魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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前回の勢いのまま書けちゃいました。


#055 事後処理・急

「帰りましょうか」

 

 魔法大学附属病院での一騒動が終わった後、当直医師と話し合いの必要があった安宿(あすか)先生を残し、あなたたちは病院の玄関前に屯していた。日も落ちた夜の郊外に、煌々と明るいロビーを背にしている。

 それぞれ何か言いたげな空気だったが、真由美(まゆみ)の顔からふと感情が抜け落ちると、摩利(まり)を見つめた。

 

「にしても摩利、無茶してくれたわね」

「……だが、パラノーマル・パラサイトが実在していて、それが一高(イチコー)に侵食しているという話は、簡単に信じていい話ではないだろう」

「気持ちが分からんとは言わんが、あれを見てもか」

 

 真由美の糾弾に、摩利が生真面目な面持ちで反論すれば、克人(かつと)が呆れたように指摘する。

 急な展開に目を白黒させながら、風紀委員長の正直な思いを告白された幹比古(みきひこ)は、摩利を責めるような口ぶりの――つまりは悪魔の存在と古式魔法師の言葉を信じているように思える――克人の様子に戸惑いながら、どうして良いのか分からず曖昧な笑顔を浮かべて「仕方ないですよ」と頷いている。

 

「摩利、まだ信じていなかったの?」

「ああ。光波振動系の幻影魔法だと思っていた。だから魔法式で直接干渉すれば相殺できると」

「無茶をする」

「摩利らしいといえば摩利らしいけど」

 

 それにしても。

 信用されていないとは思っていたが、目に見える変化があっても考えを変えずに行動したのは想像以上だった。最初から疑ってかかっていたなら幹比古渾身の魔術儀式も、精々が大げさな手品、かつてのテレビのマジックショー、くらいに見えていたのかも知れない。

 

「でも」

「……ああ。儀式の邪魔をしたことは別だ。あれは完全に私の判断ミスだった」

「そうね」

「結果として無用の危機を招いて、真由美や吉田まで危険に晒してしまった」

「それについては、声を出してしまった私にも責任はあるわね」

 

 それは科学者、研究者としては間違った振る舞いとは言い難い。

 研究所勤めだった頃には、わりとよく見たタイプの人間でもあるし、自分も過去にはそうした態度でいた記憶がある。それについて責める道理はない。

 無論、安全指示を無視したことは褒められたものではないが。

 

「……すまなかった」

「ごめんなさい」

 

 一度背筋を伸ばしてから、きっちり45度に頭を下げた摩利に合わせ、真由美も深々と頭を下げる。

 あなたも幹比古に謝罪するべきだろう。あなたも遅れて頭を下げた。

 理由は二人とは少しだけ違うが。

 

「あ、いえ……。その、きちんと説明しておかなかった(ぼく)も悪かったので……」

 

 と二人には歯切れ悪く応じた幹比古だが、チラリと恨みの念を込めた一瞥を、原因となったあなたに振り向けていた。

 彼女らが禁を破って儀式を邪魔するかどうかは半々だった。だがその可能性を十分に考え、あなたはそうなっても敢えて止めないこと、そうなった場合に最大限の利を得るために、敢えて彼女らに詳細な説明をしないことを、幹比古に先に告げていた。

 それは彼も承諾をしたものの、やはり実際に被害を受ければ不愉快になるのは当然だ。

 後日もう一度、二人きりの時に謝らせてもらおう。

 

 などと考えていたら、真由美と摩利がこちらに向きを変えた。

 

「間薙君も。貴重な場を用意してくれたのに、邪魔してしまってごめんなさい」

「……この手に実感も得た。先程の話も、少なくともありえないことではない、ということは分かった。これまでの態度も謝罪する。すまなかった」

 

 想像以上にしっかりと頭を下げられ、あなたは少しばかり驚いた。

 こうして頭を下げて謝罪すること自体、年齢を考えれば立派なものだ。これまで見てきた渡辺風紀委員長の性格なら、自分は悪くない、と突っぱねてもおかしくないと思っていた。

 

――疑うのは正しい判断だと思う。

 何の確証もなく、あの話を信じる方が、普通じゃない。

 あれは説明不足だった自分にも責任はある。

 次からは先に説明するようにする。

 

「そうね。分からないことは、聞けば良い。わたしたちには耳も、口も有るんだから」

 

 今回の件は、本を(ただ)せばあなた(自分)に対する不信感に端を発している。

 正直、あなたには何が原因だったかも分かっていないのだが、そうした関係性のまま今回の儀式に同行させたこと、また禁を破った際のリスクなどについて具体的に説明していなかったことなど、責任の一端がないとは言えない。

 

――それに。こう言っては何だが、あの反応は想定の範囲だ。

 

「ですって、摩利」

「……………」

 

 余計な一言だったろうか。

 と、口にしてすぐに思い返したが、真由美がその場を混ぜっ返してくれたので助かった。

 槍玉に挙げられた摩利は表情筋を強張らせ、憮然とした表情になってしまったが、それでも真由美がニマニマ笑っていることで一人で気を張っているのが馬鹿らしくなったのか、すぐに草臥(くたび)れたように、呆れたように目元を緩め、ため息を吐いた。

 

 

*   *   *

 

 

 その後すぐ、安宿先生から「今しばらく時間がかかりそうだから今日は各自で帰って欲しい」と連絡を受け、真由美が家に連絡して、車を回してもらうことになった。

 その車を待つ間、さすがに夜はまだ肌寒いので駐車場の休憩スペースへ。

 自動販売機で買った温かい飲み物をチビチビ飲みながら、雑談は先程の感想戦へ移っていく。

 

「そういえば摩利。手応えはあった、と言ってたわよね?」

「ああ。水のようだったけどな」

「水、ねえ」

「十文字はどうだった?」

「抵抗は有った。間薙(かんなぎ)の話では受肉(じゅにく)、物質としての肉体を得た後だったからかもしれんが。金属の、おそらく甲冑(アーマー)だな。鉄よりは柔らかかった」

「ラヴォアジエに思いっきり喧嘩売ってるわよねえ」

 

 質量保存則、だったか?

 科学信仰の徒であれば噴飯ものの現実も、あなたにとっては「悪魔のやることだしなあ」くらいにしか思っていない。

 

 なにはともあれ克人が参戦したことで、想定以上の成果を得られたことは喜ばしい。

 多少なりとレギオンのマガツヒに干渉したことで、見た目には霧消したレギオンのマガツヒの一部を、克人が取り込むことに成功した。

 本人は気付いていないようだが、霊格がいくらか上がって異能者程度までマガツヒの器が大きくなっている。多少はマガツヒ(MP)も蓄えられるようになっていて、これで多少なら【神降ろし(テウルギア)】の権能(スキル)を使っても、心身に損傷を負うことはなくなるだろう。

 

「それはともかく。あそこで飛び出したのは早計だったと言わざるをえん」

「それは同感。吉田(よしだ)君と間薙君がいてくれたからよかったけど」

「う。それはまあ……そう、かも、だが」

 

 どうやらあなたが思索にふけっている間に、話が戻ったようだ。

 克人と真由美に正面から言い募られて、摩利にしては珍しく歯切れ悪く言葉に詰まる。

 

「渡辺先輩」

「なんだ……あ、いや、すまん」

 

 その様子を見かねたか、これまた珍しく毅然とした声音で幹比古が口を挟んだ。

 

「話だけじゃ信じられないのは仕方がないと思います。現代魔法が発明される以前は、魔法自体がオカルトとか、スピリチュアルとか、詐欺か妄想かっていうのが社会全体の一般的な認識だったそうですし。でも、ルールというのは理由があって作られたものです。それに、今回は間薙さんが居たからその場で修祓(しゅばつ)できましたけど、僕にはそこまでの力はありません」

「しゅばつ、というのは?」

「汚れを落とす儀式のことです。禁を破った後、体が重くなったと思います。神道ではそれは禁を破った罪、穢れの重さとされます。それを間薙さんが柏手で払ってくれたから」

 

 幹比古の語り口は、普段の様子からすると随分と饒舌にも思えるが、こうした話は今の時代に()()()()()なんてしていれば、大なり小なり必要となるものだ。要は慣れているのだろう。

 

「間薙君の拍手にも、ちゃんと意味があったのね」

「はい。ですからもし次、同じことをされた時、僕にはお助けすることは出来ませんので。それは期待しないでください」

「……わかった」

 

 なるほどねと頷き、合いの手を入れた真由美に頷き返した幹比古は、今ひとつ釘を刺すことにしたようだ。

 気まずげな表情で、摩利はそれを受け入れる。

 これで今後、万が一同じようなことが起こっても、一方的に悪魔祓い(こちら)の責任だと言われることはないだろう。いい仕事をしてくれた。

 

 

「ありがとうね」

 

 あなたが幹比古と摩利のやりとりを眺めていると、いつの間にか隣に立っていた真由美が間近から見上げるふうに、笑顔であなたに感謝を告げていた。

 感謝されるようなことはしていない、どころかむしろ恨まれるようなこと――悪魔憑きについて理解させるためとはいえ、ほとんど罠にかけたようなものだ――をした自覚の有るあなたは、どう応えたものかと思わず言葉に詰まってしまう。

 

――いや、俺は……

 

 あなたの気まずさを見透かし、(ゆる)しを与えるような穏やかな眼差しに、どうにも気恥ずかしくなってしまった。

 うまい言葉が思い浮かばない。

 

「なんだ間薙。照れているのか?」

 

 知らず顔を背けてしまったあなたを、からかうように克人が軽口を叩く。

 いつの間にか話を終えていた幹比古と摩利が、そのさまを目を丸くして見つめていた。

 

 

*   *   *

 

 

 2095年4月27日――水曜日。

 

 朝、登校前に情報端末を確認すると、運営委員向けの通知と、部活連会頭から直接メールが入っていた。

 

『(運営委員向け全体通知)

 4月28日(木)放課後

 生徒会並びに運営委員と“学内の差別撤廃を目指す有志同盟”による公開討論会が行われます

 運営委員は原則全員参加となります』

 

『(十文字克人)

 本日27日15時30分より部活連事務室に集合』

 

 急な話だと思って登校中、克人に直接ダイレクトメッセージ(DM)で尋ねてみると、どうやら放送室での騒動の後、あなたが男子生徒等を保健室に運び込んでいた頃に、壬生(みぶ)紗耶香(さやか)との話し合いでそう決まったらしい。

 そのまま通話モードになったので、あなたは自転車を漕ぎながら話を聞いた。

 

 テーマは一科生と二科生間の格差是正。有志同盟とやらは格差是正というより差別を糾弾したいようだったが、生徒会としては一つひとつの現状を具体的に説明し、認識に反論しておきたいのだそうだ。

 真由美は相手に準備時間を与えずに行いたかったらしい。

 保健室送りになった生徒のこと、壬生が同盟内での合意を取り付けるため、それから討論会実施の周知にも時間が必要だと主張したため、翌々日、ということになったと。

 その件に関し、部活連側で協力することもあるので、今日は一日事務室に待機するらしい。

 

 

*   *   *

 

 

 昼休み。

 

 食堂でカツ丼とカレーを前に座ると、なにやら入口のあたりが騒がしい。

 見れば複数の生徒らが、食堂に来た生徒たちにビラを配っているようだ。

 許可を取っているのだろうか? と思い、念のため胸ポケットの情報端末で録音を開始。

 

 しばらく何やら問答していたようだが、うち一人が食堂の中に入ってきて食事中の生徒のテーブルに一枚一枚ビラを置いてゆく。黙っているのは、共用部における宣伝活動の制限――身体への接触または騒音を撒き散らす等の迷惑行為を行ってはならない――に抵触しないようにしているのか。

 

 カツ丼をきれいに食べ終わり、さてカレーだと思ったタイミングであなたのテーブルにもビラが置かれる。

 手にとって見てみると、いかにも急ごしらえといった感じの宣伝ビラだった。

 まるで部活動の公演会のテンプレートを流用したようなそれは、“力を合わせて二科生に対する不当な差別を撤廃させよう!!”という扇状的な文言が大きく目に付くデザインフォントで書かれており、その下に討論会の日時と“学内の差別撤廃を目指す有志同盟”の署名がされている。

 念の為に右下のタグを情報端末で読み取ると、時限式の生徒会の公認マークが確認できたので、ひとまずそれをテーブルに戻し、あなたはカレーを平らげ、トレーを片付けて食堂を後にした。

 

 

*   *   *

 

 

 放課後。

 

 部活連の事務室に向かう途中、克人から「すまんが生徒会室の方に回って欲しい」とメールを受けたので、言われた通り生徒会室へ。

 

 あなたが生徒会室の引き戸を開けると、既にデスクに向かって作業をしていた市原(いちはら)鈴音(すずね)が「待ってました」と言わんばかりに立ち上がり、「こちらへ」と中央に並んだデスク島の端の席に、あなたを案内する。

 

「IDをそちらのリーダーで読み込ませれば、学内サーバに接続できます」

 

 とのことだが、はたして自分は何をすればよいのだろうか?

 

「開始は会長が来てからになりますが、明日の討論会の事前準備です。

 部活連のデータベースには生徒会IDではアクセスできませんので、主に論拠(エビデンス)の面での協力をお願いします」

 

 なるほど。確かに部活連のデータベースは魔法大学の管轄になるので、魔法科高校のIDではアクセスできない。部活連の人間が必要になるのは道理だ。

 突発的な討論会だが、生徒会にはあの有志同盟とやら(アナーキスト)に負けるつもりはさらさら無いようだ。

 あなたがそんなことを考えている間にも島の一番奥、会長の席に一番近いデスクに座った鈴音は、猛烈なスピードでメモを取り、端末を操作していた。反対側に座る中条(なかじょう)あずさ、司波(しば)深雪(みゆき)らもそれぞれ忙しそうに作業している。

 事務方の戦場、と言った趣である。

 内実は分からないが、少なくとも見た目には頼り甲斐がありそうだ。

 

 

 だが猶予はたった一日。いや、実質的には明日の半分は授業で潰れるわけだから、半日しか無い。それも相手が事前にどこまで用意しているかも想像がつかない以上、生徒会としては準備を万全なものとしておきたいだろう。

 

――プロットはあるのか?

 

「まだ叩き台レベルですが」

 

 聞けば真由美は、二科生制度について以前から批判的な考えを持っていたらしい。

 このあたりについては克人や摩利も共通する認識のようで、両者とも賛同の意を示していた。

 なので部活連や風紀委員の方でも、それとなく二科生から出る不満についての情報を集め、生徒会に集約していたそうだ。

 とはいえ彼女たちは一科生で、運営委員だ。

 トップダウンで勝手にアレコレしても上手くはいかないだろうと考えていた。

 そんな次第で、これまで内輪で話し合いながらアレコレと準備をしていたのが、ひょんなことから役立つ機会を得た。

 ……という事のようだ。

 

 なるほど、とあなたは頷く。

 

 確かに上からの指示だけで階級構造をいじるのは、歴史的にも失敗しやすいものだ。

 奴隷解放や民族運動も、自主独立の機運がなければ、本来解放されるはずの集団の支持を得られず、既存の権力構造に潰されるか、元の鞘に収まってしまうことになりがちだ。

 

 加えて二科生制度は、魔法教育の立役者である百山(ももやま)(あずま)校長の肝いりだという。運営委員(こどもたち)が勝手に制度を変えようとしたところで、実際の制度設計をする理事会や監事(おとなたち)が認めなければ何の意味もない。

 また彼は日本魔法師協会が実質的に二十八家に支配されていることに反発しており、彼らの教育機関への介入を敬遠する傾向がある。

 真由美が七草(さえぐさ)家の長女である以上、彼女の意見が百山校長に()れられることはない。

 

 この状況で何ができるのか。

 個人端末から国立大学法人法を開き、ブックマークをつけながらボンヤリと考えにふけっていると、真由美が到着したようだ。引き戸が開き、挨拶が交わされた。

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

 腕まくりでもしそうな勢いでそう宣言すると、まずはこれまで集めた二科生の不満点の統計から話が始まった。

 




感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]もチェックしてますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)

コメントを拝見していると摩利の評価がだいぶ下がっちゃってて、ちょっと可哀想になってしまったりも。
そう見えるように書いた自分の責任なんですが。
とはいえまだ高校生ですから、暖かく見守ってあげてくれると良いなーと思ったり。
(でも今後もそんなに仲良くなりそうな気もしないし、仕方ないのかなー)

次回は原作と照合しながら進めにゃならんので、またしばらくお待ちいただくことになると思いますが、気長にお付き合いいただければ幸いです。

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(20260319)誤字訂正
 雪森様、誤字報告ありがとうございました。
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