なので、平安時代には既に野に下っている想定。道満法師みたいな立ち位置ですね)
んでまあこの光明皇后、母親が県犬養三千代、またの名を橘三千代と言いまして、後の橘家の家祖です。人修羅さんの奥さんの実家が勝手に橘家神道の後継を名乗り、古式魔法師の家系でございと名乗った手前、遠祖とはいえ無関係と放り出しては外聞が悪かったので、何かと援助していました。
……みたいな。
安宿怜美の設定を調べていたら「なんかBS魔法師らしい?」「生命系の能力でしかも安宿姓とかコレ狙ってるだろう佐島先生」「あーでも安宿姓を光明皇后由来にすると橘家の家祖と直じゃん」「じゃー関係者にするかー」「達也サイドの遥ちゃんミラーになる?」「人修羅さんも前世で養護教諭やってたし愚痴聞かされたりするのかしら」みたいな流れであれよあれよという間に出来上がりましたが、勢いだけなので多分そんなに出番無いです。
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(20260212)誤字訂正
雪森様、誤字報告ありがとうございました。