魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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細かいところで原作とちょいちょい変わっています。

あと古アイルランド語は辞書が手元に無いので諦めました。



#058 急がば回れ

 通信回線が死んでいる。

 

 部活連事務室のモニタも端末も、ステータスは完全なノーシグナル。

 画像が荒れるどころかそもそも表示されない以上、偶発的なノイズによるパケットロスではない。設備自体が物理的か電子的か、とにかく遮断されていると考えるのが妥当だろう。

 意図的な攻勢がこれだけ連携している。

 間違いなく計画的な襲撃だ。

 

 まずはECMの除去。

 電子戦攻撃によりこちらの連携が遮断されている。

 まずはそれを回復すべきと考え、あなたは行動を開始した。

 

 

*   *   *

 

 

 普段から人気(ひとけ)の無い廊下の隅。

 廊下の行き止まりに鉢植えの観葉植物と、掃除用具の入ったロッカーがポツンと置かれて、壁面には緊急脱出用の設備が一つ。

 そんな生徒にとっては無用のエリアに、男子生徒が二人、床に倒れていた。

 

 あなたの記憶が確かなら、二人とも剣道部の二年生だったはず。

 新入生歓迎週間の騒動の折、司波(しば)達也(たつや)に襲いかかってあしらわれ、極められた手首には今も包帯が巻かれている。

 

 両名とも呼吸は安定。

 ただし意識は無い。

 ふたりともマガツヒが抜かれているが、命に異常はない程度に残されているあたり、レギオンの糧とされた二人とはまた別の扱いなのか。

 

 その傍らで不自然に赤いランプを明滅させる、ティッシュ箱ほどの見慣れぬ装置。

 

――これ、か?

 

 流石に世界に記憶されるような由来を持たない現代の製品には、あなたの【眼】(アナライズ)も常人の眼と変わらない。

 とはいえ露骨な異物はこれだけだ。

 おそらくこれが、ECMに関係する装置なのだろう。

 

 止める方法はわからない。

 であれば機能しないように壊してしまうしかない。

 

 あなたがそれに触れようとした時、それまでピクリとも動かなかった生徒の腕が不自然に持ち上がると、人差し指であなたを指し示した。

 

 コンッ

 

 その指先から何かが射出されたようだが、あなたの身体に当たったそれは、あなたの身体にわずかの傷も負わせること無く、情けない音を立てて弾かれた。

 そしてそのまま霧消するそれを、あなたは視界の端で捉えていた。

 

――【審問の針】か。

 

 かつて行われた異端審問において、異端者と疑われたものに刺された針。

 ひと度刺されれば激痛のあまり思考は曇り、ひたすら悶え苦しむことになる魔道士殺しの魔術武装。

 拷問として痛覚の集中する手指の爪の隙間に刺したというが、それを敢えて指から射出したというのは、この少年自身もまた異端である、という軽い皮肉かなにかだろう。

 

――悪趣味な。

 

 使うのは【啓示派】の天使と、主に十字教系の魔道士たち。

 この生徒が魔道士なわけではない。

 彼に取り憑いていた悪魔の残した罠だ。

 

 この罠を仕掛けた悪魔たちは、侵入者のように殺傷を避けるつもりはない可能性がある。

 

 悪魔と罠の排除の優先順位を上げる。

 

 

 ゆらり。

 意識の隅に、動くものがあった。

 

 ピキ……

 ゴンッ!!

 

 あなたの頭部に横殴りの衝撃を感じ、あなたはわずかに頭を反らした。

 見ればガラス窓に小さな穴が空いている。

 

 おそらくは狙撃されたのだろう。

 そして人修羅(あなた)の身に収められたマガタマが、それを自動的に跳ね返した、と。

 

 あなたに銃弾は届かない。

 だが今は、そこに罠が仕掛けられていたということの方が重要だ。

 

 現代魔法で【審問の針】は防げない。

 そして今の狙撃。

 もしも対魔法師用のハイパワーライフルが使用されていたとすれば。

 

 もっとも、今あなたを撃った狙撃手は、もう生きてはいないだろうが。

 他にもいないとは限らない。

 これだけの準備を整えていた相手だ。警戒してしかるべきだろう。

 

 危険度の評価をさらに一段階プラス。

 同じような罠が各所に仕掛けられているとすれば、無関係な生徒たちに影響が出る前に、早急に対処しなければなるまい。

 ならば。

 

 

――出番だ。

 

 あなたは指先からマガツヒをわずかに漏出し、その場の位相をずらして小さな【召喚門(ゲート)】を生み出す。

 そよ風に乗って手のひらサイズの人形(ヒトがた)剪紙(きりがみ)が六枚、ひらひらとあなたの前に現れた。

 

(ひらひら~)

 

――これと同じものを破壊してこい。

 

(こくこく)

 

 人形の剪紙が、頭部と思わしき部位を前後にひらひらと振っている。

 理解した、と答えているのだろう。

 まあ悪魔とのコミュニケーションに必ずしも発話、音声は必要ない。

 

――()け。

 

(くるくる~)

 

 あなたが声で命じているのは、自分の思考ノイズを除くために過ぎない。

 あれこれ余計なことを考えがちなあなたが、思考のまま指示を出すと、意図が伝わらなかったり、余計な仕事を増やしてしまったりして、とにかく効率が悪いのだ。

 

 命じられたシキガミは、己の身体をねじって紙縒りのようになる。

 そして放たれた矢のようなスピードで三方に分かれ、あっという間にこの場から飛び去った。

 

 見つかっても羽虫か何かが飛んでいたと誤認される程度だ。

 今はECMと罠の除去を最優先にしよう。

 邪魔の入りそうにないここを作戦指令所として、あなたは壁に寄りかかった。

 

 

*   *   *

 

 

 目を閉じてシキガミたちと視覚情報を同調(シンクロ)すると、即座に六つの視界が重なる。

 廊下。階段。倉庫裏。渡り廊下。

 位置も距離も異なる光景が、同時に意識へ流れ込んでくる。

 

 ノイズはない。

 必要な情報だけを抽出し、整列する。

 

 優先順位を設定。

 

 講堂周辺――最優先。

 中継ノード――次点。

 外周――生徒会または教職員との通信回復後に。

 

 一つのノードでは二人の生徒が、例の箱を手にしてなにやら話し合っているようだ。

 マガツヒはだいぶ薄れているものの、意識ははっきりある。

 ということは、彼らは悪魔に操られたわけではなく、自主的にこの作戦に参加した……ということなのだろう。

 

 シキガミは問答無用で彼らの手にする箱に【ジオ(電撃)】を浴びせ、一撃でショートさせる。

 その余波で生徒二人が急に身体を跳ね上げ、その場に崩れ落ちた。

 無力化を確認。問題ない。

 

 

 そうして一つの仕事を終えたシキガミが待機モードに入った間、あなたは狙撃があるかどうか、しばらく様子を見ていたのだが。

 

 ………

 ……ふむ。

 妨害が無い。

 

 あの罠は全ての場所にあるわけではないのか?

 

 まあ、よし。

 これでノードAは完了とする。

 さて、他はどうか。

 

 振り分けた視界の一つが不意に歪み、そして次の瞬間、視界が断裂する。

 

 シキガミ一体、消失(ロスト)

 

 何らかの力で引き裂かれたようだ。

 流石にシキガミでは弱すぎただろうか?

 悪いことをしたが、戦況としては問題ない。

 遅延の補填は十分に可能だろう。

 

 念のため、あなたはもう少し力のある仲魔を呼び出すことにした。

 

御前(おんまえ)に」

 

 【召喚門】から現れたのは、マフラーで口元を隠した少年騎士。

 細身の槍を携え、何処か人ならざる雰囲気を漂わせた彼の名は妖精・セタンタ。ケルト最強の騎士と名高いクー・フーリン――またはク・ホリン――の幼少の姿とされる。彼自身がルーンの魔術を使う魔道士でも有る。

 ついぞ今まで戦いに明け暮れていたかのように、その装束はあちこち切り裂かれ、解れていた。

 

――姿を隠し、(これ)と同じものを破壊、回収してこい。

 

御意(ぎょい)

 

 セタンタは片膝を突いて畏まってみせながら、何かを期待するような眼差しを向けてくる。

 何かあったか?

 ああ、そう言えば先日……

 

――菓子(ケーキ)は仕事が終わってからだ。

 

 あなたの言葉に目を輝かせ、勢いよく立ち上がって一礼すると、そのまま装束をあなたと同じ一高生の制服に再構成して駆け出してゆく。

 

 

*   *   *

 

 

 壁に寄りかかり、セタンタに視覚と聴覚を同調させる。

 彼には先程シキガミが撃退されたノードに向かわせた。

 

 姿を隠せと命じられたセタンタは、その身を星幽(アストラル)体に変えて走っている。

 駆け抜ける足音だけが、静かな廊下に響いていた。

 

 唐突に視界が左に傾くと、遅れて右耳に風を切り裂く音がした。

 先程のような針か、狙撃か、あるいはまた別の攻撃か。

 とはいえ【矢避け】の権能を持つセタンタを、飛び道具が傷つけることはない。

 

視たぞ(Chonaic)!」

 

 宣言とともに視界の端から投げられた短剣が、十メートル以上先の何も無い空間で、何かに刺さったように空中に留まっている。

 

「キィーキィー!!」

 

 隠れていられなくなったのか、姿を表したのは頭巾を被った悪魔だった。

 狼の顔に鳥の(くちばし)、ずんぐりした熊の胴体に(とり)の足、腰から大型犬の尾を垂らしているのは夜魔・キキーモラ。

 

 シキガミはキキーモラの【悪ふざけ(ポルターガイスト)】にでもやられたのだろう。

 相性が悪かったと思うしか無い。

 

主を恨め(Milleán Dé)

 

 セタンタの呟きは誰に向けられたものか。

 彼は無慈悲に剣を振り下ろし、その場に静寂をもたらした。

 

 

*   *   *

 

 

 思ったよりも仲魔たちがよく働いてくれている。

 これならここから全域に手が届くだろう。

 まずは通信の回復と罠の除去を優先する。

 

 ノードA、B、C、D、E――完了。

 ノードF――処理中。

 ノードG――反応消失につきセタンタ派遣。

 ノードH――完了。

 ……………

 

 その後、シキガミが更に二体減ったものの、すぐに補充し対応した。

 その他のノードも概ね問題なく対処できている。

 制圧率も過半を超えて、そろそろ講堂周辺がECMの干渉域から外れるはず。

 

 

 その時、ポケットの端末が震えた。

 沈黙していた回線が、わずかに息を吹き返している。

 つけっぱなしだったチャンネルの電波を受信したようだ。

 

 まだブロックノイズが酷いが、あと二、三もノードを潰せば……

 

 よし。

 講堂周辺に派遣したシキガミが、悪魔の罠と相打ちになりながらECMを黙らせてくれたようだ。

 

 干渉が消え、ノイズが抜ける。

 

 ――繋がった。

 

 断続的に、映像と音声が戻った。

 

 講堂。

 第一グラウンド。

 具体的な戦況が流れ込んでくる。

 

 さあ、反撃の時間だ。

 




感想、評価、お気に入り、ここすき、いつもありがとうございます。
([ここすき]もチェックしてますんで、感想書くほどじゃないなーという方も、いいなーと思ったところでポチポチやってもらえれば幸いです)

 【審問の針】は、天使エンジェルが使う【マヒ針】、夜魔キキーモラの【悪ふざけ】は【サイ】(デビルサマナー準拠)のことです。
 スキルについてゲームでは抽象化されていましたが、本作中ではそれぞれ悪魔の伝承に合わせてローカライズした表現を用いることがあります。フレーバー程度で特に意味はありません。

 セタンタの「主を恨め」の「主」は「主君(アルジ)」ではなく「神(シュ)」に意訳してます。悪魔の上役なんで神で良いだろ、くらいの。
 あとは「主君」だと長文になってインパクトに欠けたので。

 その他、宗教に関しては本作の基礎設定に合わせて再構築されていますが、神話レベルでは大きくいじっていませんので、あくまでフレーバー程度に思ってください。(神話までいじると悪魔の設定がメチャクチャになっちゃう)

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(20260430)誤字訂正
 雪森様、誤字報告ありがとうございました。
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